22話 見知らぬ天井
22話 見知らぬ天井
目を開けるとそこは、見知らぬ天井だった。
冗談はさておき、おそらく俺は勉強を見守りながら寝落ちしてしまったのだろう。枕元にクッション、掛け布団までしてくれている。ベットの方を見ると、水瀬さんの姿はない。先に起きたのだろう。
「また夢か‥‥‥」
またおかしな夢を見てしまった。悪魔にで取りつかれているのか?、夢なんて滅多に見る事なかったのに、最近になって夢をよく見る。今日はあの小さい女の子の夢じゃなかった。ほんとになんなんだろうか‥‥‥。
「あら、起きたのね。寝落ち魔さん」
パジャマ姿の水瀬さんが部屋に戻ってきた。水瀬さんのパジャマ姿なんて、他の人からしたら相当レアなんだろうな‥‥‥。転売するか?‥‥‥。
「ごめんって、眠くなって思わず寝ちゃったんだって。それと、布団にクッションまでありがとう」
「流石にお客さんを地べたになんもなしで寝させる訳にはいかないわよ」
「いや、ほんとにごめんて。その代わり今日もしっかり勉強教えるよ」
「しっかり頼むわよ。寝落ち魔くん?」
うん、しっかり根に持たれていた。
◇◇◆◇◇
「やったわ!、5割を超えたわ!」
「いや、ほんとに感動だよ。最初の状態から5割も取れるようになるなんて、想像もできないくらいだったのに‥‥‥」
一番の不安材料であった数学が対策テストの問題で5割ほど取れるようになっていた。あとの4教科は正直暗記すれば、赤点を回避することはできるだろう。後は水瀬さんの頑張り次第といったところだ。
「てか、もうこんな時間か。すっかり外も暗くなってる‥‥‥」
勉強を教えるのに熱が入って時間が全然気にならなかった。せっかくの土日が本当に水瀬さんに勉強を教えるので終わってしまう。悲しいけど、これで水瀬さんが赤点を免れてくれれば、俺の休日を二日を費やした甲斐があるというものだ。
「これで数学は大丈夫だろうから、他の教科を頑張って暗記したら赤点を取ることはないはずだから‥‥‥ほんとに頼むよ?」
「そんな事言われなくても分かってるわよ‥‥‥、顔怖いわよ」
俺としたことが二日間の疲れが顔に出てしまっていたのかもしれない。でも、それだけ俺の気持ちが伝わったのなら良しとしよう。
「じゃあ、そろそろ暗くなって来てるし、家に帰ろうかな」
「せっかくだしもっとゆっくりしていったら?」
「それで、まだ俺に勉強を教えてもらう魂胆か‥‥‥」
「違うわよ‥‥‥、せっかく来てくれたのにあんまりもてなせてないから‥‥‥、ご飯食べて行って?」
「いや、申し訳ないからいいよ。昨日明里さんのが作った豚キムチ美味しかったし」
流石に昨日家に泊めてもらったのに、今日もご飯をご馳走してもらうのは申し訳ない。それにしても、明里さん料理も上手だなんて本当に非の打ちどころがないな。‥‥‥性格意外は。
「じゃ、今日はこの辺で‥‥‥」
俺が帰ろうと立ち上がると、突然水瀬さんが腕を握ってきた。
「今日、私がご飯作るから食べて行ってほしいの‥‥‥」
絶妙な角度の上目遣い、完璧なポジショニングに俺の服の袖を引っ張ってくる甘え方。俺は条件反射で言葉を繰り出していた。
「しかたないなぁ~」
相変わらずちょろい自分に悲しくなったけど、せっかく俺の為にご飯を作ってくれる女の子のお誘いを断るのは、男としてもっとだめだ。ここはお言葉に甘えてというやつだ。
「やった!、じゃあちょっと待ってね」
そう言い、小走りで一階のリビングに降りて行った。
「可愛い‥‥‥」
ほんとに、普通にしてたらめっちゃ可愛いのに‥‥‥普通にしてたらね。
◇◇◆◇◇
「あちゃ~、これがババだったかー」
「引っ掛かりましたね」
水瀬さんがご飯を作っている間に、明里さんと二人でババ抜きをしていた。二人でババ抜きってなんだ、初めてだぞ、二人でババ抜きって。負けた方はなんでもお願いを聞くという商品付きだ。
「そういえば牧野くん、杏葉の手作り食べるの初めてでしょう?」
「あぁ、そう言われてみれば初めてですね‥‥‥って、うわっ」
しれっとババを引いてしまった。運が悪い。
「あっ、やっぱり?」
「そうですけど、なんでですか?」
「杏葉毎日自分で弁当作ってるんだけど、食い辛抱だから譲ってくれないでしょ?」
あのドカベンは自分で作っていたのか。てか、まずい、カードがどんどん減っていくのにババを引いてくれない。あとこっちのカードは4枚しかないのに。
「確かに、食欲だけは人一倍ですからね」
「それは言い過ぎでしょ~」
すると、俺の後ろで料理してる水瀬さんが口をはさんできた。
「お姉ちゃん、ババは一番左のカードよ」
「お、ナイス杏葉」
まずい、口が滑ってしまった。水瀬さんを敵に回してしまった。水瀬さんからの援護射撃を受けた明里さんがババじゃないカードを引いてきた。
「これが姉妹の力よ」
それただのイカサマじゃん。
「確認だけど、負けた方はなんでも言う事を聞くのよ?」
「分かってますよ、一度受けたからには逃げませんよ」
「よろしい、お姉ちゃん嬉しいわ」
「次は俺の番って‥‥‥、揃ったかー」
俺の持ってるやつとペアを引いてしまった。これでババともう一枚だ。普通のカードを引かれてしまったら俺の負けだ。
「流石にシャッフルさせてもらいますよ」
2枚だからそんな変わらない気がするけど、見えないようにカードを変えておこう。
「さあ、どうぞ‥‥‥」
左にババを置いた。人間は本能的に自分の利き手を取りやすいらしいからな。さあ、どっちを引くんだ。
「どっちだろうな~、牧野君の表情を見るに、余裕があるってことは何かしらの根拠があって、ババをどちらかにしたと思うんだよね。違ってる?」
「どうでしょうね~」
読まれているのか?、俺の考えが。頭が切れるなこの人、水瀬さんと違って。
「こっち?、それともこっち?」
俺に質問を投げてくる明里さん。心理戦を仕掛けるつもりのようだ。
「俺はなにも言いませんよ」
ここはポーカーフェイスを貫こう。そんなこっちを見ても‥‥‥って、‥‥‥視線が合ってない?
「まさか‥‥‥!」
後ろを振り向くと、俺のババを指さす水瀬さんの姿が。くそっ、なんて卑怯な姉妹なんだ。それよりカードを‥‥‥。
「まずい‥‥‥」
時すでに遅し、とはこういう時に使うんだろう。俺が正面を振り向いたとき、すでにババじゃないカードに手をかけた明里さんがいた。
「もらったー!」
「させるかー!」
そして決着はついた。




