表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女と竜狩り  作者: 合併
第0節 追憶
1/47

始まり

 血と、炎と、何かが溶ける酸っぱい臭い。

 気絶した彼が目を覚ました時に、初めて入ってきた情報。

 不快な臭いに顔をしかめ、彼は目を開けるが、そこには先ほどまで見ていた見慣れた天井はなく、都合よく自分を守るバリケードのように重ねられた数多の木片だった。

 ただ、次の瞬間バリケードも紙のように吹き飛ばされ、彼は外の世界に放り出された。


「――――!!」


 余りの光景に、言葉を失う。


 自宅のベッドの上から見えたのは、炎に照らされ赤黒く染まった夜空。次に見えたのは、溶かされ、焼き尽くされた故郷の姿だった。

  その中には、見覚えのある寝間着や、店の看板―記憶にある、古くともしっかりと存在感を放っていた故郷の残骸が、荒れ果てた姿でそこにあった。


 混乱して状況を理解するより先に、その残骸の中に、山のように大きな影が何かを啄むように貪り食っていた。

 骨の砕ける鈍い音と、かすかに聞こえた悲鳴。当時は全く分からなかったが、きっと食われていたのは故郷の住人の誰かだったのだろう。

 喉を鳴らしてその何かを飲み込んだ巨影は、閉じていた目を開き―その、夜空に輝く星のように、見入るほどまでに美しく、禍々しい金色の眼が、間違いなく彼を捉えた。


 ―見つかった。


 理解した時点で恐怖に囚われ、彼の足は動かなくなる。

 そして、その影も軽く跳ねるようにして彼の下へと現れた。

 近づく程に、勝てるはずが無いと理解する。背丈だけでも50mはある巨体は、興味の無さそうにこちらを見下ろしていた。

 間近で見て、ようやく目の前の生き物を理解した。

 返り血に濡れているものの、炎に照り返された漆黒の鱗、蛇のような顔をしているものの、頭に生えた2本の逆立つ角、4本の手足と巨大な4枚の翼が生えたそれは―この世界の頂点。竜と呼ばれる生き物だった。

 黒い竜は怯えて動けなくなっている彼をしばらく見たあと、顔を近付ける。ただ、食われるわけではなく、彼も魅入られたように竜の顔から目が離せない。


 その時、頭に声が響く。


『五体満足な生き残りとは―面白い。

 人の子よ。お前に機会を与えてやろう。

 その命の使い方次第では、面白いことになるだろうからな。

 どう使おうと勝手だが…"最期には我の下へと帰ってくるのだぞ"?』


 意味のわからない言葉を理解するよりも先に、何かを察知した竜はぐるる、と小さく唸って頭を上げる。そしてすぐに4枚の翼を広げ、彼が理解するよりも早く飛翔する。

 その暴風に巻き込まれ、彼は宙に舞い上がるが、落下するときの速度は緩やかで、風に包みこまれるようにベッドに着地する。


 竜が空へと消えていって、助かったと安心するよりも先に、押さえつけていたように恐怖が脳裏に蘇る。

 耐えきれない恐怖を上書きするように、彼は声にもならない声を挙げる。



 彼は延々と泣き叫び、気絶することでようやく落ち着いた。

 ただ、それは一時的な安寧。

 それもそうだろう。その夜、間違いなく彼は黒き竜に呪われたのだから。


 呪いが、彼の真っ当な生き方を許さない。

 だからこそ、彼は呪いに、竜に立ち向かう。

 それが唯一の生きれる道と信じて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