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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 30

 眠りについたベルを抱え、部屋に戻そうと思って出た時、ちょうど目を覚ましたドットと出くわした。

「起きたか」

 普段通りに声をかけ、それを聞いてドットもこちらに気付く。

「…ヴァンさん」

「昨日は大変だったな」

 他人事のように言うと、彼は小さく頭を下げた。

「あの時は、ありがとうございました」

 あの時、恐らくヴォルガにトドメを刺した時の話だろう。それに対し、彼はどうでもよさそうに答えた。

「俺が殺りたくて殺っただけだから気にするな。それに―」

 お前がヴォルガを殺してたら、代わりにお前を殺してたからな、とまでは流石に言えず、彼は口を閉じて黙り込む。不思議そうに首を傾げたドットが口を開く前に、話題を変える。

「それはそうと、この荷物をそっちの部屋に預けさせてもらってもいいか?」

「―ベル、こんな所にいたのか…」

 ヴァンに抱えられ、すやすやと眠る彼女を重そうに顎で示すと、ようやく主人に気が付いたドットが出てきた扉を開いてくれた。

 部屋のベッドに彼女を寝かし、2人は下の階の転送石がきちんと動いているか、確認することにした。

 寝ている村長と、張り付けにされているヴォルガの亡骸には全く触れず、黙々と天井の照明裏に隠された転送石を降ろし、再度起動準備を進める。魔法阻害(ジャクミナ)を使われたものの、機能自体は残っていたので、そのまま問題なく使えそうだった。

 転送先も首都に指定し直し、いつでも戻れるようにしておく。やることを大体終え、帰る準備でもしようと思ったが、その前に気になったことを思い出した。

「―そうだ。お前、過集中状態にまで至れか?」

「……どうして、そんな事を?」

 答えるよりも前にその質問をした理由を聞くと、ヴァンは当然のように答えた。

「まぁそりゃあ、俺から魔女協会、というより知り合いの魔女の騎士団(オルタレイト)に声かけといたからな。そいつも、お前と同じ素質を持って、開花させた特殊なやつだ」

「……だからか」

 そこまで言われて、ようやく彼も気付く。ヴァンにやたらと詳しく、ベルの護衛兼案内役を別の者にしてまで、ドットに戦闘指南を続けていたのには、理由があったということに。

「その反応は、心当たりがあるみたいだ。

 結果としてはどうだった?」

 純粋な質問をぶつけてきて、彼は昨夜の感覚を思い出す。

 ―色を失ったように見える世界。無意識のまま、体だけが敵の動きに付いていき、ひたすらに武器を振り回した、言いようのない感覚。

 答えるまでの間を見て、ヴァンは納得したように頷く。

「その感覚は忘れるな。次に同じ事があれば、この前みたいに助けてくれる人は居ない」

 釘を刺してから、彼は一歩距離を離して聞いた。

「折角だ。―今、もう一度至ってみろ」

 その言葉と共に、ヴァンは一歩踏み込み、放たれた突きがドットの頬を掠める。

「―突然、何するんだよ!」

 突然の攻撃に戸惑いつつも、彼は拳を握る。お互いに武器は装備しておらず、余程のことが無ければ致命傷にはならないだろう。それでも、昨夜の光景―呪いによって、軽々と人体を破壊したヴァンの姿が脳裏をよぎる。

「さぁ、一発でも当てられたら止まってやる。―お前がやられたら、上にいる魔女を好きに出来るよなぁ?」

 彼はわざと挑発するように、わざわざベルの名前を出すと―魔女協会での、ヴァンの悪い噂も聞いてるのだろう。途端に真面目な顔で構えた。

 ヴァンの予想通り、ベルの名前が彼の起爆剤になっていたと確信し、彼も構える。少し前に組手をした時に比べ、見てわかるくらいには隙がなくなっている。それでも、お互い素手であれば、身長差から考えてもヴァンの有利は火を見るよりも明らか。別に待っても良かったが、ヴァンの目的は、ドットの集中力を知ること。

 敢えて攻める必要を感じ、彼は重心を落とし、一歩踏み込んでから顔面に目掛けて突きを放つ。その動きと同時に、ドットが突き出した手を受け流され、ヴァンは体勢を崩し、前のめりになって転がっていく。追撃されるよりも早く、受け身を取って体を起こす。

 すぐに振り向いて構え直すと、ドットは追撃することはなく、静かにこちらを見ている。魔女協会の訓練場で何度も見てきた相手と同じ影を感じながらも、彼は肺に残る空気を吐き出して向かっていく。

