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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 21

方位磁針を頼りに空を駆けていくと、見覚えのある亀裂が見えてきて、再度方位磁針の方角を確認して入り口を見つける。

 結果については予想通りであり、白色の獣が山賊たちを嬲り殺しにしており、入り口付近の至る所に肉片が散らばっていた。

 着地したヴァンが獣の姿を探すと、少し離れたところから血痕が続いており、逃げた獲物を追いかけていったようだ。

 それを頼りに追いかけていくと、声帯を潰されたのか、声すらほとんど出せないような状態で、両腕を食い潰された薄汚い男が、白色の目の前で必死に命乞いをしているように見えた。

「白いの」

 ヴァンが獣を呼び止めると、今すぐに食いつきそうだった白色の動きが止まった。その目は怒りで血走っていたものの、止まれるだけの理性は残っていたようで、不満そうに唸りながらもヴァンの周囲をうろつき出した。しきりに匂いを嗅いでおり、傷がないか確認してくれているのだろう。

 ヴァンは白色の頭を撫でながら、無事みたいだな、と声を掛ける。

「なぁ、白いの。あいつと少し話をさせてくれないか」

 少しの間、この場を譲ってほしいと半殺し状態の男を指差しながら聞くと、数秒悩んだものの、仕方ないと言いたそうにそっぽを向いて譲ってくれた。

「助かる」

 肯定と受け取り、ヴァンは失血死寸前の男に近寄っていき、声を掛ける。

「聞こえるか?」

「…!? た、助けてくれ!」

 ヴァンの声を聞いた時点で、味方の一人だと錯覚したようで、掠れた声で助けを求めてくる。それを聞いて、ヴァンは兜の下でほくそ笑みつつも、話を合わせる。

「安心しろ。あのヌシは翼竜が追っ払った。

 …酷い怪我だな。治療する薬を取り行くのと一緒に、家に戻りたいんだが、お前は使えるものを持っていないか?」

 敢えて止血を始め、味方であるフリをしながら情報を聞き出そうとすると、山賊はペラペラと喋りだす。

「そ、そうか…!? 俺の荷物の中に住処を刺す方位磁針がある。それを使ってくれ。

 この辺からなら、そんなに時間はかからねぇ」

 思った以上にすぐ情報を吐いてくれたことに少し戸惑いながらも、彼は感謝を述べた。

「ありがとう。すぐに楽になるからな」

 後ろに近づいていた白色に気付き、ヴァンが離れてから合図すると、白色は一息にその喉を食いちぎり、文字通り一瞬で楽にしてあげた。


 血の池を作っている死体には興味もなく、ヴァンは腰に下げた革袋を漁り、目当ての方位磁針を探し出す。ついでに夜食の携帯食や携帯用の小さな木の水筒を見つけ出して回収する。だが、隣りにいた白色が物欲しそうに見ていたので、正当な報酬としてそれらを渡してしまった。

 喉を鳴らして水を飲み干し、満足そうに口の周りを舐めたところで、要らない残骸を投げ捨て、白色と一緒に来た道を戻っていく。

 その途中、しきりにヴァンの左腕、厳密には彼の鉤爪を気にしており、ついに気になったヴァンが、鉤爪を鼻先に持っていってやる。

「気になるのか?」

 鉤爪についた、僅かな血の匂いをしばらく嗅いでいたが、不安そうにこちらを見てきた。その視線から、本当に無事だったのか、と聞いているようで、彼は白色の頭を撫でてやる。

「安心しろ、大丈夫だったよ。ただ、傷を与えて逃げただけだったからな。今度は仕留める」

 それを聞いて白色も安心したところで、彼らは洞窟の入り口に戻ると―何やら大きな影が元々は山賊だった残骸を食らっていた。

 2人は少し身構えたが、近づいてよく見ると、先ほどまでは寝たきりだった、灰色の獣が起きてきて、貪るように肉を食い漁っていた。

 それに気が付いた白色は、尻尾をぶんぶん振り、きゅんきゅん鳴きながら灰色に駆け寄り、愛おしそうに頭を擦り付けた。その一方で、灰色はそれのせいで落ち着いて肉も食えず、少し不満そうな顔をしつつも大人しく受け入れていたところで、ヴァンに気が付いた。

 彼も、雰囲気は異なれど、山賊たちと同じ人間。警戒を顕にして唸り声を上げるが、白色がそれを制止して、ヴァンに近寄り、安全だと言わんばかりに頭を擦り付けた。

 白色の行動を見て警戒はしているものの、安全な相手だと理解し、再び食事に戻ってしまう。灰色の誤解も解けたところで、白色は灰色の側に戻り、尻尾を振りつつそれを見ていた。

 一方でヴァンは灰色には全く興味なさそうにしており、無視して散乱した亡骸から使えそうな道具はないか物色していた。

 結果的に、先ほど始末した相手と同じく、少量の飲食物と恐らく帰宅用の方位磁針くらいしか見つけることは出来なかった。

 白色はともかく、灰色はしばらく寝込んでいたせいか、酷く腹を空かせていたようで、白色経由で集めた食べ物は全て灰色の腹の中に入っていってしまった。

 人間で言えば、2人分ほど貪り食った後、満腹になった灰色は、最後に泉で喉を潤してから明日用と思われる散らばった足の一本を咥えて洞窟に戻ろうとする。ヴァンは流石にいられないか、と考えて背中を向けたところで、白色が彼の足を甘噛みして引き止めた。

「…大丈夫なのか?」

 安全な寝床を提供してもらえるのならば、それに越したことはない。ただ、灰色の反応を見る限り、難しいと思ったが、白色の考えは違うようで、一緒にいてほしそうにしている。

 体格も考え、何かあれば白色もいるならば安心だろうと考え、素直にその誘いを受けることにした。

 白色に促されるまま、洞窟に戻ると、寝ようとしていた灰色がこちらに気が付き、不満そうにばう、と吠える。そんな灰色の態度はお構い無しで白色とヴァンが近付いてきたところで、灰色は億劫そうに立ち上がり、ヴァンの匂いを嗅ぐ。

 先ほど、血を浴びたものの、その前はこの2頭に挟まれて眠っていたこともあり、彼の体には2頭の獣臭がある程度残っている。自分たちと同じ臭いがすることもあり、ようやく観念したように腹を見せて寝転がり、敵意はないと行動で示す。

 ヴァンも同じく、両手の得物を外し、近くに置いたことで、2頭へ敵意がないことを示した。それを確認したところで白色がヴァンの背中を押し、再び彼は獣2頭に挟まれて寝ることになった。

(―この2頭のためにも、悠長にしてるのもよくないな…)

 前回よりも多少血なまぐさいものの、状況は以前と特に変わりないため、ヴァンは明日の予定を考えるも、それ以上は悩むことなく、すぐに眠りに落ちた。

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