表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
44/48

第2節 10

 その後、ゴルと少し話してから、ヴァンは一旦、面倒事が呼び込まれないようにルナの部屋に退避した。

 彼もあまり物は要らない派なのだろうか。寝具と机のみの殺風景な部屋の床にヴァンは座り、ルナはベッドに腰掛ける。

「―じゃあ、お前が気になってた事について話すか」

 ようやく、説明不足で流していた話になり、ルナは少し身を乗り出して耳を傾ける。

「まずは、ゴルについてからだな。

 あの子の本名はゴルデラ=ファウンテン。一応、ファウンテンっていう土地に産まれた魔女だ。その権能については省略するが、あの土地にいる唯一の魔女。そして、シル、シルヴァルディはゴルの花婿候補の1人だ」

 2人の本名を踏まえ、ざっと説明をして、そこを飲み込んだルナが頷いたのを見て、続ける。

「あの土地については詳しく知らんが、要約だけすると、シルはあの土地からゴルを連れ出して、魔女協会に助けを求めた。…まぁ、詳しく話すと少し違うんだが、結果的にはそうなった。

 その理由は、あの子の足にある」

 そう言われ、ルナが思い出したのは綺麗になくなっていた足。周りの誰もがそれが当然という態度で接していたので、彼もそれを受け入れていたが、気になるものは気になる。

「今更の話なんだが、あの足は生まれつきじゃない。…いや、それは語弊があるか? まぁいいだろう。

 あの子は、"生まれた直後に両足を切り落とされている"」

「……!!?」

 突然叩きつけられた事実に、ルナは動揺してベッドから滑り落ちかけるが、ヴァンは普通の反応と言いたげに、そうだよな、と続ける。

「お前の言いたい事は分かる。俺らは、師匠に常日頃から魔女を丁重に扱うように"指導"されている筈だ。この国であれば、魔女への危害は余程のことでなければ違法となる。それを防ぐために俺らがいるし、この国の法も、それを助ける形で整えられている。

 それでも、あの土地ではそれが"正常"なんだ。魔女が自分の足で逃げられないよう、足を削ぎ落とし、軟禁し、力を取り出して利用する。使い道がなくなってきたら次の世代に継承させ、魔女の搾取は続く。

 胸糞悪い話だが、あの土地はそうやって栄えてきた。そんな土地でも、異常と感じたのがシルだ」

「だから、魔女を、ゴルを連れて、逃げ出した…」

 ヴァンの言葉をルナが繋ぐと、彼は頷いた。

「そういうことだ。

 そして、その忌々しい故郷がゴルを見つけ出した」

 魔女の力で繁栄してきた場所であれば、尚更魔女を必要とする。彼らにとって、魔女とは都合のいい穴がついている道具であり、そこに人格は必要としない。しかし、ルナはそこで1つ気になった。

 仮にそれが真実だとしたら、ヴァンが、魔女の騎士団(オルタレイト)が存在を許すのだろうか。はっとしてヴァンを見ると、彼もそれを察したようでにやりと口元を歪めた。

「気付いたか。そんな場所がまだあるのに、俺らが手を出せないのには理由がある。

 国が、協会が許可しない、なんて理由じゃない。それこそ、あの2人の問題―故郷が、本当に滅んでいいのか、なんていう人間らしい葛藤さ。

 根底にどれだけ黒い物が眠っていようと、アイツラにとっては大事な故郷、自分を産み、育ててくれた家族たちの暮らす土地だ。それを、こちらの都合で破壊して、本当に良いのか、なんて迷いだろうな。

 ―それこそ、俺らには理解のできない考えだ」

 "保護施設"に引き取られた者の多くは、何らかの理由で帰る場所を失った者ばかりだ。ヴァンのように故郷を焼かれた者、親に棄てられた者、理由は違えど、彼らが本当に帰るべき場所というのはない。元々持たないものが、自らの手で奪う苦しみを理解できるわけがない。

