第1節 2
それからしばらくして、ほどほどに拓かれた山道を進んでいき、露骨に造られたと思われる、見晴らしのいい広場に到着した。
誰かいる訳では無いが、昔から中継地点として使われているところであり、山を流れる川から引いた貯水池もあり、休むにはちょうど良い。
一応安全確保も含め、荷車の後方から竜狩りの男と護衛の2人が先に降りて周囲を確認する。警戒しつつ前方に回り込むと、全長4メートルほどありそうな、鮮やかな緑の鱗をした、6本の太い足をした、トカゲのようだがでっぷりと丸々と太った生き物がのんびりと、足元の草を食んでいた。
安全を確保した竜狩りは、食事をしているトカゲの背についている鞍を外してやると、荷物が外れたことに気がついたトカゲが顔を上げる。竜狩りの姿を見つけて怯えることなく、慣れた様子で彼の身体に頭を擦り付け、彼もそれに応えるように頭を撫でてやる。
トカゲは撫でられつつ、その巨体に対して細長い尻尾を器用に扱い、荷車の扉を開けて中から水桶を3つ取り出して差し出した。
竜狩りは頭から手を離してその内の2つを受け取り、残り1つをトカゲが咥えて1人と1頭はため池に向かっていく。
ため池の水を汲もうとして、まずはトカゲが頭を近づけると、何かに気がついたように顔を遠ざけると、彼は何かを察して先に自分の桶に水を汲み、次にトカゲの分の水を汲んでやる。
トカゲは今度は口ではなく尻尾で桶を掴んで、荷車のほうに向かっていった。
「飲水を作るか」
丁度よく焚き火を焚いている2人に向けて竜狩りが言うと、すぐにその意味を理解して荷馬車から大釜を取り出した。
―汚染された水を蒸留して、浄水を集めつつ、前回の休憩の時に用意しておいた水を溜めた水筒を取り出し、トカゲに飲ませてやる。
竜狩りによく懐いているこの大きな生き物―正しくは"ラセルタ"と呼ばれる巨大な爬虫類の一種だが、爬虫類に似つかわしくなく、熱い鱗によつて高温や低温にも耐性を持ち、どちらかと言うと恒温動物に近い。
知能が非常に高く、見た目の通り力も強く、雑食性。6本の足によって悪路も問題なく走破できる特徴から運搬に昔から大きく貢献をしてきた。ただ、その知能の高さから飼い慣らすまでには相当な労力も必要だが、それはあくまで昔の話。半ば家畜化された現在では、調教もかなり効率化されており、保有数はそこまで多くないものの、よく躾された個体が多い。
1つ問題があるとすると、ラセルタはその役割から荷車と合わせて考えられることが多く、"蜥蜴荷車"と全く呼び方が同じになっていることだろうか。
それはさておき、暇になった竜狩りが焚き火の脇で昨夜狩った、手頃な獣で作ったソーセージを串に刺して焼き出し、香ばしい匂いが漂いだす。
「ステイ、ステイだぞ」
ラセルタが物欲しそうにくるる、と唸るが犬を躾けるように彼は静止し、しばらく待たせる。
「よし、いいぞ」
十分に火が通った所で一際大きなソーセージを渡してやると、尻尾で受け取ってはふはふ言いながら食べ始めた。
「お前らの分もある。安心しろ」
それを見る2つの視線に気付いた上で、一緒に焼いていた2本のソーセージを渡すと、令嬢は少し恥ずかしそうに目を背け、護衛が苦笑して代わりに2本受け取ってくれた。
竜狩りとしては少し気に入らないものの、気にするだけ無駄と判断して、自分の分の串を引き抜いてから兜の蝶番を外し、顔の半分だけ露出して食べ始めた。
軽い軽食の後、浄化した水をいくつもの水筒に詰め直し、空冷するため荷車に載せておく。そして片付けを始めたタイミングで、広場の一角で物音がした。その音を聞き逃さず、竜狩りは即座に右腕の角のセーフティを外し、構えておく。
大きく葉っぱを掻き分ける音と共に現れたのは、薄汚い灰色の毛並みをした野犬。見たところ、群れからはぐれたか、単独で行動しているのだろう。肉の匂いに釣られてやってきたようで、周囲に他の気配は感じられない。
飢餓状態の畜生であれば、全く脅威ではないものの、竜狩りは念の為ラセルタ含めて指示を出す。
「すぐに出られるようにしておけ」
「分かりました」
護衛は彼の意図を汲み、焚き火の火を消し、すぐにラセルタに鞍をつけ、令嬢を荷車に乗せる。彼も乗り込み、あとは竜狩りだけの状態になる。
「準備できました」
「……早々に立ち去ろう。群れに嗅ぎつけられてると面倒だ」
野犬も人がいるため、警戒して近付いてくることはない。他の場所に群れがいるとは思えないが、彼らは程々に休憩をして立ち去ることにした。




