3話 墓場までついて行くから
3話 墓場までついて行くから
先ほどのカップルのふり、という水瀬さんから出た驚きの発言に取り乱してしまっていると、みかねた水瀬さんが声をかけてきた。
「そんなに嫌?‥‥‥」
ちょっと落ち込んでいるように見える。勘違いさせてしまっているようだ。少し訂正しないと。
「いや、急すぎてびっくりしただけだよ」
「そう‥‥‥、それで返事は?」
「一つ確認していいか?」
「いいわよ。ちなみに言っておくとNOという返答はやめておいた方がいいわ。一生レイプ魔として生きていく事になるわね」
「なるほど‥‥‥。それはいいとして、なんで俺と付き合うふりなんかしなきゃいけないってなるのか、そこを教えてくれ」
「あなたが他言しないように見張る必要があるからよ」
いや、どんだけ心配性なんだ。まあ確かにこんなことがバレたら笑いものにされるのは免れないだろうな。なんせ、偽装のためにあんな小さい弁当まで用意してるんだ。今までのみんなの憧れ、水瀬杏葉のイメージは地に落ちるだろう。
「私は完璧主義者なの。私の今まで築き上げてきたイメージは崩させはしないわ。そしていつか、あなたが死んでお墓に入った時に、やっと私も安心して生活できるのよ。ちゃんとお墓参りはしてあげるから安心してちょうだい。こんな可愛い子を彼女にできて、死んだ後のアフターケアまでついてくるのよ?」
なんか重いな。ざるそばを食べに来たら、背脂マシマシ次郎系ラーメンが出てきたみたいな感じだ。
「付き合う振りだろ。墓までついてくるなんて縁起でもないな」
「まぁ、私は心配症なのよ。それに私モテるから、告白されまくってて困ってるのよ」
ついに自分で言ったぞこの人。まぁ、モテるのは事実だからなにも言い返せないのが悔しい。
「俺に告白されないようにする為の盾になれってこと?」
「まぁ、そういうことね」
完全にいいように使われている気がする‥‥‥。ん?、よく考えたら自分で嘘付いてたんだし、自業自得ではないか?
「元はと言えば、じごう‥‥‥、いや、なるほどな。確かに心配だよな」
俺は喋りかけた言葉をなんとか我慢した。
「あら、分かってくれたのね。じゃあ改めて返事を聞いてもいい?」
もうどうしようもない。俺に襲われたなんて嘘をばら撒かれたら、末代まで迫害されてしまう。未来ある俺の子孫たちに迷惑をかけるわけにはいかない。カップルのふりなんて、どうせ口だけだろう。
そして俺は抵抗することを諦めた。
「俺なんかでよければ、よろしく」
水瀬さんは天使のような笑顔でこう言った。
「末永くよろしくね、牧野君‥‥‥」
◇◇◆◇◇
「それじゃあ連絡事項はこれで全部だ。まだ入学して間もないから、トラブルとか起こさないようになぁー。じゃあみんな気をつけて帰れよー」
ホームルームの終わりを告げる担任の一声をきっかけに、部活に行くもの、放課後の予定について話すもの、みな様々だ。
俺はまっすぐ一人で帰るけど。いやぼっちじゃない。ただ家に帰るってだけだ。友達も和彦がいるし、
他にもいるし‥‥‥。まだ入学してそんな経ってないから‥‥‥気にしてないし。
例の水瀬さんは男女供いろんな人に話しかけられていた。放課後になるとこのクラスは、水瀬さんに話しかけるもの、水瀬さんを一目見ようと野次馬に来るものなど、水瀬さん目当ての人がよく集まってくる。
「水瀬さん~、今日の放課後は私たちと帰りましょ~」
「昨日もあんた達が一緒に帰ってたでしょ!」
「水瀬さん!部活はどこに入るか決めてる?」
「ほら!あの人が水瀬さんだぞ」
「おぉ‥‥‥、マジで可愛いな」
水瀬さん、相変わらず大変そうだな。今日の昼休みの出来事がまるで嘘だったかのようだ。あんな完璧超人の裏側が爆食腹黒性悪女だなんて。外面だけは完璧だ。みんなに真実を教えてあげたい、切実に。
それにしてもこの教室、ほんとに放課後の人口密集度が凄いな。早く帰った方が良さそうだな。
場所的にもこの教室の前の廊下を通らないと校舎の外に出られないため、今日のようにいつも生徒で溢れかえっている。
「牧野~もう帰るのか~?」
和彦が話しかけてきた。
「おう。特に用事もないからな。お前はなんだそれ‥‥‥その恰好」
「今日はバスケ部の見学なんだよ」
バスケのタンクトップにヘアバンドまでしている。なるほど、こいつ見た目から入るタイプだったなそういえば。
「この前はサッカー部に入る、って言ってなかったか?」
「サッカー部は初心者には厳しすぎて俺には向いてなかったみたいなんだ。時代はレフロン・ジェームスだぜ!」
といいながら、シュートのフォームを確認している和彦。この前は二苫がどうのこうの言ってた気がする。うん、絶対こいつ続かないな。
こんなやつ気にしないで、帰ろうと、バックをまとめていると、水瀬さん達の集まりもお開きになろうとしているところだった。
「ごめんみんな!今日は他の人と予定があるんです」
なるほど、先客がいたようだ。水瀬さんとの放課後を勝ち取るだなんて、どんな凄いやつなんだ。
そんなことを考えていると、おや、こっちに向かって歩いて来たぞ。和彦は違うと思うから、きっと後ろの席の田中くんだな。田中くん、いつも結構きつめの義妹もののラノベばっかり読んでて、返事も返してくれないから心配してたんだ。友達ちゃんといるじゃん。
それじゃあ邪魔者は退散するとするか。
「なに帰ろうとしてるの?、牧野君。」
ん?、なぜか俺に話しかけてきた水瀬さん。田中くんは後ろの席だよ?
「ほら、一緒に帰るわよ」
教室、廊下にいる生徒の視線がこちらに集まる。
「なんで俺と水瀬さんが‥‥‥一緒に、帰るのかな?‥‥‥」
「なんでって‥‥‥、私と牧野君が、付き合っているから‥‥‥でしょう?」
周りの観客たちが一斉に騒ぎ出す。
「えっ?、今付き合ってるって‥‥‥」
「牧野が?‥‥‥なんで?‥‥‥」
「噓でしょ?‥‥‥相手の方は普通じゃない?」
まずい。ここまでしてくるなんて、想定していなかった。今日の昼休みだぞ?、行動が早すぎる。
驚きのあまり、シュートモーションのまま崩れ落ちていた和彦が口を開く。
「嘘だよね?冗談がうまいな~‥‥‥、ホントに‥‥‥牧野と?」
すると、いきなり水瀬さんが俺の腕に抱き着きながらこう言った。
「えぇ、ラブラブよ」
さらに歓声がヒートアップする。これじゃまずい。
俺はそのまま水瀬さんを連れて、逃げるように学校を後にした。
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