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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 8

 再び場面は変わり、魔女協会本部に併設されている、職員用の食堂。ここ自体、そこそこの人数を抱えていることもあり、50人ほどが座れるスペースに、2人の常勤の調理師がいる。日も落ちているが、夜食で利用する者も多く、調理師の夫婦―元々、ここに所属していた50代の夫婦はまだ働いていた。

 歓迎会を終え、その間に服も大分ボロボロになってしまったものの、面倒になったのでそのままヴァンたちは夜食を済ませるついでに少年と話をすることにした。ただ、他の連中も便乗して付いてきてしまったので、三十人ほどの大所帯となってしまった。

「またうるさいのが来たと思ったら、ヴァン、戻ってきたのかい」

「今日の昼にな。いつもの2つ頼む」

 身長は低いものの、恰幅のある、頭巾から白髪の混じった褐色の髪が覗く、黒いエプロン姿の女性は、一斉に入ってきた連中の中心にいるヴァンに気が付き、声をかける。ヴァンも注文した料理の代金を支払いつつ答えると、2人分、と聞き慣れない単語に気が付いて聞き返す。

「2人分? 腹減ってるんかい?」

「いや、こいつの分だ」

 ぽん、と丁度いい高さにある少年の頭に手を乗せつつ言うと、途端におやおや、と上機嫌になる。

「アンタが噂に聞いてる新入り君かい。たくさん食べるんだろう? 大盛りにしとくよ」

「いや、俺はそんなに…」

「"おかん"にそう言って聞いてくれたことはないから無駄だぞ」

 少年が困惑しつつ遠慮するも、ヴァンは無情にもぶった切り、事実、おかんと呼ばれた女性は最早聞いてないようだった。

 結局、大盛りの揚げ物セットを出されてしまい、少年は困ったように笑いつつも、成長期の食欲もあり、満更ではないようだ。

 皿に盛られた肉類の揚げ物を、一緒に寄越されたサラダとパンで組み合わせて食べる、ヴァンお気に入りのメニュー。一緒に受け取って相席してから、サンドできるようにナイフでパンに切れ込みを入れる。早速、好きにサンドイッチを作りながら口を開いた。

「飯を食いながらでいいだろう。

 改めて、俺はヴァン。巷じゃ金の竜狩りって呼ばれている。それと、お前も聞いている通り、あの人―黒の竜狩りの管轄、保護施設"シャバルガン"の出身だ」

 きちんと自分の口で紹介をして、少年もヴァンに倣ってパンを切り分けつつ名乗る。

「えっと、俺もあの人…シャバルガンの出身。ルナトリア、いつもルナって呼ばれてる」

 分かってはいたが、久々の同郷の子どもと面と向かって挨拶するのは久々で、ヴァンも一口、スープをすする間をおいて考えてから喋りだす。

「ルナトリア、覚えておく。

 シャバルガンから出てきた子たちを話しに行くことはあるが、実際にここで会うのは初めてだ」

 素直に思ったことを答えると、彼は苦笑する。

「まぁ、大体皆出る時は他の所ばっかですからね」

 何となく、言いたいことはあるようだが、言っていいのか迷っているようだったので、こちらから聞いてやる。

「…つまり、師匠は相変わらずってことか」

「…あぁ、もしかして昔から…?」

 ヴァンも言わんとしていることを察したようで、2人は深い溜め息と共に漏らす。

『生活力皆無』

 予想通り重なってしまい、ルナは苦笑し、ヴァンは悩ましそうに頭を抱える。

「……もうしばらくは帰らなくて良さそうだな」

「いやでも、俺を送り出すときはヴァンに今度顔見せるように絶対伝えてってマジのトーンで言ってましたよ」

「嫌だよ。なんで俺が12でこっちに移る形で逃げてきたと思ってんだ」

 可愛い後輩に伝えた伝言すらも、ヴァンは迷わず切り捨て、ものすごく嫌そうに愚痴り出す。

「あの人から鍛錬受けるのはいいとして、その代わりに家事を新入りの子たちに教えつつ、ほぼ全部俺が担当してたんだぞ。なんなら、遠方の雑用すらも鍛錬とか言ってパシられたのに、今行ったらまたあの人の介護じゃねぇか」