 一方的に攻め立てていくヴァンだが、防戦一方のドットに攻撃を受け流され、幾度となく体勢を崩されるものの、有効打は与えられない。それもそのはず、基本的に彼は動き続けながら攻めるため、受け流して次の手が出る頃には有効距離から離れており、その間に体勢を立て直している。

 だが、こちらから攻めることはなくとも、ヴァンは勝手に消耗していく。事実、珍しく彼は肩で息をしながら動いており、最初に比べてもキレが悪くなっている。間違いなく疲労しているが、その一撃一撃、確実に急所を狙っており、竜狩りと呼ばれる割には、人間への殺意も感じられる。

 守りに専念しているドットも、一撃で動きを止められかねない猛攻には、精神をすり減らされていく。ドットの集中力と、ヴァンの体力の根比べのような戦い。長くは続くと思わなかったが、想像に反する終わり方をすることになった。

「―おや、」

『――!?』

 幾度目となる、ヴァンの突進への対処を迫られた時、二人の間に張られていた、転送の魔法陣が反応し、誰かがやってきた。

 まさかの乱入に2人とも止まることはできず、衝突すると思いきや、その乱入者は軽々と一歩引いてヴァンの足を引っ掛けて転ばせ、その予想外の動きに間に合わず、ヴァンと一緒に床を転がっていく。

 どたんばたんと、派手な音ともに2人は仲良く目を回していたが、一足先に目を覚ましたヴァンが、上に乗っていたドットを退けながら体を起こす。

 恨めしそうに、急な来訪者を見ると―男物の黒いスーツを纏い、それだけではなく、手袋や下に着ているシャツ、ネクタイまで真っ黒な、黒ずくめの20代前半ほどの女。160cmほどで肌は服に対して、日焼けもなく、絹のような綺麗な白色。顔立ちはシュッとしており、シワもなく、きれいに整っている。しかし、印象には残りにくい、凹凸の少ない顔をしている。瞳は右が赤、左が黄色という、この国でも珍しいオッドアイ。乱入してきたのが顔見知りであることに気が付き、ヴァンは彼女の名前を呼ぶ。

「……ケイ、か」

 名前を呼ばれ、彼女は営業スマイルでゆっくりと、深く一礼してから答える。

「えぇ、レア物探しにどこまでも。"希少取引所(レイディアント)"のケイです。一月ぶりですね、金色さん」

 その紹介の間に息を整え、普段通りの素振りで聞いた。

「ポータルがつながった途端に、来たのか。相変わらず地獄耳だな」

 彼女はヴァンの指摘にクスクスと笑うが、その目は笑っているようには見えない。だが、特に機嫌を損ねた訳ではないようだ。

「えぇ。地獄の沙汰も金次第と言いますから。他の業者に取られて、利益を損なうのも嫌ですからね。ボクはしっかりと耳を広げているのですよ」

 そこまで言ってから、彼女はヴァンに近寄り、その腕に細い指を這わせる。

「尤も、貴方はお得意さまですから。行動については逐一チェックさせてもらってますよ」

「…不用意な接触はよせ」

 不満そうに彼女の手を払い、ヴァンは距離を離し、ケイも初めて表情を変え、不満そうにする。

「これはこれは。振られてしまいました」

 言い切った途端に、彼女は表情を戻し、ヴァンを見つめる。

「冗談はこのくらいにしておきましょう。

 ボクがここに来た理由、ご存知ですよね?」

「翼竜の処理だろう」

「ご明察。話が早くて助かります」

 ヴァンが即答し、彼女は口元を隠してクスクス笑い、改めてヴァンを見る。

「査定は聞きます?」

「いらん。お前なら信頼できる」

 ヴァンの素直な答えを聞いて、彼女は嬉しそうにケタケタ笑った。恐らく、こちらが本当の彼女の"素"なのだろう。

「―本当に、キミはいい男だね。

 そんな嫌そうな顔しないでよ。分かってる、査定は迅速かつ正確に。いつも通りきっちりやるけど、他に頼みごとはあるかい?」

 最後の確認をした彼女に向けて、ヴァンは思い出したように少し考えだし、改めて聞いた。

「それなら、一つ頼まれてくれないか。詳細は部屋で話す」

「了解。じゃあ、すぐに話してしまおう。

 ―ところで、キミがドット君だね? また後で話したいことがあるから、頼むよ」

「――は、はい」

 彼女は既に立ち上がっていったものの、トントン拍子で進む話に置いていかれているドットに気が付き、伝言を伝える。ドットも急な呼びかけに曖昧な返事をしてしまったが、特に気にした様子はなく、ヴァンと一緒に2階に上がっていってしまった。

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