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魔女と竜狩り  作者: 合併
第2節 王都
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第2節 4

 久々にきちんとした睡眠をとることができたが、そこまで長くは眠っておらず、彼は日が落ちた頃に目を覚ました。

「…………、」

 ムクリ、と寝起きにすぐ起き上がってしばらく呆けていたが、思い出したようにすっかり暗くなった部屋の明かりをつける。そこで上半身の服が行方不明になってきたことに今更気が付いたが、普段から部屋で寝る時は脱いでいることが多いので、今は気にしないことにした。

 彼の部屋に備え付けられているシャワー室に向かい、久しぶりにきちんと体を洗うことにする。

 しっかり洗っても、まだ少し残っている血と獣の臭いが気になり、タンスにしまってある服を見繕いながら、香水も探す。ちょうど、少し前に例の"王子さま"とデートをした時に買っておいた香水を見つけたので、それを使うことにした。

 適当に見つけた、無地の白いシャツと厚手で丈の長い革ズボンを履いてから香水を振りかけ、遅めの食事の準備とする。

 とは言え、ろくな材料も残っていない…と思って部屋に備え付けの保存庫を確認すると、いつも入り浸っている魔女たちが置いていったのだろうか。肉と野菜がいくつか入っていたので拝借することにした。

 部屋と廊下の間にある小さな流し台と魔法で火のつくコンロの前に立ち、ナイフで手際よく野菜を洗って皮を剥く。思い出したように木製のマグカップを取り出し、乾燥した携帯食料と流しの下に残しておいた調味料で味を調える。

 野菜と肉の処理を済ませた後は鍋にぶち込んで火を通してから水を入れる。しばらくすると湯が沸いたので、マグカップにその湯を注いで携帯食料をふやかすことで、簡単なスープにする。

 少しお湯も減らせたので、野菜と肉を鍋に突っ込み、蓋をして食材が浸る程度の湯で煮込む。この暇な時間はスープを冷ましつつすすっていると、髪を乾かしていないことに気が付いた。

 シャワー室前の脱衣所にドライヤーのような温風を出す装置があるので、それで乾かす。ただ、魔法で温風が出るので音は全く出ないが。

 大きな鏡に映るのは、兜もしていない自分の姿。雪のような白い肌に、肩に届くくらいの、絹のように細くて長い、ウェーブのかかった金髪。切れ長の目。瞳は右が青、左が黄色とこの国でも珍しいオッドアイ。高い鼻と薄めの唇。パーツは完璧と言われるほどに整っており、彼の姿をよく知る者は、『絵本から出てきた王子様』と形容する。

 彼自身、目立つ外見なのは理解しており、この顔で良い事も悪い事も散々経験してきたので、出来る事ならば隠して生きたい。しかし、如何せんこの顔を必要とする仕事も多いのでなかなかずっと兜を着けたまま生活するわけにもいかない。

「……はぁ」

 どうせ、ここにいる間は常に面倒事が舞い込んでくる―既に勝手に国王との謁見を入れられていることを思い出し、彼は憂鬱そうにため息をつく。

 そんなことをしている間に、煮込んでいた鍋の蓋からコトコトと音が鳴り出したので、髪の手入れも終わったので、邪魔にならないように縛って1つにまとめ、台所へと戻っていく。


 時計を見ると、日が沈んで1時間ほど経過したくらい。寝る前にマスターから聞いていた件についても、夕食を済ませて向かえば丁度いいだろう。

 簡単に作った、よく分からない肉と野菜を煮込んだものを残っていたパンと一緒に済ませ、洗い物を済ませてから、外にいる間はなかなかできなかった歯磨きを済ませる。

 改めて身なりを整え、血の臭いなど問題ないか確認し直してから、鍵以外とりあえず何も持たずに部屋を出ていった。

 誰もいない廊下を通っていき、再び入り口まで戻ると、マスターに加え、大きな黒い影が、玄関の鍵を空けようとしていた。

「おや、タイミングが悪かったか。手伝いはいるか?」

 このままスルーするのも何だか気分が悪いので、後ろからマスターに声をかけると、ヴァンの存在に気が付いたようだ。

「あら、それは助かるわね。

 外に妙な連中がいないか見ていってくれない?」

「了解」

 マスターの指示に従い、玄関口の大きな扉の脇にある、非常口を開けて外に出ると、すっかり暗くなった外で、照明に照らされた協会の前に、ガラの悪い男の集団が待ち構えていた。

