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飾らない君は傾国の美女  作者: ダイズとカツオ
第二章 孤狼、魔性、そして欺瞞
20/24

外泊インソムニア

 愛華との鬼ごっこを楽しんだティアは、ボイスレコーダーの削除も泣いたことも忘れて帰宅した。


「ただいまー」

「あ、おかえり。って……」


 奏斗は当然のように家に入ってきた愛華にジト目をぶつけた。


「お前今日泊まんの……?」

「あたぼうよ。玲さんに挨拶しないとな」

「てか目の前で服を脱ぐな」

「や〜ん、えっちぃ〜」


 下着姿の愛華は両手で胸元を隠して体をくねらせる。なんだろう、全くエロスが無い。


 奏斗はバカを捨て置いて、そのバカの後ろに居たメイド服の梅に目を向けた


「それで梅も一緒なのか」

「お嬢様のあるところにわたくし有りです。もしかして、お邪魔でしょうか?」

「んにゃ、丁度頼みたいことあったし。それにしても今日はメガネなんだな」


 梅は普段とは違いボストン型のメガネをかけていた。


「急にコンタクトアレルギーになってしまいまして」

「それはドンマイだな……。でも、そっちの方が俺は好き。似合ってるよ」

「おにぃが梅を口説いてる!!」

「あらまぁ。ふふふっ」


 眉を八の字に寄せる梅にフォローを入れるが、愛華が大袈裟に叫ぶ。お前は早く服を着ろ。


「それで頼み事とは一体なんでしょうか?」

「掃除を手伝ってくれ。軽くで良いから」

「畏まりました」


 梅は髪をポニーテールに束ね上げ、メガネのブリッジを押し上げると眼光鋭くお仕事モードへと変わった。


 黙々と掃除を始めた二人。それを見ながら愛華が尚も下着姿のまま言った。


「っていうか掃除するとこ無くね。充分綺麗でしょ」

「これから恋人が来るってのに掃除しない理由があるか?」


 愛華は訝しげな顔で「そういうもんかねぇ」と呟きながらソファにドカッと腰を下ろす。だから服を着ろって。


 それから十数分後に掃除を終え、梅が着替えを持ってくるまで愛華は下着姿のままだった。


「そういえばティアは?」

「知らん。部屋じゃない?」


 すると、部屋からタンクトップとショートパンツに着替え、ゆったりとした薄手のジップパーカーを羽織ったティアが出てくる。


「なに?」

「あぁ、いや。スカジャン以上に懐かしいの出てきたなって」


 奏斗は彼女の首にかかったチェーンを指さす。ティアはタンクトップの中からそれを引っ張り出した。


「それおにぃがティアの誕生日に送った懐中時計?」

「ええ、もう壊れて止まっちゃったけど。で、こっちは私がアメリカに帰るとき、奏君が寂しくないようにって私に渡したロケット」


 ティアは動かなくなった時計と、幼い三人の写真が収められたロケットを優しく撫でる。


「うっわー、懐かし。にしても昔の俺ってキザだな……」

「今もじゃね」


 暁美にもキザと言われたのを思い出し、奏斗は少し傷ついた。


「わー!! 昔のお兄ちゃんだー! かっわいい!!」


 背後からぬっと現れた稀沙羅にティアが肩をビクつかせる。


「愛華ちゃんのクソガキ臭すご」

「オイどういうことだコラ」

「揉んでいいから許して」

「おっけー許す」


 稀沙羅が愛華の隣に座り、愛華は彼女を堪能する。


 妹達が繰り広げるそれに全力で目を逸らして奏斗。


「ってかなんで今更?」

「なんかあったら怖いし保管してたのよ。時計は既に止まっちゃってるし。でも、やっぱり持っておきたくって」

「ふーん、ま、俺もそっちの方が嬉しいかな」


 パチッと音を立てながらロケットを閉じる。そして、懐中時計と一緒にタンクトップの中にしまった。


 二人はソファに腰を下ろし、梅が淹れた紅茶を飲んで一息ついた。


「お昼ご飯に致しましょうか」

「そうだな。玲が来る前に食わんと」

「あたしパンケーキがいい! 薄いやつ」


 特に異論が無かったのでパンケーキを焼こうと奏斗が立ち上がる。


「なんでおにぃが立つんだよ。梅が作る流れでしょ」

「そうですよ。奏斗様はお休み下さい」


 奏斗は大人しく着座した。


