38話 ご飯にする?、お風呂にする?、それとも~、言わせないからね?
38話 ご飯にする?、お風呂にする?、それとも~、言わせないからね?
最後のスーパーで買い物を終えた俺たちは、いつもの帰り道を通り帰宅していた。いつも二人でこの道を帰っているというのに、今日の俺は水瀬さん相手に緊張していた、‥‥‥大変癪ではあるけど。
ほんとにさっきのは心臓に悪かった。スーパーで買い物してるときも緊張してほぼ無口だったし。これから一緒に家に帰ったら麗奈になにか感づかれると面倒だ。
水瀬さんは買い物の間も余裕そうだったし、俺だけ意識してるのも負けた感じがして嫌なので普通に話しかけておかないと。
「今日は買い物付き合ってくれてありがとね、水瀬さん」
「あら、ご飯をご馳走してくれるんだから気にしないで」
よし、これで普通に話せる雰囲気に持ち込めた。ちょろいもんだな水瀬さんも。
「‥‥‥やっと普通に話してくれた」
「いや、それ今になって言う?」
前言撤回、水瀬さんはそんなにちょろくはない。ここに来てその事を掘り下げてくるなんていつも通りで逆に安心できる。
「さっきまでの牧野君が面白すぎてつい触れちゃった。最近は私への態度が面白くなかったからね」
「態度が面白くないってなんだよ‥‥‥」
確かに水瀬さんと付き合う振りをし出した頃より水瀬さんに慣れたから緊張なんてしなくなってたから、さっきみたいな感じは新鮮だったのだろう。それを分かっててやってるのなら相当性格悪いなこの人は。
あ、元から‥‥‥、っとこれ以上は危険なのでやめておいた方がいいだろうな。
「家に付いたら麗奈がいるんだから変な事言うのはやめてよね」
「分かってるわよ。麗奈ちゃんからの信頼は私も失いたくないもの」
それならいいんだが、てか麗奈もこの人の本性になぜ気が付かないんだ。今までおかしな言動をいくつか見てるはずなのに。やはり見た目はそれほど大事ということなのだろうか。会社とかの面接も顔採用があるっていうくらいだし、本当に世の中おかしいな事が多い。その社会の理不尽を体現したような存在が俺の横をとことこ歩いているんだけど。
「てか結構遅くなっちゃったな。麗奈に怒られちゃうし早く行こうか」
「そうね」
そして俺は麗奈にもう帰るよと連絡を一ついれて早歩きで帰路についた。
◇◇◆◇◇
「やっと着いた。俺の家に入るの地味に初めてだよね?」
「言われていればそうね。どんなお家なのか楽しみだわ」
「そんな楽しみにされても何もないよ?」
俺の家なんてなんの特徴もない普通の家だ。そんな期待されても何も出てこないというのに。
「俺から中入るね。じゃ、ただいま~‥‥‥」
なんの代わり映えのない玄関のドアを開ける。‥‥‥そう、なんの変哲もない玄関なはずだったのだ。
「おかえりなさい圭太!、ご飯にする?、お風呂にする?、それとも~」
「言わせないからな」
最後の決め台詞に被せることでなんとか阻止することが出来た。今考えられる中で家にいたらまずい人ランキング1位の人が玄関から登場したのだ。
「なにしてんの‥‥‥悠木」
「なにって‥‥‥、私の帰還祝いだよ?」
当たり前じゃんみたいな表情をされてもそんな話一つも聞かせれてないし‥‥‥、ってまさか。
「お兄ちゃんお帰り!、サプライズ成功だねゆうちゃん」
「麗奈が俺にお遣いを頼んできたのって俺を遅く帰らせるためだったのか」
麗奈は買い物とかはこだわりがあるから俺に頼んでくる事なんて今までなかったから珍しいと思ってたらそういう訳だったのか。
「当たり前でしょ?、普通お兄ちゃんに買い物なんて託せないし」
お兄ちゃんを信頼してくれてると思って少し嬉しかったのに、俺の純情をもてあそんだのか麗奈よ。お兄ちゃんはそんな悪い女に育てたつもりはないぞ!
「えっ、杏葉さんもいたの?」
麗奈が俺の後ろに隠れていた水瀬さんの存在に気が付いた。この状況は非常にまずい、水瀬さんと悠木が一緒で‥‥‥。
「‥‥‥この泥棒猫が‥‥‥」
今水瀬さん完全に泥棒猫って言いましたよね。麗奈と悠木には聞こえないくらいの小さい声だったけど、俺には完全に聞こえてますよ。てか、気にしてないってやっぱり嘘じゃん。
これぞジャパニーズ修羅場という奴か。俺は一人心の中で臨戦態勢に入りつつ、これから起こる事があまり大事にならないで欲しいと願うばかりであります。




