タネ明かし
「そういえば奏にぃ」
昨日買ったラノベを休み時間に読んでいると横から声が掛かる。
「ん、どした?」
「奏にぃの名誉回復のための秘策についてなのだけれど、貴方の知り合いに広報委員はいる?」
広報委員と聞いて候補はいくらでも出てきた。だが、それを知って何をするかが奏斗には透けて見えたので教える気にはなれなかった。
「いないって言ったら?」
「私がこのままじゃ納得出来ないの。まぁ、本当にいないのなら別にいいけど」
「はぁ、しょうがないか。一番適した人が居るから連絡とってみるよ」
奏斗はそう言ってスマホを操作してメッセージを送ると、すぐに返信が返ってきた。
「流石に早いな。明日の放課後にでも、だって」
「わかった。ありがとう」
――というわけで翌日の放課後。
「にしても奏にぃって顔が広いよね」
「忘れられがちだけど元副会長だからな」
「何森先輩に広報委員長、手芸部の人とも仲良いんだっけ」
「まぁ、そうだな」
「あれ、女の人ばっか……?」
玲が余計なことに気付いたタイミングで委員会室に着く。
「失礼しまーす」
「失礼します」
扉を開けると、チェーン付きのメガネを掛けた小柄な少女がコーヒーを飲んでいた。
「おや、思っていたよりも早かったね。お前も飲むかい?」
「遠慮しときます。コーヒー飲めないから」
「そうか。それで、君は初めましてだね、久遠さん」
彼女がこちらに歩み寄ると、重厚でスモーキーな香水が香ってくる。
小さく、私と同じくらいに細い体。見たところ140cm半ば、と言ったところだろうか。
「初めまして、会計の久遠玲です」
「広報委員長の御旅屋夢だ。よろしく」
紫黄水晶ような三白眼にジロリと見つめられながら玲は思った。
(不思議な雰囲気の人……)
玲の目の前にあるのは、下手をすれば小学生と間違われる程の童顔と小柄な体。だが、彼女が纏う香水のせいか、はたまた落ち着き払った雰囲気のせいか、とにかく彼女は大人の女性と呼ぶに相応しかった。
「? 私の顔に何か付いてるかな?」
「あ、いえ、綺麗な瞳だなぁ、と思っただけです」
「玲には負けるよ」
「それは否定しないがお前に言われると腹が立つな」
夢に睨まれた奏斗は、ペッと舌を出しておどける。
「それじゃあ、私は準備を進めるから少し待っていてくれ」
そう言って彼女は、三脚カメラとボイスレコーダーを取り出した。
「随分と本格的なんですね」
「これはまぁ、ただの記録だよ。最悪、何かあったときの証拠にも成る。記録に残るのが嫌だったらいつでも言っておくれ、事が終わったら削除しておくよ」
「そこは大丈夫です。今度は私の番ですから」
毅然とした態度で玲は言った。
(私の番……か。やっぱり失敗だったかな)
奏斗は玲の言葉を聞いて複雑な表情を浮かべる。尤も、彼が複雑な表情を受かべていたのは最初からなのだけれども。
――少しして、丁度準備が終えた頃、ノックが三回鳴る。
「これって、遅刻ですかね」
「むしろタイミングが良いくらいだよ。それに、掃除当番だったんだろう?」
「そうは言っても遅れたことに変わりはありませんから」
それだけ言って、その少年は玲に視線を移した。
「初めまして久遠さん。僕は工藤政実。今日はよろしく」
「えぇ、よろしく」
四人は向かい合って席に着く。
「さてと、本題といこうか」
「はい、なんでも答えます」
「それじゃあ、病院送りにした件に関して、その時の詳細な状況について聞かせてもらおうか」
―――
いつぞやの、いつもの喫茶店で私が初めて口にした名誉回復のための『秘策』
それは奏にぃの一件の真相を公表し、不祥事を武勇伝に昇華させること。だが、生憎と学園中にそれを広められるほどのツテが私には無かった。
そこで思いついたのが広報委員会の存在である。
広報委員会は『学園新聞』とは別に、ゴシップネタをメインに取り上げる『Dawn』という記事を発行している。私は読んだことが無いけれど。
