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飾らない君は傾国の美女  作者: ダイズとカツオ
第二章 孤狼、魔性、そして欺瞞
12/24

汝、ギャップを享受せよ……!

 いつからだろう、自分が天才だと自覚し始めたのは。


 いつからだろう、母親に褒めてもらうのを生き甲斐にしたのは。


 いつからだろう、妹が僕の背中を追ってきたのは。


 いつからだろう、抜きん出た才能が周囲に疎まれ始めたのは。


 いつからだろう、そんな周囲に同調して常に最適解の受け答えをするようになったのは。


 いつからだろう、母親が俺を見てくれなくなったのは。


 いつからだろう、気づけば俺が妹の背中を追っていたのは。


 いつからだろう、両親の仲が悪くなったのは。


 いつからだろう、自分が孤独だと思い始めたのは。


「██████████」


 ―――


 午前六時、目覚まし時計のけたたましい音が鳴り響く。もう少し寝ていたい欲望を振り払い体を起こす。


 なんだが良く眠れなかった気がする。


「ぅん……ん、おにいちゃんおはよ……」


 隣で寝ていた稀沙羅が目をシパシパさせながら体をのっそりと起こした。


「昨夜は眠れなかったのか?」

「いつもごめんね……」


 彼女は一ヶ月に三、四回こういうことがある。一人ではどうしても寝れないらしく、夜中に奏斗のベットに潜り込んでくるのだ。そして、朝起きると彼女は決まって泣き腫らしていた。原因は分かっているのだが、奏斗にはどうすることも出来なかった。


