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飾らない君は傾国の美女  作者: ダイズとカツオ
第二章 孤狼、魔性、そして欺瞞
19/24

美容院での会話ってお互い嫌だと思う

タイトル変更とプロローグを大幅変更致しました。

これからもよろしくお願いします。

「あぁ〜、終わったぁぁぁぁぁぁ!!」


 チャイムと同時、泥のように溶けて椅子からズルズルと落ちる稀沙羅。


 それもそのはず、今日をもって三日間のテストを終えたのだ。教室の面々も同様に脱力しきっていた。


「やっぱ肩めっちゃ凝る……お兄ちゃん肩揉んでぇぇぇ〜」

「はいはい、こっち来い」

「テストも終わったし、しばらく行ってなかったジムにでも行きますか〜。お兄ちゃんも行くでしょ」

「もちろん」


 稀沙羅が肩を回しながら奏斗の席に移動する。このとき、玲が主に胸に向かって信じられない物を見るような目をしていたが気にしない。


「三日間ずっとテストは流石に堪えるよねぇ」


 玲は大きく息を吐いてからグググッと背伸びをする。


「この三日間に全教科やらされるからなぁ。普通五日間とかだろ」

「びゃぁ〜、き゛も゛ち゛ぃ〜」


 奏斗が肩を揉んだり肘を突き立ててグリグリする度、稀沙羅がふにゃぁと溶けていく。


「ところでさ、今日美容院行くんだけど何か要望ある? 容貌の要望ってね!」

「それ私に訊くの?」

「あ、うん。この際君の好みに合わせるのもアリかなって」

「私が好きな髪型かぁ」


 顎に人差し指を当て、視線を右上へ泳がせながら思案する。


「んーと、じゃあ女殴ってそうな髪で」

「……具体的に頼む」

「襟足長めのウルフカットで前髪は六四分けくらい」

「おっけ。――いや前と変わってなくね?」

「だってあの髪型が好きなんだもん」

「っていうかそんなイメージ持たれてたの? マジ?」

「まぁ、お兄ちゃん胡散臭いし」


 妹にも似たようなことを言われ、「ぅえー」と間の抜けた声を漏らす。


「でも実際には女を『殴ってそう』じゃなくて『殴ってる』んだよね」


 その瞬間、教室に居た全ての視線が突き刺さる。奏斗は全力でかぶりを振った。が、


「じゃあ、その首筋の痣って……」


 と、誰かがボソッと呟く。人の彼女を観察してるんじゃねェ。


「ちょっと待て、俺は殴ってない! ほら、よく見ろ。痣なら俺にもある」


 奏斗はシャツの襟をグイッと引っ張り、右側の首筋を強調させた。


 ちなみに両名の痣は首を噛み合った結果である。文子達と密会をして以来、癖になった玲に頻繁に求められるようになったのだ。良くないことを覚えさせてしまったと思う。


「そんなの見せられても、だから? としか言いようがないんだけど」

「じゃあ勇人、よく考えてみろ。殴るなら普通腹だろ? 痣は隠れるし、痛がるし」


 奏斗が至極当然そうな顔で言うと、視線が冷ややかなものへと変わった。次第に表情が引き攣ってゆく。


「おっと、失言か……?」

「可哀想だから訂正しておくけど、奏にぃは私を傷つけるのが怖くて満足にハグもできないような人だから」

「おォい!!」


 奏斗は顔を少し紅くしながら声を上げる。視線が生ぬるいものへと変わる。


「まぁ、サディストであることには間違いないけどね」

「君の方がよっぽどだろ……」

「私はマゾだけど?」


 そう言って玲はころころと笑った。そんな彼女にジト目になりながらも、奏斗は溜息を吐いてから稀沙羅のマッサージへと再度意識を向けた。


