57話 考えるよりも先に
57話 考えるよりも先に
「きゃ、冷たい!」
「全然冷たくないでしょ圭太。そんな女の子みたいな声出して」
「そういう演出だよ。盛り上げようとしてんだよ!」
普通にこの気温じゃ海の水もそんなに冷たくはない。ぬるいくらいまである。
「というか圭太さ、そのネックレスずっと付けてるんだね」
「ああこれか、まあ海とはいえそんな簡単に取れないから大丈夫だろ」
「そんな大事なんだ」
「まあ思い入れもあるんだろうけどな」
「ふ~ん」
悠木から聞いてきたのにそっけない奴だな。
◇◇◆◇◇
お昼ご飯を挟み、もうちょっと陸から離れたところまで悠木が行きたいと言っていたので少し泳いで浜から離れた地点まで来ていた。
「俺深いところ苦手なんだよ」
「情けないねー圭太。私を担いで泳ぐくらいして欲しいもんだね」
そんなこと出来てたら潜水士にでもなれるわ。
「海ってなにがいるか分かんないから怖くないか?」
「ネットによくある海洋恐怖症の動画の影響受けすぎだって」
「いやたまに出てくるけどね。そうじゃなくて普通になんか怖いじゃんか。水面見てもなんも見えないのがさ」
「でっかいイカとかメガロドンみたいなサメなんか居ないってば」
「一回海洋恐怖症の動画から離れろよ」
そんなたわいもないやり取りをしていると急に悠木が子供の様な目でこちらに呼びかけてきた。
「ちょっとあっちの方行ってみようよ!」
「危なくないか?」
こっちの浜から少し離れたところに洞窟みたいなところがあった。陸で繋がってはいるけど岩肌が険しくて少し危なそうだ。
「大丈夫だってば。というか自分の方の心配しなよ」
「あそこまでくらい俺でも泳げるわ。あまり人を舐めるなよ?」
「冗談はいいから早く行こうよ」
相変わらずせっかちな奴だ。でも昔もこんな感じで良く振り回されてたな。
見た目は大人っぽくなっても中身は変わってないのが少し嬉しく感じる。
◇◇◆◇◇
「思ったより遠かったね」
「疲れた‥‥‥」
「岩が険しくて上がってくるのが大変だったね」
「‥‥‥」
「いや疲れすぎでしょ!」
結構な距離を泳いだ上に急なロッククライミングが始まったらそりゃ疲れるだろ。
「でもこんな洞窟あるなんてね~。めっちゃ綺麗じゃん」
「あんなに行くのが大変だったら中々人目に付かないだろ」
「そう?」
この体力お化けめ‥‥‥。
「というかさ、ここで写真撮ろうよ!」
「ああ確かに綺麗だし、いいな」
「こういう時のためにスマホ持ってきててよかった~」
そう悠木さんは防水式のスマホ入れにスマホを入れてもってきていたのだ。それを首にかけて泳ぐの地味に大変そうだけど、悠木からしたら普通なのだろう。
「じゃあどういう感じで撮るのがいいかな?」
「自撮りでって思ったけど、なんか幻想的だし風景も映るように撮った方がいいんじゃないか」
「それだね!、圭太もたまには良いこと言うじゃん」
「いつも、な?」
「はいはいそうだね~。っていい感じにスマホ置けそうな所発見~」
カメラ映りがとか、日差しが~とか言ってる悠木を見ると、やっぱちゃんと女子高生してるんだなと思わされる。
なんか微笑ましい気持ちになったけど悠木には言わないでおこう。なにを言われるか分かったもんじゃないからな。
◇◇◆◇◇
「うわ~めっちゃいい感じじゃん!」
「悠木写真撮るの上手いな」
「そんな褒めてもなにも出ないよ~。でもこれならワンチャンあるかもね!」
背景の洞窟がいい非日常感を出していて中々の出来に仕上がっている。ほんとにこれなら入賞してもおかしくないかもしれない。
でも待てよこの写真で入賞なんかしたら‥‥‥。
お互いに肩を引っ付けて撮ったからか、どう見てもカップルにしか見えないんですけど。周りの目が痛いのは確実だぞ。
でもそれよりあの人がプンスカしてる未来が容易く想像できてしまうのが一番まずい。
「じゃあこれで決定だね!」
「いやもうちょっと他にも‥‥‥」
「何言ってんのさ圭太。こんな映える写真滅多に取れないよ」
「いやでもさ‥‥‥」
「なに?、私とのツーショットがそんなに嫌なの?」
「いやそういう訳じゃないぞ?、決してそういう訳じゃないんだけど」
「じゃあいいじゃん」
ダメだ。こうなったらどうしようもない。悠木を悲しめるのも嫌だし諦めるしかない。
「そうですね‥‥‥」
諦めも肝心って言葉はこういう時に使うんだろう。また一つ勉強になったよ。やったね!
◇◇◆◇◇
「洞窟も満喫したし、あっちの浜に戻るか」
「そうだね。ここは、二人の愛の巣って名前で決まりだね!」
「その名前は語弊を産むからやめような」
「ふふっ、冗談だよ」
冗談とか言って写真のタイトルとかにしそうだから見張っておかないとダメだな。
そうして俺たちはこの洞窟を後にしようとした。
「じゃあ私さきに降りるね~」
「気を付けろよ?」
「分かってるってばー」
まあ悠木の事だし大丈夫だろう。どちらかというと自分の方が不安なのは内緒だ。あいつそれにしても運動神経良すぎじゃ‥‥‥。
「圭太も気を付け‥‥‥あっ‥‥‥」
「‥‥‥悠木!」
体が動いた。
考えるより先に。
自分でも信じられないけど結果としてそうなったのだ。
一瞬だった。