「もう少し寝るか?」

「大丈夫、いつも通りにランニングした方が気持ちも晴れるから。ティアちゃんは起こさなくていいの? あの子も走るんでしょ」

「あぁ、そうだな」


 浮かない顔のまま部屋を後にして、ティアの部屋へと向かう。


「ティア? 起きてるか!? ランニング行くぞ!」


 返事は返ってこない。仕方ないので中に入る。


「寝相悪っ、相変わらずだな」


 一体どうすればそうなるのか問いただしてみたかった。枕元に足があるし、上半身はベットからずり落ちていた。


「ほら、起きろ。ランニング行くんだろ」


 頬をぺちぺちと叩いているとティアはゆっくりと(まぶた)を開く。


「んぁ……そう、くん?? なんでぇ!?」

「いやだから起こしに来たんだって」

「稀沙羅で良くない!?」

「いやまぁ、ちょっと事情があってな」


 身を悶えさせ赤面した顔で距離をとるティア。奏斗は気にした様子もなく顔を洗いに行ってしまった。


 ぬるい温度の水が顔の汚れとともに眠気を洗い流す。


 そして、何となしに鏡を眺めた。


「おや? おやおやおやおやおや」


 鏡をしげしげと見つめて耳たぶを触る。


 間違いなくピアスホールが安定している。 一ヶ月はかかると思っていたので思わぬ朗報。


 そして、早速着けることにした。


 玲とお揃いのチェーンピアスが左耳で輝きながら揺れていた。


「これを着けた玲はきっと――」


 期待に胸を膨らませた奏斗は今にも踊りだしそうな……訂正、実際に舞い踊っていた。


「お兄ちゃん、ご機嫌だね。はいこれ、白湯。ティアちゃんのもあるから」

「あぁ、ありがと。朝は白湯に限るよなぁ……熱っづ!!」


 ついつい調子に乗りすぎて舌を火傷した。舌ピを開けるのも悪くないかも。


「それで、何時頃に走りに行くの?」

「七時半頃かな。それまでにこれとこれ飲んどけ」


 ゼリー飲料と稀沙羅が作った白湯を取り出す。


「それ食ったらランニングウェアに着替えてな。八キロ走るから」

「いきなり八キロ……」

「流石に五キロくらいからにした方が……」

「いや、走る。私は走らなきゃいけないのよ」


 堂々と胸を張り、毅然とした態度のティア。彼女の瞳には闘志が宿っていた。


 ところで、彼女が何故こんなにも意気込んでいるのかというと、答えは単純に太ったのだ。 奏斗の手料理が美味しすぎるせいで、曰く六キロは太ったらしい。


 そして、このまま何もしなければ夏に地獄を見ることになると悟り、二人の日課である早朝ランニングにお邪魔することになったのだ。


 軽食を取ってランニングウェアに着替えた一行は家を出て走り出した。若干風が吹いていたので少し肌寒い。だが、徐々に温まっていく体も相まって心地よかった。


「なぁ、お前が太った理由って俺の料理よりもお菓子だよな」

「だって……っ日本のお菓子、美味しいんだもん」


 ティアは早くも息を切らしていた。奏斗の腕時計は十分の経過を示している。


「それに太ったようには見えないけどなぁ」

「お兄ちゃんだって体型維持しようとするでしょ」

「確かに、そういうもんか」


 ティアの様子を確認しようと一度振り返ると見覚えしかない車が後ろからやってきた。


「へぇ〜い、Guten Morgen! みんな朝から殊勝なことだねぇ。二人はいつもの事としてティアはなんで?」

「太ったんだと」

「へぇ……で、そのティアは……大丈夫そうじゃないね。それじゃ家で待ってるから、おっ先〜」


 愛華はそのまま走り去っていった。一方でティアは愛華がさっきまで居たことに気づいていない様子。これ大丈夫なの?


「稀沙羅、ペース上げたかったらどんどんあげちゃっていいぞ」

「んじゃあたしもおっ先〜」


 走り去っていく稀沙羅の背中を見送りながら奏斗。


「あんま無理すんなよ。必要だったら負ぶってくぜ?」


 返事がこない、というか目は虚ろで焦点が合っていなかった。一旦、彼女を信じて走り続けることにした。


 ―――


 ティアは見事に走り切り、奏斗達は朝食を済ませてくつろいでいた。


「そういえば牡丹先輩と剣道して二勝したんだってね」

「あの人マジバケモンだわ。確かに沖田総司の生まれ変わりとまで言われるのも納得」

「おにぃが負けるって相当だよね〜。で、今日は何する?」


 奏斗は視線を上にあげ、数秒思案した。結論を出そうとすると、それを遮るように梅が口を開く。


「家の事はわたくしにお任せ下さい」

「ありがたいけど、そうなると暇なんだよなぁ」

「新作マゾゲーあるけどやる?」

「ふっ……やらないわけが無い」


 無駄にキメ顔で奏斗はニヒルな笑顔浮かべる。奏斗はMMO並にマゾゲーが大好物であった。


「準備完了っ!」


 部屋から勢いよく飛び出してきたのは稀沙羅。


 彼女の格好を文字に起こすとTシャツにショートパンツという至って普通のファッション。だが、Tシャツを結んでるおかげでスポーティな腹筋が丸出しな上、短パンから伸びる生脚の脚線美がすごくすごかった。そして何より耳付きのキャスケットが見る者の心を鷲掴みにする。


「ナンパされないか心配そうな顔してるね〜、お兄ちゃん」

「しょうがないんじゃない? こんなバケモノスタイルを見たら誰だってナンパしたくなるわよ」


 続いて出てきたのはスカジャンとロングスカートを身にまとったティア。整った容姿に加え、日本人離れした碧眼と赤みがかった茶髪はまさにクール系美少女と呼ぶに相応しかった。


