1話 彼女の秘密
1話 彼女の秘密
「嘘だろ‥‥‥」
咄嗟に出てきた心の声だった。
俺の名前は牧野圭太。俺は今、美術室の扉の影で立ち尽くしている。
俺は見てはいけないものを見てしまった。
今までの認識を覆されるほどの衝撃だった。
どうしよ、とりあえずウィンスタで拡散するか。
いや、流石にただじゃ済まない。
というより盗撮は犯罪だな、うん。
そして、いつの間にか手に取りカメラを起動していたスマホをポケットにそっと閉まった。
俺が覗いたもの、それは学校1の美少女、水瀬杏葉のみんなの知らない秘密だった。
なぜこのような状況になっているかというと、時は数十分前まで遡る。
◇◇◆◇◇
「ふぅ‥‥‥、やっと昼休みだな和彦」
「いやぁ、美術の授業、眠すぎるだろ、ほんとに」
「昼休み直前の授業に、美術はないよな~」
「どの時間帯でも眠いもんは眠いだろ」」
このように、教室の端っこで俺と会話をしているのは、中学が同じ友達の佐藤和彦だ。
「てかお前、体育の着替えの時思ったけど、まだあのネックレスしてたのかよ」
「あぁ、これか?、まあなんか手放せないんだ。ずっと昔から付けてたし‥‥‥」
そう言いながら、制服の下に隠してあるネックレスを和彦に見せる。
「それもう、古びれてるから、新しいの買ったらいいじゃんか」
「そういうのじゃないんだよ、これは」
なぜか昔から持っているこのネックレス。誰からもらった物なのかは覚えていないが、なぜか大事に、今まで大切に肌身離さず付けてきた。
昔親に聞いたが、なんかある時期から勝手に俺が付けてて、あまり詳しく覚えていないらしい。
まぁ、和彦の言う通り古びてきてはいるが、新しい物に変える気にならない。というか本当にいつから付けてるんだっけ‥‥‥。
「てかよ、水瀬さん、今日も可愛いな‥‥‥」
俺が昔の事を思い出していると、和彦がうっとりとした顔で言ってきた。
「まじで、そこらへんのアイドルより全然可愛いよな」
教室の真ん中でご飯を食べている女子グループ、その中にひとり、一際、存在感を放っている。
「水瀬さん、ほんと、髪ツヤツヤで羨ましいなぁ‥‥‥」
「お嬢様みたいで、品があるっていうかぁ‥‥‥。男子はみんな、水瀬さんの話ばっかりだよぉ‥‥‥」
「私も、水瀬さんみたいになりたいなぁ‥‥‥」
どんだけ尊敬されてるんだ、水瀬さん。
「水瀬さんってぇ~‥‥‥、正直何人に告白とかされたの?」
「えぇ~‥‥‥、正直、多すぎて覚えてないの」
女子達の怒りを買う爆弾発言を投下した水瀬さん。
悪気はないようだ。
「話した事もないのに‥‥‥、なんで私に告白してくるのか不思議で‥‥‥」
さらに追い打ちをかける水瀬さん。
悪気はないようだ。
水瀬さんじゃなきゃ、今頃女子達から、唾を吐かれていた事だろう。
ん、なんかエッチだな、その状況‥‥‥。
「私なんか全然だよぉ‥‥‥」
死体打ちまで卒なくこなす水瀬さん。
悪気はない‥‥‥、と信じたい。
女子達はそれでも、水瀬さんをヨイショし続けていた。
水瀬さん、尊敬の域を超えてます。
そのように感心しながら水瀬さん達のほうを眺めていると、突然水瀬さんと目が合ってしまった。にっこり笑顔で会釈されてしまい、思わず目を逸らしてしまった。
恥ずかしかった、とかではない。レディーファーストの一環だ。そこは勘違いしないで欲しい。
というか最近、お昼休みに水瀬さんたちの方を見たときによく目が合ってしまい、さっきみたいな不慮の事故に遭遇してしまうことが多々ある。
なんか自意識過剰な奴みたいで嫌だな。やっぱり今の無しでお願いします。
このクラス1、いや学校一の美少女と呼び声の高い、水瀬杏葉さん。綺麗な黒髪に、どこかお嬢様のような空気を漂わせている。高嶺の花という奴だ。
この町のちょっとした有名人で、俺も中学生の頃から知っていた。前は雑誌のモデルなんかもしていたらしい。
男女両方からの人気が高く、財閥の一人娘だ、などと身も蓋もない噂も絶えない。
入学して早々10人以上が玉砕したらしいと和彦も言っていた。
「いやー‥‥‥、俺も水瀬さんみたいな彼女が欲しいぜ」
まぁ、夢は大きい方がいいっていうしな。ここは友達として優しく助言をしてやるか。
「和彦には無理だろ」
思わず本音が出てしまった。別に和彦を悪く言っているつもりはない。そのくらい水瀬さんが別の次元だということだ。
「そんな事、言われんでも分かってるわ。そんな事より、水瀬さんの弁当、見てみろよ‥‥‥、あんな上品で小さい弁当。あんなのじゃすぐ腹減っちまうだろ」
「そんな調子じゃ、お前に彼女が出来るのは遠い未来だな」
「ぶっ飛ばすぞ」
でもさすが、お嬢様と言われるだけある、弁当もお上品ときた。
てか和彦、どんな所にまで注目してるんだ。変態か?
