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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 9

 2人は食事を終えて、雑談をしながら時間を潰していると、食堂の入り口の扉が開く音がする。それに気付いて振り返ると、そこにはシルが立っていた。少し服に傷がついているが、ケガをしている様子はなく、別れた後も問題なく戦闘を終えたことを示している。

 ただ、その表情は暗く、何か思い詰めているようだ。

 それを気にしてか、ヴァンが彼を呼ぶように手を上げ、それに気付いたシルはこちらに近寄って、彼の促すままに席に着く。

「随分と暗い顔をしているな。どうかしたか?」

「そんな、酷い顔をしている?」

 あからさまに意気消沈している様子を見て、ヴァンはそりゃな、と答える。

「何年の付き合いだと思ってるんだ。そんな―初めて会った時と同じ顔をしていればな」

 ヴァンの言葉に何かを察したシルは、思い詰めたように頭を抱えて聞いた。

「……故郷に、あの子のことがバレたみたいだ」

 絞り出すように小さな告白に、ヴァンは普段通りに無感情を装っているが、考え込むように数秒溜めた後に答えた。

「―そうか。随分と遅かったな」

 淡々と答えた後、コップに残っている水を飲み干し、とん、と置いてから聞いた。

「それで? お前は"どうしたい"?」

 報告は聞いた。次は魔女の騎士団(オルタレイト)として、何をするか。それを聞くも、彼は答えに迷っている。それについて、変わらずヴァンは無感情に続ける。

「都合のいいことに、お前の故郷は魔女協会にも、この国家にも所属していない村だ。こちらからの交渉で、どうとでもできる。

 文字通り、滅ぼすなら魔女協会として、俺も参加してやる。それに、参加するだけの理由はある」

 ヴァンは彼の顔をじっと見ながら淡々と言い、シルは追求から逃げるように、白い顔で目を背ける。それを見て、それ以上責めることはなく、安心させるように小さく笑う。

「俺から、これ以上は何も言わん。お前たちの問題だ。だから"お前らで決めろ"。どんな決定でも、俺は非難しない。粛々と、任務をこなすだけだ。それが、魔女の騎士団(オルタレイト)だからな」

 無言で考えるシルを見て、彼はため息混じりに立ち上がる。そして、思い出したように話した。

「それと、3日後に俺は陛下との謁見がある。その時までに決まって、必要であれば直接進言してやる。だからと言って、どうだ、という訳では無いが、決定が出来るなら教えてくれ。

 ―ルナトリア、一旦場所を変えるぞ」

「あっ、はい」

 言うだけ言って、ヴァンはルナを連れて出ていき、置いていかれたシルはしばらく考えていたようだが、結論は出ない。まずは、何か気晴らしをしようと思って食堂のカウンターに向かっていった。

「いつもの、1つお願い」

「あいよっ、いつものだね!」

 代金とともに常連特有の注文をすると、おかんは景気よく受け取って厨房へと消えていった。


 ヴァンに従うまま外に出て、廊下を歩くルナは聞いてよさそうなタイミングで声をかけた。

「ヴァン兄、さっきの話って…」

 一歩先にいるヴァンの表情は読めない。元々表情から感情は読めないが、口調から特に気にしている様子はなさそうだ。

「あぁ、話してなかったな。

 シルは、元々ある村から魔女を誘拐して、ウチに亡命してきたんだよ」

「…!?」

 突然の情報に驚いたルナが彼の顔を見るが、固まった表情は一切変わらない。

「話すと長い。だから、見てもらったほうが早いと思ってな。この時間なら、受付をしていると思って入り口に向かってたんだ。

 ま、この話はシルからもあるだろうし、早めに話しても誤差みたいなもんだろうからな」

 そう言って、魔女協会の入り口に繋がる扉を開く。入り口の脇には、開店したときと同じく、黒いドレス姿の大女が待機しており、客たちの動きを監視している。カウンター脇の扉が開いた音に反応してこちらを見たが、ヴァンの顔を見て小さく会釈した。ヴァンも軽く手を上げて返し、隣にいたルナもそれに倣って小さく会釈する。

「彼女についても、また後で話してやる。見た目は怖いが、良い人だから仲良くしてやってくれ」

 普段からあまり動かないこともあり、ルナは置物と思っていたような反応に付け加え、改めて周りを見渡す。今日は比較的暇なのか、カウンターにはウェーブ掛かった、綺麗な銀色の髪を伸ばした少女が、のほほんとお茶を啜っていた。

 ヴァンほどではないが、白めの肌は、元々引きこもりがち故なのだろう。クリクリとした大きめの碧眼と、小さめの顔はどことなく小動物のような印象を与える。実際、身体も小さめで、座っているのもあるが、そこまで高くないカウンターでも、何とか肩は出ているほどだ。そして彼女が先ほど話していた相手なのだろう。ヴァンはゆっくりと近付いていき声をかける。

「今日は暇そうだな、ゴル」

 死角からの声に一瞬、彼女はびくっ、と反応したが、体をそちらに向けて、ヴァンの存在に気が付くと安心したように表情を綻ばせ、鈴を転がすような軽やかな声で話しかける。

「ヴァンさんでしたか。久々…ですよね?」

「1月齢ほど空けていた。キミは、相変わらず変わらなそうだな」

 身長差的にどうしようもないが、彼は見下ろす形で作り笑いで答える。そこまで近付いてから、ルナもなぜ彼女が普通よりも小さく見えたのか理解した。

 確かに元々身体も小柄だが、それ以上に、普通ならあるべき部位が―太ももの付け根以降の 足がないのだ。それ故、彼女は車椅子に乗って、対応をしている。

 ヴァンにとっては当たり前の光景であり、特に気にした様子もなく話を続けている。

「ところで、シルがさっきまで出掛けてたみたいなんだが、話は何か聞いていたか?」

「いえ、特に何も。ただ、何か思い詰めていたようなんですけど…話を聞いてます?」

 彼女の目にも、異常なのは感じ取っていたようで、ヴァンは特に気遣う様子もなく、即答する。

「聞いてはいたな。

 詳しくは知らんが、同郷の連中と会ったらしい」

「まぁ…。それで、シルは何か?」

 思ったよりも軽い反応を返し、ヴァンも軽いノリで返す。

「どうすればいいか、だけだ。あいつもはっきりしないからな」

 そこまで話して、彼は一息ついてからはっきりと聞いた。

「それで聞きに来たんだが、ゴルはまたあそこに"戻りたいか?"」

 どうとでも答えられる、開いた質問ではなく、単純な結論だけを求める質問。ヴァンの真意まではきっと彼女は分からないだろう。それでも、行動を起こすには言質を取る必要がある。

 案の定、彼女は少し考えた後に答えを出してくれた。

「そう言われて、はい、と言う人は居ないと思います。どうして、そんなことを?」

 ヴァンも、彼女の境遇については話だけだが、よく知っている。当然と言えば当然の回答に、彼は1人頷いた。

「そうだろうな。―一応聞いてみただけだ。

 お前が帰りたくないなら、俺らもそれ相応に動く必要がある、それだけさ」

 その言葉の裏までは語らず、彼は思い出したように隣にいたルナの存在を思い出した。

「―っと、それと忘れてた。話には聞いてたと思うけど、隣にいるこの子が最近入ってきた新入りらしい。俺と同じ出身らしいし、期待の新人だから何かあったらよろしく頼むよ」

「あっ、はい。よろしくお願いします」

 ヴァンに促されるまま、ルナも思い出したように挨拶をする。彼女もにこやかに小さく頭を下げた。

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