 そんな彼女に奏斗は「どの口が言うとんねん……」と心の中で真顔になった。


「まぁ、お前らはナンパされても特に問題はないと思うけど。にしてもそのスカジャン懐かしいなぁ」

「昔着てたのとは違うやつだけどね」

「そろそろ待ち合わせ時間だよ〜」

「あと玲のこと頼んだ。前のデートのときに怯えがあったから」


 二人はグッとサムズアップして家から出ていく。奏斗はその背が見えなくなるまで見送った。


「さて、マゾゲーの前にシャニブレの日課を済ませようか」

「私もやる〜」


 ―――


 私は今駅で待ち合わせをしている。なぜかというと、彼氏に妹の下着選びに付き添ってほしいとお願いされたからである。


 彼が扉を壊したあの日以来、こうやって衆目に晒されるのも少し慣れた。前はどうしても怯えがあった気がする。学園ではどうにか取り繕っていたが、彼は気づいていたのだろうか。


「玲ちゃ〜ん!」


 声が聞こえた方向に振り返る。そして、白目を剥いた。


 天真爛漫な笑みで駆け寄ってくる稀沙羅。さっきまで自分に向いていた視線が彼女に集まっていた。より具体的に言うならばゆっさゆっさと揺れる彼女の双丘に集まっていた。無理もない。


「そのピアスよく似合ってるねぇ。お兄ちゃんも着けてたよ」

「このイヤーカフ単品とチェーンピアスを奏にぃの誕生日に買ったの。奏にぃももう着けられるんだね。会うのが楽しみだな〜」

「なるほど、どーりでテンションが高かったわけね」


 稀沙羅を追うようにしてティアがやって来る。そして、互いに服を見て顔をしかめた。


「なんでアンタと若干被ってんのよ。スカジャンとスタジャンって――」

「私はミニスカだからセーフ」

「そんなのどうでもいいじゃん。二人とも似合ってるし可愛いよ」

「稀沙羅ちゃんはいい子だね〜」


 きょとん顔の稀沙羅を撫でるが身長差が二十センチ以上もあるので辛い。


「まずはランジェリーショップから行くわよ」

「稀沙羅ちゃんはいつもどこで買ってるの?」

「二駅行ったとこのショッピングモールで買ってる」

「じゃあ、その後も色々できるね」


 そうして三人は電車に乗りショッピングモールに到着する。


「流石に休日、混んでるね〜」


 行き交う人々を眺めながら玲は呟く。ティアはこちらを特に注視している人達に意識を向けていた。


「いったい私達は何人にナンパされるのかしら」

「実はあたしナンパ経験無いんだよね」

「――あぁ、奏君(シスコン)がいるものね」

「私も無いなぁ。注目は浴びても()()()だし、ガッツリ前髪で隠してたし」

「なんか私が自信過剰の勘違い女みたいになってきたわね」

「でも実際凄いんでしょう? 転校してから数日で学園の人気者だし。そんな貴方はナンパされたときってどうしてるの?」

「ドイツ語で捲し立てる」

「なるほど」

「まぁ、特に気にせず自然体で居ればいいのよ」


 立ち話はこれくらいにして目的地へと向かう。やはりというかすれ違う人全員こちらを二度見する。だが、彼女らはこの程度のことを気にしていなかった。


「まぁでも、こうやって歩いてると向こうが率先して避けてくれるからちょっと楽だよね」

「確かにそうね。気にしたこともなかったわ」


 実際ほとんどの人が避ける。そして、たまに避けない人というのがいる。例えばこんなヤツらが――


「お嬢ちゃん達、ちょっと今ヒマ?」


 漫画に出てきそうな、絵に描いたようなナンパ師の三人組。仲良く山分けでもするつもりなのだろうか。


「めっちゃ可愛いね、高校生?」

「お昼ご飯食べた? これから一緒に行かない?」


 胡散臭い笑みを浮かべ勧誘する三人。それを受けて悠然としたティアが一歩前に出る。


「ははっ、綺麗な目。日本人じゃないよね?」

「ハーフかな?」

「Seid ihr Jungs im College-Alter? Macht ihr weiter und esst so, weil ihr keine Freundin finden könnt? Das ist wirklich erbärmlich. Und ich mag es wirklich nicht. Ihr seid ekelhaft und solltet verschwinden」