まあ、それだけ、水瀬さんの魅力が、凄いということだ。
「そういや、最近、水瀬さんを観察していて、気が付いた事があるんだ」
「どんなことだよ?」
「おっ、丁度いいところで‥‥‥、ほら、見てみろよ。水瀬さん、一人で教室から出て行っただろ?ほぼ毎日だが、お弁当を食べ終わったら、用事がある、とかいって、女子グループから抜けて、一人でどっか行っちまうんだよ。用事の中身を、誰にも他言しない感じを見るに、彼氏に会いに行っているんじゃないか、と思ってんだよ」
「水瀬さん、告白は全部断ってるって、和彦が言ってなかったか?」
「あぁ、そうだ。だけどあんな美人だったら彼氏の1人や2人いてもおかしくないだろ?」
「まあ、そうだなぁ〜」
「だろ~?」
「そうだなー‥‥‥」
と適当に返事をしながら、食べ終えた弁当箱を直していると、あることに気が付いた。
「あっ、筆箱を美術室に忘れてるじゃん‥‥‥」
美術室、結構遠いし、めんどくさいなぁ。
「まじか、うちの美術の先生、外部の人らしくて、普段美術室に誰もいないから、鍵が掛かってるかもな」
「まじかよ~‥‥‥。まあ、取ってくるわ。」
そして、俺は忘れ物を取りに、教室を出た。
職員室に鍵を取りに行くのは‥‥‥、うん、めんどくさいな。
鍵が空いてることを祈ってとりあえず行ってみるか。
◇◇◆◇◇
美術室に向かって歩いていると、美術室のある校舎に、こそこそ歩いて行く女子生徒が一人。
「ん?誰だろ‥‥‥」
よく見るとそれは、水瀬さんそのひとだった。
水瀬さんも忘れ物か?
意外と抜けているとこもあるんだな。
そのように感心していると、俺はさっきの会話を思い出した。
まさか、本当に彼氏がいて、こっそり会う為美術室に行ってるとか?
ん?、なんか周りを警戒してるような気も。
確かに、美術室のある校舎の三階には、美術室しかないし、わざわざ近寄る人もいない。密会をするには、もってこいの場所だ。
まあ、とりあえず、バレない様について行ってみるか‥‥‥。
◇◇◆◇◇
水瀬さんは、俺に気が付くことはなく、美術室のある三階への階段を、昇って行った。
なるほどな、このヒヤヒヤ、週刊紙の記者の気持ちが少し分かったぞ。
心の中に隠されていたジャーナリズム精神が、開花しようとしていたその時、水瀬さんが美術室の扉を開け、コソコソと中に入って行った。
「怪しい‥‥‥」
あんな挙動不審な水瀬さん、初めて見たぞ。
扉に近づき、聞き耳を立ててみる。
「やっぱり、これじゃないと、物足りないのよ‥‥‥」
なにをしてるんだ?、これって?、なんなんだ‥‥‥。
気になるぞ。俺の知的探求心をくすぶって来る水瀬さん。
人類の進化は、先人たちの、大いなる、その知的探求心によって成長してきたのだ。
これから、俺が行うことは、犯罪ではない。人類の新しい、第一歩である。
そう、自分に言い聞かせ、扉に手をかける。
本当に少し、開けた扉の隙間から、中を覗き込む。
するとそこには、信じられない光景が広がっていた‥‥‥。
漫画の世界から飛び出てきたかのようなドカベン弁当を、美味しそうに頬張る学内一の美少女の姿がそこにはあった‥‥‥。
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