 うんざりだ、と言いたげに言い放ち、それにはルナも苦笑する。

「別に人には得手不得手があるのは当然だし、それだけなら気にはしねぇけどよ。毎晩のように夜の相手もさせられて、体が保たねぇって」

 夜の相手、そう聞いてルナも嫌な思い出が蘇ったのか、目を逸らす。それを見て、ヴァンは食事を進めながら忠告する。

「―話を変えるついでに一応、確認しておくか。魔女の魔力ってのはどう補充されるか、知ってるな?」

「…分かってるよ。男の…アレだろ」

 食堂ということもあり、ルナはオブラートに包むが、ヴァンは気にせず答える。

「そうだな。上品に言えば男女の営みだが、要は魔法を使うためには魔女は男とヤる必要があるってことだ」

 パンに持っていかれた水分を補給するため、スープに口をつけながら続ける。

「それが魔女の特性だ。"魔女"っていう生き物を考えれば妥当なんだが、それは今はどうでもいい。

 ここは"魔女協会"。百人単位の魔女が所属していて、色々な場で活躍している。それだけじゃない。魔力というものはこの国の転送石を含めて、あらゆるものに使われている。それを、この限られた魔女たちで回さなければならないからこそ、魔女協会は国の庇護下にあり、俺らもこうやって雇われている。

 確かにここ―本部は表向きは高級娼館として運営しているが、それでも希望する魔女だけでは賄い切れるわけじゃない。―まぁ、師匠の相手に比べれば遥かにマシだが、それでも俺らには基本的に女を選ぶ権利はないって言うことは覚えておけ」

 ―彼の言う通り、魔女というとのは、男の精を糧にして魔法を使う。その為に、魔女は殆ど単独行動はせず、異性と共に行動する。そして、使う魔力が多いほど相手の負担も大きくなるため、伝説ともされる"黒の竜狩り"と呼ばれる彼らの師匠は、その魔力と自分の趣味を満たすために少年の、中でも顔や体つきが好みの者を選んで引き取り、自分のハーレムと世話のために"飼っている"。実質人身売買に近いのだが、彼女の立場が強すぎるためにそれを糾弾出来るものはおらず、更に引き取られた子どもたちもそういうものだと洗脳されているため、その環境から出ていってからその異常性に気付く者も多い。

 その反面、立場の強さから各方面に顔が利くため、少年たちが成長して出ていく時も、将来を担保した上で送り出してくれるので、分別のついた青年となった子どもたちはそれを糾弾しようにも出来ない、というカラクリにもなっている。

 ヴァンもルナトリアも彼女に搾取された被害者たちの1人であり、その異常性について理解する思考もあったため、若くして逃げるように出ていった背景がある。

 ―それを理解した上でヴァンははっきりと言い、ついでに、と付け加える。

「それとこれは、"人気No.1"からの忠告だが、魔女はどいつもこいつも年下趣味が多い。それに、面食いも相当数いるから、俺の代わりになるかもしれん。だから、体はしっかり鍛えておいたほうがいいぞ」

 表情だけはにこやかに彼は言うが、その目に光はない。十数年、搾られ続けたからこその言葉に、ルナは今更魔女協会に所属を希望したことを後悔した。

「それでも、外回り希望なら、そこまででもないんでしょう?」

 外回り、つまりヴァンのように、本部に居を構えるものの、基本的に対外任務に勤しむ者ならば、と言うが、ヴァンは鼻で笑う。

「結局色々な魔女から搾られるか、一人の魔女から搾られるかの違いだぞ。―だからこそ、同行する魔女に魔力を使わせないくらいに強くなることだ。そうすれば、幾らか平穏な夜になる」

 経験者故に、しみじみとヴァンは語り、ルナも頭を抱えたくなるのを堪えながら食事を続けることにした。――同じく、夜食を食べに来た魔女たちの、肉食獣のような視線を感じながら。

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