13話 綺麗な感情
13話 綺麗な感情
「とても綺麗ね‥‥‥」
海辺の道を歩く水瀬さん。後ろの光景も相まって、素直に美しいと思ってしまった。
「水瀬さんにもそういう感情あったんだね」
「はぁ‥‥‥、私のことをなんだと思っているの?」
「あっ、ごめん、悪気はないんだって」
「せっかく私が綺麗な海に心を打たれていたっていうのに。邪魔しないでくれるかしら」
この人にもそんな綺麗な感情が存在していたなんて‥‥‥、まるで普通の女子高生みたいじゃないか。冗談も休み休み言ってほしいな。
「でも、ほんとに綺麗だね‥‥‥。来たことなかったから、来れて良かったよ」
「それなら良かったわ。私も来るの初めてだったから」
俺たちはクレープを食べた後、近くの海沿いにある神社に向かっていた。ここら辺では有名な観光地だけど、意外と行ったことがなかった。水瀬さんは最初はここに行こうと考えてくれてたらしい。それで二人で行ってみることにした。
「この鳥居、幻想的で凄いわ。非日常感があって良いわね」
確かに海沿いの道にある神社の鳥居はとても幻想的で美しい。またもや、そんな感情が‥‥‥って思ってしまった。もう黙っておこう。流石に怒られるかもしれない。
「今日二人で来れて良かった‥‥‥」(ボソッ)
「なんて言った?」
「ただの独り言だから、気にしないで。それより牧野君はこの景色を目に焼き付けておきなさい」
「うん、普通に写真に焼き付けておくよ」
せっかくだし、ウィンスタのストーリーに上げておこう。映えな写真を上げたいけど、意外とオシャレに写真撮るのって難しいな。どうやったらオシャレになるんだ。下から取ったりするのか?
俺が映え写真を撮ろうと試行錯誤していると、スマホを持った水瀬さんが俺の服をグイっと引っ張ってきた。
「ハイ、こっち向いて、笑顔でね」
内カメで自撮りを撮ってきた。俺と水瀬さんのツーショット。急にカメラを向けられたから、何とも言えない顔をしている。
「これじゃ、鳥居があんまり写ってないじゃん」
「いいのよ、これで。分かってないわね」
女子高生っていうのは良く分からないな。水瀬さんなら尚更分からん。
「これが本当の映え写真ってやつよ、牧野君」
‥‥‥まさか‥‥‥。
急いでウィンスタを開いて確認すると、水瀬さんがストーリーを出している。中身を確認するとさっきの写真が上げられていた。
「これは恥ずかしいって‥‥‥」
「いいじゃない、私の彼氏なんだから」
笑いながらそう言った水瀬さん。水瀬さんは今はやっていなくとも、雑誌のモデルとかもやっていたので、ウィンスタのフォロワーも1万を超すくらいにはいる。そんなアカウントに、こんなラブラブツーショット(偽装)を上げられてしまった。こんなの上げたら引き返せなくなるぞ。いつかは解消されるこの偽カップルだけど、罪悪感が凄い。
「流石に消してくれ~水瀬さん‥‥‥」
「まぁ、そんな些細な事気にしてたら早死にするわよ」
水瀬さんの食べっぷりの方がよっぽど心配になるよ、って言いそうになったけど、我慢しておいた。
「些細な事じゃないでしょ。フォロワー1万人くらいいるし」
「たった1万人よ。ほかのモデルに比べたら少ないわよ」
逆に引退してるに1万人もいるのかよ。熱心なファンが多いってことじゃないか。
「私がモデルやってた時のファンには過激な人もいたから、気をつけてね。まあでも、多分大丈夫よ」
「いやそれ大丈夫じゃないよね?」
「それより行くわよ‥‥‥ほら」
そう言って俺の手を握ってきた。えっ、これって恋人繋ぎってやつだよね。これってそんな普通なものなの?、確かに付き合ってる(嘘)ではあるけど。恥ずかしすぎてやばいって。