 ようやく開店すると思ったのか、彼に視線が集まるも、出てきたのがしばらく不在にしていた金の竜狩りと分かるや否や、前で待ち構えていた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 ヴァンはそれを見逃さず、一瞬逃げるのが遅れた1人を即座に捕らえ、背中から押し倒す形で組み伏せる。

「人の顔を見て逃げるだなんて、いい度胸してるじゃないか」

「テメェこそ、こっちの顔見るなりこんな事して許されると思ってんのか!!」

 元気に吠えてくるのはヴァンとしても助かる。彼は優位な状態から、周囲を見てから聞き返す。

「じゃあ、なんでお前は未だにこうして押し倒されたままなんだ?」

 周囲の人々は我関せずと言いたげに無視を貫いており、ヴァンは馬鹿にするように説明する。

「良いこと教えてやるよ。ウチの開店前に、目の前で構えてるヤツなんか、十割黒だ。

 何を吹き込まれたか知らねぇが、こんな事にした時点で、お前らに真っ当な人権は適用されないんだよ。この王都では、"そういう法"だ」

 ヴァンは淡々と告げ、手首を捕まえて拘束したまま店に引き摺り込んでいく。―そして、1分ほど物音がしたと思ったら、今度はきちんと玄関の大扉が開き、照明に照らされた黒い影―漆黒のヴェールで顔全体を隠した、真っ黒なウェディング衣装を纏った、180cmほどの大女が姿を現した。彼女は何も言わず、ただ、歓迎の意を込めて一礼してから協会の中へと消えていく。

 彼女が消えて、数秒した後、待っていた客たちが次々と入っていった。

 協会の中、カウンターの奥で待機していたマスターは、妖艶に笑ってやって来た客に向けて聞いた。

「さぁ、今日はどのような要件でしょうか?」


 その一方で、カウンターの奥にある地下への階段。先ほど捕らえた男を猿ぐつわと手錠を掛けて拘束したヴァンは、真っすぐ階段を降りていき―人気のない密室へと猿ぐつわを外してから放り込み、部屋の照明を着け、その隣にあるブザーを雑に叩く。

 扉の前に立ち、彼は静かに聞いた。

「拷問はしたくない。誰の依頼だ?」

 男が部屋の周囲を見るも、タイル張りの何もない部屋。よく見ると、水が通じている蛇口とホースだけがあり、噂にだけは聞いていた、魔女協会の拷問部屋なのだろう。

 ヴァンの話を聞かずに、周囲の観察から始めたのを見て、彼は深くため息をつく。

「もう一度聞く。誰の依頼だ?」

 なんの感情もない目でこちらを見下して、ようやく目の前にいる人間の危険性を感じ取った男は、震えた声で呟く。

「依頼主は…分からねぇ。俺らは、ただ、金をもらってここの女を攫ってこい、とだけ…」

 怯えきった男の回答に、嘘はないと感じ取った。

 ―魔女というのは、他国にて高く売れる。今となっては、この国の大半の魔女は魔女協会の保護を受けているため、更にその価値は高くなっている。しかし、魔女協会の守りは固く、仮に魔女協会から誘拐できたとしても、魔女の騎士団(オルタレイト)たちが地の果てまで追っていって取り返しに来る。では、魔女協会の保護を受けていない魔女を狙うにしても、彼女たちのほとんどは魔女協会の保護を受ける"必要がない"ということ。

 歴戦の傭兵であったり、鉄壁の守りを敷いている場合が殆ど。しかも、そう言った協会から外れた魔女であろうとも、場合によっては魔女の騎士団(オルタレイト)たちは介入することを許されている。

 つまり、この国において魔女を誘拐することは自殺行為に等しい。それでも尚、こういった、雑な誘拐が起きる理由には、この国の構造が原因である。

 この国は、数多の集落の合衆国のようなもの。新しく編入した所や、知識のない者たちは魔女を誘拐することへのリスクを知らない。そして、それを良いことに利用する輩というのは何処にでもいる。それこそ、何度潰してもゴキブリのように湧き出てくるのだ。

 この男たちも、恐らく一時の金や甘言に乗せられて参加したのだろう。こういう輩をわざわざ処罰をして、事を大きくする必要もない。依頼主や合流先など、今後使えそうな情報だけ聞き取りをしたら解放しようと考え、尋問を始めようとしたところで後ろの扉が開いた。

「珍しく呼び出しがあったと思ったら…ヴァンじゃないか。帰ってきてたの?」

 背後から、聞き慣れた声が聞こえてきた。

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