４話 普通にしてればいいのに
４話 普通にしてればいいのに
「牧野君‥‥‥、なかなか大胆ね。私を連れ去るなんて」
実に楽しそうな表情の水瀬さん。お気に召したようだ。学校から出るときに物凄い人数に見られてた上に、軽い騒ぎになっていた。男女二人が抱き合いながら帰っている、ってだけで注目を浴びる事だろう。
しかも相手は水瀬さんだ。もう明日には広まっていることだろう。うちの担任も見たことないの顔をしていたし。
「今回はやられたよ。俺の負けだ、降参だ。明日からの学校が思いやられるよ。なんて言えばいいんだ‥‥‥」
「牧野君は堂々としてればいいのよ」
あんな状況で堂々となんてしてられるか。悔しいが、あの状況を楽しむほどの甲斐性は俺にはなかった。
「もっと事前に言ってくれないかな？」
「言ってたら逃げたでしょ？」
その通りです。
「というか帰り道こっちなの？」
「えっ、私の家、牧野君の家の近くよ？」
「いや、初耳だよ」
「え、ほんとに知らないの？」
「なんでだよ、俺が水瀬さんの家を知ってる訳ないじゃん」
「そうね‥‥‥。牧野君の住んでる家、あのコーソンの近くよね？」
「そうだけど‥‥‥」
確かに、言われてみれば、あのコンビニで水瀬さんを見かけたことがある。水瀬さんは有名だったから、中学の時から知っていたけど他校だったということもあり話したこともなかったけど。
「私もあのコーソンよく使ってるから前から牧野君の事を知ってたのよ」
だから俺の名前を覚えてくれてたのか‥‥‥。入学して一度も話した事なかったのに。
「もしかして、昼休みによく顔が合ってたのは俺の事知ってたから？」
「やっぱり！、気が付いていたのね。‥‥‥毎日、そっちを見てたけど顔すぐ逸らすし‥‥‥」
「毎日？、なんでそんなこっち見てたんだよ。普通に話しかけてくれたら良かったのに」
「ちがっ‥‥‥、お弁当が美味しそうだったから‥‥‥」
なんだ、ただの食い意地か。さすがだな、ドカベン少女。顔が赤い、やっぱり恥ずかしいのかな。まぁ、ずっと隠してきたなら尚更な。
「なんで、気が付かないのよ‥‥‥」（ボソッ）
「ん？、なんか言ったか？」
「なにも言ってないわ。牧野君は気にしないで」
「あぁ、そう」
時々、すれ違う同級生たちの目が痛い。見世物じゃないぞ！、まぁ、このくらいでへ垂れてたらメンタルが持たないな。我が道を行くしかない。
「明日のお昼休みは美術室に来なさいよ。逃げようものなら、さっきみたいなことやっちゃうかも‥‥‥。だから、気をつけてね？」
てへっっと、こちらを覗き込んでくる。
「わかったよ‥‥‥」
恐ろしい奴だ。まるで悪魔だ。爆食腹黒性悪悪魔に格上げだ。お祓いでもしてもらおうかな。
「というか、水瀬さんなんで美術室使えてるの？、確か、使ってない時は鍵が掛かってるって聞いたけど」
「えっ、普通に美術の先生に頼んだら鍵を貸してもらえたわ」
どれだけ信頼されてるんだ。普通貸しちゃダメでしょ。うちの学校のセキュリティーは水瀬さんの前では、意味をなさないらしい。
「誰にも見られずに、ご飯を食べる場所が欲しかったから、結果的に丁度良かったわね」
「まぁ、俺の手によって悪事は阻止されたんだけどね」
「まるで、私があの部屋で悪事を働いていたみたいな物言いね」
「あぁ、みんなに嘘をついて、ゴッツイ弁当を貪っていた訳だからね！、偽装までして」
仕返しに少し大きな声で言ってやった。あっ、恥ずかしそうにしてる。こうして見るとやっぱり美人だな、水瀬さん。普通にしてれば。
「うぅ‥‥‥」
相当恥ずかしかったのか、まだ下を向いている。なんかやりすぎたかな。一応、謝っとくか。
「え～とっ、水瀬さん、なんかご‥‥‥」
「‥‥‥空いた」
「えっ？」
「お腹空いた、って言ってるの」
‥‥‥心配して損したな。普通に聞こえたが、もっかい聞き直してやろう。やられっぱなしも癪だし。というか相変わらずの食欲だ。お昼にあんな食べてたのに。俺のポケットに入ってたグミも一人で完食してたぞ。
「ごめん、聞こえなかった‥‥‥、もう一度言ってもらっていい？」
「お腹すきました」
ふっ、俺の勝ちだ。顔を赤くして悔しがる水瀬さん。可愛いな。普通にしてれば。
「いいよ、そこのファミレス行こうか」
結局そのファミレスで、チキンステーキ二枚を平らげた水瀬さんであった。水瀬さん曰く、鶏肉はたんぱく質豊富だから太らないらしい。な訳あるか、と思った今日この頃でした。
◇◇◆◇◇
水瀬さんとは、ファミレスでお別れした。家に帰りながら、ふとスマホを見てみるとウィンスタの通知が大量に溜まっていることに気が付いた。
「なんだこれ‥‥‥」