「びゃぁ〜、き゛も゛ち゛ぃ〜」

「そういえば、テストはどうだった? 満点は取れそう?」

「いや無理だな。ごめん」


 即答して頭を下げる奏斗。素で申し訳なく思っている様子に玲は小躍りした。


「ま、明後日にならないと結果は分からないし、私はいつまでも待ってるよ」


 玲は目を細めて微笑む。彼女の微笑みに居心地の悪さを感じ、稀沙羅の肩に肘を突き刺しながら奏斗は呟く。


「帰るか」


 教室を出て、靴を履き替えて、校門を出る。学園から十分と少しかかる位置にある駅の電車に乗り、そこから二駅過ぎたとこで降りる。


 いつもの帰路について歩いていると、ふと駅前の洋菓子店が目に留まる。買い食いが始まった。


「エクレアが食べたい」

「あたしも賛成」


 エクレアを買った三人は近くのベンチに座って食べはじめる。食べ歩きは主義的にNG。


「明日明後日は半日か、期末勉強でもしようかな」

「嘘だろ……」

「玲ちゃん……あたし恐いよ」


 ちなみに半日の理由は、金曜日までに教職員が死に物狂いでテストの採点をして順位を算出するためである。あとは生徒たちの休養のため。


「忘れてるわけないと思うけど、明後日は新生徒会挨拶のリハね」

「もちろん覚えてるよ。土日が明けたら本番でしょ。あ、クリーム付いてるよ」

「あぁ、ありがと。それで、夢さんには何となく話したようだけど、そろそろ自分の中で整理はついたか? 何のために、何をしたいか」


 奏斗が何気なく零すと、玲はクリームを掬いとった指を咥えたままにして体をピクっと震わせる。


「なんで言ったことも、整理ついてないこともバレてるの……」

「君の顔を見ればわかるよ。あと、夢さんがたどたどしくて可愛らしいって言ってたし」


 すると、玲は渋い顔をして「うげ」と声を漏らした。


「あの人、苦手ってわけじゃないんだけど少し身構えちゃうんだよね。全て手のひらの上というか、初対面のときの奏にぃに近い」

「そうか? 愉快な人だけど」

「そう思ってるの学校でお兄ちゃんだけだと思う」


 ジト目を向けながら稀沙羅はエクレアを食べる。自分のものではなく奏斗のものを。


「話戻すけど、土日を使って自分の気持ちをゆっくり整理すると良いよ。たどたどしいままじゃなくてね」

「うん。何のために何故目指すのか、ねぇ……」


 そう言って玲は遠くを見つめる。夢との会話でも思い出しているのだろうか。


「というか奏にぃはどうなの」

「俺か? そんなの、君と立候補を決めたときに確固たるものとしてあるよ」


 玲の瞳を覗きながら微笑むと、彼女はぷいっとそっぽを向く。


「バカップルめが」


 ―――


 時は経ち二日後。奏斗達生徒会メンバーは放課後の大講堂にいた。


「うん、こんな感じでいいんじゃないか」


 全校生徒がここに集まっても余りある程の収容人数を誇る大講堂に、健吾の声が響く。そこは大きいだけあって、寒気を覚えるほど閑散としていた。


「みんな上手ねぇ〜。一人五分に収まってるし」

「まぁ、今一人五分に収められたところで本番に伸びるんでしょうけど」


 少し離れた位置で詩織とアキラが話している。その様子を、髪を切ったことでいくらかクリアになった視界で奏斗は眺めていた。


(おかしい……)


 眺めながら、訝しんでいた。


 こんな風にしていると当然目が合うことがあるのだが、その度にぎこちなく目を泳がせてから、弾かれるようにして視線を顔ごと逸らされてしまうのだ。


(なんかしちゃったっけ――?)


