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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 7

 ヴァンが魔女協会にて熱烈な歓迎を受けている一方で、シルはと言うと。先ほど尋問した男が話していた、ダウンタウン―市街地から少し離れた裏町を取り仕切る、大規模な施設、別称"取引所"が保有する小さめの空き倉庫周辺に来ていた。鎮圧の担当がヴァンであったため、シルは誰が件の敵であるかは分からない。それでも、長年、魔女の護衛を続けてきた勘で、当たりをつける。

「もし」

 誰かを待っているような素振りをしている男に声をかける。それに気が付き、目の前にいた巨漢にぎょっとするも、彼はにこやかに聞いた。

「君も、魔女関係の人かい?」

 出来るだけ、周りに聞かれても問題ないように最低限の単語で聞くと、驚いていた男は彼も同業―誘拐犯の1人と勝手に決めつけ、途端に表情が明るくなり、べらべらと話し出す。

「あんたもか。俺らは失敗しちまってよ。どう話そうか考えてたんだ。見た顔じゃないが、あんたは?」

 頭が悪い割には回転が速いようで、シルを別働隊と勘違いしたらしい。すぐにそれを理解したシルは、話を合わせる。

「なんとか、成功したんだが、届ける場所を忘れちゃってね。仲間がいるなら教えてほしいと思ってたんだよ。―もちろん、礼はする」

 もっともらしい嘘で案内を頼むと、すんなりとその話を信じた男は仕方ねぇな、と口の割には嬉しそうに言った。

「じゃ、改めて案内してやるよ。ただ、礼の話は忘れんなよ」

 思った以上に簡単に騙され、シルはにっこりと笑う。

「あぁ、もちろんだとも」


 予想通りではあったが、すぐ近くの空き倉庫が話にあった場所のようで、案内されるままに彼らは中に入る。

 中は暗く、はっきりと見ることはできない。更に入ってきた扉も閉められ、窓から差し込む月明かりだけが唯一の光源になった。そこで、部屋の奥から声が聞こえ―後ろの扉の鍵が閉まる。

「やれ」

 その言葉と同時に鈍い音がして、先ほど案内をしていた男の顔面に鉄拳が突き刺さり、そのまま糸が切れたように倒れる。

「ま、こんなものだと思ってたさ」

 次の瞬間、部屋の照明がつき、部屋の正体が露となる。

 殺風景な、石張りの床の上。各々が得物を持ち、血走った目でこちらを見ている。人数で言えば15人ほど。年齢はバラバラだが、誰一人としてこの凶行に躊躇っている様子はない。

 その男たちの奥に、黒い外套で姿を隠した者が1人。見た目は160cmほどで、男か女か、判別はできない。ただ、その姿はよく見ればよく見るほどぼやけているように見え、何らかの術がかかっているのだろう。

 まずは、目の前の輩を全員大人しくさせることが優先であり、シルは不意打ち気味の照明の前に閉じていた目を開いて構えをとる。


 戦況は最悪。複数対1人の戦いであり、普通であれば一方的に蹂躙されて終わる。だが、シルもまた、ヴァンと同じく"普通"ではない。

 軽く口の周りを舐め、彼は真っ先に突きだした槍の軌道をずらしつつ受け止め、接近。その手を弾いて武器を落とさせ、そのまま奪い取る。

 呆気にとられていた1人は無視し、次に迫る斧持ちの持ち手を、踏み込んでから振り回した槍の柄ではたき落とし、返しの手で真横にいる呆然としていた男を槍で殴り倒す。手を弾かれて怯んでいる男は再び無視し、先ほど倒れていく男の肩に飛び乗って大きく跳躍。弧を描きながら巨体が空を舞い、安全圏に避難する。そのまま木製の槍の切っ先だけは鉄製だったので、根元からへし折って殺傷能力を奪う。この戦いは、誰一人として殺さない、という彼なりの意思表示だろう。

 そんな行動は誰一人として気にせず、次に迫りくる集団の一番先にいる男をリーチを活かして突き飛ばし、後ろにいる人間たちがそれに突っかかってドミノのように崩れていく。4人ほど動きを止めたが、まだ10人ほど残っており、散開して彼を取り囲むように広がるが、そんな悠長な真似をさせるほど甘くはない。

