第1節 12
必要な情報を集めつつ、ヴァンは一人、村で時間を潰す。そんな事をしている内に日が傾いてきており、村長の家に戻ることにした。
一応ノックをして中に入ると、薄暗い部屋で片付けの準備をしていた村長と鉢合わせた。
「お疲れ様。帰るのか?」
扉を閉め、話しかけたところでヴァンに気付き、こちらを向いた。
「おぉ、お前さんか。ここは村長の家とか言われてるけど、ただの作業場だからな。俺にもちゃんと家がある」
「そうだったか。ところで、ベルとドットは帰ってきていたか?」
彼は本来の家に戻ると確認したところで、2人の帰還について確認してみると、入り口の隣にある階段を指さした。
「二人とも、部屋に案内したよ。なんか作るなら、2階にも備え付けのキッチンがあるし、好きに使ってくれ」
「それは助かるな。有り難く使わせてもらおう」
そこまで話して、2人は口を閉じ、しばしの沈黙が流れる。そして、数分経過したところで、ヴァンが沈黙を破った。
「―ヴォルガと、どんな契約をしている」
「…………、」
村長は何も答えない。ヴァンはしびれを切らしたように、聞き直した。
「聞き方を変えようか。あの翼竜は、山賊連中のものか?」
「――!!」
ハッとしたように彼の顔を見たところで、兜に覆われた彼の顔は分からない。ただ、淡々と話しだした。
「村人連中から、それに近い話を聞いた。時系列から考えても、山賊連中と翼竜が合致するのはあまりにも不自然だ。
翼竜が山賊連中を追ってきたにしても、奴らが居着いてから時間がかかり過ぎている。理由は不明だが、共存している可能性の方が高いだろう」
集めた情報から考えた結論を示すと、彼は諦めたように話しだした。
「そうだな、アンタが考えてる通りだ。俺たちの村は、あの翼竜をダシに山賊たちにタカられてる。翼竜を制御する代わりに、維持費として金目の物を巻き上げられていた」
「だからこそ、王国に助けを求めたと?」
ヴァンの問いに、彼は頷く。
「だが、事をデカくしたら、奴らは間違いなく先にこの村を襲いに来る。だからこそ、最低限の頭数で、奴らを討てる戦力を希望した」
「なるほどな。わざわざ俺に依頼が飛んでくるわけだ」
ようやく、依頼の意図を理解したところで、彼は続けた。
「だが―それは不味いな。残念ながら、俺とヴォルガには因縁がある。その上、俺らは道中でアイツラと遭遇している」
「なんだと…?」
一度、ヴォルガと遭遇していたことについては聞いていたが、ヴァンとの関係については知らなかった村長の顔が青ざめる。
「そこまで知っていれば、堂々と顔を見せなかったんだが、悪かったな。
そして、俺とアイツの因縁は割と深い。奴にとっても、俺の存在は邪魔でしかないし、俺としても一刻も早くその首を献上できたほうが、寝覚めがいい」
事情を知らなかったとはいえ、軽率な行動をしてしまったことを詫びつつ、ヴァンは立っているのが疲れたのか、椅子を引っ張り出してそこに座ってすぐに足を組む。
「ここからは個人的な独り言だ。
俺が奴ならば、まず俺の不在を狙って全力でここを叩き、占拠したうえで防衛設備を利用して、戻ってきた俺を叩く。翼竜を保有した状態で、俺を迎え撃てるならば、勝率は高いと考えるだろうからな。更に、そこで魔女も手に入るなら一石二鳥―いや、三鳥まである」
話の前提から、ただの個人が、翼竜単独では止めることはできないと評価しているのは、村長も傲慢ではないかと思ったが、口には出さない。
「いや、はっきり言うが翼竜単独なら正面からでも負けんよ。それだけの自信はあるし、奴にはそれを目の前で見せた筈だ」
村長の思考を読んだと言わんばかりに彼は話し、元の流れに戻る。
「奴らもこの国の仕組みには詳しい。ここに転送石の設置をすると知っていれば、魔女が起動実験として首都や本拠地に手続きをするのは知っているだろう。俺がその間に連中の拠点を探しに奔走するのも織り込み済みの筈だ。
