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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 19

 ―外の木の皮で鍋を作り、火を起こして白色が汲んできた水でお湯を沸かす。服の袖をちぎって作った手ぬぐいを熱湯で濡らし、丁寧に膿で溢れた傷口を拭いてやった。

 灰色も痛むのか、少し呻いたが抵抗する体力もなく、大人しく処置を受けている。その代わり、心配そう周りをウロウロしている白色が鬱陶しい。

 何度かに分けて行い、ようやか傷口の清拭が終わり、素の傷が露出する。恐らく、それは爪が何かに引き裂かれた跡。かなり深いが、足ももげておらず、内臓も上手く避けていたようで、今も無事に生き延びられたのだろう。

 ポーチから、自分の傷に使う予定だった抗菌作用のある塗り薬を取り出し、傷口に延ばすように塗っていく。

 ある程度前処置が終わって、一段落したところで空を見上げると、もう日も傾き始めていた。

「時間の流れが早いな」

 ヴァンは改めて千切った元の服を洗って、水を絞りつつそう呟く。だが、治療はまだ済んでいない。

 再び傷口の清拭を行おうとした所で、右手の指輪―4つの内、小指に着けている指輪が小さく振動する。

「……使え、と? いや、確かにお前は一番使わないが」

 まるで意思を持ったように反応する指輪の訴えに、ヴァンは1人、指輪に声を掛けるが、それ以上の反応はない。彼は小さくため息を吐いてから灰色の傷口に右手を当てると―指輪から淡い、紫色の光が溢れ出し―傷口がみるみる内に治っていく。

 しばらく治療を行い、完全に傷口が塞がったところで彼は立ち上がる。

「まぁ、これなら俺の拘束される時間も短縮できたか。…良い提案をありがとうな」

 改めて考えれば、これでこちらの仕事も終わるのであれば、多少の魔力の消費も安いものだろう。時間との天秤にかけてみれば、間違った選択肢では無かったことに気が付き、彼は指輪に向けて礼を言った。

 そして、治療が終わったことを伝える前に、押しのけるように白色が突っ込んできて、傷口を確認する。無残に抉られた傷口が綺麗に治っていることを確認し、涙を流して吠えた。

「…とりあえず、応急処置だ」

 消えかけていた焚き火に薪を注ぎ足し、火の勢いを保つ。更に一旦鍋の水を捨てつつ、小さく呟いた。


 まだ毛も生えていない、獣の素肌は寒さにも弱い。そのため、白色にはしばらく一緒にいてやれ、と言ってみたら、それは伝わっていたようで、灰色の側で丸まって寝息を立て始めた。

「…俺も、少し疲れたな」

 これで一仕事は終えたが、彼もずっと集中していたこともあり、気が緩んだ途端、どっと疲れが出てくる。

 それでも休む前にはやることもある。何度か水の入れ替えに外に出ていたこともあり、この洞窟の構造は分かった。ヴァンは水の確保ついでに空になった鍋を持って外に向かう。

 改めて飲水を蒸留して確保し、水筒に詰め直す。もう大分日も傾いていたが、腹も減ったので、改めて外に採集に向かうことにした。

 出ていくことに気が付いた白色が目を覚まし、くぅん、と鳴く。彼はそれを聞いて外を指差した。

「少し、食い物を取ってくるだけだ。また戻る」

 このまま消えるわけではないと伝えると、きちんと伝わったようで、獣も再び目を閉じた。



 外で適当に狩りや採集をして、適当に食べるものを確保して、気が付いたら日は沈み、今日も赤い月が見え始めていた。あの獣も、洞窟の滞在も許してくれていそうなので、そのまま洞窟に戻る。

 今日だけで何度目か分からない暗闇を通り、洞窟の奥に到着すると、出ていった時と大きく変わらず、2頭の獣はゆっくり休んでいた。ただ、焚き火は消えていた。そのため、食料のついでに集めておいた薪を積み直し、火打ち石を使って火種に火をつける。

 枯れ木を選んで集めておいたので、余計な煙は出ない。手際よく薪に火を移し、燃え始めたところで手頃な木の枝に適当に取ってきた野鳥や蛇を突き刺し、焼き始める。

 肉の焼ける匂いと、薪の爆ぜる音に反応して、ゆっくり眠っていた白色が目を覚ます。

 大きなあくびをしてから、丸まって固まっていた体を伸ばして体を起こした。そしてまだ少し眠そうにしながらも、外に水を飲みに出ていく。

 水を飲んで頭もはっきりしてきたのか、戻ってきた白色は焼いている途中の肉に興味を示していた。

「熱いぞ?」

 程よく焼けてきた、食べ応えだけはありそうな野鳥の串を取り外して見せてやる。興味深そうにふんふん、と鼻を鳴らして臭いを嗅いでから、踏みつけて温度を確認する。すぐに長い爪で引き裂いて中身を確認すると、よく火の通った肉が見えて、器用に持ち手の枝部分を咥えて灰色のところに持っていく。それを見て、灰色への水を与えていないことを思い出し、まだ空いていない水筒を片手に、焼いた木の実を頬張りながら一緒に向かっていく。

