第1節 3
休憩を早めに切り上げたこともあり、次の休憩地点までは時間としても余裕がある。予定していた順路には戻りつつも、少し歩を緩めて進むことにした。
スピードも程よいため、竜狩りはラセルタの隣を歩きつつ、思い切り甘やかしている。前方のドアを半開きにしうう、その光景を眺めていた護衛が呟いた。
「本当に珍しいこともありますよね。ラセルタがあの初対面の人間あそこまで懐くなんて」
実際、彼の言う通りで本来ラセルタはその体躯と知能の高さから人に懐くことは滅多にない。それこそ、手懐けるにはラセルタとの交流期間が必要になるケースが多く、この個体―依頼主でもある令嬢の父親、領主の保有しているもの―も例に漏れず、二人には必要最低限しか触らせてくれない。だからこそ不思議がっているが、聞こえていた竜狩りは意味深に笑った。
「同じ雰囲気でも感じ取ったんじゃないか? こいつも俺も、根本的には人嫌いだからな」
「だからってそうシンパシーを感じるものなの?」
令嬢の冷静なツッコミに彼はさぁな、とはぐらかす。
「俺もこいつの言葉が分かるわけじゃないし、ただこいつの態度から意思疎通してるだけだ。ま、それだけじゃなく、俺は昔から動物にはよく好かれるんだよ。
ほら、よくいるだろ? やたらと動物に懐かれやすいやつ」
「人付き合いが苦手そうですものね、アナタ。納得しましたわ」
「毎度口が減らないなお前は」
流石に寝起きとは違い、呆れつつ適当にあしらい、ところで、と話題を変える。
「話は変わるが、今回の仕事について復唱。まずはベルからだ」
突然の仕事の確認のために名前を呼ばれ、令嬢ことベルが一瞬戸惑うが、すぐに答える。
「隣村への"転移石"の設置。試運転として王都と私の家へ転移してそれぞれ報告」
「ドットは?」
「お嬢様の護衛。有事の際には盾となり、尽くす」
「良い子だ」
迷わずに自分の任務を即答したドットに向け、感心したように笑い、前を向く。
「そこまで行ったらヴァン、アナタも言いませんか?」
竜狩り、ヴァン1人だけ話していないことを指摘すると、彼は面倒そうに改めて振り向いたが、仕方ないと言いたげにため息交じりに答えた。
「…言う必要あるか? まぁ、いいだろう。
俺の仕事はドットと同じく護衛。優先順位はベル、転移石、ラセルタ、ドットの順番だな。それに加えて、一応お前らの監督役も頼まれているが…まぁ、誰かが評価するわけじゃないからな。好きにしていてくれ」
仕事を任されている割にはあまりにも適当な態度に対して、ベルがずっと感じていた疑問をぶつけた。
「……ずっと気になっていたんですけど、アナタ、魔女協会では人気トップなんですよね?」
「極めて不名誉だがな」
本人はとても嫌そうに即答し、面倒そうに続ける。
「まぁ、王都できちんと俺を指名するならこうはしない。もっと、相手を喜ばせるように言葉も態度も選ぶ。
ただ、外でもそういう媚びた態度は疲れるんだ。こちらの事情も汲み取ってくれ」
彼の言葉を聞いて、彼女は噛み砕いて確認した。
「つまる所、私たちとはこの場限りの付き合いだし、媚びる必要を感じないと?」
「その解釈で正しい。それに、お前に関しては必要以上に気に入られる必要もないからな。
お前ら付き合ってるんだろう?」
彼女の意訳を肯定しつつ、二人の顔を見つつ聞くと、苦笑するドットに対し、ベルはタコのように顔を赤くする。
「な――!!」
「主従関係にして随分と仲が良いからな。それに―いや、これは言わなくていいか」
その考えに至った説明をしようとしたが、言葉を濁して悪そうに笑った。
「しかし、いただけないな。お前の立場やその能力から、愛しの彼との外出デートが簡単にできるわけないだろう」
そして、ラセルタに手持ちの燻製肉をねだられていたのでそれを渡しつつ、前を向く。
「まぁ、村に着いたら好きにしてくれ。仕事をしてくれさえすれば、どこでナニをしていようと気にはしない。むしろ、こちらとしても二人一緒に居てくれるなら探す手間が省けるというものだ」
彼はそう言って自分の分の肉を噛み始めた時に、ラセルタと一緒に何か感じたようで、すぐに荷台に飛び乗り、扉を閉める。
「見張り窓以外は閉めろ。遠くに気配を感じる」
先ほどとは打って変わって、真剣な声色に2人も大人しく従い、扉を閉めたところでラセルタも歩く速度を上げる。
少し揺れが激しくなった荷車に揺られながら、ヴァンは壁に右手を当て、目を閉じて集中している。
「…何をしているんです?」
ドットがベルに小さな声で聞く。
「多分、魔法を使って周囲を探知してる。魔女協会には、"千里眼"の魔女も在籍しているし、その力を借りてるんじゃないかな」
「……」
ヴァンにもこの会話は聞こえているだろうが、何も言わず、集中している。
そのまま数分経過したところで、大きく息をついて2人の方を向いた。
「大丈夫だ。追ってくる奴らはいない」




