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飾らない君は傾国の美女  作者: ダイズとカツオ
第二章 孤狼、魔性、そして欺瞞
11/24

ビンタって意外とシャレにならないらしい

 とある体育の授業中。


「稀沙羅ちゃん、ナイスキー!」


 体育館を仕切るネットの向こう。クラスメイトが上げたトスを稀沙羅が華麗にスパイクを決め、歓声が上がる。


 体育館の端で休憩がてら観戦していた男子達は、スパイクの度に揺れる立派な双丘に釘付けになっていた。


「アイツら締めよっかな。俺の可愛い妹に邪な目を向けやがって」

「やめろ、と言われても無理な話だろ」

「まぁ、正直俺だってガン見する」

「というか暴力事件起こしたら今度こそただじゃ済まないだろ」


 奏斗が肩を竦めるのと同時、今度は稀沙羅のレシーブを起点に点を入れる。


「なぁ、稀沙羅ってさバレー経験無いんだよな」

「授業以外だと一切ないな」

「実際、稀沙羅ちゃんの運動能力ってかなり凄いよね。部活とか入らないのかな」

「体力テストでも馬鹿みたいな記録出てたし、入って欲しさはある」

「身長も高いし、授業じゃ今みたいに無双状態。そんな人材がサッカー部にも欲しいわぁ」

「苦手なスポーツとか無いの?」

「多分無い。弓道とかも一定以上の成果は出せると思うぜ」

「うちに勧誘しようかな」

「休憩そろそろ終わるぞ」


 体育教師が休憩の終わりを告げる笛を鳴らす。奏斗達は重い腰を上げ、試合を再開するためにコートに向かった。


 一方、女子側。稀沙羅と同じチームの玲はと言うと――


(稀沙羅ちゃん、視線集めてるなぁ。スタイル良いし、それに……おっぱいが)


 自分に視線を下ろすとそこには絶壁。軽く絶望した。


(奏にぃも大きい方が好きなのかなぁ)


 チラッと男子側を見ると奏斗と丁度目が合った。


(頑張れよ)

(うん……!)


 目線だけで会話して、微笑む彼の激励を受け取った玲はポニーテールを結び直す。


「玲ちゃん、気合い入ってるねぇ」

「彼氏が見てるからね」


 試合が再開し、稀沙羅側のチームのサーブで始まる。


 相手も連携してスパイクを決めるがチームメイトが難なくレシーブ。続けて稀沙羅が素早くボール下に入り、完璧なタイミング、完璧な位置、完璧な連携でトスを上げる。


(お膳立てはあたしがする。だからっ!)