 まず、手頃な1人の顎を全力で引っ叩いて意識を飛ばし、こちらが攻めてきたと判断して敵も距離を詰めてきたところで、棒高跳びの要領で跳躍して包囲から逃げた。着地点は、少し前に倒していた集団の直ぐ側。まだ倒れた状態の彼らの後頭部を蹴り飛ばし、無理やり昏倒させる。彼としては別に上に着地してもよかったのだが、流石に死人が出そうだったのでやめておいた。

 ただ、100kgは余裕で超えるシルの体重で、無理やり棒高跳びをしたのは良くなかったのか、槍の柄は中から割れてしまい、殴れてあと数回だろう。それを確認しつつ、彼は敵がこちらを振り向くよりも先にまた1人の後頭部を槍で殴りつけると、小気味いい音と共に、割れ目の入っていた中心部からへし折れた。

「……」

 特に驚いた様子もなく、彼はそれをすぐに手放して切り替え、足元に転がっていた両刃の剣を拾い、それを片手に進撃する。当然、使用するのは刃ではなく剣腹であり、彼に殺意はない。

 槍よりもリーチが短くなり、身長差はあれど、安全地帯は目に見えて狭くなっている。人数差も相まって、一気に状況は不利寄りに変わった。

 だとしても、彼は焦らない。"この程度"の死線ならば、いくらでも潜ってきた経験が自信故だろう。それでも、余計な怪我を負えば、心配する人たちが待っている。静かに集中力を高め、その極致へと至る。

 ―ヴァンが、魔女協会の保有する最強の"戦力"であるならば、シルは魔女協会に所属する最強の"護衛"である。ヴァンは、竜狩りの称号が示す通り、大型の獣を狩ることに特化してる。一方、シルが対応できる範囲は人間サイズにとどまるものの、ヴァンを超える状況への対応力、"呪い"に頼らずとも、鍛え上げられた肉体から放たれる一撃は他の追随を許さず、彼は最強と呼ばれることになった。

 しかし、シルの最大の武器は外見からでも分かる筋力ではない。何より、彼が厄介と言われるのは、極限まで高めた集中力。彼もまた、ドットと同じく"過集中状態"へと到れる者の一人である。そして、その集中力はドットの比ではない。

 複数人が同時に攻め立てる状況。接近が必要になった状態でさえ、彼はかすり傷1つ負うことなく、ヴァンのように肉の盾を利用することなく、紙一重でかわしていき、的確に1人ずつ、意識を刈り取っていく。

 みるみる内に頭数が減っていき、その間に鈍器代わりに使っていた得物が折れて使えなくなったとしても、すぐに近くに落ちている武器、敵が持っている武器を奪い取って反撃に移る。

 そして気付けば、10人以上いた敵の数も3人まで減っており、シルの手には長剣が1本。敵も短剣や斧と、リーチのない武器であり、人数差以外ではシルが有利となっている。

 しかし、今回はシルが囲まれた形で追い込まれており、死角からの一撃を受ければただの人間である彼には致命傷になる。

 それを踏まえた上で、彼は前傾姿勢を取り、すぐに動けるように構え、3人もいつでも背後から攻められるようににじり寄る。まず、目の前にいる1人から仕留めることにして、弾丸のように飛び出したと同時に背後に待機している2人も接近し、シルを足止めするためにも斧を横に薙ぎ払う。

 彼はそれを受け止めるでもなく、高く飛び上がって前方の1人を飛び越え、背後に着地。振り返る間も与えずに裏拳で敵の後頭部をぶん殴りつつ、振り返る。

 そして不意打ちの一撃で倒れていく男の体を、後ろから接近していた1人に向けて思い切り蹴り飛ばす。それに巻き込まれた1人が倒れ、状況は1対1に。相手に抵抗する隙も与えず、そのこめかみを剣の腹で殴りつけ、一撃で意識を飛ばす。

 最後の仕上げに、巻き込まれて倒れてしまった残りを蹴り飛ばし、動かなくなったことを確認し、残すは外套を着た1人となった。

「あとは、アンタだけだ」

 静かに通告すると、外套は何かに気が付いたように聞いてきた。

「お前…もしかしてシルヴァルディか…?」

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