32話 罵詈雑言
32話 罵詈雑言
「疲れた‥‥‥」
今日の学校は精神的にだいぶ疲れたぞ。水瀬さんと付き合う振りをやりだした頃の学校生活に逆戻りだ。ほんとに、悠木が同じ学校に来たってだけじゃなく、女でしたなんて。しかもあんなに可愛いなんて聞いてないぞ。小さい頃のあいつはどこに行ったんだ。
「なにが疲れただよ」
「いや、疲れるだろ。特にお前みたいな奴らのせいでな」
「疲れるもんかよ。お前は今、この学校の男子に恨まれると同時に羨ましがられてるんだぞ。俺で良かったら喜んで変わるぞ」
和彦が嫌味っぽく言ってきたけど、確かにその通りだな。俺は恨まれてるだけじゃなく羨ましがられてるんだ。なにもそんなに悲観的になる必要なんてないじゃないか。傍から見たら俺は男の夢のハーレムという奴ではないのか。何事もポジティブに考えようじゃないか。
「ありがとう和彦、なんか元気が出てきたよ」
「俺、お前を励ましたつもりなんてないぞ?」
「いや、今ので十分だよ」
「なんだよそれ、気持ち悪いな。お前はずっと落ち込んでろ」
なんとでも言うがいい、今の俺は無敵かもしれない。このマインドを手に入れた俺に敵うものはいないぞ。何人だろうと掛かってくるがいい、平民達よ。
「俺は強い。そうだろ?、和彦」
「お前みんなから色々言われてついにおかしくなっちまったか。まあ頑張れよ」
何を言ってるんだこの平民は。平民の戯言なんて俺の耳には届かないという事を教えてやらなければならないようだ。
「悪い和彦、ちょっとおトイレに行かしてもらうよ」
「話し方きもいな」
よし、ちょっとトイレに行くついでに平民達の様子でも見てくるとするか。
◇◇◆◇◇
「うわ、見ろよ。二股クズ野郎だぞ」
「そんなにイケメンでもないのになんでモテるんだろうね」
「水瀬さんが可哀そうだよね~」
「あいつ私嫌いなんだよね」
「あいつの靴箱に嫌がらせしよ~」
「もっかいボールぶち当たれ」
前言撤回。泣いてもいいですか?
ただトイレ行くために廊下を通るだけでこの有様なのか。昼休みに悠木と食堂に行ったせいで他のクラスにも結構広まってしまったのだろう。てか、犯罪予告してる奴いたって一人、先生こいつらです。それともう一回ボールぶつかれは酷くない?
俺が廊下を通るだけで罵詈雑言の嵐だ。俺の心はもうズタズタだ。特に女の子に言われるコソコソ話が一番ダメージあるからやめて下さい。
「そんなとこで何してんのさ圭太」
「うわっ‥‥‥」
「うわって酷いな。私も女の子なんだから傷つくよ?」
昔のお前が言わない言葉ランキング第7位くらいだ。ふざけるな。てか、こんなとこで話してたりしたら‥‥‥。
「噂をすれば例の転校生じゃん」
「可愛い‥‥‥」
「ほんとになんであいつなんだよ」
「俺も転校生に話しかけてみようかな」
「よし、俺がボールぶつけてやる」
ほら見ろ、すぐこうなる。悠木には申し訳ないけど、騒動が収まるまでは大人しくしてもらっとかないとな。というかさっきの奴、ボールをぶつける覚悟を決めるんじゃない。ここは悠木を速やかに移動させないと、ほんとに俺の生命が危ない。
「よし悠木、帰りのホームルームが始まっちゃうから戻ろうな」
「あ、そうなの。初めてだから分かんなかった」
まだホームルームは始まらないけどとっと逃げた方がいいな。この感じじゃ、トイレに行ったら他の男子生徒に嫌がらせされるかもしれない。
ん、警戒しすぎだって?、なんたって水瀬さんの時に経験済みだからね。水瀬さんと付き合う振りをし出した頃に何回トイレットペーパーを投げ込まれたことか。普通にいじめだから気分最悪さ。
「さぁ戻るぞ~」
「えっ、そんなに引っ張らないでよ」
そんな強く握ってないだろ、大げさだな。そんな女の子らしくなっちまって俺は悲しいぞ。そして俺は悠木を引っ張りながらその場から撤退した。
◇◇◆◇◇
するとその日から、牧野圭太が朝日奈悠木にDVをしてるという噂が流れたらしい。
‥‥‥泣きそうです。