要するに、私はどうにかしてその記事に取り上げてもらおうと画策したわけである。
しかし、私は人付き合いが得意では無い。得意では無い、なんて言い方をしたがハッキリ言って苦手だ。
そして、私がどうすべきか二の足を踏んでいた頃、朗報が舞い降りた。
それは奏にぃが会長と学園新聞の打ち合わせに同行した時の事だった。何でも広報委員長が奏にぃの一件について詰め寄ったらしい。更に話を聞いてみると、奏にぃは広報委員長と仲が非常に良いらしい。
灯台下暗しというやつで、答えは近くにあったのだ。
とまぁ、そういった経緯で今に至る。
「それじゃあ、病院送りにした件に関して、その時の詳細な状況について聞かせてもらおうか」
「その前に、私の話をしましょう」
そう言って彼女は語り出してしまった。
やはり複雑だ。彼女は気にしていないようだが、俺が気にしてしまう。俺のせいで結果的に彼女の知られたくない過去を全校生徒に流布することになったのだから。
奏斗はぐるぐると頭の中で同じようなことを考え続けた。まさに上の空といった感じで、外の時間経過など埒外だった。
すると、隣から声がかかる。
「それは違うよ、奏にぃ。もう知られたくない過去じゃないから。まぁ、人に進んで話すようなことじゃ無いけど」
気づけば、二人は話し終えていたらしい。そして、当たり前のように心を読まれている。
「全ての紆余曲折を経て『今』がある。これは貴方の言葉だよ。あの時こうすれば〜って、ただの結果論。私のための行動なんだから後悔はしちゃダメ」
「後悔はしてないよ」
「ならそれでいいじゃん」
彼女があんまりにも気楽に言ってしまうので、拍子抜けしてしまう。
「それで、どこまで話したんだ?」
「聞いてなかったの? いじめられてたことと、事件の内容についてだよ」
すると、情報を整理し終えた夢と政実が神妙な面持ちで口を開く。
「まずは謝らせてくれ。すまなかった。君について誤解していたよ」
政実は深く頭を下げた。
「いいよいいよ。知らなかったんだからしょうが無いだろ」
奏斗は鬱陶しそうに顔を上げるよう促す。
続いて夢が頭を下げた。
「そして久遠さん、君には辛いことを話させた。薄っぺらな言葉にはなってしまうが、今までよく頑張った」
「いえいえ、これは奏にぃの自己犠牲への責任ですから」
なんでもないことのように彼女は笑う。
「にしても、らしくないとは思っていたが、合点がいったよ。道理で処罰もないわけだ。彼女を守るために、教師を口止めして汚名を一身に受けるとは。結局、お前らしいと言えば、そうなのかもしれないね」
夢の言葉を聞いて、奏斗は肩を竦める。
「それじゃあ政実は彼女の話をまとめておいてくれないか」
「分かりました」
「奏斗も手伝ってやってくれ」
「俺ですか?」
夢が無言でコーヒーを呷る。
どうやら、二人きりで話がしたいらしい。
「あんまりイジメないでくださいね〜」
「今の状況でそれは洒落にならないと思うんだが……」
内心で「あ、確かに」と、思いつつ彼は別室に移動した。
「それで、これから私は少し踏み込んだ話をするが、嫌だったら遠慮なく断ってくれ。これは私が、胸糞悪い推測のまま終わらせたくないだけだからね」
少しの緊張と共に、玲は唾を飲み込んだ。
「まずはその火傷跡と眼帯について教えて欲しい」
「これはいじめが原因です。色々あって薬品をかけられちゃって……」
えへへ……と、頭を搔く玲。一方で夢は、自身の耳を疑っていたが、深堀る気にもなれなかった。
「虐待もあったりしたのかい?」
「残念ながら。よく包帯なんか巻いてました」
夢は頭を抱えて眉間に皺を寄せる。そして、ドスの効いた声で言った。
「私の推測通りか。全く反吐が出る。実に不愉快だ。周りの大人は助けてくれなかったのかい?」
「保育園には通わせて貰えませんでした。それに、外にも出して貰えませんでした。加えてこの体質ですから、外に出ていなくても不信がられることは無かったんです。近所の人にも気味悪がられていましたし」
