27話 デッドボール
27話 デッドボール
「いや、今週になってほんとに熱くなってきたな‥‥‥、まだ5月の終わりだぞ‥‥‥」
「まじで‥‥‥、この季節の体育は下着にパンツまでびっしょりになるから嫌だよな~」
「うわっ、臭そうだな‥‥‥」
「そりゃ、誰だって臭いだろ!」
まだ六月にもなっていないというのに‥‥‥、最近の地球は暑すぎる。小さい頃はこんなに暑くなかったって感じるのは俺だけだろうか。南極の白熊さんも毛を剃り上げていることだろう。それに加えて和彦のパンツもびしょびしょらしい‥‥‥、どうでも良いなぁ‥‥‥。
「てか、昼休み明け一発目の授業から体育なんてやるもんじゃないって‥‥‥」
「牧野~運動しないからだぞ~。ほら、ちゃんとキャッチしろよー」
俺たちは選択授業で野球を選んだ。まずはキャッチボールで体を慣らすところからだ。キャッチボールって一般人がやると肩をケガするから入念にアップしておこう。
「流石に俺の事を舐めすぎだろ。流石にキャッチボールくらいできるぞ」
キャッチボールって久しぶりにやると楽しいな。野球よりサッカー派だけど、自分でやってみるとどのスポーツでも意外と楽しいもんだな。
「あっ、まずい、変な所に‥‥‥」
「おい!、高すぎだろ」
和彦が調子に乗ってめっちゃ高いボールを投げやがった。めっちゃずれてるし、周りに人も多いんだから危ないだろうが。
「って、やばっ‥‥‥」
ボールの落下地点に入ったは良いけど初心者の俺がこんな高いところから落ちてくる球を取れる訳なかった。しかも、日差しが眩しすぎてボールを見失って‥‥‥。
「牧野!、ちゃんとボール見ないと‥‥‥」
「あっ‥‥‥」
太陽と重なったボールが急に目の前に現れた。時間がゆっくり感じる。これ、走馬灯ってやつじゃん‥‥‥。ああ、これ無理だぁ‥‥‥。
「よけろ!」
和彦‥‥‥、それ言うの遅いよ‥‥‥。
「って、お前‥‥‥」
あれ、痛くない?、俺生きてる?
「牧野、あれキャッチできるの凄いな‥‥‥」
なんと俺はボールを咄嗟にキャッチしていたのだ。俺、天才じゃん‥‥‥。
「いやー、あれで牧野にケガさせてたら俺が悪くなる所だったから、安心したわ」
「お前、まあまあ最悪な事言ってるぞ‥‥‥。でも、俺咄嗟にキャッチするの凄くね?」
「いや、あれ野球部でもミスす‥‥‥おいっ!」
急に和彦が驚いた顔してど‥‥‥。
「うをっ!」
いきなり、後頭部をぶん殴られたような感覚が襲ってきて、地面に倒れこんでしまった。
「大丈夫かー!」
後ろからクラスメイトの声がする。てか、めっちゃ痛い!、クソ痛いんだけど。頭がぐるぐるして、目まいもして、これまじやばい奴だって。
「牧野ー!、大丈夫か?」
「いや、めっちゃ痛いんだけど‥‥‥これ」
さっきのキャッチできたのに‥‥‥。後ろからは反則だって。
「立てるか?」
「なんとか‥‥‥立てる」
痛みで訳が分からない体をなんとか起こした。立ち眩みがやばい。
「おーい、大丈夫かー!」
「牧野、大丈夫?」
先生やクラスメイトも寄ってきて、声を掛けてくれる。正直、誰が誰だかも分からない。
「牧野、保健室行くぞ」
「‥‥‥ちょっと待ってよ‥‥‥」
ほんとに今にもぶっ倒れそうだ。死にそうって生まれて初めて思うくらい。頭を押さえていた手を放して、膝につく。すると、体操服に赤い液体が付いた。
「あっ、これ血‥‥‥」
そして、そこからの記憶は覚えていない。
◇◇◆◇◇
なんだかふわふわしてる。俺、死んだのかな。最後めっちゃ手に血付いてたし、あれ絶対致死量だって。やっぱりこれから、異世界転生でもするのかな。異世界転生するのってアニメとかじゃめっちゃ序盤だけど、俺の人生の中じゃ結構長い時間生きてたのにな。そう考えたらなんか悲しいな、異世界転生物の主人公って。
「ってなんだこれ‥‥‥」
しばらくして目の前に風景が浮かんできた。これが異世界転生の始まりかぁなんて思っていると‥‥‥。
「これ、私達がまた会う日まで預かっておいて、そして絶対に返しにきてね?」
「うん、絶対に忘れない‥‥‥」
小さい少年と‥‥‥、夢の中の少女だ。そして、舞台はあの水瀬さんの家の近くの公園だった。今回も少女の顔が良く認識できない。おそらく俺がこの子の事を思いだせていないからだろう。
「これ、俺じゃん‥‥‥」
よく見ると、その小さい少年は昔の俺だった。ふわふわした場所からその景色を見る。訳が分からない。
「あれ、俺のネックレス‥‥‥、もしかして‥‥‥」
そうだったのか‥‥‥。俺は分かってしまった。夢の中であの少女が付けていたネックレス、同じのを持ってたんじゃなく、あの子の物だったってことなのか?
今にも泣きだしそうな二人の会話は続く。
「こんな大事な物いいの?」
「それ、あなたが似合うって言ってくれたから‥‥‥」
女の子を泣かすなんて最低だな俺‥‥‥、一番最悪なのはこの子の事を未だに思いだせない今の俺なんだろうけどさ。
「いつ戻ってくるの?」
「分からない‥‥‥、でも絶対あなたに会いに戻ってくる」
二人は相当仲が良かったようだ。それなのになんで俺は思いだせないんだ。この子の事を完全に忘れていた訳じゃないけど、ゆうきがこっちに帰ってくるって聞いた時に、仲の良かった子がいたなぁくらいしか思いだせなかった。なんで名前と顔が思いだせないんだ‥‥‥。
「私、絶対帰ってくるから、そのネックレスを無くさないで待っててね?、あなたから私にそのネックレスを返してね、じゃないと不平等だから‥‥‥。私は絶対に帰ってくる、だからあなたからネックレスを返しに来るの‥‥‥。この約束忘れないでね?」
女の子は泣いている。俺はなんてダメなやつなんだ。このネックレスを昔から大事に付けていたのはそういうことだったのか。
俺は決めたぞ。このネックレスを返して、この子と再会するまで死ねない。俺の事をこんなに思ってくれていた子を悲しませる訳にはいかない。この子が俺の事を忘れていて、もし彼氏がいたとしても、俺はこの子に会いに行く。
「早く起きなさいよ‥‥‥約束もまだじゃない」
急に遠くの方から声が聞こえてきた。そして目の前の景色も見えなくなった。なんか体がに上の方に上がっていく感覚が‥‥‥。
「お兄ちゃん‥‥‥、早く起きて」
また別の声が‥‥‥、ん?、お兄ちゃん?