 おとがいに手を当て、首を傾げていると――ほら、また目が合う。そして、


「……っ!!」


 こんな感じで逸らされる。若干顔が赤い気もするし、クールビューティーは完全に消えていた。


「アキちゃん、大丈夫?」

「え、ええ、大丈夫よ」


 どうやら違和感を感じているのは詩織も同様らしい。


 直接訊こうか迷ったところで、舞台袖から葵と玲が歩いてくる。


「音響の方も問題なさそうだったよ」

「ありがとな。久遠もお疲れさん」

「お疲れ様です。ほとんど先輩がやってくれたので私は何もしてないんですけど」

「いやいや、久遠さんが居て助かったよ」

「ホントですか? ありがとうございます」


 玲は健吾や葵といくつか言葉を交わしてから、首を傾げる奏斗のもとへと向かった。


「どうしたの、なんか考え事?」

「あぁ、いや、なんかアキラ先輩が普段と違うなぁって」

「気になるの?」

「まぁな」

「それじゃ直接訊いてみよ」

「えっ、おい!」


 奏斗は何となく止めようと手を伸ばす。しかし、その制止も間に合わず、玲はアキラに話しかけてしまう。


「如月先輩、ちょっと訊きたいことがあるんですけどいいですか?」

「えっ、うん、いいけど……」

「まぁ、訊きたいことがあるのは私じゃなくて奏にぃなんですけど」

「……どうしたの?」

「えっと――」


 口ごもる奏斗と直視を避けるアキラ。謎に気まずい雰囲気が漂っていた。


「その、何か避けられてる気がするんですが、その心当たりがないんです。もし僕が何かしてしまったのなら謝りたいなって思いまして」


 誠意を込めて真正面から告げる。すると、少し迷ってから口を開く。


「あ、あぁ……あの日のことよ……朝に結構強い雨が降ったことがあったじゃない。その日に生徒会室で、ふ、二人が……」

「「あっ」」


 なんのことか思い出し、二人の声が重なる。


 雨に濡れ、玲が暴走したあの日。アキラは偶然にも生徒会室に訪れ一部始終を目撃していたのだった。しかし、その後は各々の予定だったりテスト期間に突入したりして、あの日以来三人が顔を合わせることは無かった。