 昼食を食べ終えてしばらくすると、インターホンが鳴る。


「おっと、来たかな」


 奏斗は立ち上がりインターホンの応答ボタンを押す。


「はーい」

『ムサシ運輸です』

「あぁ……今行きます」


 頼んだ覚えのない宅配物を受け取りリビングに戻る。


「あ、それ私が頼んだBL恋愛ゲー。ついに薔薇に踏み入ります」

「ふざけんな」


 ―――


 私は今、上機嫌のまま家を出る。それはもうスキップをしながら奏にぃの家へ向かうくらいには。


「あっ、……と」


 危ない危ない。ボストンバッグを下げて日傘を差しながらスキップ踏むとコケそうになる。普通に歩こう。


 私はそれから十分弱歩いて「安心院」と書かれた表札を見つける。


「でっっっか」


 私の彼氏はお金持ちなのかもしれない。


 呆然と、周囲の住宅よりも一際大きいその家を見上げながらインターホンを押した。


 すぐに玄関が開き奏にぃが出てくる。彼の顔には感情がいつもより前に出ていた。


 彼が門扉を開け、私は敷地に一歩踏み入れる。


「いきなりだったけど大丈夫だった?」

「大丈夫。俺も楽しみにしてたから」

「うん。顔に出てるよ」

「え、ウソ」


 彼はペタペタと顔を触ってから笑みを漏らす。釣られて私も笑ってしまう。


「にしても立派なお家だね。叔父さん何してる人なの?」

「それが謎なんだよね。一年のほとんどを海外で過ごしたと思ったら急に帰ってきたりするし」

「一年のほとんどを海外……なのにこんな大きい家を、しかも一人で……」

「一番怖いのは親父が死ぬ一週間前くらいにこの家を建てたってこと。先見の明ってやつ?」


 なにそれコワイ。


「ま、とりあえず上がってくれ」

「お邪魔します」


 門扉から進み、彼が玄関を開けて招き入れる。すると、


「玲ちゃぁーーーーん!!」

「んぶっ……」


 私が土間へ踏み入れると、突如として稀沙羅ちゃんに飛びつかれた。大型犬を飼うと帰宅する度にこんな風なのだろうか。


 視界が覆われ、私の顔面が温かく柔らかい双丘に包まれる。すんごいなこれ。ずうっとこうしてたい。


「おい、お前が飛びついて背骨折ったらどうすんだよ」

「大丈夫。あたし加減得意だから」


 確かに衝撃や負荷は一切無かった。


「あ〜、細身で可愛い」


 私をギュッと抱きしめてから彼女は体を離す。もう少しあの柔らかさと匂いを堪能していたかった。


 そんな私の下心は知らずに奏にぃは振り返る。


「じゃ、案内するから付いてきてくれ」

「わかった」


 奏にぃと稀沙羅ちゃんの後に続いて土間から上がる。そして、ホールの先にある扉を抜けると一際大きな部屋に出た。


(す、すごすぎる……)


 私はまるでドラマのような内装に息を呑んだ。


 そして、視界の端に桜羽場さんとメイドが映る。え、桜羽場さん!? メイド!?


「あら。こんにちは、玲さん」


 綺麗な二度見をかまして私が驚いていると、桜羽場さんがソファに座りながら体ごと振り返ってくる。


「こんにちは、桜羽場さん。どうしてここに?」


 私は努めて引き攣りそうになる頬を抑えながら問う。隠せているかは不明。


 しかし、私の質問は桜羽場さんではなく奏にぃが答えた。


「こいつ結構遊びに来るんだよ。今日は玲に挨拶とかなんとか言って」

「へぇ〜。まぁ、幼馴染だしね」


 私が気軽に呟くと、顔を(しか)めたティアがため息を吐く。


「アンタさぁ……私のときもだけどもう少し警戒したらどうなのよ」

「桜羽場さんなら大丈夫でしょ」


 それだけ言って、リビングチェアに座る茶髪ロング眼鏡っ娘メイドに目を向けた。


「それで、こちらのメイドさんは?」


 彼女は立ち上がり、スカートを摘み上げて恭しく頭を下げる。


「お初にお目にかかります、久遠様。愛華様専属の従者として桜羽場にお仕えしている九条梅と申します。奏斗様とは幼少の頃からの……友人と言うべきでしょうか。よく家のお手伝いをさせていただいています。以後お見知り置きを」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 超名門のスケールの違いに驚きながらも、私は彼女に向き直って頭を下げた。