彼女は自分の肌を視線で示しながら、苦笑いを浮かべる。
「虐待が発覚したのは熱湯をかけられて病院に運ばれたときのことでした。その後すぐに両親は死にましたが」
先程の苦笑いから一転して彼女は嬉しそうな笑みを浮かべた。その様子を見ていると、胸が強く締め付けられる。
(そんな顔をする人は初めてだよ……)
生まれながらの天才。奇っ怪で特異な容姿。故に彼女は理解されず、当人もまた周囲を理解出来なかった。結果、抑圧と横暴と迫害の嵐に見舞われた。
そんな凄惨な過去が綯い交ぜになった無邪気な凶相を、彼女は浮かべていた。
「それで、質問はまだあるんですよね?」
いつもの表情に戻った玲に問われ、戦慄していた夢はパッと意識を切り替えた。
そして、居住まいを正し、メガネのブリッジを押し上げてから言った。
「君が生徒会長を目指す理由は?」
試すような彼女の視線に、少したじろぐ。
そして、玲は自分の中ですら纏まっていないその理由を、奏斗にすら話していない自らの決意を、一つ一つすくい上げて紡いだ。
ポツリポツリと稚拙に呟いていると、夢が目を見開いてゆく。
「ふふっ、なるほど。奏斗が選んだだけはあるな」
口に手を当てて、穏やかに笑う夢。
「奏斗、話は終わったよ」
彼女は満足気に奏斗を呼んだ。すると、怪訝な顔をして彼が戻ってくる。
「それじゃあ、Dawnは新生徒会挨拶までに書き上げれば良いかな?」
「いや、記事の方は週明けにしてください」
軽く言ってくれる奏斗を、夢は睨む。
「今週明けたらテスト二週間前ですよ? そっちに集中した方が良いでしょ」
「あのね、簡単に言ってくれるが――まぁ、いいか。今回のことは君達への貸しだと思っておくよ」
夢は諦めたように肩を落とす。
「今日はありがとうございました。そういえば、夢先輩ってかなりの影響力持ってますよね? 知りたかったとはいえ、どうして即答でOKしたんですか?」
玲の言う通り、各委員長や人気の高い生徒はその影響力を考慮して選挙戦に関わる行動は慎重になる。
玲としても新生徒会挨拶前に彼女ほどの人物が協力してくれるのは不可解だったし、奏斗にお願いしたのもダメ元だったりする。
小首を傾げる彼女に、夢は確信に満ちた笑みを浮かべて言った。
「生徒会長になるんだろう? だったら、恩は売っておかないとね」
―――
週が明け、テスト二週間前の月曜日。
三人は珍しいことに、いつもより遅い時間に登校していた。
生徒達はかなりの人数が既に登校していたし、そのおかげで奏斗の作戦通りに行きそうだった。
そして、奏斗はいつもの数倍の視線を浴びながら教室に向かう。
彼らを見る者全員が、共通して同じ話題を口にしていた。やはり期待通りに行ったらしい。
前日、玲とのメッセージアプリにて――
『明日、いつもより遅い時間に行こう』
『どうして?』
『明日には記事が出来てる。それが広まってから、俺らは見せつけるように登校するのさ』
『なるほど。わかった』
そして現在。
「思った通り、皆が注目してるね」
「夢さん、ちゃんと約束通りに書いてくれたんだな」
「お二人共、昨日は何してたの?」
「広報委員長に例の一件の詳細を記事にしてもらったの」
玲の言葉を聞いた稀沙羅は少し目を見開く。そうして彼女は、にぱっと花が咲いたような笑みを浮かべる。
「じゃあ、お兄ちゃんが不当に批判されるようなことは無くなったわけだ。あたしとしても嬉しいな」
稀沙羅は踊るような足取りで進んでゆく。そんな彼女に引っ張られるようにして二人も後に続いた。
その道中で様々な視線を向けられながらも、三人は教室にたどり着いた。案の定というか、中に入っても視線を向けられる。
だが、話題がデリケートなこともあってか、話しかけるのを躊躇ってソワソワした様子のままであった。
「(これ、どうしたら良いと思う?)」