 ヴァンはそう話した上で、続ける。

「だから、俺らは本人たちの意思に任せている。―ゴルは、こっちに来て、ようやくまとまな教育を受けている所だからな。判断を任せるならシルになる」

 そして、その決定権を持つシルが躊躇しているため、話が進まない。彼はそう言って締めたところで、ルナが気になったことを聞いた。

「ゴル…さんって、普通に事務してたみたいだけど、勉強中、なのか?」

「そうだな。

 そんな不思議なことじゃないだろう? "道具"に感情や、思考が必要だと思うか?」

 はっきりとは語らないものの、その一言で、彼女がどういう存在だったのか、改めて思い知らされる。苦しそうに目を逸らすルナを真っすぐ見て、ヴァンは話す。

「―だから、魔女協会ができた。

 歴史を紐解けば、魔女とは、女の形をした、権力者の都合のいい道具だった。その状況を打破するために、立ち上がったのが、この国の始祖である、三英雄と呼ばれている。

 "始祖の魔女"、"黒の竜狩り"、"解放の王"―御伽噺で出てくる伝説は、事実を基にした物語だ。そして俺らは黒の竜狩りに育てられ、始祖の魔女の下で、魔女の騎士として働いている」

 ヴァンの言葉を聞き、ルナははっとして彼の顔を見ると、真剣な面持ちで続ける。

「だからとは言わないが、ここで騎士として働くなら、魔女のために、文字通り"命をかけろ"。魔女の命がかかっているなら、俺らの命は捨てる覚悟で戦え。

 この安全な街なら、そこまで覚悟する必要はないが、外に出るというなら話は別だ。それだけの覚悟をもって、仕事をしろ。いいな」

 彼の言葉は、冗談を言っているようには見えない。その言葉を噛み締めるように飲み込んでから、ルナは頷く。

「――はい」

「良い子だ」

 表情は1つも変わらないものの、空気が和らぎ、彼は立ち上がって1つ、伸びをした。

「さて、少し話は脱線したが、一番伝えたい事は伝えられたな。

 俺は見つからない内に部屋に戻って、また一眠りするよ。後で戦闘指導をしてほしいなら、見かけた時に声をかけるか、シルか適当な仲間に伝言でも頼んでおいてくれ」

 彼はそれだけ言って、部屋の扉に向かって歩き、ドアノブに手をかけた所で動きを止めた。

『…ヴァン様がここにいるって?』

『みたいよ…千里眼で見た子がいるって…』

『でもここって今話題のあの子がいる部屋じゃ…?』

『同じところ出身なんだって。だから、先輩として色々教えてるのを食堂で見た人も沢山いるよ』

『なにそれえっちじゃん。先輩に夜の実技指導してもらうしかないねこれは』

「…………」

 外からとてつもなく嫌な予感というか会話を聞いたので、ヴァンは足音も立てずに部屋の方へと戻っていき、1つ聞いた。

「ルナトリア。ここから外に逃げられる窓はないのか?」

「いや、ヴァン兄がよく知ってるじゃん。ここの部屋って基本的に内側に部屋が作られてるから、窓ないって」

 現実逃避を始めたヴァンを、ルナは冷静に現実に引き戻す。

「換気扇から逃げるか」

「自分の体見てもっかい言って」

 それでも現実に戻ってこないヴァンを捕まえ、大人しく扉の前まで再び立たせる。そして部屋には、来訪者を知らせるインターホンが鳴り響いた。

「……後悔するなよ」

 居留守を使いたくて仕方ないが、これはこれで、ルナに色々教えるチャンスと割り切り、彼は渋々扉を開けると―十代後半辺りの少女たちが、5人待っていた。

「やっぱりここに居たんですねぇ、ヴァン?」

 真ん中にいた少女が嬉しそうに笑い、彼は作り笑いを浮かべる。

「逃げちゃだめか?」

「だめですよぉ?」

「大人しく7人でしましょ?」

 この場にいる女性は5人。それであれば、1人多いのでは? とルナが呑気に考えていたところ、その手を掴まれた。

「そうそう、マスターから伝言。『新入りの子も教育してあげて』だってさ」

 捕食者の目で見つめる少女たち。その獲物には当然ルナも含まれていたようで、2人は安全な部屋から廊下に引きずり出される。

「…ま、いい機会だ。ここは"そういう所"だからな。複数人と相手する経験はあったほうがいいぞ。

 お前ら、ちゃんと相手してやるから、明日動けるくらいの体力は残しておいてくれよ?」

 ヴァンは既に諦めており、少女たちに囲まれながら歩き出す。

 その後ろで固まっていたシルの手を掴んでいた、一際大人びた少女がその手を引く。

「先輩もそう言ってるし、ちゃんとあたしたちも手加減するから大丈夫よ。―じゃ、行きましょ」

 結局、ルナの意見は何一つ聞かず、2人は別室に連れ込まれていった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