 つまり、アキラはずっと解消されずに今日まで過ごしてきたのだ。そして、頻繁にあの日の光景を思い出しては羞恥にまみれていた。


 一方で奏斗は、あの日起きたことを忘れていたという訳では無かった。奏斗の中で"過ぎた話"として処理され、それと同時に誤解が解けたと思い込んでいたのだ。


「「すみませんでした」」


 二人揃って深く深く頭を下げる。その様子に若干慌てるアキラ。


「と、とりあえず顔を上げて?」

「「はい!」」

「えっと、二人は付き合ってるわけだし、別にああいったことをするのは勝手だと思うわ。でも……場所がね……」


 苦笑いを浮かべるアキラ。二人は返す言葉も無かった。


「あと、余計なお世話かもしれないけれど先輩として言っておくわ。物事には万が一ってことがあるから、遊びでするのは良くないと思うの。責任感とか大事にしないと」


 全くその通りである。俺らは深く頷いた。


「もし、できちゃったりしたら――」

「ん?!」

「命を預かるにはまだはや――」

「ちょっと待ってくださいアキラ先輩」


 アキラが言いかけた言葉を、奏斗が食い気味に遮る。


「な、なんの話です?」

「だ、だからっ、子供ができちゃっ――」

「如月先輩、私達まだそこまでいってないです。なんならファーストキスもまだです。……まだだよね?」


 ギギギと圧を伴ってこちらを向く玲。奏斗は全力で頭を縦に振った。


「え、で、でも、あれって対面座――」

「ストーーーーーーップ!!! 先輩からその言葉が出てくるのは解釈不一致すぎる!! やってないですよ! そんなこと!!」

「で、でも、シャツがはだけてたし……」

「下は履いてましたよ!?」

「でもでも玲ちゃんの格好が!」

「それは雨に濡れて着替えていたからです! あれは私のちょっとした悪ふざけで抱きついていただけなんです!」


 ちょっとした? 奏斗は訝しんだ。


「とにかく行為には及んでません」

「ほんとに?」


 二人が激しく頷くと、信じて貰えたのか、アキラは息を吐いて力を抜いた。


 そして、咳払いをしてから姿勢を正し、腕を組んでクールさを取り戻してから言った。


「とにかく! 二人は場所を選ぶこと。そして以後気をつけなさい」

「「反省してます」」


 ―――


 リハーサルは無事に終わり、生徒会室一年ズは部活動の喧騒の中、学年の掲示板に張り出されたテスト結果を確認していた。


「何で私が八位なのよォォーーーッ!!!!」

「うっせぇ」


 誰もいない廊下にティアの声が響き渡る。あ、打球の良い音もする。


「なぁゆづ、八位でも十二分だと思うのは俺だけか?」

「それな」

「そうだけど! せめて!! 愛ちゃんの次に立ちたかった!!!」

「でもお前は外部進学だからな。その分不利だろ」


 一番上にある自分の名前を何の感慨もなく眺めながら奏斗は言った。


「でも玲は最初のテストで二位取ったんでしょ!? 編入生なのに!!!」

「ふふふ、私はまぁ天才だからね」

「ムカつく――ッ!」

「外部進学とは言っても我々は過去問を使用してますからね。そこまで不利では無いのではないでしょうか」

「それ言わないでよ……」


 目の奥で笑いながら、愛華の言葉がティアの止めを刺した。えげつない女である。


「あ、でも英語の点数では俺に勝ってるぞ」

「What the fuck!? Foooo!!!」

「その代わりに玲が満点だから、お前と同点だな」

「ハァ……fuck」

「ネイティブFワードウケる」


 がくっと肩を落とすティアを余所に、玲が奏斗の個票を覗き込む。


「あと7点で全教科満点じゃーん。どこで落としたの」

「全部ケアレスミスだな。字が汚いから」

「いや勿体なすぎるだろお前」

「お兄ちゃんいつもこんな感じだよ」

「マジか……」


 奏斗はその場にいる全員から呆れた視線を向けられる。


 別に字を綺麗に書こうと思えば書けるのだが、そうすると思考のスピードについていけなくなる。それは奏斗にとって非常に煩わしい事だった。


「さて、賭けに負けた訳だが」

「そうだね。要求についてはもう考えてあるよ」


 玲の言葉に、肩を落としていたティアが鋭く反応する。他の面々も、一体どんなえげつない命令が来るのだろうか、と緊張が走る


「こほん。それでは発表します」

「ゴクリ」

「今日の夜から日曜日の夕方まで、奏にぃの家に泊まろうと思います」

「ほーん」


 玲が告げた要求は意外にも普通だった。てっきりドギツイ命令が飛んで来るかと思っていた奏斗はホッと胸を撫で下ろす。が、しかし――


「はああああああああああ!?!?!?」


 当然ティアは納得出来ずに猛然と叫ぶ。


「うるせえなぁ。そもそもお前は居候の立場だろうが」

「うぐっ……」

「玲ちゃん泊まるの!! やったぁ!!」

「稀沙羅も嬉しそうにしてるぞ」

「あの子見てると私まで元気になってくるのよね。ってそんなことはどうでもよくて」

「どうせアナタに拒否権はないよ〜」


 半笑い気味の玲に溜息を吐いてティア。


「んなの分かってるわよ。はぁ、もうなんかどうでもいいわ。帰ろう、愛ちゃん」

「それでは皆さん、お先に失礼します」

「じゃあの〜。まぁ、家で会うんだけど」

「ばいば〜い!」


 二人は肩を揃え去ってゆく。その背中をジッと眺める奏斗。二人の姿が曲がり角に消えると、視線を逸らして呟いた。


「俺らも帰るか」


 テスト結果の確認はもう済んだので、特に異を唱えることも無くそのまま全員で学校を出る。


(家の掃除もしたいしな)


 なんて奏斗が思っているとき、とある空き教室に二人の人影があった。


「それで、話って?」


 一足先に帰ったはずの愛華が、こてんと首を横に倒す。その先には、開けっ放しの窓に両肘を置き、愁いを帯びた瞳で外を眺めるティアが居た。


「……」


 外を眺めたまま、彼女は一向に口を開かない。


(出来れば新生徒会挨拶までには憂さ晴らしをしときたいんだけどな〜)


 愛華は内心で溜息を吐きながら思う。


 彼女はプライドが高く、常に理想の自分であるために外面を見繕っている。当然そんな状態ではストレスが溜まってゆく。だから、私が数ヶ月に一度、彼女の話を聴いてストレスを発散させる必要があった。


 だが、彼女は超がつくほどの負けず嫌いだ。そのせいでなかなか口を開いてくれない。甘えとでも思っているのだろうか。


 彼女がアメリカに居た頃はメールだったこともあり、割とすんなり話してくれていた。しかし、対面だと気の持ちようが違うらしい。故に、ゆっくり話を聴いて発散させてやるのだが、そうもいかなくなってしまった。


(休日に玲さんがいる以上、ティアに関われる時間も減る。弱ったなぁ……)


 やはり、今日解消するしかない。


(つーか、ティアの一番のストレスはおにぃだってのに)


 想い人との同棲ってだけでも尋常ではないだろう。その上、向こうは普通の顔して接してくるのだ。脈ナシなのは分かりきっていても、その反応をされるのは辛いなんてもんじゃない。気を遣われたら、それはそれでだが。