「え? すっごい喋るじゃん」

「てか何語?」


 突然ものすごい勢いで捲し立てたティア。ティア以外はポカンとしていた。


 ちなみに彼女の言葉を翻訳するとこうなる――


【あなた達は大学生くらい? 恋人が作れないからってこうやって拾い食いばかりしてるの? 本当にみっともないわね。それと純粋に好みじゃないわ。気持ち悪いから早く消えて】


 こんな風に切れ味抜群なことを言ったティアの抵抗も虚しく、彼らは依然として目の前から消える気配はなかった。ヘラヘラと笑う彼らを無言で睨むティア、稀沙羅はぼーっとしていた。そして、玲が意を決して口を開く。


「あの、私たちってそんなに魅力的ですかね?」

「いやどう見ても魅力的でしょ」

「そうですかね。私は顔に大きなキズがありますし、そのハーフの子なんか大昔に幼馴染に恋をして、その人が私と付き合ってから頻繁に癇癪起こしてますし」

「え、ちょっ――」

「んで、このおっぱい娘は極度のブラコンで高一にまでなっても兄と一緒に風呂を入ってますし」


 これは結構効いたようで顔を引き攣らせていた。言葉の内容というよりかは、玲自身の圧によってな気もするが。


「いやいや、顔に傷があるから何なのさ。そんなのがあっても十分可愛いじゃん」

「あの、さっきも言いましたが私には彼氏がいるので可愛いとか言わないでください。それに、『顔に傷があっても他の子が可愛いから十二分にお釣りが来る』って言ってたの聞こえてましたよ?」


