41話 マッチ売りの少女
41話 マッチ売りの少女
「ああ、なんでこんなにも世の中は理不尽なのかしら‥‥‥」
たった今、俺の目の前には悲劇のヒロイン‥‥‥‥‥‥、風を装っている女がいた。
「なぜ、私の頑張りはこうも無下にされるの?、天は私を見放したのね‥‥‥」
かの有名なマッチ売りの少女のように儚い‥‥‥‥‥‥、ように見えるだけの女だった。
どう考えても世界から祝福されている側だろと突っ込みたくなるルックスの女子高生だ。
6月末現在、うちの高校では一学期末テスト期間の真っ最中。テストで赤点を取ると掲示板に張り出されるという鬼畜な仕様となっている我が校において、テストはまさに命がけである。別に世間体をそこまで気にしないような一般高校生にはそんなに関係ないのかもしれない。
だが、目の前のこの人は少し訳が違うのだ。
「ねえ水瀬さん‥‥‥、悲劇のヒロインを演じるのもいいんだけどさ、そろそろ勉強集中してくれないかな」
「せっかちね牧野君は。私の迫真の演技に見惚れなさいよ、早漏は嫌われるわよ」
「凄いねー」
中間テストに引き続き、今回も俺が水瀬さんの勉強の面倒を見ているのだ。俺も本当だったら自分の勉強をやりたいというのに‥‥‥、なにをしてるんだこの人は。
というかこの人早漏とか言ってなかった?、マッチ売りの少女を汚さないでもらっていいですか。
いや‥‥‥、突っ込んだら負けだな。
「今回のテストは早めに勉強始めといて良かったわね」
「そうだけど、早めに始めた結果必死さが足りなくて結局最後に追い込まれてたじゃん。水瀬さん夏休みの宿題を最後に徹夜でやるタイプでしょ」
「あなた‥‥‥、私の心の中が読めるの?」
「いや、水瀬さんを見てたら嫌でもすぐ分かるよ」
「流石は私の彼氏ね?」
ほんとにこの人は調子が良いな。期末テストの対策を始めた時は分からない分からないって泣きそうだったのに、ある程度いけそうってなった途端これだ。
「まだ余裕で赤点回避できそうって訳じゃないんだから、ちゃんとやろうよ」
「はいは~い」
そしてさっきから軟骨から揚げばっかり食べてシャーペンすら握ってないじゃないか。その軟骨から揚げ俺が頼んだのに‥‥‥。俺まだ二個しか食べてないのに‥‥‥。
「やっぱりこのファミレスの軟骨からあげ美味しいわね。おっ、大きいのまだあるじゃない」
あ、また一個食べた‥‥‥。
「さっきから勉強より食事の方がはかどってるよ水瀬さん」
「勉強したらお腹が空くから仕方ないでしょ?、しかもこれ一口サイズで食べやすいし。最近は暑すぎてエネルギーを蓄えておかないと干からびちゃうわよ」
今度から水瀬さんとここに来たときは軟骨のから揚げは頼まない様にしとこう。水瀬さんの餌になるだけだ。
「エネルギーを蓄えるって冬眠前の熊じゃないんだから」
「そんな事より、テストが終わったら校外学習?、みたいなのがあるらしいわね」
そんな事よりって‥‥‥、酷くない?、夏なのに冬眠っていう渾身のボケを見事にスルーされたんだけど。
‥‥‥って自分で言っといてなんだけど、別に面白くなかったな今の。
「あ~、今日のホームルームで先生がなんか言ってたね。よく聞いてなかったからどんな行事なのか分からないな」
「ちゃんと聞いときなさいよ。ペアになってやりますって言ってたわよ確か。でもそれ以外は眠くて聞いてなかったわね」
そんな行事もあるのか。何しに行くんだろ‥‥‥、まあ先生から話がまたあるだろう。最近は水瀬さんのテスト勉強で頭が一杯で全然気にしてなかったな。
「へ~そうなんだ~‥‥‥って水瀬さんも聞いてないじゃん」
というか水瀬さんも先生の話聞いてないのかよ。いつも見た感じ先生の話とかちゃんと聞いてそうな雰囲気だったのに。
いや、普段から優等生に見えるだけだったな、この人は。見た目だけでこんなにも人生にバフが掛かるなんてズルすぎる。俺が見た目で得したことなんて‥‥‥ないかも‥‥‥。
「それより勉強の続きやるよ。餌の時間は終わりだよ」
恐ろしい現実に目を背け、水瀬さんに勉強をやらせることにした。こうして世の中の理不尽な上司みたいな存在が出来上がっていくのだろう。
「餌ってなによ、人の食事を見て出てくる言葉じゃないわよ」
と言いながらから揚げをまた一つ食べる水瀬さん。ほんとにこの人は一回赤点でテスト結果を張り出された方が本人の為になるんじゃないだろうか。
結局その日は勉強会という名の水瀬さんの栄養会となった。そして軟骨のから揚げはほぼ水瀬さんの胃の中に消えていった。
補足しておくと、彼女は勉強を始める前にダブルハンバーグ定食のご飯大盛を食べていました。現場からは以上です。
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