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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
17/50

第1節 16

 その後は何事もなく、夕方に村に到着し、寝床に戻ろうとした所で、村長と出会った。村長の仕事場なのだから、当然と言えば当然なのだが。

 今日は広い部屋に一人で事務作業をしており、彼の姿を見つけて、書類に向きあいつつも手を挙げた。

「早いな」

「思った以上の収穫があってな。しばらく、野営して調査を進める」

 しばらく外出していると伝えると、彼は羽根ペンを起き、こちらを向いた。

「連絡手段は必要か?」

「仕事の邪魔になるからいらん。…と言いたいところだが、何かあれば、俺も戻るべきだな。

 何かいい方法があるのか?」

 普段であれば断っている申し出だが、今回、彼らには防衛を依頼している。自分がいない間に占拠されてしまえば、こちらの身にも危険が及ぶ。最悪のパターンにならないためにも、何かしらの手段があれば、と聞いたところ、彼は立ち上がった。

「ちょっと待ってろ」

 そう言って役場の机の奥にある扉を開き、中へ入っていく。そして、数分経過したくらいで、手のひらに収まる程度の丸い端末を持って出てきた。

「ほらよ」

 彼は無造作に放り投げ、ヴァンもそれを軽く片手で受け止める。

「これは…通信石?」

 まじまじと見て聞くと、村長はそうだ、と続ける。

「受け手専用型のな。俺たちが外出してる時にここに用事がある奴は、これを使うようにしてる」

 通信石と呼ばれるこの石は、魔女協会が広めている通信手段の1つで、繋がっている石同士で合図を送り合うことができるもの。出来ることは単純だが、小型化することができ、値段も安価。維持費用も殆どかからないため、今でも簡易的な連絡手段としては使用される事も多い。

 ヴァンはそれを素直に受け取り、ポーチにしまう。

「分かった。肌見放さず持っておこう。

 有事の際はすぐに反応させてくれ」

「頼んだ」

 通信石から連絡があれば、村が襲撃を受けている、とお互いに認識を合わせた所で、彼は2階へと登っていく。

「もう休むのか?」

「仮眠する。夜にはまた出かけるから、門番に話を通せるなら頼む」

 ヴァンは振り返らずに答え、村長は覚えてたらな、と期待のできない返事をして、彼を見送っていった。



 ――今日も、赤い月が大地を照らす夜。十分な仮眠と準備を整えたヴァンは、腰にポーチと手のひらサイズのカンテラを括り付け、虫除けの香を焚いてから外へ出ていく。

 門番には夜間の調査に出ると伝え、外に出してもらってすぐに空を駆けて山へと向かう。

 普段以上に視界が暗く、狭い獣道。僅かな月明かりと夜目を頼りに、躓くことなく登っていく。

 川沿いに進んでいたため、迷うことはない。昼間に見た、池周辺まで着いたところで一旦落ち着いて周囲を観察する。

 双眼鏡を使って観察するが、特に人影や気配はない。無事に調査が出来ると踏んで、彼は虫除けの香を消してから近づいて行く。

 昼間、獲物の血抜きをしてそこから小分けにしてから運搬したとしても、相当の重量はある。水辺の近く故に少し緩くなった地面のおかげでその差は注視すれば見分けられるほどには大きく、より沈んだ足跡を目印に目を遣ると、その先は人の通った痕跡のある道がある。しかも一度や二度ではなく、幾度となく通ったため、天然の道になっていた。

「……さて、」

 これはヴォルガが敢えて残した罠なのか、部下たちの無知ゆえの軌跡なのか、判断は難しい。ただ、進む以外の道はない。その先に何が待ち構えていようと、この爪と角で切り開けばいい話だ。

 最悪の想定をしつつも、ヴァンは拓かれた道を進んでいくことにした。


 暗い道を注意しながら進んでいき、しばらくすると、人3人ほどが座って休めそうな、開けた場所に出た。恐らく、これは人工的に作ったわけではなく、森の中に自然にできた空き地のようなものだろう。その広場に人はいないものの、休めるように丸太で作った椅子が散乱している。少し調べると、たき火のあとはあったものの、随分前に鎮火しており、温もりも残っていない。人の気配は無いが、人の居た残滓はある。ただ、ここは合流地点だったようで、数多の足跡がルートが絞りにくい。だからこそ、その周辺の調査を開始し、足跡の方向をよく見る。拠点が1つであれば、最も往来の多い場所が当たりのはずだ。