物凄い数のフォローリクエストが届いていた。ｄｍも数件、水瀬さんについてのことばかりだ。これが学校一の美少女の影響力か、恐ろしいな。なんか有名人になった気分だ。でも悪い気はしないなこれ‥‥‥。
ウィンスタを確認していると、和彦からもRINEが送られてきた。
和彦【おい！どういうことだよ！】
和彦【ぶっ飛ばすぞ！】
和彦【昼休み、心の底で俺の事あざ笑ってたのか】
和彦【明日は覚悟しとけよ！】
本当にぶっ飛ばされそうな勢いだ。今日の昼休み、お前と話してた時点では付き合ってないからな。どうしようもない。いや、付き合ってはないのだが、付き合ってる振りだ。俺もまだお前側の人間なんだ。分かり合えるさ。
牧野【きっと分かり合える】
送信っと。これで許してくれ和彦。そして俺はそっとスマホを閉じた。
するともう家についていた。
「ただいまぁ～麗奈～」
「お帰り、お兄ちゃん」
今現在、我が家は俺と妹の麗奈の二人暮らしである。両親供に会社員で、俺が高校に上がるタイミングでどちらも出張に行ってしまった。俺が高校に上がるまで、会社に無理を言ってたらしく、速攻で出張が決まってしまった。
なかなかのブラックでいきなり転勤が決まったりするらしく、大変そうだ。
寂しいと言えば寂しいが、妹もいるし、なにも不満はない。
「お兄ちゃんから、女の人の匂いがする‥‥‥、まさか痴漢？」
「どんだけ信用ないんだ、俺は。お兄ちゃん悲しいぞ」
「ごめんって。流石のお兄ちゃんでも、しないよね～」
なんだそれは、流石のって。聞き捨てならないぞ。
「ただ友達と帰ってただけだよ‥‥‥、そう友達」
「なにそれ、お兄ちゃん、なんか変だよ。まぁ、高校で彼女できたら教えてよっ！」
「できたらなぁ～」
今日の麗奈、鋭い。これが女の感ってやつか。妹ながらに恐ろしい。
「あっ、そういえばお兄ちゃん、お母さんが言ってたけど、まだいつか分からないけど、ゆうちゃんがこっちに戻ってくるらしいよ。」
「へぇ、そうなの？、最後に会ったの１０年くらい前だぞ、たしか」
「ねぇ、懐かしいね。」
ゆうきかぁ、懐かしいなぁ。俺が幼稚園生の時、内気な性格で、あまり周りに上手くなじめていなかった。寂しい思いをしてた時に一緒にいてくれた友達だ。いわゆる幼馴染という奴だ。ゆうきの親もうちの親と会社が一緒で、よく二人で遊んだりしていた。
「そういや幼稚園卒業してから一回も会ってないな、引っ越しちゃったし」
「私も昔すぎてあんまり覚えてないかも」
ゆうきが引っ越してから、会うタイミングがなかったけど、親同士は連絡を取り合っていたらしい。妹とも仲が良かった記憶がある。よく俺とゆうきで遊んでたなぁ。喧嘩が強いし、ガキ大将みたいなやつだった。高校生になったゆうきかぁ‥‥‥。想像つかないな。そういえば、あいつに喧嘩で勝てたためしがなかった気がする。
「あっ！、というかさ、お母さんからびっくりすること聞いちゃったんだ」
「びっくりすること？」
「私も勘違いしてたんだけど、お母さん達は普通に知ってたらしくて、それ聞いてびっくりしちゃった」
「だからなんだよ、それって？」
「えっと、ゆうちゃんね、‥‥‥」
気になるから早く教えてほしい。それにしても焦らしてくるな、麗奈のやつ。
「ん～やっぱり教えない、会ってからのお楽しみだね」
「教えろよ‥‥‥、そこまで言ったら」
「まぁ、楽しみにしといてよ」
あっ、それで思い出したけど、もう一人幼稚園で仲の良かった子がいたな‥‥‥。ん～、あまり思いだすことができない。仲良くなってすぐにその子は他の町に引っ越してしまったからだ。その子の家にも行ったことがあった気がするんだけどなぁ。昔すぎて思いだせない。
まぁ、ゆうきがこの町に戻ってきた時にでも聞いてみるか。あいつなら覚えているかもしれないし。幼稚園の頃なんて、昔すぎて覚えてないかもだけど。
「てか私、先にお風呂入るね～」
「うーい」
まあそれより、明日をどう切り抜けるか考えとくか。
う～んと。
う～ん。
ん～。
◇◇◆◇◇
チリチリチリチリチリチリチリチリチリチリ‥‥‥。目覚まし時計がなってる。
布団に入ってからも、考え込んでいたら、朝になっていた。
すると廊下からなにかが来る気配が。
「おっはよー！、お兄ちゃん。朝だよー」
朝から寝不足で妹にたたき起こされる、なんて日だ。
「早く起きて～～、朝ご飯たべるよ～」
時計を確認する。時刻は朝の6時
まだ学校まで時間あるな。あとちょっとだけ寝ておこう。
麗奈の声を完全にシャットアウトし、布団を深く被りなおす。
おやすみなさい‥‥‥。
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「この後どうなるのっ‥‥‥？」
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