１２話 大食いの秘密
１２話 大食いの秘密
とういうことでやってきたのは、ここらへんでは有名なアーケード街。食べ歩きに丁度いい出店、飲食店が並ぶちょっとした観光地だ。今日はゴールデンウイーク真っ只中ということもあり、いつもより人の数も多い。
「ここのハンバーグ美味しいわね」
「それはよかったね‥‥‥」
幸せそうに洋食セットを食べている。楽しんでもらえてなによりだ。
あれっ、俺を楽しませてくれるんじゃ‥‥‥。
いや、こんな幸せそうな顔をされたら突っ込む気もうせるな。まぁ、普通にここの料理美味しいけど。ハンバーグのひき肉がホロホロでご飯が進むやつだ。水瀬さんも速攻でおかわりをしていた。お店の店主も水瀬さんの食べっぷりに感心している。
「なんか、ごめんなさいね‥‥‥。私ばっかり楽しんで」
確かにその通りです。俺も楽しいからいいんだけどね。
「いや、全然俺も楽しんでるから、気にしないでよ」
「じゃあ、なんでご飯お代わりしないの？」
「いや、シンプルに食べ切れないからだって」
ご飯の食べる量で楽しさを決めているのかこの人は。小食な人はどうしろっていうんだ。
「やっぱり明里さんも、水瀬さんみたいにたくさん食べるの？」
「お姉ちゃんは普通ね。少し小食なくらいよ。だから心配になって私くらい食べたほうがいいって、言ってるんだけどね」
いや、普通に水瀬さんくらい食べれる人の方が心配になるよ。
「かくいう私も、昔は小食だったの‥‥‥」
「そうなの？」
「小学生になったくらいかしら、色々あってこうなっちゃたのよ‥‥‥」
この大食いは生まれつきじゃなかったのか。どうしたらこんなになっちゃうんだ。
「なにがあったの？」
「それは‥‥‥簡単に言うとやけ食いね。最初は悲しさを紛らわすためだったの‥‥‥、ストレスから逃げるためっていう感じね。でも今は普通に食べる事自体が好きなのよ」
深刻そうな顔をして話しているところを見る感じ、相当悲しいことがあったのだろう。あまり深堀しない方がいいんだろうけど、気になるもんは仕方ない。この探求心には逆らえない、そう仕方ない。
「その悲しいことって‥‥‥」
言いかけたその時水瀬さんが言葉を重ねてきた。
「それはまだ言えない‥‥‥」
「まだ？」
「そう、まだ。何事も順番ってものがあるのよ」
なるほど‥‥‥？
「まぁ、いつか話すわ‥‥‥、あんまり女の子の秘密に踏み込んでくるのは良くないわよ」
「あっ、なんかごめん‥‥‥、その気になっちゃって」
「全然気にしてないから大丈夫よ‥‥‥、昔からだから」
なんか悪いことしたかな。昔からって何に対していったんだ？、気になるけどこれ以上はやめとくか。
後からそこの出店のクレープでも奢ってあげようかな。別に物で機嫌を取ろうなんて考えてないんだからね。
「ところで、まだお代わりしないの？」
凄い期待の眼差しを向けてこないでくれ。食べないわけにはいかないじゃん。別にここの料理が美味しくないわけじゃない。シンプルにお腹がいっぱいなんだ。ハンバーグのボリュームも凄かったし。腹八分目が一番心地いいんだって。はぁ‥‥‥仕方ない。
「分かったよ‥‥‥」
いつもご飯のお代わりすることなんてほぼないんだけどな。ここは男を見せるか。俺だってその気になれば、水瀬さんくらい食べれるってところを見せてやる。
「すみません！、ご飯お代わりで！」
◇◇◆◇◇
「お腹いっぱいなら、先に言えば良かったのに」
結局、お代わりしたご飯の半分くらいしか食べられませんでした。残りは水瀬さんが美味しくいただきました。というか食べ切れないって言ったよね？
「それにしても、クレープって手が汚れるわよね。美味しいけど」
それ、俺が買ってあげたよね。食後のデザートとばかりにクレープを食べている。もう驚かないぞ、どれだけ食べようが。
バナナクレープを食べているけど、なんか俺のイメージじゃイチゴクレープが好きそうだったから、違和感だな。偏見だけど。
「クレープってなんで暖かいのかしら。冷たい方が美味しいと思うのだけど」
うんそれ、俺が買ってあげたよね。確かに冷たい方が美味しい気もするな。パンケーキとかも。
「あなたも食べる？」
急にクレープを向けてくる。えっ、それって間接キスだよね。健全な高校生がそんなこと‥‥‥。
「いいの？」
「なんのこと？」
「いや、いいのかなって‥‥‥」
「って、私だってそこまで食い意地張ってないわよ！」
いや、そこじゃないだろ。俺もそこまで思ってない‥‥‥はず。
「いやいや、そうじゃなくて‥‥‥」
「じゃあ、なによ」
近くまで詰めてくる水瀬さん。近いよ、顔。近くで見るとほんとに可愛いな‥‥‥、ってそうじゃなかった。
「えっと、その、間接じゃん？」
思春期みたいで恥ずかしい。思春期なんだけどもね。
「ふーん、意識してるんだ」
「そうじゃなくて！、えっと‥‥‥」
なんか余計顔を近づけてくる。
「そうじゃないなら、なんなの？」
くそっ、悔しい。悔しはずかしい。ってなんだその感情。
「もう勘弁してくれ‥‥‥」
「ふふっ、ごめんなさい。あんまりにも反応が面白くて、つい少しからかっちゃた」
「全然少しじゃないでしょ‥‥‥」
「間接キスなんて気にしないわ。逆に嫌がられた方が嫌だわ」
そうなのか。女の子とこんな風に遊ぶなんて初めてだからどのくらいが大丈夫なのか分からないな。水瀬さんだからと侮っていた。いや、普通水瀬さん相手だったら滅茶苦茶緊張するんだろうけど。
「そう、じゃあいただくよ」
クレープに噛り付く。やばい、味どころじゃない。なんか変な気分だ。
「美味しい？」
「うん、美味しい」
流石に意識しないなんて無理だ。相手は水瀬さんだけど‥‥‥、こんな美人だし。
「そう‥‥‥、それはよかった」
笑顔でそう言って微笑む水瀬さん。たまに来るそういうのやめて欲しい、恥ずかしいから。
「今日は楽しい？」
今度は急にどうしたんだ。真面目な顔して。
「楽しいよ、ほんとに」
「ありがとう。計画した甲斐があったわ」
計画したっていうか、電車の中で一緒に決めたんだけどね。でも、こんな可愛い子が俺のためにって考えたら悪くないな。
ん、なんか自分がきもく感じたな。
「私も、とても楽しいわ」
嬉しそうな表情をしている。
それにしてもバナナクレープなのに味がしなかったな。なんか悔しい。意識してるみたいで。