 頭の中でぐるぐる考えていると、彼女が両肘を離してこちらへ振り返る。


「別に一緒に居て辛いとか胸が苦しいとかは思わないわ。お互いに繕わず、強がらず、素で話せる貴重な人だもの」

「驚いた。私の考えてたことのアンサーをくれるとは」

「ははっ、偶然よ。私はどっかの誰かさんみたいに心は読めないもの」


 片眉を吊り上げながら、ティアは肩を竦める。


「ところで、本当に辛くないの? だったらこの時間意味無くね」

「――ごめん、嘘。ちょっと辛いし、胸はめちゃくちゃ苦しい」

「ちゃんと言えたじゃねぇか」


 無駄なキメ顔で口端をニッと吊り上げ、某有名セリフを吐く。本家は全くもっておふざけな雰囲気では無いのだが、この場が神妙なのは確かなので良しとしよう。


「それで、言いたいことあるんでしょ。蓋をされたストレスが発酵してるよ」

「そうね。選挙戦の障害になっては堪らないし、強がって無駄か」


 天井を仰いで息を吐いた後、再度愁いを帯びて語り始めた。


「いつだったかしら、ちょっと前に三人で下着を買いに行ったことがあったでしょ」

「あったね。フリフリの下着を買ったやつ」

「茶化さないで」

「ごめんごめん」

「それで、そのときに何で同棲を許可したか訊いてみたの」

「へぇ?」


 おとがいに手を当てながら、愛華は興味深そうに相槌を打つ。


「そしたらあの子、何て言ったと思う? 『私は友達を大事にする人が好き』だってさ。『一年未満の付き合いの私が奏君の数十年を否定するのも違う』とも言ってたわね」


 ティアは乾いた笑いを浮かべながら遠くを眺めていた。


「一瞬、敵わないって思っちゃった」


 苦悶を滲ませティアは俯く。


「告白するまで諦めないって誓ったのに、一瞬でもそれを手放した……。そんなこと、一瞬たりとも思いたくなかった――!! 私はまだ諦めたくないのに――!!」


 タガが外れ、抑え込んでいたものが溢れ出す。そして、尚も叫び続ける。


「奏君といると否が応でも分かるの! 私はあの子の代わりにはなれない。だけど、あの子は私の代わりになれる……!!」


 いや、なってみせたのだ。そも、奏君のために何も出来なかった自分が、彼女を自分の代わりなどと語るのは滑稽な自惚れにすぎないが。


 とかく私は吐き出し続ける。内に溜まった自己嫌悪と嫉妬を。


「私は喚き散らしてるのに……あの子は笑って私を受け入れた。もし逆の立場だったとしても、きっとあの子は奏君の幸せを願って私を応援するんでしょうね……」


 ティアは震える声で瞳を濡らす。そんな彼女に言葉はかけず、愛華はただ抱き締めた。


「どうして……っ、好きな人の幸せを、っ喜べないのかなぁっ……」


 愛華の肩に顔を(うず)め泣きじゃくる。まるで子供のような彼女の頭を愛華はそっと撫でた。


「ごめんね。私が恋心を理解できないばっかりに、何も言ってあげられなくて」


 私が優しく囁くと、彼女は顔を埋めたまま首を横に振った。


(まったく……泣き虫なのも変わってないなぁ)


 七年ほど前のことを思い起こされ微笑を浮かべていると、ティアがポンポンと肩を叩き、するりと抱擁から逃れる。


 そして、彼女は俯いたまま両の手で濡れる目を擦った。


「あーあーあー、そんな擦ったら腫れちゃうよ。おにぃにバレちゃうよ?」

「別にいいわよ。奏君なら、先に帰るって言ったときに気づいてるだろうし」

「それもそうか」


 納得を示した愛華はティアの頭へと手を伸ばす。が、直前ではたかれる。


「それでさ、いつ告白すんの?」

「……っ別に、いつだっていいでしょ」

「良くないよ〜。このままだといつまで経っても告白しないでしょ」

「…………するわよ」


 ニヨニヨと笑う愛華にムッと唇を尖らせる。


「するったって、具体的にいつ?」

「いつって……選挙戦が終わるまでには……」

「終わるまでには?」

「告白……するわよっ……」

「絶対?」

「絶対……」

「言質取ったり」

「は?」


 愛華の発言に困惑するティア。すると、愛華はブレザーのポケットからボイスレコーダーを取り出した。


「――それ、一体いつから」

「最初から♡」


 キャハ☆っと笑ってみせる愛華に、プルプルと身体を震わせながらティアは憤然と叫ぶ。


「この性悪女がァ――――――ッ!!!」

「やばっ、逃げろーい」

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