「それじゃ、ちょっと家ん中案内するからついてきて」


 奏にぃについて行くと、彼がドアを指して順に言う。


「ここ俺の部屋。そっちが稀沙羅であっちはティア。それと、あそこの三部屋には入らないでくれ」

「了解」

「で、ここがトイレでそっちが風呂」


 私が奏にぃの案内を受けていると、稀沙羅ちゃんの声がさっきまで居た部屋から飛んでくる。


「お兄ちゃん、玲ちゃんの荷物はとりあえずあたしの部屋にでも置いといて」

「ういー。とりあえず今日は稀沙羅の部屋で寝てくれ」

「わかった」


 二階の部屋には大量の本がある書斎、書庫、他には物置部屋やトイレがあった。


 一通りの案内を終え、最初に居た部屋に戻る。


「それで、ここがキッチン、ダイニング、リビング。基本この部屋に居るかな。あとテラスとサンルームもある」

「これってダウンフロアリビングってやつ? ずっと思ってたけど、どの部屋もオシャレ」


 そして綺麗である。私が来る前に奏にぃが掃除をしていたのだろう。普段からしていそうだが。


 私の反応を余所に頭をガリッと掻きむしり、奏にぃはソファへと座る。


「ホント叔父さんは何を考えてんだか。このデカい家にティアが来るでは二人で暮らしてたんだぜ。ティアが来ても持て余してるけど」


 私はさりげなく奏にぃの隣に座って密着した。


「あとこれ、忘れないうちに渡しとく。家の合鍵」

「「え?」」


 ティアと私の声が重なる。なんで他の皆は動じてないの。


「家に大人が居ないからさ、なんかあったとき用に」

「あ、うん。わ、私が、……初めて?」


 私は緩んだ口角で口走る。が、しかし――


「ふふっ、わたくしが初めてです」


 微笑を浮かべ鍵をひけらかす桜羽場さん。私はすぐに真顔になった。


 何かあったとき用に渡しているのなら、彼女が既に持っているのは極自然なことである。このクソ色ボケが。


(まぁ、私は家族だからなんだけどね。一年未満の彼女に合鍵渡すって中々だよ、おにぃ。記念日でもないのに)

(信頼の証だよ。これで家凸され放題ですわ〜)


 そんな兄妹の無言のやり取りは露知らずに玲。


「ありがと。こういうのは信頼だもんね。大事にする」


 そう、重要なのは順番ではない。順番は関係ない。順番なんか気にしてない。私は振り払うように頭を振った。


「それじゃみんな!! ゲームをしよっ――」

「の前に!!!」


 溌剌とした稀沙羅ちゃんの声を奏にぃが遮る。


「スーパーで買い物をします。冷蔵庫になんもない」


 ―――


「買い物をする梅と奏君。あの二人を遠くから眺めていると、なんだか夫婦みたいですね」

「「なわけないでしょ!?」」

「仲良いね〜」


 ―――


 帰宅してレースゲームをひたすらに遊んだ一行。


 玲は初めてのゲームだというのに、数戦交えただけで奏斗に肉薄するようになり強化人間説が五人の中で囁かれてから、数時間後。


 奏斗が作った美味すぎるオムライスを食べ、舌鼓を打ち鳴らした玲は風呂に入ろうとしていた。


「いや〜ホントに美味しかった!! 店だよアレ」


 脱衣所でグイーっと伸びをする玲。惜しげなく晒される黒のブラと紐パン、そして腋。その様をさりげなく愛華が眺める。


(ぐふふふっ……アニメやコミック、ラノベでは謎の光さんが私を阻む。しかし、ここはリアルだ。すまんな兄よ。私は楽しませて貰うよ)


 内心で鼻の下を伸ばし内なるおぢを呼び覚ます愛華。その瞳の奥は完全に変態のそれだった。


 そんな彼女の内心を見透かしたのかティア。


「ねぇ……ホントに四人で入るの?」

「そりゃ勿論だよ! あたしは玲ちゃんと入りたい!」


 稀沙羅も愛華と同様ピンク脳内だったりする。


「いつも三人で入ってるんですから良いじゃないですか」


 そう言われると反論できない。


(なんだか奏君が可哀想ね。妹に下心丸出しで彼女の裸を見られるなんて)

(グッヘッへッヘッヘッヘ)


 しかし、愛華の本性も稀沙羅の内心も知らない玲は下着を脱ぎ捨て真っ裸になり、()()()()()()


(あ、何も考えてなかった)


