59話 夏休みの始まり
59話 夏休みの始まり
「もう夏休みかあ」
あの事故から一週間程度が経過し、明日から夏休みだ。昼間は和彦がきて俺の見舞い(?)に来てくれていたが、土産の一つくらいくれても良かったというのに。
そんなんだから彼女が出来ないんだ、と今度来たときに言ってやろう。
でも今はそんなことより‥‥‥。
「悠木は大丈夫かな‥‥‥」
悠木は俺が目が覚めた時以来会えていない。事故の後、目が覚めた時ずっと俺に謝っていたから、気にするな、かすり傷だって言っておいたんだけど意味を為さなかったみたいだ。
渾身のボケのつもりだったんだけどな。
ってほんとに死にかけてるから、本当の意味で渾身のなんだけどね。
「彼女の前で他の女の話なんて、流石にどうかと思うのだけど」
「うわっ!、いつから居たんだよ」
急な人の声にびっくりしたが、聞きなじみのあるその声ですぐ声の主が誰なのかが分かった。
「そんなにびっくりされたら悲しいじゃない」
「いや、こっちがびっくりだよ!」
「ひどいわね」
「というか今日もお見舞い来てくれたんだね」
「当たり前でしょ?、彼女なんだから」
彼女‥‥‥か。写真行事の前日に考えていた事が脳裏によぎった。でもこの状況じゃまともに話も出来ないか。気にはなるけど今じゃないだろう。
「こんなに優しくされるなんて、怪我の一つや二つはしてみるもんだな」
「‥‥‥」
急に黙ってどうしたんだろうか。なにか気に障ることでも言っただろうか。
「これ以上危ない目に合わないで。これは私からのお願いよ」
「そんなこと分かってるって」
前回の奴は野球ボールがたまたま当たっただけだし、今回の事は‥‥‥まあ仕方ないだろう。体が勝手に動いて結果的にこうなってしまったのだから。
「本当の彼女じゃなくても、心配なの。牧野君ってきっと今回みたいなことがあったらまた同じ様にしてしまうでしょ?」
「それは‥‥‥」
否定は出来ない。でも今回みたいな事が人生で起きる事なんて早々ないだろうし。
でも高校に入学してからの方が今までの人生より色々と凄い体験をしているのは確かだな。まるで物語の主人公みたいだ。
「でしょ?、だから釘を刺しておくわね」
あの水瀬さんが本当に心配してくれている。
「まあ出来るだけ努力するよ。痛いのは嫌だし」
俺だってこんな痛いことはもう御免だ。本当に死んでたら、渾身のギャグ(本当の意味で)がとか言ってる場合じゃなかった所だ。
「それと、私以外の女の子のために体を張ったっていう所も気に食わないわね」
「ははっ、そうだねー」
最後のが一番気にしてるんじゃないかってくらい食い気味で言ってきたな。俺も不意を突かれた形になってしまった。さっきの感動を返してほしい。
「なにその返事」
「気にしないでー」
「なによその棒読み」
「勘弁してー」
「だからその棒読みはなんなのかしら?」
今日の水瀬さんも平常運転のようだ。逆に安心できるまであるな。
「そういえば、水瀬さんたちの写真ってどんな感じだったの?」
「あー私達の写真ね‥‥‥」
なにか急に困ったような顔をする水瀬さん。なにかまずいことでもあるのだろうか。そういえば和彦が行事の前に優勝する自信があるとかないとか言ってたような気がする。
「あんまり良いものじゃないわよ?」
「えっ、普通に気になるんだけど」
「分かったわ‥‥‥」
ため息をつく水瀬さん。ますます気になる一方だ。
「これよ‥‥‥」
渋々といった表情でスマホの画面を見せてきた。どんなツーショット写真なのだろうか。
「え、なにこれ」
「佐藤君がこうした方がいいっていうから」
「いやでもこれ‥‥‥」