「(放置)」
「(え、いいの……?)」
「(うん、多分)」
「(それなんも考えてないだけだよね)」
「(まぁまぁ、とりあえずいつも通りに過ごせばいいのよ)」
そう言うと、玲はいつも通りに予習を進め、奏斗はヘッドフォンで音楽を聴きながら読書を始める。
少しして。
「ねぇ、奏斗君」
丁度ページを五回捲ったところで、クラスのムードメーカー的存在の女子に話しかけられる。
「あれ、どうにかしてくんない……?」
そう言って彼女は視線で廊下側を指すが、奏斗は全力で逆方向を向いた。
彼女の視線の先、つまりは廊下のことである。そこには学年の上下を問わず、人集りができていた。奏斗が昨日観たゾンビ映画とまるでそっくりな光景だった。
「おい、顔を逸らすなよ」
「無視すればいいんじゃないすかね……」
「いやいや、無理でしょ」
もっともな話である。
奏斗は、ここの学園の生徒がゴシップや美談が大好きなのは知っていたが、まさかこれほどまでとは思っていなかった。
「今、Dawn持ってたりする?」
「あるけど。とにかく人払い任せたよ〜」
ポケットから記事を取り出して、彼女は自分の席に戻っていった。
そして、奏斗は記事を広げる。記事の内容は昨日共有された通りの事だったので特に思うことはなかった。
「玲? 玲さーん?」
「あっ、え、なに? って人やば」
「今気づいたの?」
「集中してたから」
彼女の集中力に脱帽である。
「それで、これが記事なんだけど。玲はまだ見てないだろ?」
記事の内容は、奏斗の事件の真相を中心に、彼女が虐められていたことが記載されていた。そして、虐待についても仄めかすように書かれていた。
その生々しい過去をオブラートに包んでいる文の中で一際輝く言葉があった。
『同情も憂いも要りません。私は今を生きています』
これは二人きりで話していたときの言葉だろうか。とにかくこの言葉が読者の胸に響いたようで、玲を心配する者はさほどおらず、奏斗一点に注目が集まっているという訳だ。
そんな風に考えているうちに玲は記事を読み終える。
「私は初めて読んだけど、こんなに影響力があったんだね」
記事を手に、廊下を一瞥しながら彼女は言う。
「そして俺らはこれをどうにかしなきゃいけない訳だが――」
「無理でしょ」「無理だよな」
ハモる二人は向かい合って首を傾げた。
数秒経って諦めようと手元に意識を向けた途端、さっきまでザワついていただけの廊下が騒ぎ出す。
今度は一体なんだというのか。嫌な予感しかしない。
そう思いながら奏斗は、教室の入口に目を向ける。すると、モーセの海割りよろしく人混みの中を通る牡丹が居た。
「やあやあ、奏斗くん、久遠ちゃん」
「何の御用でしょう?」
奏斗は露骨に嫌そうな顔をしてしまう。そして、その事で少し後悔をした。
「Dawn読んだよ。やっぱり私の目に狂いは無かった」
そう言いながら、何故か誇らしげにする牡丹。
「私の思った通り君には正義がある。そして、武力もある! だったら風紀委員だ!」
「だったらってなんですか。僕は風紀委員に入らないですよ」
「アットホームで和気藹々とした職場です!」
「それはそうでしょうけど……そこじゃあないんだな」
そんな二人のやり取りを不可解そうに玲。
「どうして? これってチャンスじゃないの? 二足のわらじで活躍すれば有利じゃん」
「随分と簡単に言ってくれるな。生徒会で忙しいのに風紀委員もやるのは無理」
キッパリと言い切る奏斗。一方で玲。
「嘘つき」
彼女の言葉を聞いて、奏斗は平静を装うが多分意味はない。
「自分ならできるって思ってるでしょ。先輩もそう思いません?」
「えっ、いや、私には本心に聞こえたけど」
唐突に振られた牡丹は少し驚きながら答える。そんな彼女を横目に、玲は顎に手を当てながら奏斗を覗いていた。
「本心なら――うん、二つほど別にあるね」
ニヤニヤとこちらを伺う玲に溜息を一つ漏らす。
