21話 アドバイスの意味が分かんないとアドバイスにならないよね
21話 アドバイスの意味が分かんないとアドバイスにならないよね
「うまい具合に、口車に乗せられてしまった‥‥‥」
俺は自分の心に従ったまでだ。俺は悪くない‥‥‥うん、悪くない。俺は心の中でそう言い聞かせた。
「女の子の友達の風呂に入るなんて‥‥‥」
そう、俺は今お風呂に入ろうとしていた。先にお風呂入っちゃってと言われ、されるがままにお風呂に入ろうとしていた。
「これ、着替えね。お父さんのだから気にせずに使って~」
「いやぁーーーーーー!」
驚いて変な声が出てしまった。まだギリギリパンツは履いていたから良かったものの、危うく俺のカリバーンが日の目を浴びるところだった。
「いきなり大きな声を出さないでちょうだい。びっくりするじゃない」
「いやっ、びっくりしたのはこっちだって。ノックくらいしてよ!」
「まぁ、そんな細かい事気にしないの‥‥‥えっ、あ、そのネックレス」
「このネックレス?」
「うん、それって‥‥‥」
「これは、小さい頃から付けてる相棒みたいなものなんだよ。誰にもらったかが、思いだせないんだけどね」
「そうなの‥‥‥ね、というか服きなさいよ!」
そう言いながら、顔を赤くして出ていってしまった。
「今更恥ずかしくなったのか?、時差がすごいな。‥‥‥てかこのネックレスがそんな気になったのかな?」
◇◇◆◇◇
「ふぅ~‥‥‥やっぱり湯船に浸かるのは最高だぁ~」
俺は結構お風呂に浸かるのが好きだ。いつの間にか1時間くらい半身浴をしてしまっていることが多々ある。行儀が悪いかもしれないけど、スマホを触りながら湯に浸かるのが癖になってしまっている。流石に人の家のお風呂まではしないけど。
「これ‥‥‥」
いつもあの水瀬姉妹が入っている風呂かぁ。いやっ、変な事考えてた訳じゃないぞ。人の家で風呂に入るなんてあんまりないから、珍しいなって思っただけだ。断じてそういうことは無いから安心してほしい。水瀬家の風呂かぁ‥‥‥なんか効能でもありそうだな。
「湯加減はどう?」
「えっ、あ、その‥‥‥良い湯ですね‥‥‥」
突然、扉の向こうから話しかけられてびっくりしてしまった。別に怪しい事をしてた訳でもないのに、なんか後ろめたく感じてしまったじゃないか。
「いやっ、良い湯ですねって、ただのお湯だよ?」
ゲラゲラと笑っている明里さん。どうやら彼女のツボに入ってしまったらしい。
「やっぱり、牧野君は面白いね」
「そう言ってくれて嬉しいですよ」
「こちらこそ、杏葉をありがとう」
「そんなことないですよ‥‥‥ってまあ、水瀬さんを楽しませてあげれてるかは分かんないですけど」
「そんなことないよ、杏葉があんなに自分の素を見せてるの初めてだもん。食欲の事なんて絶対にバレない様にしてたのに」
食欲に関しては、俺がたまたまそれを見ちゃっただけなんですけどね。
「杏葉が嫌がるだろうから、あんまり言わないけど、小中の時の杏葉は優等生を演じてみんなに素なんて見せる子じゃなかったんだよ。悪く言うと、心を閉ざしてたっていうかさ‥‥‥」
そうだったのか‥‥‥、なんで俺には素を見せてくれるんだろうか‥‥‥。大食いを見られたからだろうとは思ってるけど。
「これから言う事は杏葉には黙ってて欲しいんだけど、大丈夫そ?」
「いいですけど‥‥‥」
なんか急に改まった感じでどうしたのだろうか。明里さんにしては真面目なトーンで話し出すからびっくりしてしまった。
「うちってさ、杏葉が小さい頃に両親が離婚しててさ、そこから杏葉はあんな感じになっちゃったんだよ」
前に大食いになった切っ掛けをストレスとかやけ食いからとか言ってたけどそれが原因なのか?