―だからこそ、狙うならばその行き違いだ」
「……つまり、それまで持ちこたえろってことか」
村の占拠、転送石と魔女の奪取―最大限のリターンを求めるならば、最も可能性があり、危険が少ないと分かる行動。それを理解しているからこそ、竜狩りの力なしで、翼竜と山賊たちを抑えろ、と暗に伝えた。
「俺が同じ立場なら、あえて奴らの本拠地のヒントを出し、俺が襲撃しに来るタイミングで最低限の足止めを置く。本拠地の留守番は殺されて、その場所も全部ぶち壊される前提でな」
「そして、背水の陣でここを攻め落とそうとやってくる」
村長が続けて予測を伝えると、彼はだろうな、と適当に答えた。
「今、ヴォルガにある選択肢は、逃げるか、戦うかの2択だ。現状維持をすれば、仮に俺が奴らを狩らずとも、俺が流した情報を追って、懸賞金目当ての傭兵たちが幾度となくやってくる。俺が情報も流さずとも、この会話を知った奴が流さない保証はない。
そして逃げるにしても、俺は奴が生きていると知っている。ならば、"魔女協会"が地の果てまで追いかけて殺すだけだ。実質、奴には俺等の口封じをして、逃げる時間を稼ぐ以外の選択肢はない。
―だからこそ、だ。お前も生きるつもりならば備えておけ」
これはあくまで独り言だがな、と信じるかは村長の意思に委ね、彼は立ち上がる。
「今日は休む。明日から、俺はヴォルガと翼竜の探索に入るからな。夜以外帰ってくるつもりはないから、用事があれば、部屋に書き置きなり残しておいてくれ」
一人立ち尽くす村長に一瞥だけして、彼は2階へと登っていった。
―2階に登り、廊下を進んでいくと、『竜狩り』と書かれた札をかけた扉を見つけ、彼は念の為ノックをして、物音がないことを確認して中に入る。
部屋の中は、4畳半ほどの狭い部屋で、木のベッドとテーブルの上に、ラセルタの荷車から降ろしていた、私物の入った大きなリュックが置いてあった。一応中身を確認したが、特に紛失したものはなく、彼は早速、リュックの中から腰に巻くポーチを取り出し、最低限の食料と陽動用の発煙筒、残っていた浄水が入っていた水筒を横に並べる。
一つ一つ触ったり、匂いを嗅いで状態を確認し、問題なく使えるものはポーチに入れ、状態が不安なものは夕食に使うべく、別に分けておく。
作業を始め、30分ほどで全ての確認を終え、2階にあるというキッチンを探しに行く。
探しに行ってみたらなんてことは無く、隣の部屋がキッチンとなっていた。
扉を開け、スイッチで起動する部屋の灯りを灯すと、簡素なかまどと流し台、あとは食事をとれるように椅子と机が一式置いてある。
ヴァンはかまどの脇にある薪を数本と、火種の乾燥させた葉っぱを入れて、手元にあった火打ち石で火を着ける。薪に火が移るまで風を送り込み、着火を確認した時点で思い出したように部屋に戻る。
部屋に戻って必要な鍋と食料、水筒を持って戻ろうとしたところで、キッチンがある方とは逆から、見覚えのある顔が部屋から出てきた。
「よう、ドット」
少し疲れたような顔をした彼は、唐突な声かけにびっくりしたようだったが、ヴァンの姿を見てすぐ安心した顔になる。
「―、戻ってきていたんですね」
「先ほどな。ずいぶん疲れた顔をしているが、飯は済ませたのか?」
ヴァンに聞かれ、返事をするよりも先に彼の腹が返事をする。
「これは…」
「まだ食料は余ってる。少ししたら持っていってやるから、待っていろ。さっき出てきた部屋でいいんだろう?」
赤面する彼に有無を言わさずに伝えることだけ伝え、彼は隣のキッチンに入っていく。
「……ありがとうございます」
おそらく本人には届いていないだろうが、無意識の内に感謝の言葉を述べていた。




