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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 24

 ―ヴァンの右手に填められた指輪は4つ。それぞれ魔女の力を宿しており、専用の力を持っている。

 小指の治癒の指輪。

 中指の物質生成の指輪。

 人差し指の身体強化の指輪。

 そして親指の―翼竜相手には役割がないので、右手の角のリールを巻き取る魔力の供給に徹している。

 一つ一つが竜の討伐に一役買っており、彼の戦いになくてはならない相棒である。

 非常に優秀な装備だが、力の源である魔力を生み出す事が出来ないため、指輪の使用には、別の魔女から魔力を分け与えて貰う必要がある。また、この指輪自体も常に微量な魔力を消耗しているため、残量に気をつけなければ、肝心の力も不発に終わる。

 だからこそ、ヴァンは魔女を守護し、その対価として魔力を分けてもらっていた。それが、魔女協会に所属する大きな理由でもある―


 ―改めて、指輪の魔力残量を確認するが、まだ十分に残っている。この先の戦闘まで見据えたら少々心許ないとは思うが、文句は言っていられない。

 何を勘違いしたのか、勝てる希望を見出した小竜が咆哮と共に突っ込んでくるが、彼も向かっていって、体の隙間を縫い、軽々とそれをかわす。

 すれ違った先、彼が見据える先は向かいの壁で伸びている調教師。まずは、弱い者から排除するのが複数戦の鉄則だ。通り過ぎてから彼の狙いに気付いたのか、地面を掴んで減速し、方向転換して追いかけるが、間に合わない。その隙に、がら空きの脳天を角で吹き飛ばそうと構えたところで、同じく彼の頭を狙う、ボルトの切っ先が見えた。

 小気味良い音と共に、弾かれたボルトはあらぬ方向に飛んでいき、地面に落ちる。調教師の手に握られていた片手で扱える、小型のクロスボウ―木で作られた簡素なものであるが、本来ボルトをセットするリールの上部にカートリッジが装着され、自動的にボルトが装填される―の下部についているハンドルを回し、再度ボルトを装填する。

自動小孥(オルテクサー)、か」

 この世界に比較的普及している、簡素かつ、人や小さな獣への対抗手段として広まっている武器の1つ。

 2射目の準備を済ませたところで、ヴァンが再び襲いかかり、再び放たれるが、それはかわされ、当たらない。その隙にトドメを刺そうとしたが、その時には真後ろに小竜が接近していた。

 物音で接近を察知していたヴァンは、大きく振り回した長い尻尾に合わせて丸まって宙返りし、着地する時、真下にあった小竜の頭を踏みつけようとする。しかし、頭への直撃は避けられ、代わりに背中、肩の辺りを踏みつけ、そのまま跳躍して距離を取る。

 ヴァンが着地するまでの間に、小竜と調教師は合流し、調教師の手にある自動小孥にもボルトが再装填されている。

 少し面倒だなと思いはするが、やることは変わらない。目の前の障害を排除する。それだけだ。


 再度戦闘を再開しようとした時、ヴァンの腰に激しい振動を感じた。

「…!?」

 流石に戦闘中でも反応し、ヴァンは腰―ポーチの中から、振動の原因でもある小石、通信石の反応を確認した。

「竜狩り、残念だったな」

 それを見て調教師が勝ち誇ったように高らかに宣言した。

「ここにいるのは俺らだけだ! お前は、ヴォルガの策に嵌まったんだよ!」

 彼の懸念はその通りになり、この拠点はほぼ見捨てられたようで、ヴォルガ含めた山賊たちの集団は、既に村への侵攻を始めていたようだ。

 それを聞いて、ヴァンは何の反応もなく、通信石の振動を止め、ポーチにしまい直す。

「降伏するなら、今のうちだぞ? 今更向かったところで、村が陥落までは間に合わない!!」

 村を陥落させ、そこから防衛すればヴァンを止められると思っているのだろう。事実、ある程度持ちこたえてはくれるだろうが、あちらに翼竜もいるならば、村を守る壁も長くは持たない。

 ヴァンがやるべきことは、この場を如何に早く切り抜け、一刻も早く村へ戻り、防衛に参加すること。

 一見、平静を保ちつつも、出し抜かれたことへの怒りが無いわけではない。腹の底に煮えたぎる黒い感情はどうにか抑え、目の前の敵を排除することに集中することにした。

 一瞬、脱力したと思った次の瞬間には、十数メートルは離れているはずの翼竜の前に一息で飛び込んでいき、その勢いを利用して、小竜の首に回し蹴りを叩き込んだ。その衝撃に洞窟全体が揺れ、小竜の頭も軽々と地面に埋まる。

 一瞬の出来事に呆然としていたが、綺麗に着地したヴァンの姿を確認して我に返る。調教師は何やら叫びながらがら空きの背中に向けてクロスボウのトリガーを引くが、その切っ先がヴァンの頭を貫くよりも早く、その体が消える。