 半開きの、完全に開くことの無い白く濁った右目に少しだけ、空気が重くなる。


「眼帯、邪魔そうね」

「そうだね。かなり邪魔かも」

「はずしたりとかは考えないの?」

「もう火傷は晒してるしはずしてもいいんだけどね。特別感が薄れるじゃん? 奏にぃって眼帯好きそうだしね」


 彼女は左目でウインクをして稀沙羅と共に風呂場に入る。ティアと愛華も彼女らに続いた。


「私の素顔は奏にぃとの秘密ってのも考えたけど、お母さんも知ってるしね。あと中学のヤツらも」

「玲ちゃんおいでー♡」


 一足先に湯船に浸かった稀沙羅が両手を広げて玲を迎え入れる。


「はぁ……きもちい」


 稀沙羅に抱き寄せられ、彼女を背もたれにする玲は言葉を漏らした。二重の意味で。


(玲さんってむっつりだよな……)

(むっつりって言うほど隠れてなくない?)


 二人も体を流してから湯船に浸かる。


「……浴槽デカくない?」


 四人がすっぽり収まる大きさの浴槽。この家は風呂も大きかった。


「ぶっちゃけ愛ちゃんと私の家はこれより更にデカいからなんとも思わないわね」


 横向きになり、浴槽の縁に脚を置いてティアは言う。


「お風呂が大きかったところで良いことなんてほぼありませんよ」

「虚無感というか、結構寂しいよ」


 玲は「それもそうだねぇ」と肩まで湯に浸かった。


「ところで、さっきからなんで渋い顔してるの?」


 脱衣所から眉間に皺を寄せたり寄せなかったりするティアに問いかける。


「ん? ああ、私コンタクトなのよ。今は外してるから」

「へぇ、そうなの」

「えぇ。目が悪いといっても、さっきからアンタの視線が私と愛ちゃんの胸を往復してるのは見えてるわよ」


 玲が弾かれるように目を逸らす。


「わかりやすっ」


 彼女の頬を水の粒が一つ伝った。それが汗か、ただの水滴かはティアにはわからない。


「い、いやぁ……桜羽場さんって意外と大きいんだなって」

「私は?」


 脚を置いたままのティアにジッと睨まれるが、玲はあくまで冷静に改めて彼女を眺めた。


 ふむ、なるほど抜群のスタイルだ。スレンダーで、女の子の憧れのようなスラッとした身体。が、しかし胸がない。とにかく無い。玲より無い。


「ぜ、絶壁……へぷっ」


 ティアにお湯を思い切りかけられる玲。顔を拭うとティアが声を荒げる。


「私より少し大きいからって調子乗ってんじゃないわよ!!!」

「それだけスタイル良ければ胸無くても充分でしょーが!」


 今にも飛びかかりそうな勢いの二人。バチィッと視線がぶつかり合う――――前に断ち切られた。


「えっ、ちょ」

「よいしょっ、と」


 稀沙羅が軽々ひょいっと玲を持ち上げてバスチェアに座らせる。


「洗いっこしようねぇ」


 隠せてもいない下卑た笑みを浮かべて玲の髪を撫でる。そして、鼻唄まじりにその髪を濡らし始めた。


「奏にぃって、今日みたいにゲームしてるの?」

「そうだねぇ」

「家事とそれ以外は」

「わかんない」

「私もわからないわ」

「わたくしもです」


 玲の頭でモコモコとシャンプーが泡を立てる。


「喫茶店巡りでもしてるのかな」

「喫茶店?」

「あれ、行きつけの喫茶店知らない?」

「知らないよ。頭痒いとこない?」

「うん、大丈夫」


 稀沙羅ですら知らないあの喫茶店。奏斗のプライベートの謎がより深まる。


「ホントに何してるんだろ」

「あたしを気遣ってかあんま一人で出歩かないし」

「実際は何もしていないのではないでしょうか」

「あてもなくプラプラと……ありえるわね」

「あっそうだ!」


 何かを思いついた玲が声を上げる。ティアから怪訝な視線を向けられるが、彼女は口にしなかった。


「はーい、体洗うよ」

「えっ、ま、まっ、前も!?」


(子供には見せられないシーンがこのあと始まる)

(別に始まらないわよ)