 自分の心を赤月のような瞳に見透かされ全身の毛が逆立つのを感じた。


「あ、あぁ〜、ごめん」

「傷つけるつもりは無かったんだ〜……」

「じ、時間取らせちゃってごめんね〜」


 三人は気まずそうに視線を泳がせ、そのまま逃げるように去っていった。


「おー、お見事。なんか奏君のやり口みたいね」

「一応言っとくけどお兄ちゃんと風呂は小学生のとき以来入ってないからね」

「わかってるわよ。それで、あんなことよく聞こえたわね、こんな騒がしい場所で」

「いや、聞こえてないけど?」

「「え?」」

「いや〜、表情的にそんなこと思ってそうだなって」

「お兄ちゃんのやり口じゃん……」


 一方その頃、奏斗宅――


「へっぶし!」

「噂されてるのかもね。とりあえず野良で日本人集めるね」

「そんな特定の人集められる方法あんの?」

「まぁ見てろって」


 MMOのパーティーメンバーを集めるために全体チャットに送信する愛華。


『ぬるぽ』

『ガッ』

『ガッ』

『ガッ』

『ガッ』

「まさかのあった」


 真顔で突っ込む奏斗。そして、妹は馬鹿なことを考えていた。


「この人のキャラクリエロすぎない!? 『見抜き良いですか?』っと」

『しょうがないにゃあ』

「それ伝わんのかい」

「オセアニアじゃあ常識だからな」

「じゃあ日本人じゃなくない?」

「マジレスやめちくりー」


 ―――


 ナンパ師を撃退した玲達はランジェリーショップに到着していた。


「さて、稀沙羅ちゃんには奏にぃの好みを白状してもらうよ」

「知らぬ間に恋人に性癖を把握されるお兄ちゃんが不憫で仕方ないよ」

「それで、どんな下着に興奮するのよ」

「幼馴染も追加で。ってそんなことはさておいて、お兄ちゃんの好みねぇ」


 顎に指を当てて稀沙羅は悩む。「知らないの……?」と言いたげな目で睨まれていた。逆に知ってる方がおかしいと思う。


「お兄ちゃんは自分の好みよりも似合う似合わないを重視するんだよね〜。解釈一致を望んでるの、オタクだから」

「つまり私が可愛くてエロければなんでもいいってこと?」

「玲ちゃんって結構開放的だよね……」


 前髪を切ったあの日から彼女は変わった。それは表の性格も同じようで、そのことを兄は嬉しそうにしていた。


「とりあえずあたしはいつものを買うとして、二人のはあたしが選んであげよっか?」

「確かに奏君と感性が近い稀沙羅に任せた方が得策かも」

「じゃあ私のはどんなのが良いと思う?」


 玲の要望を受けた稀沙羅は、初めから答えが出ていたかのようにスムーズに移動した。


「こういうの似合うと思うけど」


 そう言って取り出したのは細かなレースがあしらわれた真紅のブラとショーツ。


「ちょっと派手すぎない?」

「瞳の色と同じだし良いと思うんだけどな〜」

「私も玲にピッタリだと思うけど、確かに派手ね」

「下着って恋人くらいにしか見せないんだから派手なものを着るべき、そうすべき」


 稀沙羅のもっともな意見に玲は揺れる。


「それにこれ、大事なトコロ以外の肌が透けて見えるんだよね」

「だ、大胆すぎる……!」

「お兄ちゃんは想像力が掻き立てられるようなの好きだよ〜?」

「買います」


 稀沙羅の一言に玲は即答する。ついでに他の色も何着か手に取っていた。


「次はティアちゃんだね。青系とか絶対似合うと思うけど、可愛い系も悪くなさそうだね」

「可愛い系ね……」

「学園では一応クールキャラで通ってるじゃん? ギャップっやつ」

「"では"ってなによ?」

「ほら、奏にぃや桜羽場さんと絡むといじられキャラだからじゃない?」

「ま、そこは別にいいんだけど。これとかは?」


 そう言って取り出したのは、玲より透け感が抑えられた白縹(しろはなだ)色のレース生地の物。そして、もう一つがリボンやフリルがこれでもかと施されたピンク色の下着。


 それら、特に後者を見たティアは眉間に皺を寄せていた。稀沙羅も「言いたいことは分かる……」というような風な顔でいた。


「……何かの冗談? 青い方は良いとして、こんなの二次元でしか見たことないわよ」

「良いかい、ティアちゃん。貴方はこれを着なきゃいけないの、ギャップ萌えってやつをあたしに見せて」

「それ趣旨が変わってるじゃん!!」

「趣旨って奏にぃは私の彼氏ですケド」

「そんなのわかってるわよ!! だからこそでしょ!?」

「ちなみにお兄ちゃんはギャップ萌えとかそういうの好きだよ。だからこそ、玲ちゃんに真っ赤な下着を勧めたわけで」


 とは言っても、私的にはとても勇気のいることだった。だってフリフリでメルヘンなんだもん。私は大人の女性として見られたいんだもん。


「じゃあ、あたしが着よっかな」

「貴女がこれを着たら暴力的ね……」

「さあ、どうする! ティアちゃんがこれを着るか、これを着たあたしがお兄ちゃんに抱き着くか、どっちがいい!?」