 ―予想の通り、1点だけ、異様に痕跡の多い道を見つけ、ヴァンがそちらへと向かおうとすると、気配を感じた。

「…………」

 それに狼狽えることなく、できる限り音を殺して、森の暗闇の中に消えていく。灯りも持たず香も消してある。闇に紛れる彼を見つける手段はまず無いだろう。

 息を殺して、その気配の正体を探っていると―一匹の痩せた中型犬の姿が見えた。恐らく、野犬だろうが、その様子を見るにはぐれた個体なのだろう。ただ、それはそれで厄介。鼻の利く動物であれば、彼の体に未だ纏わりつく、虫除けの香に気付きかねない。面倒事は厄介なのでそのまま通り過ぎることを祈っていたが、彼のいた辺りでしきりに臭いを嗅いでいる。

 恐らく、彼の残り香に反応しているのだろう。ただ、これ以上居座られても迷惑だ。気は乗らないが、彼は死角から右手の照準を合わせる。

 狙いを定め、角を射出。真っすぐと飛んでいった鋭利な切っ先は、野犬の首に突き刺さり、短い断末魔と共に即死させる。角を巻き取り、一緒に回収した亡骸をどうするか一瞬考えたが、今から血抜き、毛皮や肉の処理をしている時間はない。その間に他の獣が寄ってくる可能性もあるだけではなく、火を焚く必要もあるため、わざわざ自分の居場所をバラすメリットはない。

 ―いや、前者についてはもう遅いようだ。

 ヴァンは静かに近くに大きな気配を感じ、静かに角を構えて警戒していると、少し遠く、赤い月に反射され、赤い光をたたえた双眸が見えた。

「…………」

 ヴァンは極力音を立てずに、静かにその場から離れていくと―気配が消えていくのを感じたのか、唸り声と共に全長3メートルほどの大きな犬のような見た目をした怪物がゆっくりと前に出てきて、目の前に残された獲物を見つけ、貪るように喰らい始めた。

 骨の砕ける音に隠れるように、ヴァンはそのままその場を離れていく。


 ―恐らく、翼竜のせいで頂点から落とされた、この山の主だったのだろう。目の前の獲物に集中している間に彼はその場から離れ、遠回りしつつ、元の目的の道へと戻ってきた。

(……素直に、逃がしてくれて助かった。

 だが、あんな化け物までいる山だったとはな。今まで、討伐依頼が一度も来ていなかったが、人間の生活圏には顔を出すことはなかったということか。翼竜によって生活圏を変えざる得ないのであれば、放置していれば大変なことになる。全く、生態系の保全は、俺の仕事ではないんだが)

 思った以上に影響の大きな話になりつつあり、ヴァンは呆れ気味にため息を1つ吐く。そして再び、踏み固められて拓けた道を辿りながら山賊たちの軌跡を探す。


 作られた道を歩くとなると、想定以上にスムーズに進んでいったが、再び分岐路に差し掛かった。しかも、雲で月が隠されてしまい、十分な照明は期待できない。小型のカンテラも無いことにはないが、身を隠す必要のある調査で光源は使いたくない。

 仕方なく、周辺に身を隠して雲が晴れるのを待とうかと思って空を見上げた時―雲ではなく、上空の生き物が影になって、消えていただけだった。そして、この時間でさえ、影を落とすほど大きな生き物と言えば、1つしかない。

「――!!」

 翼竜が、彼の上空にいた。通り過ぎているわけではなく、上空で円を描くように滑空しており、ヴァンは咄嗟に臨戦体勢をとるが、いつまで経っても襲いかかってくる気配はない。

 木の影に隠れながら、彼は恐る恐る上空を観察すると、翼竜はこちらには見向きもしておらず、他の方向を凝視している。

 ひとまずは、奇襲されることもなく、安全だと判断したものの、いつこちらに気付くか分からない。彼は念を入れ、音もなく森へと入り込み、身を隠した上で翼竜の動きを観察することにした。

「……」

 翼竜の視線の先にいるものはわからないが、あれほど集中していることと言えば―ヴァンが思考をめぐらせている間に、しびれを切らしたように翼竜は吠え、ずっと見ていた方向へと降下していく。

 真下にいたため、その煽りを受けて巻き起こった暴風に耐えるため、ヴァンは咄嗟に木を掴む。それでも、彼の存在に気づく事はなく、翼竜は闇へと消えていった。

「……行ってみるか」

 何か手がかりが残っているかもしれない、と彼は一旦調査を切り上げ、翼竜の消えていった方向へと進んでいった。

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