 一方その頃リビングで、


「梅は一緒じゃなくて良かったの」

「流石に五人は無理ですよ」

「二人のときくらい肩の荷下ろせば?」

「それは奏斗様もじゃないですか」

「それもそうかもな」

「ココアのおかわりはいかがでしょう」

「あぁ、頼む」

「畏まりました」


 梅は奏斗のコップを受け取って二人分のココアを作る。


 それから数十分、少ない言葉を交わしながらココアをひたすら飲んだ。


「いやー、五人分の髪を乾かすのは流石に虚無」


 風呂から出た玲達の髪を乾かし、その後になぜか梅の髪も乾かした奏斗はソファに沈んだ。


 ちなみに髪を乾かしている段階で稀沙羅が船を漕ぎ始めたので、稀沙羅と玲は既に部屋で寝ている。


「おにぃ、玲さんの裸は堪能させてもらったよ」

「そうか。とっとと寝ろ」

「なんかこう、良いお尻をしていたよ」


 膝の上で手を組んで無駄にキメ顔で愛華は言う。しかし意外だったのが、隣に座る四角いアンダーリムメガネをかけたティアが「まぁ、確かに……」と同意を示していたのだ。


 ティアの反応に頷く愛華はくわっと眼光を鋭く語り始める。


「彼女の体つきや身長から決して大きいお尻では無い。と、昼の私は思っていたよ。しかし、その実際の大きさはグラドルのBQBや稀沙羅ちゃんとも張り合えるほどに大きかったよ。それはもう遥かに大きかった。あの弾力を体現したムチムチは触るのも躊躇われたな。しかし何故今まで気づかなかった? あの大きさの尻と太ももなら制服の上からでもわかるはずだ。これも彼女の魅力なのか?」


 奏斗とティアの「触るつもりだったのかよ」といった目が突き刺さる。しかし、この目に屈している程度では変態を続けることは不可能だ。


「胸派のお前が珍しいじゃん」

「だって胸ないし。でも肋は良かったよ」

「私よりはあったけどね……」


 ティアが影を落とす。二人は彼女を無視した。


「まぁ、確かに良い尻だったな。めっちゃ柔らかい」

「え、触ったことあんの」


 失言である。こうなってしまえば愛華から逃げるのは不可能、奏斗は自棄だ。


「あぁ。下着姿の玲が俺の太ももにズボン越しにな」

「さてはあの雨の日だな?」

「ハッハッハッ、風呂入ってくる」


 逃げるように風呂場へと向かい、浴槽に浸かった。


「はぁ、ぬるい……」


 ―――


 完全に寝静まった奏斗の家。が、しかし――


(ね、ねれない……)


 時計の針がテッペンを越えてから数十分。玲は冴えに冴えて未だに眠れずにいた。


(薬、持ってきた方が良かったかな)


 玲は過去の経験から軽度の不眠症を患っていた。そのため睡眠改善薬を服用しているのだが、奏斗達に心配をかけたくないがために持ち込まなかったのだ。


 しかし、よく考えてみれば初めて他人の家で寝るのだから、薬に頼らずに寝れるわけが無かった。


(どうしたもんかな……)


 ゴロゴロゴロゴロと、数回寝返りを打ってから堪らず体を起こす。


「……玲ちゃん……ねれない、の…………?」


 突如として聞こえた声に思わず叫びそうになる。


「あっ、ごめん! 起こしちゃった?」

「ねれないの……?」

「あ、うん」

「そ、か……」


 稀沙羅は消え入りそうな意識でポツポツと言う。


「お兄、ちゃんのとこ……でねれ、ば……ねれるよ……いつもそうしてる…………」


 ふにゃふにゃな声で何とか言い切って寝てしまった。


(奏にぃのとこ……つまり添い寝!? いやいやいや、えぇ……!?)


 稀沙羅の助言に他意がありまくる妄想が膨れ上がり、玲は必死に頭を振る。しかし、表情はでへでへとしてその妄想が消えることは無かった。


「い、いっちゃう? いっちゃおうか」


 暗闇の中で誰かに問うその声音は明らかに浮かれていた。


「来ちゃった……」


 玲の目の前、無防備に眠る奏斗。暗い部屋の中でも微かに見える。


 恐る恐る部屋を進み彼の近くに寄る。


(可愛い寝顔……♡)


 起こさないように超慎重に彼の布団に潜る。熟睡しているのか彼が起きる素振りは見せない。


(あぁ……優しい匂い。落ち着くなぁ)


 いつもの扇情的で刺激的な匂いとは違い、優しく包まれるような匂いに体の力が抜けてゆく。


(この匂いが、香水と混ざってあんなにエロくなってるのかな……)


 冴えに冴えていたはずなのに、瞼が突然重くなってゆく。全身の力が完全に抜けて、玲は微睡みの中に落ちていった。


「おや、すみ……奏にぃ…………」

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