56話 俺は機械だ
56話 俺は機械だ
人間なにをするために生まれてきたのだろうか。自分のやりたいことってなんなのだろうかと考えることがたまにある。
時々寝れない時とかに考えるやつだ。
「いやっ、そんな急に強くしないでよ?」
人間は死後どうなるのか、なんかも考えちゃって寝れなくなることあるよね。天国とか地獄とかあるんだろうかって。
でもしいて言うなら、俺は今天国にいるのだろう。
「あっ‥‥‥、触り方なんかキモイよ?」
ええ‥‥‥。
「キモイとは失礼なやつだ」
「なんか手の動きから意思を感じるよ」
「なんだよそれ。お前は超能力者かなんかか」
「そういうんじゃないよ!」
さっきは天国って言ったけど、やっぱり地獄だった。俺は女の子に日焼け止めを塗るという試練に挑戦していた。
そして、どうやら口に出さずとも手の動きだけで俺の考えを悠木は読み取ったらしい。恐ろしい子だ。
考え方を変えたら俺が恐ろしいと言われかねないから気をつけよう。でもこれを平常心でやりきるなんて至難の業と言っていいはずだ。
俺は機械。日焼け止めを塗るだけの機械だ。俺は機械、俺は機械‥‥‥。
「というか意外と人多いんだな。平日なのにな」
「そうだね~。海水浴シーズンだからね~。ってもうちょっと優しくだよ」
平日だというのに意外と家族ずれの人たちが多いな。若い大学生の組み合わせもちらほら。
「なんかさっきから周りから良く見られるんだけど悠木さん」
「私が可愛いからじゃない?」
「はいはい、そうだね」
ここで言い返せないのが悔しいけど、あながち間違っていないのがうざいな。
悠木くらいかわいい女の子が海に居たら俺だってまじまじ見てしまうだろう。変な意味じゃなくてね?
「私に日焼け止めを塗ったなんて学校でバレたら、またみんなから言われそうだね圭太が」
「しれっと怖いこと言わないでもらっていいかな」
「うそうそ、言わないよ。今日は二人だけの秘密だから」
「秘密の割には行事の写真でみんなにバレそうなんだけど大丈夫かな」
「まあまあ細かいことは気にしないで、もっと丁寧に塗ってよね。隙間が無いようにさ」
相変わらず大雑把なやつだな。でも水瀬さんになにかと言われるのは確定してるからそんな変わらないけど。
そして俺は心を無にしてただひたすら日焼け止めを塗り続けた。
◇◇◆◇◇
「ありがと圭太」
俺が心を無にして悟りを開きかけたところで悠木さんが満足してくれたようだ。危うく極楽浄土に飛んで行ってしまう所だった。
「うわっ、あそこでかき氷売ってるよ!」
「意外と海の家的なのもあるんだな。買うか?」
「うん!、食べたい!」
「子供みたいだな」
「うっさいな。やっぱり分かってないね圭太は」
「なんかごめんな」
「かき氷奢ってくれたら許す」
腕を組みかき氷を要求してくる悠木さん。いや、かき氷くらい全然いいんだけどさ‥‥‥。
‥‥‥その格好で腕を組まないでもらってもいいですか。その巨大な何かが強調されてるんだけど。
ほんとに、目のやり場に困る一日だな。
◇◇◆◇◇
「うわー、美味しい!」
「確かに美味しいな」
「やっぱり暑いときはかき氷に限るね」
「喜んでくれたなら嬉しいよ」
氷にシロップを掛けただけなのに結構いい値段がするのが気に食わないけど、悠木がこんなに喜んでくれるならいいか。
「圭太も私の青りんご味いる?」
「‥‥‥いいのか?」
これは関節キスってやつだけどいいのか悠木は。幼馴染とはいえ男相手に。
「なにその間。ってもしかして関節キスじゃんとか思ってたの?」
まるで核心をついたかのような口調で悠木が言ってきた。死んでもその通りですとは言ってやらないからな。
「そんなに恥ずかしがらなくていいのに~。なんならあ~んってしてあげようか?」
悠木が攻勢を緩めないのでここは堂々と受けて立ってやるか。俺だって彼女持ちなんだぞ‥‥‥設定上は。
「じゃあ頼もうかな。そこまで悠木が言うならな」
「えっ‥‥‥、ほんとに?」
俺が素直に言ってくると思ってなかったのか動揺している様子の悠木。
ふふ、ここは俺の勝ちだな。さっきは録音されてたが、今回は両手が塞がってるから録音の仕様がないからな。
「じゃあ、口開けて‥‥‥」
俺が心の中で勝ちに浸っていると悠木がまさかの本気になってしまった。でもここまで来たら引くに引けない‥‥‥。
まずいぞ‥‥‥、でもやるしかないか‥‥‥。
「はいはい‥‥‥」
「あ~ん‥‥‥」
そして悠木が俺に自分の青リンゴ味をスプーンで食べさせてきた。
緊張のせいか味が分からない。でも、かき氷ってシロップの味は全部一緒とも言うし、俺が緊張してる訳じゃないな。そうに違いない。
「美味しい?」
「美味しいぞ‥‥‥」
‥‥‥ダメだ。やっぱりこんなアツアツカップルみたいな行動は恥ずかしすぎる。
相手が悠木とはいえ‥‥‥って悠木だからなのか?
なんともいえない気恥ずかしさを我慢して悠木の方を向くと、悠木さんもやっぱり実は恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしていた。
「あつあつだね~」
「いやっ、そんなことは‥‥‥」
通りすがりのおじさん達に茶化されるくらいには周りからカップルに見られているのだろう。
そして、俺と悠木は5分くらいその場で固まっていた。
なんか余計体が暑くなった気がした。