 改めて観察したところ、夕方に比べれば大分呼吸も落ち着いており、消耗しているだけだろう。あとは時間経過で体も元に戻るだろうと判断し、ヴァンは再び焚き火に戻って食事を済ませることにした。

 その後、少ししてから灰色の体調も問題ないだろうと判断した白色が戻ってきて、ヴァンの隣に座る。

「どうした?」

 特に何かするわけではなく、彼の隣に座って尻尾を振っている。少なくとも、敵意を持たれている訳では無いようで、特に気にも留めず、それを受け入れた。

 灰色の分の水も用意しようと思い、その辺の木の皮から作った水筒の分も蒸留していたため、少し時間がかかってしまった。

 気が付くと、夜も更けており、白色が追い出す気配もない。寝床として使ってもいいと理解して、先に奪い取った方位磁針を確認するが、それは少し前に見た方向と全く同じ場所を指している。それを確認し、適当なところで寝かせてもらおうと立ち上がったのを見て、待っていたと言わんばかりに白色に背中を押される。

「おい、どうした?」

 少し意外だったせいか、普段よりも慌てた様子で聞くも、白色は答えない。ただ、そのまま灰色の所まで押して行って、灰色の隣でごろん、と寝転がってくねくねと体を動かす。

「…一緒に寝ろ、と?」

 確かに、石の地面で眠るよりかは遥かにマシ、と思いきや、よく見ると灰色の下に敷き詰められた葉っぱがベッド代わりになっており、寝心地も悪くはなさそうだ。相手はいくら獣とは言え、その好意を無下にするのも気が引けたので、彼は素直に白色と灰色の間に挟まる。

 獣特有の臭いはあるものの、外に比べてとても暖かい毛皮に包まれ、寝心地も思った以上に悪くない。ヴァンも文句は何も言わず、一日中動き回っていた疲れもあり、すぐに目を閉じて眠り始めた。


 眠りについて暫くして、ヴァンは温もりを失ったのに気が付いて目を覚ました。

「…ん、」

 寝起きと思えないほど、直ぐに目を覚まして立ち上がったところで、前方で延びていた白色がこちらを向いた。

「どうした?」

 軽く体を伸ばして固まった筋肉を解しつつ聞くと、天井の隙間から覗く空を見て、唸った。

 ヴァンもその理由を察し、山賊から奪い取っていた方位磁針を取り出すと、少し前に確認していた方向と、また違う方向を―洞窟の出口を指していた。

「…ちっ」

 ヴァンは全てを理解し、舌打ちする。

 ―この方位磁針は、惑星の磁場に反応する物ではなく、対になる方位磁針に引かれ合い、お互いの方向を示す道具。ヴァンの予定では、この方位磁針を利用して、山賊たちの根城を見つけるつもりだったが、この2頭に構っている間に、相手が先にこちらを探しに来たようだ。ただ、気になるのはこの白色は洞窟の出口ではなく、しきりに上空を気にしていること。

 この獣に恐怖を感じていることを察し、白色の頭を撫でる。

「白いの。お前はあっちにいる連中を頼む」

 洞窟の外を指差しながら言い、白色の赤い目をしっかりと見て、ヴァンは右手の角を空へと向ける。

「俺は、あいつとやり合ってくる。

 お前も、帰ってこないといけないだろ?」

 灰色の体に刻まれた、致命傷となったであろう爪痕。この番が山賊たちの言うヌシであれば、そんな傷を与えられる生き物なんて限られている。そして、灰色よりも大きな体の白色がここまで怯える相手と言えば、合点がいく。

 ヴァンの言葉を理解しているが、仇討ちをしたい気持ちもあるのだろう。まだ少し躊躇っている白色の背中を押して、ヴァンはじっと目を見つめて聞いた。

「お前は生きて帰ってこなきゃ、こいつの世話を誰がする?

 あいつは俺に任せろ」

 穏やかに眠る灰色の姿を見せたことで、ようやく踏ん切りがついたようだ。白色はうぉん、と鳴いてから身を屈め、乗るように目で合図する。

 その意図を理解し、ヴァンは嬉しそうに言った。

「背中を預けてくれるとは、その期待に応えないとな」

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