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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 17

 翼竜が飛んでいった方向へと、警戒を続けながら進んでいくと、森の中に作られた広場に出た。障害物もなく、見晴らしのいい場所となっているが、時間も時間のため、誰もいない。途中に見つけただけか、と考え、外周を回って抜けようとした途中、不審なものが目についた。

「……?」

 目を凝らしてよく見ると、広場の何箇所が、不自然に踏み荒らされている。しかも、人間ではなく、もっと巨大な生き物が居た痕跡だ。

 興味を示し、もう一度周囲を確認して安全を確保する。十分に警戒を行ってから、不自然な痕跡を調べに向かう。

 残っていたのは、予想通り、翼竜と思われる巨大な生き物の痕跡。翼竜は飛翔能力を持つ都合上、体重は見た目ほど重くはないが、それでも体格がある分、重量は人間や一般的な獣の比ではない。そのため、着地したりするだけでも、その場に痕跡を残すことになる。

 ただ、ここを飛翔のための離陸点にしているにしては、周辺が荒らされている。ただの離陸をするにしては、荒れ過ぎだと思い、調査を続けると、指先ほどの長さをした鱗を見つけた。

「これは…」

 鱗を手に取り、硬さを確認したが、成体のものとは思えないほど柔らかく、指で簡単に曲げられた。

「……そういうことか」

 彼はつい呟き、周囲を改めて確認する。

 ―よく見ると、あちこちに散乱している未熟な鱗。これは、何度も地面にぶつかったり、転がったりした結果だろう。

 何が言いたいかと言うと、この場は"翼竜の幼体の訓練場"にされている可能性が高い、ということだ。そして、それが正しいのであれば、先程まで成体の翼竜が一方をしきりに気にしていたのも合点がいく。

 翼竜の生態についてはあまり詳しくないため、どれだけの年月が経過した時点で、訓練を始めるかは分からない。ただ、ある程度自立できる翼竜の幼体も、この近辺にいる可能性については理解した。

「…………」

 ヴァンは静かにため息を吐いてから、空を仰ぐ。

 月は傾いており、陰り始めている。月明かりなしに、光源を使っての調査は、敵に気取られる可能性がある。

 今夜の調査できる限界と判断し、ヴァンは虫除けの香を焚き直し、森の中へと入っていく。

 そして少し離れたところで、休憩したときと同じく、手頃な木を見つけた。太い枝に腰かけて、枝にうつ伏せで掴まる。そして間もなく、彼は目を閉じて静かに寝息を立て始めた。



「――――ん、」

 木漏れ日を受けて彼は目を覚まし、木の上で軽く伸びをする。寝心地の悪い枝の上で、固まった筋肉を解しつつ、彼はポーチに入っていた携帯食料である、適当な獣の肉から作ったジャーキーを齧った。また、水筒の水で最低限の渇きを癒し、すぐに周囲の確認をするが、森の中、特に寄ってきた獣の類はいない。

 森の中での野宿も慣れたものだが、何度やっても寝起きの凝りは良くなるものではない。単独行動の代償でもあるため、文句はないが、もっと良い方法があればいいのだが、とつい思ってしまう。

 水筒だけでは足りない水分を朝露で少し補い、消えていた獣避けの香を新たに焚き直し、調査に向かう。その道中、食べられる果物が実る低木を見つけ、食べられるものを選んで、適当にもぎ取って口にする。クレルンと呼ばれる小さく丸い赤い実は、酸味が強いがほのかな甘みもあり、食用としても手軽なだけではなく、至る所に自生するため、ヴァンを始めとする野外で活動する者たちに愛食されている。

 初めの頃はこの酸味が苦手だったが、火を使えない調査を行う時に、好き嫌いを言っている余裕はない。何年も世話になっているうちにこの酸味と甘味が癖になっていた。

 そんな、思いがけない間食を済ませ、彼は調査に戻る。

 再び、昨日調査出来なかった分岐路まで戻っていた所で、多数の人の気配を感じた。ヴァンはすぐに息を潜め、周囲の音に気を配ると―ちょうど、調査しようとしていた道から聞こえているようだ。

「―この前のやつが、この辺に来てるって本当かよ?」

 がやがやと騒ぎながら、集団の中の一人が言うと、別の男が答えた。

「翼竜が見たんだとよ。…ま、あの胡散臭いやつの言い分だけどよ」

 その言葉を聞いて、また別の誰かが不満げに声を上げた。

「またアイツかよ? 翼竜の調教師だかなんだか知らねぇけど、でかい顔しすぎじゃねぇのか?」

「それは分かるけどよ、アイツがいなきゃ翼竜が言うこと聞かないのは俺らも見ただろ。新参者の癖に気に入らねぇのは分かるけどよ。余計なことしたら長に殺されるのは俺らだぞ」