「ちょ、まって、いきなりは」
よく見ると水瀬さんの顔も赤い気がする。
その場の雰囲気に負けて、俺はついていくしかなかった。
しばらく歩いて神社まで着いた。神社からも海が見えて、とても綺麗じゃないか。でも、それを楽しむ余裕はなかった。
「ねぇ、ちょっといつまで繋いでるの?」
水瀬さんがやっと口を開く。
「カップルだから手をつなぐなんて当たり前でしょ?、なにいってるの」
こっちがなにいってるの、なんだけども。
「落ち着きなさい、落ち着きのある男の方がカッコいいわよ」
もう落ち着いてるよ。落ち着きのある男か‥‥‥、確かにそっちの方が大人な男って感じでいいな。仕方ない、ここはそっちに乗ってあげるとするか。
「はぁ‥‥‥そこまで言うなら、落ち着いた男の振る舞いって奴を見せてあげよう」
「それじゃ‥‥‥、期待してるわね、牧野君?」
◇◇◆◇◇
「さっきは何をお願いしたの?」
参拝をし終えた俺たちは、おみくじを引きに行こうとしていた。
「レディの秘密よ。あんまり詮索するものじゃないわよ、落ち着きのある男、なんでしょ?」
さっきからなんでもその理由で解決しようとしてない?、そんな万能な奴なのか、落ち着きのある男ってやつは。俺には向いていなかったみたいだ。
「それで、牧野君はなにをお願いしたの?」
それでしっかり俺には聞いてくるのか。流石だな水瀬さん。そこが取り柄と言ってもいいだろう。
「お願いっていうほどでもないんだけど。最近よくちっさい頃の夢を見るんだ。そのことがあんまり思いだせなくて、それを思いだせますようにって」
「小さい頃ね‥‥‥、ちなみにどんな夢なの?」
「名前と顔は思いだせないんだけど、仲の良かった女の子の夢だよ。仲良くなってすぐにどっかいっちゃったからさ‥‥‥」
「‥‥‥そうなのね‥‥‥」
少し言葉に詰まる水瀬さん。なんか変なこと言ったか?
「なんで最近になって夢で見るようになったか分からないけど、会えるならもう一度会いたいなって」
「意外とすぐ会えるかもね、根拠はないけど」
「なんだよそれ」
「まぁ、彼女の目の前で他の女の話なんて、なかなかやるじゃない」
なるほど、嫉妬されてたらしい。子供相手に。
「他の女って‥‥‥、相手は子供だよ」
「その時は子供でも、あなたが高校生になったみたいに、相手も成長してるのよ」
確かに、今あったら相手も高校生か。
「でも、その子の事思いだしなさい、‥‥‥じゃないとその子が可哀そうすぎるわ」
「なんで、水瀬さんがそんなこと言うんだ?」
「私は恋する乙女の味方なのよ」
笑顔でそう言ったが、なにか含みのある笑顔な気がした。
まるでその子が恋してるみたいじゃないか。女子ってそういうものなのかな。まぁ、気にしても仕方ない。水瀬だし。
◇◇◆◇◇
大吉だった。
久しぶりに大吉なんて引いた気がする。なにかいいことでもあるかもしれない。
学問・・・もっと励むがよろし
転居・・・まだその時ではない
病気・・・なおる、信心が第一
待人・・・来るあなたの近くに
願望・・・首尾よく叶うしかし自分次第
失物・・・意外と自分の近くに
恋愛・・・その愛情を信じなさい
争事・・・控えて努めよ
なるほどな、こいうの信じないタイプだから、あんまり気にならないけど。
「牧野君は‥‥‥、どうだった?」
「大吉だったよ、俺あんまりおみくじとか信じないタイプだけど、嬉しいのはうれしいよね」
「あら、そうなの、よかったじゃない‥‥‥」
「水瀬さんは‥‥‥」
自分のくじをこちらに見せてきた。
「大凶‥‥‥」




