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魔女と竜狩り  作者: 合併
第1節 竜狩り
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第1節 15

 2人を見送った後、ヴァンも門番を通して外に出る。見晴らしのいい草原が広がっているが、こんな場所に獲物の寝床があるとは思えない。

 特に隠すことなく、門の前で角を空へ発射、魔女の指輪の力で作った不可視の足場に突き刺し、そこを支点に空を駆ける。それは、翼を持たぬ人間が、労力を減らした上で天空の覇者である竜と戦うために作られた羽根。遥か遠いおとぎ話では、黒の竜狩りがこの羽根で竜を討ち落とした逸話があるほどである。

 ただ、空高く飛んでしまうと翼竜から発見される可能性もあるので、彼はほどほどの高さを維持しながら、来た道を戻り、ヴォルガと遭遇した山へと向かう。

 一時間足らずで山へと到着し、彼は整った順路ではなく、敢えて川から少し離れた獣道を選ぶ。その前に、一度方位磁針を取り出して、帰る方角だけは確認し、虫除けの香を焚いてから山に入る。

 木々が生い茂り、視界の悪い視界だけには頼らず、五感をフルに活用して調査を進める。

 人通りのほとんどないこの山の中で暮らしているとすると、狩猟や採取での生活は必須。その痕跡だけでも見つけることができれば、調査も大きく進めることができる。

 その上で、重要になるのが水。襲撃を受けた時、それなりの人数を抱え込んでいることは分かっているので、生活するにも水は必須。井戸を掘っているのであれば話は別だが、大きな川があるのにそれを利用しないというのは考えにくい。その為、そこから痕跡を得られるだろう、と踏んで川沿いを進んでいくことにした。ただ、見通しの良い、開けた川沿いを歩くわけではなく、少し離れ、木々で姿を隠すのが容易な道を選ぶ。


 川沿いを登っていくこと、数刻。日も高く登っており、彼は日差しから逃げるように、森の中に入り、光の反射でこちらの存在が気取られないように細心の注意を払う。少し、小腹も空いたので携帯食料として適当な獣の肉で作ったジャーキーを噛みつつ、浄水を詰めた水筒で喉を潤し、飢えをしのぐ。

 しかし、足場の悪い獣道で何時間もの調査は疲労も溜まる。流石のヴァンも疲れた様子で一息ついてから手頃な木の枝を確認し、問題なさそうな太い枝を探し出し、鉤爪を使って登り、足を休める。

「…………」

 単独行動での不要な発言は、こちらの位置を知らせることになる。息を殺したまま目を閉じ、目を休めるのと一緒に周囲の音に気を配る。

 風に揺らされる葉音。虫や獣の鳴き声。川のせせらぎ。何でもない自然の音の中に、不自然な人の手が入らないか、リラックスした状態でも集中だけはする。

 しかし、いつの間にか微睡んでおり―遠くから不自然な水音を聞いて、眠ってしまいそうな頭を振って切り替える。

「―、」

 再び目を開いて視界を戻し、彼は差し込んだ光の眩しさに目を細める。直ぐに目を慣らし、彼は物音もなく木から降りて、音の源へとゆっくり近づいて行く。


 更に山を登っていった所で、視界が開ける。

 そこは不自然な池になっており、周囲の木々も邪魔にならないように伐採されていた。明らかに人の生活痕の残る場所であり、ヴァンは周囲に誰かいないか、警戒を強める。

 不必要な衝突は、今後の予定に影響を出すので極力避けていきたい。十分に警戒したところ、周囲には誰もいないようで、ヴァンは警戒を続けたまま、池の捜索を始める。

 だが、その捜索は直ぐに終わった。

「…………」

 彼は静かに池の底を見つめており―その先には、太い紐で括り付け、血抜きをしている大きな鹿と猪がいた。彼はそれ以上捜索を続けるのは止めて、すぐに森へと引き返し、身を隠す。恐らく、血抜きの間、余計なモノが近寄らないように見張りがすぐに戻ってくると考えたからだ。


 ―彼の予想は的中し、身を隠してから程なくして、男2人、女1人の3人組が戻ってきた。遠目から見ているため、何を話しているかは分からない。ただ、腰を落ち着かせており、血抜きが終わるまではここから動かない可能性が高い。それならば、まずは彼らが出てきた場所から痕跡を調べ、時間を潰すのも悪くはない。

 そして、彼が移動を始めようとしたところで、木を割ったような鳴き声が聞こえてきた。

(……翼竜)

 慣れるほどには聞いた、翼竜の鳴き声。ヴァンも咄嗟に聞こえた方向を見ると、先ほどの池が見えた。すると、足に野牛を捕まえた翼竜が丁度池に、3人組の前に降りてきた。

「……」

 興味深くはあるが、あまり近寄らないようにして、ヴァンは双眼鏡を使って翼竜の動きに注目する。

 予想はしていたが、翼竜は山賊たちに襲いかかる気配はなく、獲物の血抜きが必要かどうか確認するために持ってきたようだ。

 翼竜は知能も高い。協力関係にあるとなれば、共存のためにこのくらいのことは珍しくない。ただ、ヴァンの興味を引いたのは、男の一人が、慣れた手つきで翼竜に触れており、翼竜もそれを拒むことはない。それに対し、他の二人は奇異の目で一瞬見て、獲物を横取りしようと、獣たちがやって来ないか注意を払っていた。

(………まさか、調教師か? いや、孵化させてからの調教にしては大きすぎる)

 翼竜も卵生の生物であり、孵化した際の刷り込み効果がある。それにしても、あの大きさまで育つまでには相当な時間が必要となる。更に、人に育てられた翼竜の飛翔能力は大きく制限される。飛翔能力についての師事を行う、親にあたる翼竜、2頭目についての報告は知る限りはなく、この周辺には居ないはず。それならば、この翼竜は先天的ではなく、諸事情にて、人と共生をする個体である可能性が高い。

 そうなると、あの翼竜が産後ということには大きな意味を持つ。そして、産後の翼竜が脱皮もせずに、昼夜関わらず飛び回っているということは、山賊たちの拠点に翼竜の卵、もしくは幼体が保護されているということ。

 初日の調査で、そこまで調査が出来たのは大きい。攻め込む際の必要な戦力の目安にもなり、この池を生活の場の1つとしているならば、そこからの調査の発展も可能だ。ただ、日中となると、誰かしら近付く可能性もあるため、まずは夜か早朝に調査が可能か、調べる必要もある。

 その為にも、野営の準備が必要であり、今の手持ちでは何かあった時に少々心許ない。日もまだ高い。今から準備と仮眠に戻っても、時間は十二分にあるだろう。

 翼竜に悟られないように注意をはらいつつ、彼は静かにその場から離れ、来た道を戻っていく。その前に、一度方位磁針を取り出し、方角を確認することにした。

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