 死角から現れたヴァンは、避ける隙も与えずにその両腕を鉤爪で引き裂き、二度と使えないように引き千切る。

 悲痛の叫びが木霊するが、彼が言っていた通り、ここには彼らしかいない。助けも呼べず、一瞬で抵抗することすら許されない状況でも、調教師は意識を失わずにいた。

「な、にが…!!」

 何が起きた、と言いたいのだろうが、痛みのあまり言葉にならない。鉤爪に着いた血糊を払いつつ、ヴァンはつまらなそうに言った。

「指輪の出力をただの獣狩りから、竜狩り用に切り替えただけだ」

 ―つまるところ、今の今までは、その辺りにいる野生動物用の能力で戦っていたということ。

 答えることはこれ以上ないと言わんばかりに、まだ気絶している小竜のトドメを刺そうと向かうが、彼は必死に呼び止めた。

「待っ、てくれ…!!」

 ヴァンの歩みは止まらない。敵に情をかけるなんて愚かな真似をするほど、彼は甘い世界に生きていない。

「話す…! 黒竜の、ことを…!」

 黒竜、その単語に反応し、ヴァンの足が止まる。間違いなく、この男の求めている情報と理解し、調教師は必死に声を張った。

「その子を、殺せば、何も話さない…!」

 瀕死の調教師の交渉に、ヴァンは一瞬だけ迷いを見せたが、元々小竜の討伐は任務に含まれていない。今は、求める情報を優先し、踵を返して調教師の方に向かっていく。

「それなら応じてやろう。早く話せ」

 話している間に失血死しないよう、彼は指輪の力で最低限の止血をし、説明を求める。

「へへ…言ってみる、もんだな」

 何とか命拾いをしたようで、彼は少し安堵して話しだした。



 ――俺は、元々しがない盗人だった。

 適当に街に入っては小さい盗みを繰り返して、何とか食いつないでた程度の男だ。

 そんな暮らしを続けて―2年位前になるが、ここから北の地方で、翼竜の住処があって、産卵期の翼竜がいるって話を聞いてよ。このつまらねぇ人生にも刺激が欲しかったのか分からねぇが、俺もその話を聞いて、翼竜の卵を盗んでたまには真っ当な食い物が欲しかったのかもしれねぇ。

 ただ、そこにいたのは翼竜だけじゃなかった。

 確かに翼竜は居たんだが、あろうことか、卵を自分の脱皮した皮に包んで逃げてたんだ。それで、その先にいたのは、山みてぇなでっけぇ竜だ。

 空も、その竜みてぇに真っ黒で、本当に真っ黒だったから分からねぇが、今でもはっきりと、闇にとけるような、綺麗な黒は覚えてる。

 それを見て、気が付いたら俺も一緒になって逃げていた。ただ、その途中で逃げていた翼竜が卵を落としやがってな。あろうことか、俺の上に落ちてきたんだ。

 そのお陰で卵は割れずに済んだが、俺も卵が背中に直撃したせいで動けなくなっちまった。

 あとはあの黒竜に襲われて死ぬしかないと思ってたが、なぜかあいつは更に北の方に飛んでいきやがった。北に何があるかは知らねぇ。ただ、あいつは山1つの環境を全部ぶっ壊して、どっかに行きやがった。



「―つまり、北に向かっていった、そういうことだな?」

 無駄に長い話の要点をまとめると、調教師はそうだな、と答える。

「そんな昔の話を聞いて、どうする? 探して討伐にでも行くのか?」

「そうだな」

 ヴァンが即答すると、彼は馬鹿にするように笑った。

「お前の反応見るに、知ってるんだろ。あの黒竜について。人間一人で勝てると思ってるのか?」

 本来、竜とは絶対的な強者。天敵も存在せず、竜1頭を討伐するために、一国の軍が出動して、勝てるかどうかと言われるほど。その中でも、風の噂のみに伝わる黒竜とは、別格と言われており、一夜とはいわず、数刻いただけで、その土地に致命的な傷跡を残すと言われている。

 実際に見たからこその感想なのだろう。それでも、ヴァンは止まるつもりはない。

「お前に答える義理はない」

 それに話は終えた。約束も済ませたのだ。もう、待ってやることはないだろう。

 ヴァンが調教師にトドメを刺そうと鉤爪を構えた時、背後に立ち直った翼竜が立っていた。

「悪いことは言わねぇ、命は大事にしろ」

 諭すように、調教師が忠告するが、彼は止まらない。

「忠告感謝する。悪いが、その言葉は耳にたこが出来るくらいには聞いているよう」

 幾度となく言われた、無謀だと彼を止める言葉。だが、何も知らない他人の言葉で彼の怒りを収めることは出来ない。

 黒竜を討つこと。それが、彼の悲願であり、それを成し遂げてようやく、竜によって壊された人生をやり直せるのだから。

 ―だからこそ、こんな翼竜(ザコ)相手に手間取ってるようでは、話にならない。


「――――」


 目の前の男が何か言った気がした。

 背後の翼竜が、その翼を叩きつけてきたのと同時に、周囲一帯を巻き込むように振り回した鉤爪は、彼の周りに残っていた命を、その首を収穫するように、容易く刈り取った。

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