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17・遭遇①


 薔薇の一件からさらに数日後。


「そうですか。書物を見ても思い出せない、と」


「はい……」


 ヴィエラはセリーンをともなって、城内で働く宮廷医師のもとを訪れていた。

 というのも、ヴィエラがルーンセルンの城にやってきてもうすぐ一ヶ月が経つ。

 オズウェルから過去の話を聞いてみたり、王城内の書庫で新聞を調べてみたりと色々したものの、結局何も思い出せない状態なのだ。

 さすがに不安になったヴィエラがセリーンに相談してみたところ、宮廷医師に聞いてみますかと提案されたのだった。


「お話を聞く限り、幼いヴィエラ様の身に降りかかった出来事を考えれば、解離性健忘(かいりせいけんぼう)――いわゆる記憶喪失を引き起こしてもおかしくはないとは思います」


 白衣姿の壮年の医師は、一通りヴィエラの話を聞いたあと、うーんと考える仕草を見せた。

 医師によれば、強いストレスやトラウマになるような出来事がきっかけで記憶を失うことはそれなりにある事例らしい。

 

 7年前、ヴィエラは馬車の事故で両親を失っているとオズウェルから聞いた。

 今のヴィエラには詳しい当時の状況は分からないが、両親を亡くす大事件に遭遇(そうぐう)しているわけだ。幼いヴィエラがトラウマに感じてもなんら不思議ではない。


 (確かに両親を失ったショックで全てを忘れてしまってもおかしくはないけれど……)


 だが、何となくではあるが、ヴィエラは釈然としないものを感じる。

 何かもう一つ、ショックな出来事があったような気がするのだ。

 

「僕は以前、戦場でのトラウマで記憶を失った兵士の治療に当たったことがありますが……。ヴィエラ様はそれとは少し異なる気がします。ああ、これは僕の勘なので、あまりあてにはなさらないでくださいね」


 医師はそう言って苦笑した。


「とりあえず、何か気になることがあればまた仰ってください」



 ◇◇◇◇◇◇

 


 医務室を出たあと、ヴィエラはとりあえず部屋へ戻ることにした。

 白い石壁の冷える廊下をセリーンとともに歩いていると……。


 (あら? オズウェルだわ)


 廊下の向こうから、銀の長髪を揺らしながらこちらへ歩いてくるオズウェルの姿が見えた。

 今日は確か、ヴィエラの7年前の件について再び当時の関係貴族たちを招集すると言っていたはずだ。

 その対応が終わったのだろうか。


「オズ――」


 オズウェルに声をかけようとして、ヴィエラははたと動きを止めた。


「オズウェル様、ですから何度も提案しているではありませんか。わたくしと()()を戻しませんか、と」


「何度提案されようと無駄だと言っている。私はヴィエラとの婚約を破棄するつもりは無い」


「まぁ! わたくしの時はあんなにもあっさりと破棄されましたのに!?」


 廊下の向こうから、オズウェルだけではなくレミリアの姿も見えたからだ。

 レミリアは巻いたピンクブロンドの髪を揺らしながら、オズウェルの体にまとわりついて強い口調で話し続けている。


「当主不在のホワイトリー家よりも我がロレーヌの方が歴史もあり有力ですと、父もずっと申し上げておりますのに……どうして聞きいれて下さらないの!?」


「それはお前たちの都合だろう。私が従う義理はない」


「まぁ、なんてこと!」


 レミリアが何を言おうとも、オズウェルは無表情で静かに答えを返す。

 時折レミリアにまとわりつかれた腕を嫌そうに払うものの、すぐにぎゅうと腕に抱きつかれていた。


 (なんだか……すごく嫌だわ)


 大きな胸をオズウェルの腕に押し付けているレミリアに、ヴィエラはモヤモヤとした黒い感情が湧き上がるのを感じる。

 自分以外の女性がオズウェルに親しげに触れているところなど見たくない。


 (オズウェルは、私のなのに……)


 そう考えて胸を押さえたところで、ヴィエラははっと顔をはね上げた。


「ヴィエラ様、大丈夫ですか?」


 後ろに控えるセリーンが、心配そうに声をかけてきたからだ。


「え、ええ」


 ヴィエラは慌てて笑顔を取り繕う。


 (でもどうしましょう。このままだと気づかれてしまうわ)


 どうしたらいいかヴィエラが廊下でもたもたしていると……。


「……ヴィエラ?」


 どうやらオズウェルがヴィエラに気づいたようだった。


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