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18・遭遇②


「こんなところでどうした」


 オズウェルはレミリアの手を強く振り払い、ヴィエラの方へ早足で近づいてくる。


 (あ……)


 不思議だ。

 オズウェルのたったそれだけの行動で、自分の中の黒い感情が落ち着いていくのがヴィエラにも分かる。


「え、ええと、記憶のことで宮廷医師の方にお話を聞きに行っていて、今部屋に戻ろうとしていたところなの」


「そうか。では私と共に行こう」


「えっ」


 オズウェルは静かにそう言うと、ヴィエラの腰に手を回した。

 そのままくるりと踵を返し、レミリアの横を素通りしようとする。


「ちょ、ちょっと! まだ話は終わっておりませんわ!!」


 しばらく呆然としていたレミリアだったが、目の前を通り過ぎるオズウェルとヴィエラの姿を見てはっと我に返ったようだった。


「何を言っている。そもそもお前とする話などない」


 オズウェルは一瞬だけレミリアの方を振り返ると、冷たい声で短く言い放った。

 その姿は、まさに『氷の皇帝』と呼ばれるにふさわしい。取り付く島もない。


「っ!!」

 

 息を詰まらせたレミリアを置いて、ヴィエラはオズウェルに連れられるまま、その場を後にすることになった。

 少し遅れて、後ろからキーキーとしたレミリアの怒りの声が聞こえてくる。


「一度ならず二度までもわたくしからオズウェル様を奪うだなんて……! 絶対に……絶対に許さないわ!」


 ちらりと後ろを振り返れば、レミリアは琥珀の瞳を釣り上げて、ヴィエラを睨み据えていた。

 

 (……っこわい)


「オズウェル、いいの……?」


 あの怒り狂った状態のレミリアを放っておいて、大丈夫なのだろうか。

 そっとオズウェルを見上げると、オズウェルは深いため息をついていた。

 

「……あれはいつものことだ。気にしなくていい」


「そ、そう」


「とにかく、あの女は危険だ。ヴィエラ、あの女には極力近づくなよ」


「……わかったわ」


 実感のこもったオズウェルの言葉に、ヴィエラは頷くしかない。

 正直、強い怒りの感情を向けられて、レミリアと仲良くできる気などヴィエラはしなかった。


 

 ◇◇◇◇◇◇



「お嬢様、もう帰りましょう。旦那様が心配なさいますよ」


「うるさいわねぇ。お父様なんてどうでもいいわよ」


 後ろに控えていた従者に適当な返事をしながら、去っていくオズウェルとヴィエラの後ろ姿をレミリアは睨みつける。


 (わたくしが皇妃になるはずだったのよ? それをあんな男爵家の女に奪われるなんて許せない! せっかく邪魔者を消し去ったと思っていたのに……)


 抑えきれない苛立ちをぶつけるように、レミリアはイライラと爪を噛んで――。ふと廊下の影に一人の男が立っていることに気がついた。


「……あら? そんなところで何をなさっているの?」


「っひ! レミリア様! 俺はただ、ヴィエラ様を見ていただけで……」


 レミリアが見つけたその男は、城の使用人のようだった。

 男はもごもごと赤い顔でそこまで口にして、どうやら失言してしまったことに気づいたらしい。

 バツが悪そうに口をつぐんでしまった使用人を見て、レミリアはにやりと口元を引き上げる。


 (ああ、もしかしてこの使用人。身分不相応の癖にホワイトリーさんのことが好きなわけ?)


 一使用人の男が皇帝陛下の婚約者に横恋慕(よこれんぼ)するなど、図々しいにも程があるだろう。

 レミリアはこの使用人のことを内心嘲笑う。


 (……そうだわ)

 

 怯えながら返事をしてくる使用人に、レミリアの頭に妙案が浮かんでしまった。


 (利用してやりましょ)

 

 レミリアはすすす、と使用人に近寄って、逃げられないように彼の腕に自分の腕を絡ませる。

 そして、意図的に甘ったるい声で使用人の耳元へ囁いた。


「ああ、あなた。報われない恋をしているのね、可哀想に。わたくしと同じだわ。ねぇ良かったら、わたくしたち、手を組まない――?」

 

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