「で、今住んでる家がお父さんの家なんだ。離婚した直後はお母さんに私たち引き取られたんだけど、杏葉が中学に入る頃に、私の大学進学の関係とか、杏葉の中学進学の事とか色々あって、お父さんの住んでるこの町に戻ってきたわけ」
じゃあ、水瀬さんは小さい頃はこの町に住んでた訳か。それで中学に上がるタイミングでこっちに戻ってきたってことか。そりゃ、両親が離婚して、住み慣れた町からも離れることになったら、幼い水瀬さんにとっては相当なストレスだったんだろう。
「それで、牧野君と付き合いだして明るい杏葉を見れて私は嬉しい訳だよ」
「そんな大事な事俺に教えて良かったんですか?、家庭の事情まで‥‥‥」
「二人を見ててもどかしく感じちゃったんだよ。杏葉もめんどくさい性格だし‥‥‥。これはお姉さんからのアドバイスだよ、牧野くんへの」
姉のあなたが行っちゃだめでしょ。というか、何の事を言ってるんだ?
「それってどういう意味で‥‥‥」
「これ以上は杏葉に怒られるから教えれないよ‥‥‥」
「だから、なにを言って‥‥‥」
「私じゃなくて、君の心に聞いてみな、少年。じゃ、ごゆっくり~」
そう言い残して、ご機嫌に去ってしまった明里さん。意味の分からないまま話が終わって、変な気分だけど、お風呂は気持ちいい。お風呂の水圧によって体がほぐれるから気持ちよく感じるらしい。この前TokTokで言っていた。
「それにしても‥‥‥変な人だなぁ‥‥‥」
◇◇◆◇◇
「すごいじゃん!、水瀬さん」
「そんな褒めないでくれる?、これが私の本来の姿よ」
ドヤ顔してるところ悪いんだけど、数学が赤点ギリギリ回避レベルになっただけだからね?、まぁ、本人は嬉しそうにしてるし、それは言わないでおいてあげるか。それでも一番酷かった数学がマシになってきただけでも嬉しい限りだ。
「なんでこんないきなりできるようになったの?、コツを掴めてた?」
「それもあるけど、ちょっと嬉しいことがあったから‥‥‥、やる気がみなぎって来ちゃったのよ」
「もしかして、夜ご飯の豚キムチが好物だったとか?」
「豚キムチも好きだけど‥‥‥ま、そんなとこよ」
やはりか、白ご飯を茶碗5杯もおかわりしていたからな。相当嬉しかったのだろう。
「なんにせよ、これでだいぶ希望が見えてきたよ。一番酷かった数学が及第点くらいは解けるようになってきたから」
「そう、それなら良かった‥‥‥。というか、さっきのネックレス‥‥‥、いつも付けてるの?」
「うん、いつも大体服の下に付けてるね。昔から、なんか大事にしてたんだ。だけどこのネックレスが大切な物っていうことは分かるんだけど、あんまり昔の事が思いだせなくてさ」
「良かった‥‥‥」(ぼそっ)
「ん?なんて?」
「それより、勉強の続きしましょ。ほら、ここ教えて?」
「いや、だからなんて言ったか‥‥‥」
「いいから、早く教えて?」
遮られた。水瀬さん、事あるごとに俺の話を遮ってきやがる。ま、確かにそれより勉強だな。それにしてもさっきからやけに上機嫌だな。問題が解けるようになってきたから嬉しいのかもしれないな。この調子で頑張ってもらえば‥‥‥。
◇◇◆◇◇
「‥‥‥」
なにか聞こえる‥‥‥
「早く私を思いだして‥‥‥、ずっと待ってたの‥‥‥」
ん、視界がぼやけて良く見えない‥‥‥、また夢か?
「でも私からは‥‥‥から。そうでないと‥‥‥でしょ?」
意識がふわふわして‥‥‥、体が暖かい感覚に包まれる。
「あの時の‥‥‥なんで‥‥‥のよ」
だめだ、ほんとに‥‥‥。
そこで意識は途切れた。




