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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 幕間

 ケイが村を散策していると、破壊された建物の残骸を集めていたのか、瓦礫の山を囲むようにして昼休憩をしている村長たちと出会った。

「お疲れ様です。お昼休みですか?」

 彼女が声をかけると、怪訝な顔をした男衆たちに代わり、村長が対応した。

「ケイか。こんな状態じゃ、見るものもないだろう」

 村長の言葉に、彼女は愛想笑いで返す。

「いえ。貴方が思っている以上に見るものはありますよ。例えば、今後の復興に必要な資材の見積もり、とかですね」

「…抜け目がないな」

 あらゆる機会を金に換算して見る、その強かに少し感服しつつも、引き気味に答える。それに彼女は笑みを崩さず、水筒を取り出して一口、口に含む。

「ボクなんて、商人としてはまだまだですよ。本当にやり手というか、金の亡者はもう契約の算段にまで入ってます」

 上には上がいる、特に"商人"という人間には、文字通りの人でなしがいることを暗に伝えると、村長は苦笑する。

「それは…勘弁してほしいな」

「えぇ。そんな悪い人に捕まってしまうのは、あまり良くはないですね。だから、助っ人に声をかけてあります」

 彼女はそんなことを言ってから、普段通り、何処からか菱形をした、拳大ほどの板状の石を手渡す。

「伝声機能も備えた通信石です。これの登録先に、助っ人と繋がるようにしてます。試しに、繋げてみてください」

 村長は言われるままに通信石を繋げると、しばらく呼び鈴がなった後、聞き覚えのある声が聞こえた。

『繋がりましたよ。お元気ですか?』

「ベル、この前話していた通り、村長に渡しておいた。後は、二人でうまくやってくれ」

 困惑する村長の代わりに、ケイが答えてやると、声の主、ベルは明るい声で答えた。

『任せてください! 大船に乗った気分でよろしくてよ!』

「…とりあえず、よろしく頼む。嬢ちゃん、俺も昼休みだから、また一段落したら連絡する。

 またその時よろしくな」

『分かりました。また、連絡お願いしますね』

 落ち着きを取り戻した村長が、最低限の挨拶にとどめて通信を切ったあと、不満げにケイを見た。

「……おい、」

「なんですかその目は。確かにあの子は若いですけど、風の谷の次期領主と噂されるほどにはやり手ですよ」

「いや、でも若すぎだろ?」

 村長の遠回しの懸念に、彼女も少し呆れ気味に言い返す。

「良い機会じゃないですか。彼女の勉強として付き合ってやれば、風の谷にも恩を売れる。確かに、今は現実で精一杯なのは分かりますが、将来を見据えて行動するのが"長"としての責務なのでは?」

 ぐうの音も出ない正論を叩き付けられ、村長も言葉に詰まる。黙ってしまった村長を見て、彼女は妖しく笑う。

「ふふふ…。まぁ、頑張ってください。

 陰ながら、応援していますよ」

 そしてこれで話は終わり、と言いたそうに話題を変えた。

「ところで、ドットから聞いていたのですが、山賊たちの仲介になっていた、秘書の方は何処へ行ったのでしょうか?」

 ドットたちが気になっていたことについて、ケイが代わりに聞いてみる。その話が出た途端、村長の顔に焦りが見えた。その反応だけで何かを察したケイは、すぐに指摘する。

「話すなら、あの子たちよりもボクに話したほうが何かと有情だと思いますよ?

 ―大方座敷牢にでも数ヶ月幽閉されてるとでも思いますが」

 憶測ですけどね、と付け加えたものの、周りの露骨な反応から、大当たりと確信する。自分の予想が正しいと理解した上で、彼女はため息混じりに指摘した。

「1つ、忠告しておきますが、過度に人権を無視した行いが国にバレると、良くて罰金、最悪王国の軍と、竜狩りまで出動しますからね?

 まぁ、ボクはそんなことはどうでもいい、謂わば根無し草なので、関係はありませんがね。ただ、あなた方のやっている行いが、非人道的と思っているのならば、人目につかないところでやるべきだ。ただ、それだけです。

 ―それと、やるつもりなら受けて立ちますよ」

 村の将来のために、ケイを消そうとする気配を感じ、彼女も受けて立つと言いたげに宝石を取り出した。

「やめろお前ら。余計な事をするな」

 一触即発の時に、この空気を破ったのは村長。代表の一声に、周囲の殺気も収まっていく。それを感じ、ケイも宝石をまた懐にしまう。

「本当に、その通りですね。余計な血は流れないに越したことはないです。

 ―この件は他言無用、と言われても言いませんよ。ボクにも理由があります。

 それにヴァンと契約して、翼竜を査定して卸す。そして、その資金を元にベルと共にこの村を復興させる。それが成功すれば、仲介したボクの実績にもなるわけで、次の商売に繋がるんです。

 言ってしまえばこれは商機。あなた方の不用意な真似でそれがなくなってしまうのは、とても痛い。わざわざ自分からそれを潰す真似はしませんよ」

 あくまで商人として、彼女は協力すると話し、村長もそれを信じる。いや、信じなければ、大きな損害を被る。かつて、竜狩りと共に旅をしていた経験が、彼女に不用意な真似をするのは悪手と警鐘を鳴らしている。彼女に感じた危機感を周りに悟られないように、村長は代表として伝える。

