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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 28

ヴァンが翼竜を狩った頃。役場にて決闘をしていた2人も、決着が着こうとしていた。過集中状態によって、最初はドットが有利かと思われていたが、その状態にも弱点がある。

 それは、長時間の維持が難しいこと。

 肉体も精神も削り取られる状態は、長続きしない。しかも、軽鎧とはいえ、武器と鎧を装備して戦い続けるとなると、本人の集中力よりも、体力のほうが先に尽きる。それをすぐに見抜いたのは、ヴォルガの長年の経験故か。

 勇ましきことを言っていた反面、彼は執拗に距離を取り、ドットの消耗を待っていた。

 当然逃げ続けることにも体力を使うが、それ以上に相手の消耗のほうが早い。それに時間が経過していく内に、酷く痛むものの、右肩の感覚も戻ってきた。

 最初の状況はひっくり返り、肩で息をしながらも意地で立ち続けるドットに対し、少し余裕を取り戻したヴォルガが相対していた。

 余裕も出てきて、相手の集中も切れ始めている。何度か感じた地響きから、翼竜が村で暴れていると判断したヴォルガは、ドットに再度話しかける。

「ガキ、今なら俺の声が聞こえるだろう?

 お前みたいな若い才能をここで失うのは惜しい。俺らと共に来ないか?」

 このまま、この子どもの命を奪うのは容易い。しかし、過集中状態に到れる子どもを上手く洗脳し、自分の駒にすることができれば、心強い。将来も見越して、勧誘をしてみると、彼は疲労のたまった目で疑いの視線を向けた。

「勿論、そこの魔女も一緒に連れて行くがな。

 だが、お前が望めば、お前ら二人の関係に俺らが首を突っ込まないと約束しよう」

 こちらも出来る最大限の譲歩をして、お互いに損をしない提案を向ける。

 この状況でお互い生き延びることを考えれば、悪い提案ではない。それはドットにも分かっているが、疲れ切った脳裏でも、王国の魔女協会にて、魔女の騎士団(オルタレイト)の一人が話していた言葉が忘れられない。

『ヴァンについて聞きたいって?

 ―あの人が何を言っていたかは知らないけど、心配いらないよ。君たちが思っている以上に、あの人は強い。名前の通り、色つきの竜狩り―"金の竜狩り"の実力は本物だから、信じてあげてよ。

 ―ヴァンさんは、魔女のためなら、なんでもやる男だ』

 ベルという魔女の危機。それならばヴァンは必ずやってくる。それなら、それまでで良い、勝つ必要はないのだから。

 見えない力で出入りを封じられたせいで、まだ後ろに避難しているベルをちらりと見て、ドットは僅かな希望を頼りに、槍を握る。

「―断る。俺と違って、ベルはまだ、輝けるんだ」

 自分は、彼女の恋人である以上に、護衛の一人でしかない。己の代わりは、時間が解決してくれる。ただ、彼女の代わりは何処にもいないのだから。ドットは共倒れになる覚悟で再度集中する。

 その覚悟を見て、ヴォルガは本当に不満そうにため息をついた。

「本当に…これだから考えの浅いガキはよぉ!!」

 後のことは考えない。目の前にいる敵を1秒でも足止めするだけでいい。

 

 最後の余力を振り絞って戦おうとしたその瞬間、何かを叩くような轟音が室内に響いた。

 役場の閉じた入り口から聞こえる音は次第に大きくなってきて、ヴォルガは何が来たのか察したように不敵に笑う。

「時間切れみたいだな?」

 この音は、翼竜がこちらに加勢していたものと勘違いしていたようだが―扉が蹴り開けられた瞬間、ベルとドットの間を縫って放たれた角が、ヴォルガの胸を貫いた。

「は――?」

 何が起きたのか理解するよりも早く、角はヴォルガの体を引きずっていき、血まみれのヴァンの足元に運んでいく。

「……」

 顔を覆う兜の下の表情は分からない。ただ、その身に纏うどす黒い殺意から、怒り狂っていることだけは理解できた。

 ヴァンは片足を上げ、ヴォルガの肩を踏みつけると、骨の砕ける鈍い音と共に、木造の床に亀裂が入る。悲痛の叫びをあげると同時に、その喉を素手で掴んで爪を立て、動脈は出来るだけ傷つけないように声帯を潰す。

