2話 高嶺の花の生態
2話 高嶺の花の真実
「嘘だろ‥‥‥」
なんだこれ‥‥‥夢でも見てるのか?
今まで頭にあった水瀬杏葉のイメージ像が崩れていく。
俗にいうカエル化というやつか。
いや、驚きが大きくてそんなのじゃ片付けられない。
まるで、育ち盛りの運動部のように、美味しそうに白飯をかき込んでいる。
あ、ほっぺたに米粒付いてる。相当お腹が空いていたのだろう。
ん?、よく見ると、彼女の座っている席には同じ大きさの弁当箱がもう一つ置かれていた。
「二つもいくのか‥‥‥」
俺だったらあの弁当箱を一つ食べられるかどうか、といったところだ。
しばらく覗いていると、あっという間に一個目の弁当を完食。
彼女はすぐに、二つ目に取り掛かる。箸のスピードはとどまることを知らない。
彼女の食べっぷりに感心していたところだったが、んん?、机の上にまだなにか乗っかっていることが確認できた。
よく見るとそれは、焼きそばパンであった。
俺は唖然とした。
食後のデザート【炭水化物】といったところか。
彼女が今まで作り上げてきたイメージを、ことごとくぶち壊しに来る。
じゃあ、お昼休みに食べていた彼女の小さくお上品な弁当は、フェイクのために用意してるということになる。
なにそれ、めっちゃ恥ずかしいじゃん。
偽の自分を作り、みんなを欺いてきたということだ。こんなことバレたら、俺だったら立ち直れない。
そう考えると、あの爆弾発言も悪意があったようにしか思えなくなっていた。これは、完全に猫をかぶってるな。
今まで俺らは偏見でしか、彼女を見ていなかったのかもしれない。
それにしても、筆箱は取らないといけない。どうしたものか、と考えていたその時。
「こらぁー!」
おっと、びっくりして、つまずいてしまったではないか。
美術室のあるこの校舎はほぼ人が通らないので、先生によっては、ここに生徒を呼び出す人もいる、と聞くからな。一階で他の生徒が、生徒指導でも食らっているのだろう。
それにしても、声でかすぎるだろ。心臓に悪いじゃん。
「えっ、なんで‥‥‥」
この透き通った声、いかにも女の子、という感じの声。
俺は、つまずいた反動で扉を開け、中に転がりこんでしまっていた。
彼女も驚きの表情でこちらを見ている。
「あのっ、これは違う‥‥‥、なんていうか‥‥‥、ホントに違うの」
あたふたする水瀬さん、可愛い‥‥‥。えっと、なにかフォローしてあげないと‥‥‥。
「弁当二つに、焼きそばパンまで食べるなんて‥‥‥、ってことは思ってないから安心してよ」
全然フォローにならなかった。
「うぅ‥‥‥、焼きそばパンは食後のデザートだから‥‥‥、違うのよ」
全然言い訳になってない。相当慌てているようだ。やっぱりデザートだったのか、なるほど。
「俺忘れ物取りに来ただけだから‥‥‥、まぁ、そんな気にしないでよ。人は誰だって隠し事の一つくらいあるって」
「気にするに‥‥‥、決まってるでしょ!」
「おぉ‥‥‥」
突然声を大きくするから、びっくりしてしまった。顔を真っ赤にして怒っている。
「せっかく今まで作り上げてきた、私のイメージが‥‥‥、責任とってよ」
「だから、落ち着きなって‥‥‥、そんな大したことじゃ‥‥‥」
「大したことだよ!、どこにこんな野球部しか使わないような弁当箱を使っている女子高生がいるの!」
野球部に対する偏見が凄いようだ。
「それに私は、高嶺の花こと水瀬杏葉だよ!?、入学して、もう13人も告白された私がだよ!?」
自分でいうのかそれ‥‥‥。というかしっかり告白された人数覚えてるし‥‥‥。さっきの女子達との会話は、やはり確信犯だったようだ。
「まぁ安心してよ、高嶺の花のイメージはたった今吹き飛んだから」
「というか、よく食べる事のなにがいけないの!?」
ついに開き直ったな。たくさん食べること自体は悪いことではない。今回の場合においては、彼女がその事実を隠蔽していたことに問題がある。
「牧野くん‥‥‥、まさかあなたにバレるなんて‥‥‥あなたには‥‥‥、あなたを生きて返すわけにはいかない‥‥‥」
「そんな大げさな‥‥‥、よく食べる女の子が好きっていう人も世の中にはたくさんいるって。ちょっとポッチャリの方が男にモテるっていうからさ、ねっ?、だから落ち着いて話を‥‥‥」
ん?、というか水瀬さん俺の名前覚えてくれてるんだ。
「ポッチャリ!?、なんてこというの!、最近食べすぎで高校に入って2キロ増えたことがバレてたなんて‥‥‥、もう殺してよ‥‥‥」
「いや、初耳だよ」
「あっ‥‥‥、今の無し」
このままじゃどんどん墓穴を掘りそうそうだから、一旦止めないといけないな、これは。見てられない。
「一旦落ち着こう、水瀬さん。さっきから自分の首を絞めてるだけだよ」
「落ち着いてられないよ!、このままじゃ夜も眠れないどころか、夜中のトイレも一人でいけないじゃない!」
なにを言ってるんだこの人は。数十分前までの彼女はどこに行ったのだろう。
さっきの女子達が見たら本当に唾を吐かれるぞ。やっぱりちょっとエッチだからやめてくれ。
「みんなにこのことがバレたら私はおしまいよ。水瀬さんあんな澄ました感じでゴッツイ弁当食べてたらしいよウケる、ってみんなの笑いものにされるんだわ。そして私の机にはドカベンの落書き、誹謗中傷がびっしり。挙句の果てに私の家のポストにはカトウのご飯が投げ込まれるのよ‥‥‥」
なんで最後パックご飯が投げ込まれてるんだ。
「みんなに言いふらしたりなんかしないって。だから安心してよ」
「ほんとに?」
「うん、言わないよ」
するとなにか考え込む様子の水瀬さん、しばらくしてなにか閃いた様子のだ。
「このこと、墓場まで持って行きなさい‥‥‥絶対に、分かった?、牧野君」
「そんな大げさな‥‥‥」
「いいのよ、私、牧野君に襲われたって言いふらすから」
桜咲く春の風が気持ちの良いこの美術室にて、俺の人生はこれにて終わりを告げたのであった。
「そんな嘘すぐ見抜かれるはずだ‥‥‥あっ‥‥‥」
「みんな、どっちの言い分を信じるでしょうね」
「なんてこと考えるんだ‥‥‥、ずるいぞ!、卑怯者!、大食い!」
「ひとつ余計なものがあったけどそれは許してあげる」
思わず口に出してしまっていたが、よかった。許してくれたようだ。
「そしてもうひとつ牧野君に重要なお知らせがあるわ」
「なんだよ?」
「私と‥‥‥、カップルのふりをするのよ‥‥‥」
思いもよらぬお知らせに気が動転してしまった。俺は恥ずかしさのあまり顔を隠してしまった。
顔を隠すその一瞬、水瀬さんの顔が見えた。その顔はほんのり赤みがかっていた気がした。
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