「奏にぃは私の彼氏なんですケド。それに自分のお兄ちゃんにそんなことするんじゃありません」


 玲は稀沙羅にポカっと頭をチョップした。凄く優しくて軽かった。


「はぁ……買うわよ……下着姿の妹に抱き着かれてデレデレしてる奏君なんか見たくないし」

「お兄ちゃんってそこまでキモくないと思うんだ」


 稀沙羅はジト目でツッコミながらも、内心で下着姿の二人を想像していた。なに? 趣味で下着を選んだだろって? お兄ちゃんとあたしの感性は似てるからセーフ。


 そんな稀沙羅を余所に、二人は会計を済ませていた。ちなみに、玲は追加でネグリジェも購入している。


 遅れて会計を済ませ、稀沙羅はショップから出る。


「さて、ご飯でも食べますかね〜」


 時計を確認してそう呟く。二人もそれに同意し、フードコートへ歩みを進めた。


 一方その頃、奏斗宅――


「なにこれダ〇ソじゃん」

「実際炎上してた」


 MMOのデイリーを終わらせ、愛華が持ってきたマゾゲーをプレイしていた。


「でも内容の良さに手のひらを返す人は多かった印象かな。私は隣で見てるよ」


 数時間後――


「クソゲーーーーーッッッ!!!」


 経験から来る勘で初見殺しトラップを回避していたが、ボスで詰まってしまい憤慨していた。


「それ作中屈指のクソボスだよ」

「ですよね」


 ―――


 三人はランチを食べ終えデザートを食べていた。そして、稀沙羅はティアのお腹のことを気にしていた。


「そういえば、奏にぃって甘党なの?」


 チョコレートパフェを口に運びながら玲は投げかけた。


「まぁ、公言はしてないけれど、甘いのは好きなんじゃないかしら」

「お兄ちゃんの食後のデザートがこれはまた格別なんだなぁ〜」

「それは確かに太りそうだね」


 稀沙羅はほっぺを両手で抑えてうっとりしていた。一方でティアは玲の視線を浴び、顔を逸らす。


 逸らした顔のまま咳払いをして、彼女は向き直った。なんだか真面目な空気に変わった。玲のスプーンを運ぶ手が止まる。


 今の彼女はしゃんとしていて、いつもイジられてギャーギャー騒いでいるようには見えなかった。


「ずっと、前から気になっていたのだけれど、貴方はどうして私と奏君の同棲を許可したの?」


 少し身構えていた玲は彼女の問いに肩の力を抜いた。


「そんなことか……」


 彼女はパフェを口に運びながら、さも当然のように語る。


「まぁ、出来れば奏にぃを監禁して、首輪はめて、リードを繋いで目の届く範囲に置いておきたいけど――」

「え?」

「でもね、いくら恋人でも一年未満の付き合いの私が、彼の十数年を否定しちゃダメな気がするの。私は友達を大事にする人が好きだし、何より奏にぃは私のことが大好きだから、浮気なんて絶対にしないって信じてる」


 炯々として純粋な瞳で彼女は語る。それはどこまでも恋人のことを信じる乙女の姿だった。


「そう……なの」


 彼女は複雑な感情が腹の中で渦巻くのを感じた。ただ、今はそれを無視してそっと蓋を閉じる。


(あとで、愛ちゃんに開けてもらおう……)


 とりあえず、こういった衝動に向き合うのはやめて、ショッピングモールを巡ることを楽しむとする。空元気も貫けば本物になるから。


 ―――


 玲達三人が遊びに出かけた翌日の夜。


「風呂、先に入っちゃっていいか?」


 ソファで寛いでいた愛華は何も言わずに手で促した。奏斗は着替えを取りに自室に戻る。そして、そのまま脱衣所へと向かい、扉を開けると――


「……! あ、すまん」


 ――高速で扉を閉めた。なぜなら、下着姿のティアが居たから。


(あの野郎……ティアいること分かってたな? にしても、滅茶苦茶フリフリの下着だったな……)


 一方でティアは処理が追いつかず呆然としていた。


(今、見られたよね? 上から下までガッツリと)


 脳が追いつき、沸騰せんばかりに顔が赤くなる。


(この下着を!? 見られたの!? 奏君って確か……映像記憶能力持ってたよね? 〜〜っ!!)


 ティアは赤い顔のまま扉の方に振り返る。このまま、こっちだけ恥ずかしい思いをするのは何か違う気がするので、扉越しに声を掛ける。


「……感想は?」


 扉越しにでも奏斗が動揺するのが伝わった。その様子が可笑しくて更に踏み込む。


「まさか、レディの下着を見て無視を決め込むつもりかしら?」

『レディ……ね、随分と可愛らしい下着だったけど』

「うっるさいわね!! 稀沙羅に似合うって言われたのよ!」

『まぁ……なんだ、似合ってると思うぞ』

「……っ、ありがと」


 その後はずっと気まずく、微妙な雰囲気だった。


 ちなみに愛華は二人にしばかれた。

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