 目障りな音はもう、空気の通り音しか聞こえない。のたうち回るヴォルガの胸につ突き刺さる角を抜かないように、彼は片膝も蹴り壊して逃げられないようにする。

 並大抵の人間ならば、痛みでとうに意識は失っている。しかし、彼の小指の治癒の力で、無理やりにでも意識をつなぐ。

 何か、話そうとしているが、命乞いや懺悔の言葉に耳を貸す気もない。ただ、今までの恨みと怒りを込めて、ヴァンの気の済むようにやっているだけだ。

 逃げることすら出来ないその首に鈎爪を突き立て、一息に切り落とすことはなく、自重でゆっくりと、その命が尽きる瞬間を1秒でも長く味あわせてやる。

 皮が裂け、肉が切られていき、やがて動脈に辿り着く。真っ赤な噴水が立ち上ったところで、ヴァンは鈎爪を離し、そのまま失血死するまで逃げないように見ていてやる。

 そして、冷たくなって動かなくなったのを見計らって、その首を一息に切り落とした。

 ―ヴォルガを仕留め、彼の周りに漂う怒りも少し、和らいだ気がした。それでも、まだ恐ろしい雰囲気を纏ったままで、その場にいる誰もが躊躇い、近寄ることはできない。

 ヴァンもそれが自分でも分かるくらいには落ち着いていたのか、ヴォルガの首と角を回収したあと、できるだけ感情を抑えているのだろう、震えた声で指示をした。

「―俺は、後始末をしてくる。お前らもまだ気をつけろ」

 そう言うと、彼はその場から消えるように跳躍し、再び何処かに消えていってしまった。




 ヴァンは、再び空を駆けて山へと戻っていき―残党たちが帰っているであろう、本拠地に向かっていた。

 占領が失敗したのなら、まずは拠点に戻って今後についてない知恵を捻っているだろう、という予測だったが、ヴァンが拠点の近くまで来たあたりから、悲鳴が連鎖して聞こえてくる。それと共に聞こえてきたのは、2つの獣の遠吠え。

 先日、下見をしていた場所に、ヌシたちが待ち構えていたのだろう。悲鳴の先に直接向かうのではなく、手前の道で地面に着地し、しきりに後ろを気にしており、前が疎かになっている山賊の首を軽々と刎ねた。

 そこで、山賊を追いかけていた白色がこちらに気付くも、興奮状態の獣に大層な判断能力はない。ヴァンを山賊と勘違いしたまま、襲いかかってきたが、彼は軽々と避けて、愚かな獣に身の程を分からせるために蹴り飛ばす。

 きゃんっ、と悲痛な叫びとともに向かいの木に激突し、明らかな敵意と共にこちらを睨みつけるが、血の臭いに紛れて漂う獣臭に気が付いたようだ。

 自分が何をして、結果どうされたかを理解して、白色は大人しく伏せをして服従の意思を示す。それを見て、ヴァンはそれ以上の追撃はせず、白色の頭をなでる。

「いい子だ。さぁ、狩りの時間だぞ」

 ヴァンも臨戦態勢でそう告げ、この狩りに参加する意思を示す。それを見て、白色も嬉しそうに尻尾を振りながら立ち上がり、狼煙と言わんばかりに月夜に吠えた。


 あとは、語るまでもない。狩人たちは赤い月に捧げるように、粛々と狩りを遂行する。獲物たちの叫びは次第に減っていき―月が沈む頃には、静寂が訪れていた。

 ヴァンは何となく、本拠地の入り口である滝壺に戻っていくと、白色と灰色もそこで待っていた。2頭とも、返り血で真っ赤にはなっていたが、大きな怪我もしていないようだ。そして、こちらに気付いてパタパタと尻尾を振る白色の口には、洞窟の中から引きずってきたであろう、首のない小竜の亡骸が咥えられていた。

 小竜を仕留めたのはヴァンだと理解しているのだろう。この"狩り"最大の獲物について、狩った本人にどうするのか聞きたいのだろう。

 確かに、翼竜は子どもでも素材としての価値はあるが、需要はそこまで高くない。それに、ここから持ち帰るのも労力しかかからないため、ヴァンが要らない、と言いたそうに首を横に振ると、2頭は嬉々としてその肉にかぶりついた。

 小竜故に、その肉質は柔らかく、親と人間たちに愛情込めて育てられたお陰で肥満気味だったため、可食部位も多い。それに、この"ご馳走"のために、狩った人間には微塵も興味を示さなかったのだろう。飢えた2頭のヌシは、またたく間に肉を食い散らかし、食事を待っている間、ヴァンはいい加減体に染みついた泥や血を洗い流す為に、滝壺の中へとゆっくりと入っていった。

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