「じゃあ、その内の一つを言うんで満足してくださいね」
「内容次第!」
「その、先輩が仰る正義っていうのが僕には当てはまらないんですよ」
「というと?」
「僕の正義は玲の隣で支え続けることです。風紀委員みたいな学校のため、生徒のためっていうのじゃなくて、僕はただ玲のためなんです」
「――恥ずかしくないの?」
「はい全く」
毅然と言い放つ奏斗とジト目で恥ずかしそうにする牡丹。
「それに、そんなチヤホヤされることじゃないでしょう。危機に瀕してる人がいたら助けるのは当たり前。能力があるならそれは義務です」
「余計に風紀委員向きじゃん」
「まぁ、こんなこと言っといて下心が大半だったりするんですが……要は自分のためです」
奏斗は後ろにニヤニヤしてる玲には構わずに牡丹と話を続ける。
「そんなわけで僕は風紀委員には入りません」
「まぁ、無理にさせても意味は無いからね。わかったよ」
「あと断った手前申し訳ないんですが、あの群衆に帰ってもらうようにお願いできますかね。クラスメイトが迷惑してますんで」
牡丹はくるりと振り向いて納得した様子で教室を出る。そして、牡丹が声をかけると各々が帰っていき、教室はやっと静かになった。
「ところで奏にぃ。風紀委員に入りたくない理由って単にめんどくさいからでしょ」
「バレてた?」
―――
しばらくして、学校を終えた奏斗。
緊張感漂う自宅で奏斗と愛華はリビングで面と向かいあっていた。
「やってくれたねぇ、おにぃ?」
愛華の鋭い眼光。だが、奏斗は意に介さずたい焼きを食していた。ちなみにカスタード味である。
「たい焼き食うか? 餡子とカスタードどっちがいい?」
「……食べるけど今はいいよ。餡子とカスタードどっちも残しておいてね」
「それで、何の話だっけ」
また一口齧りながら言う奏斗に愛華は溜息を吐く。
「月刊Dawnのことだよ、マイブラザー」
「あぁ、そうだった。そのおかげで色々あったよ。自分がまいた種だけどさ」
「正直舐めてたでしょ。黎明のゴシップ好きの多さに」
「舐めてたというか予想外だわ。デリケートな内容なのに教室の前で群れを作ってさ」
今日のことを思い出し、頭痛を堪えるように頭を抱えた。
「おにぃの悪評が取り除かれたのは嬉しいよ。稀沙羅ちゃんもご機嫌だし。でも〜、選挙戦の影響に関しては見過ごせないなぁ〜?」
「マイナスがゼロになっただけだ。依然として劣勢だろ」
「おにぃじゃなかったらね」
互いに挑戦的な笑みを浮かべ、視線が交差し火花が散る――が、水を差すように稀沙羅が風呂から上がってきた。
「ふぅ〜、さっぱりしたぁ」
「「デッッッッッッッッカ」」
口を揃えてバカなことを言う兄妹。先程までの緊張感は一瞬にして消し飛んだ。
「おっぱいがまたデカくなっておる……!? あ、そういえば、稀沙羅ちゃんは既に知ってたの?」
「うん、一ヶ月前にくらいに色々あってそんときに」
「なるほどねぇ。私にも言って欲しかったな〜」
「そりゃ無理な話だな。いつだって話すのは玲からだったし」
「そっか。ずっと気になってたんだよね。二人の間にいつフラグが立って、おにぃがどうやって玲さんを攻略したのか。答えは特殊イベントからのエンディング直行ルートだったわけだ」
「なんでも恋愛ゲームに例えるな」
それから小一時間ほどで晩御飯の時間になった。
「ふっふーん、今日は私が作ったわ!」
「……あのティアが?」
「なによ、その言い方」
「いや、大雑把でズボラで不器用な箱入り娘のティアが……ね」
引き攣った顔のまま何かを堪えるティア。その後ろ、遅れて出てきたのは疲れを顔に滲ませた梅。
「なんでそんなにゲッソリしてんだ……」
不安気に呟く愛華に梅は答える。
「お嬢様……私を褒めてください……私のおかげで食べられる程度にはなりましたよ……」
「梅姉まで酷くない!?」
そして、振る舞われたティアの手料理は食えないこともない微妙な不味さだった。