「今、俺らも大分消耗してる。その中で、手を差し伸べてくれるなら、ありがたく握るべきだ。そうだろう?」

 怪しいと思うのは勝手だが、今は復興が最優先。そう伝えると、周囲も納得はしたようでわずかに残っていた敵意もなくなった。

 それを感じ取って、ケイも周囲に張っていた警戒を解き、背中を向ける。

「じゃあ、ボクはこの辺で。また後日、今後について話しましょう」

 スタスタと去っていく背中を見て、村長は深いため息を吐く。

「―肝が冷えたぞ。何だ、あいつは」

 村長も戦場から離れて長いとは言え、こちらに敵意を向けた時、一切の隙を感じ取れなかった。仮に、こちらが刃を向けていたら全滅していたのはこちらだろう。そう思ってしまうほど、見た目とは裏腹の立ち振る舞いに、今更になって寒気を感じた。



 一方役場の2階。ドットとベルに用意された部屋。ケイとの通信を終え、やる気十分と言いたげに彼女はドットに向けて話した。

「これから、忙しくなるね」

 嬉しそうなベルに対し、武器を磨いているドットは少し不安そうだ。

「…本当に信じて大丈夫?」

 2人きりであれば、特に周りを気にする必要はない。普段通りの口調で懸念を伝えるも、彼女はさぁね、と曖昧な答えを返す。

「父様の許可は降りているし、あの人とは王都でしばらく一緒にいたけど、見た目ほど、怪しい印象はなかったよ?」

 王都で転送石の手続きをしている途中、魔女協会で実践指導を受けていたドットに対し、彼女は自分の領地の契約もそうだが、それに加え、村長に頼まれて、この村の貿易契約について結んでいた。その時に同じ商人として協力していたのがケイであり、その時にヴァンと翼竜の件について、耳に入れていた。

 詰まる所、ケイが早々に来訪した原因であり、結果として、彼女の勉強の機会を設けることが出来たと言える。お互いにそこまで計算してしていた訳では無いが、その場の話の流れで結果的に、余計なものを入れることなく、復興への舵切りが進んだと言える。

 もう決まってしまった話を、今更キャンセルするわけにはいかない。ベルもこれ以上の小言は聞きたくないようで、話題を変える。

「そう言えば、この前魔女協会で鍛えていたやり方はマスターできたの?」

 思い出したように聞かれ、ドットは静かに目を閉じ、つい最近辿り着いた感覚を呼び起こそうとするが、思い通りにいかない。

「…………、どうでしょう」

 はっきりと断言することは出来ず、ベルは少し不機嫌になる。

「今の隊長に有効打を与えられなきゃ、今度こそ離れ離れだよ?」

 ―ドットに伝えられていたのは、ベルの護衛だけではない。竜狩りを護衛としてあてがう代わりに、少しでもその技術を盗み、領地の護衛隊長との決闘で勝利とは言わず、有効打を与えてみろ、ということ。そして、それはベルとドットの関係を彼女の父親でもある領主が認める最低条件であった。それも有限ではなく、期限は刻一刻と近付いてきている。

 ただ、やってきた竜狩りは、およそ人には真似のできない戦闘方法であり、彼から教わったのは適度な脱力のみ。その大半は、魔女協会の魔女の騎士団(オルタレイト)から教わった。しかし、改めて過集中状態になろうとしても、うまくいかない。

 何度も集中しようとするが、集中が途切れる。

 疲れているのが原因ではない筈。ヴァンと"おさらい"した時は問題なく発動できたのだ。何か、条件があるはず、と1人で唸っていると―立ち上がったベルが、床のささくれに足をひっかけてしまい、頭から転びそうになった途端、ドットがそれを抱き留めて大事になることはなかった。

「あ、ありがと」

「気を付けて。昨日の影響も、多少はあるからさ」

 自分でも驚くほど早く反応したことに疑問を覚えるが、それでようやく理解した。ヴォルガの戦いの時も、ヴァンと戦った時も、きっかけは些細で、とても大事なことだった。

 抱き留めていたベルを立たせ、彼は跪く。

「ドット、どうしたの…?」

 突然の行動に彼女は困惑するが、彼は顔を上げて真面目な顔で話しだした。

「―なんで、俺がここまで戦えたか、ようやく分かった。ベル、君のためだったから、戦えたんだ」

 ベルの身に危険が及ぶと思ったからこそ、体が動いた。相手を倒すことだけに"集中"できたのだ。それを理解したからこそ、彼は誓いを告げる。

「これは、身勝手な誓いになってしまう。それを、許してほしい。

 これから先も、君を守るために君のそばに居たい。だから、君も側に居てくれないか?」

 誓いのような、告白。ベルも驚いて戸惑ってはいたものの、しばらくその顔を見つめてから、笑ってドットに手を差し伸べた。

「――えぇ。こちらからもお願いをします。

 ―私だけの騎士になってくれますか?」

 ドットも予想外の行動に少し困惑したものの、笑顔でその手を取って、騎士のように手の甲に口づけをした。

「えぇ。一生、貴女にお仕えします」

 ―誰もいない、狭い部屋で行われた誓いの儀式。そして、周囲からも魔女の騎士として認められるためにも、槍の腕を鍛える必要を感じ、彼は拳を握った――――

第1部 了

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