 物陰に隠れつつ、思いがけないところで、なかなか興味深い会話を聞くことが出来た。そこで行動を急ぐ必要はないため、彼は静かに集団が消えていくのを待つ。それからは愚痴やどの女が具合が良かったかなど、どうしようもない会話だけをしており、声が次第に遠ざかっていくのを確認してから彼は動き出す。

(調教師…話しぶりからして、元々翼竜を従えていた者なのだろう。そして、意思の疎通ができるほど強い信頼関係を結んでいる。まさか、他国の翼竜部隊の離脱者か?

 そうだとしても、翼竜を返還せず、翼竜を連れての脱退は重罪の筈だ。あの堅苦しい部隊の連中が生きて逃がすとは思えん。ならば、野生の個体を調教したと?)

 情報は得られたものの、核心についての情報は得られず、結論が出ないことにモヤモヤする。ただ、考えても結論が出るとは思えないので、彼は周囲に人気のないことを確認してから、動き出すことにした。


 昨日、確保した肉で翼竜の分を考慮しなければ余裕で数日は保つ分は確保できているはず。この山で長く暮らしているのであれば、無理な狩猟は行わず、できる限り持続できる環境を目指す筈。

 そのため、今回は人員を動員してヴァンの捜索に走っているのだろう。ただ、この広い山の中で一人だけを見つけ出すのは至難の業。遠くで見つけたヴォルガの部下らしき者たちも、それを理解しているが故に、探索もどことなくやる気を感じない。

 ただ、流石にこの周辺にいる可能性が高いとは聞いてるようで、足跡からの捜索はなかなか進まない。いっそのこと、一人拘束して尋問したほうが早いか、と考えるが、生きて返しても始末しても、どちらにせよ自分がこの場にいるのは確定してしまう。口封じをしたところで、恐らく、ヴォルガには付け焼き刃の誤魔化しは効かないだろう。

 思った以上に早朝から動かれたこともあり、調査は遅々として進まない。ついにしびれを切らし、ヴァンはある程度のリスクを承知で狙った2人組に少し接近し、会話を盗み聞くことにした。

 木々の間に身を隠し、会話や物音は聞きやすいものの、姿は見えない安全地帯から暇そうに歩いている2人のやや前方に位置して、彼は息を潜める。

 話している内容はほとんど他愛もない会話だったが、一方の男がふと、話題を変えた。

「そういえば、今探してるやつって、下の村にいる奴なんだよな?」

「そうだが、それがどうかしたのか?」

 片割れが突然の話題に不思議そうに首を傾げると、もう1人が当然のように聞いた。

「長と、あの村には繋がってるやつがいるんだろ? それなら、寝込み襲って殺せばそれで解決するじゃねぇか」

「…………、」

 あの村と契約している時点で、内通者がいるのは予想していた。ただ、予想が確信に変わるのは大きい。あの村に戻ったところで、警戒を続ける必要はあると、心に誓った。

 身を隠した状態で、彼が盗み聞きしているとは露知らず、会話は続いていく。

「そりゃあれだろ…おい、あれだよ、あれ」

 はっきりと言わない片割れに対し、もう1人は笑って茶化す。

「分からねぇなら分からねぇって言っとけよ。でも、良い考えだと思うんだよな。帰ったら長に話してみようぜ」

「そうだな、俺が言っといてやるよ」

「そりゃ困る。お前の手柄にしようったって、そうはさせねぇからな?」

 和やかな空気から、途端に険悪になり、一触即発の雰囲気となるが、言い出しっぺの男が冷静になる。

「やめだやめ。俺らが思いつくようなことなんて、長ならとっくに思い付いてる。それでも、その手段をとらねぇってことは、なんか理由があるんだろ」

「まぁ、そうだな。でも、案外簡単なことを見落としてるかもしれねぇし、俺は聞いてみるぜ」

「じゃあ、俺も一緒につれてけや」

 がははは、とバカみたいに笑いながら2人は捜索を続け始めた。

(……)

 ヴァンは何も言わず、別の連中の盗み聞きでも始めるか、と思った瞬間―少し離れたところで、断末魔が聞こえた。

『―――!!?』

 その場にいた3人が咄嗟に振り向き、数秒立ち尽くしていたが、何かあったのかと、すぐに2人が駆け出したのを見て、ヴァンもそれに着いていく。多少の物音は、足音にかき消されることもあって、追跡は容易だった。

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