49話 あんな小さい子に嫉妬なんてする訳‥‥‥ないはず
49話 あんな小さい子に嫉妬なんてする訳‥‥‥ないはず
「今日は牧野君とお話できて良かったわ。言いたいことも言えたし」
「それは良かったです」
「それじゃあね牧野君。私はこれから大学の友達と予定があるので」
「はい明里さん。ご馳走になりました」
「水瀬家に婿入りしてくれたらもっといい物買ってあげるからね?」
「考えときますね‥‥‥」
婿入りして専業主婦として働かなくていいなら、中々良い条件なんだけどな。俺の代わりに水瀬さんが働いてくれる世界線か。
水瀬さん勉強できないから、バリバリ仕事している所が想像できなく‥‥‥は無いな。雰囲気だけで見たら、エリートOLみたいになりそうだ。見た目だけはな。
「じゃあ、杏葉のことよろしくね!、バイバイ~」
◇◇◆◇◇
明里さんから解放‥‥‥じゃなくて解散して、やっと帰路に着くことできていた。
思ったより話し込んでしまったな。相変わらず良く分からないアドバイスをくれる人だ。
でも、どれだけアドバイスをくれようとこの関係が進展することは無いのだ。だって俺と水瀬さんは偽物なのだから。
そして俺は帰っている途中にとある公園の前で足が立ち止まってしまった。いつもはこんな道通らないんだけど、今日は一人だからな。
「あれ‥‥‥」
公園の中を覗くと小さい子供が二人で遊んでいた。男の子と女の子だ。
「なんて羨ましいんだ、あの年で」
あんな小さい男の子に嫉妬しかけたが、とっさに昔の自分を思いだした。俺も昔、あの子とこの公園で遊んでたんだ。あまり思いだすことが出来ないんだけどね。
そして俺はいつの間にか公園のベンチに腰かけていた。いい年の男子高校生が公園のベンチで一人で座ってるなんて悲しくなるけど。
そして俺はさっき明里さんが店を出る前に言っていた事をふと思いだしていた。
◇◇◆◇◇
「私がこの前ババ抜きで牧野君に勝った事覚えてる?」
「え~なんのことですっけ~」
「ふふっ、そんな事言っても無駄よ。スマホに録音してあ‥‥‥」
「はい覚えてますよ」
なんておっかない人なんだ。あの時しれっと録音してたなんて、流石すぎるな。
「まあ、録音してるなんて嘘なんだけどね」
「‥‥‥」
本当に恐ろしいな、詐欺師とか向いてるんじゃないかこの人。
「あの時のお願いを使ってもいいかな?」
あのババ抜きの敗者は相手のお願いをなんでも聞いてあげるっていう約束だった。そしてあの時、明里さんはお願いを保留でと言っていたのだ。
「まあどうぞ。俺が出来る範囲のお願いなら」
どんなお願いをされるのだろうか。とりあえず家族に遺書を書き残しておかないと。
「私のお願いはね‥‥‥、杏葉にちゃんと向き合ってあげて欲しいの」
えっ‥‥‥。
「杏葉と牧野君、なにか隠してるでしょ?」
「え、いやそんな隠し事なんて‥‥‥」
急に図星を突かれた形になってしまい、驚いてしまった。でもこの事は命にかけてでも隠さなければならない約束なのだ。
「そんなあからさまに驚いちゃって、もはや隠す気ある?」
俺がどうしたものか考えていると、明里さんが笑いながら問いかけてきた。
「いや、なんのことを言ってるかさっぱりで」
「まあ、女の勘ってやつよ。別にその隠し事を教えてなんて言わないわ。でもね、最近の杏葉を見てたら、ちょっと‥‥‥ね」
姉妹だから水瀬さんの考える事なんてお見通しなのだろうか。水瀬さんもちゃんと隠してはいるみたいだけど。女の勘って恐ろしいな。
俺も他人に言ったことなんて‥‥‥、あったわそういえば。入院した時の看護師さんに言ってたか。まあそんなの全く関係ない人だったし別にいいだろう。
「最近の水瀬さんがどうかしたんですか?」
「ん~、なんて言えばいいか分からないけど、迷ってるみたいな感じかな。あの子感情が昔から態度に出やすいのよ。困ってたり、不安な時とか食欲が増加したりするの」
どこで妹の気持ちを読み取ってんだこの人。まああの人が態度に出やすいのはめっちゃ共感だけど。
「私も杏葉に初めての彼氏が出来て嬉しかったんだけどね。ここ最近の杏葉は‥‥‥、なんかあったのかなって思ってたのよ」
だからさっき俺に水瀬さんとなにかあったのかを聞いてたのか。
「その原因が分からないから、さっきはもどかしいって言ったの。事態は深刻なのよ」
そんな事言われても俺にだってそんな原因なんて‥‥‥。
でも最近は確かに水瀬さんの喜怒哀楽が激しい気もする。普段から俺に怒ったり、馬鹿にしてきたりで忙しいからあんまり違和感を感じてなかったけども。
「私もほんとなら牧野君にもっとアドバイスしたいんだけど、杏葉の為にも何も言えないのよ」
だから水瀬さんの為って言うのが良く分からないんだって。毎回抽象的なアドバイスばかりで俺は理解することもできないじゃないか。
「だから、こればっかりは許してほしいの牧野君。牧野君だって妹との隠し事を教える気はないでしょ?」
「そりゃあっ‥‥‥て、隠し事なんて無いですからね?」
「はいはい、分かったわよ」
絶対分かってないやつだな。
「まあ私からのお願いは一つよ。妹にちゃんと向き合ってあげてほしい。あの子があんなに幸せそうにしてるのは、本当に牧野君のおかげなのよ。‥‥‥これだけは言えるわね」
明里さん、俺にその資格は無いんだよ。明里さんがどんな隠し事だと思っているのかは分からないけど、その隠し事はこのやり取りに一切意味を持たなくしてしまうのだ。
◇◇◆◇◇
俺のおかげ‥‥‥か。
「なんか色々考えて疲れたな‥‥‥」
公園のベンチで黄昏るのも悪くないな。なんかカッコいいし。
「てかもうこんな時間じゃん、帰るか」
さっきいた子供たちもいつの間にかいなくなっていた。不審者と思われてたかな俺。
「えっ、なにしてるの?」
俺がベンチから立ち上がろうとすると、後ろから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「えっ、水瀬さん?」
そう、話題沸騰中の水瀬杏葉その人だった。
そして何故かとても懐かしい気分になった、ほんの数時間ぶりだというのに。
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