 玲が駆け出し、翔び上がる。


「よしっ!」

「ナイスキー、玲ちゃん!!」

「久遠さんすごぉぉぉ!」


 皆の賛辞を受けながら男子側に視線を送ると、丁度奏斗もスパイクを打ち、点を取っていた。


「奏にぃナイスーーー!!! 勿論皆も!」

「そっちこそ、ナイスキーーー!!!」


 良い笑顔でサムズアップする奏斗と投げキッスする玲。男子は湧き上がる。


「今の投げキッスは俺ンだからな?」


 見事に静まり返った。


 ―――


 時は進み、放課後。例の如く奏斗達は生徒会室に居た。別に召集が掛かってわけでもないので結月や春、それに愛華とティアも居なかった。


「私はこれから学園新聞の打ち合わせがあるからそっちに行ってくるわね〜」


 学園新聞とは広報委員が発行している新聞のことである。その内容は各委員会と生徒会の活動報告やアンケートの結果、目安箱の開示などが記載されている。


「付き添いはどうするんだ?」

「あ〜、そうねぇ〜。奏斗君にお願いしようかしら」

「僕ですか? 書記とかじゃなくて?」

「記録とか広報委員がするから大丈夫よ」

「なるほど、わかりました」


 素直に了承し、詩織の後について行く。


「こういった会議系のものは委員長と一年生一人の組み合わせが慣習ですけど、僕で良かったんですか?」

「どうしてそう思うの?」

「ほら、嫌われてるじゃないですか、僕」


 苦笑いを浮かべる奏斗に詩織は気にする様子も無く言った。


「誤解されたままじゃ嫌でしょ? それに貴方にとっても悪い話じゃないと思うけど〜」

「ま、それもそうですね」


 大会議室に着き、中に入る。入ったら早速何人かの生徒に嫌な顔をされた。特に一年生の風紀委員から。


「(あの一年生、凄い睨んでるわね)」

「(知りませんか? あれ中等部のときの対立候補です)」

「(なるほど道理で)」


 小声でコソコソと話す様子に余計にシワを寄せていた。よりによって対面の位置である。めっさ気まずい。


 少し経つと生徒達が揃い、会議は時間通りに始まった。


「ところで奏斗。個人的に訊きたいことがあるんだが」


 今まで順調に進んでいた会議を中断し、広報委員長が急に話を変えた。


「病院送りの件なら()()()()口外するつもりは無いです」


 その言葉に他の生徒はざわめく。そして、奏斗に批難の視線を浴びせた。


「なるほど、やはり他に誰かが関わって居るんだね? その子に訊けば何か分かるのかな?」


 彼女の問いかけにペロッと舌を出して肩を竦める。すると、その様子に腹を立てた隣の一年生が声を上げた。


「委員長止めましょうよ。コイツ、ちっとも反省してません。大体なんでコイツは一切の処罰も受けずにのうのうと学園にいるんですか」

「それは私に訊かれても困るし、だからこそこうやって尋ねているんじゃないか」

「先生方の弱みを握って脅したとか、お金に物を言わせて帳消しにしたとか……」


 誰かがそう呟いた。全く酷い言われようである。


「それはありませんわ。彼なら弱みを握るくらい可能でしょうが、それは断言できますの。彼はそんなことはしませんわ」


 意外なところから助け舟が出てくる。それは、眉間に(しわ)を寄せて睨みまくっていた風紀委員だった。


「どうしてそう思うんだ? 文子(ふみこ)ちゃん?」

「はぁ……せっかく助け舟を出したというのに相変わらずですわね。ただの感情論ですわ。アナタ達は選挙戦で私に勝ったんですから、そんなことする訳がありませんもの」


 堂々とイマイチ答えになっていない返しをされる。自分を負かした者に対する信頼的なことだろうか。


「でも、貴方は桜羽場さんの顔に泥を塗った。それだけは許せませんの。ですので、今ここで洗いざらい話してくださいまし」

「私も概ね同意する。君のような人があんなに軽率な判断を取るとは思えないんだ。ココ最近はずっとそれが気になって仕方ないよ。記事にしたいし、ね?」

「はぁ、あんまり慌てないでくださいよ。物事には段取りってもんがある。いずれわかりますよ」


 なおも彼女らの瞳の色は変わらない。困り果てた奏斗は頬を搔くしかなかった。


「二人とも続きは後にして。とりあえず今は会議の続きをしよ?」


 風紀委員長の仲裁により、渋々手を引く二人。助かった――と思うのは些か早計だった。


 ―――


「では、以上で終わりにするよ。皆、お疲れ様」

「「「「「お疲れ様でしたー」」」」」


 ヒヤッとする場面もあったが会議は無事終わった。ググッと背伸びをして奏斗はリラックスをする。


「お疲れ様。なんか途中大変だったね」

「まぁ、予想通りです」


 苦笑いを浮かべ目の前に視線を向ける。


「先程はありがとうございます、牡丹(ぼたん)先輩」


 さっきの風紀委員会委員長、名前は何森(いづもり)牡丹(ぼたん)。剣道部の主将で絶対的エース。多くの生徒から慕われ男子からは(あね)さんと敬われている。


「気にしなくていいよ。私は君の行いには特に思ってもいないしね。何かしらあるんだろ? 自分の正義って奴がさ」


 奏斗は何も言わずに笑みを深めた。


「ところでなんだけど、奏斗は剣道やった事ある?」

「剣術なら昔通ってた道場で」


 嫌な予感。


「前から興味あったんだよね、一対六で一方的に制圧するその武力に」


 まずい。


「だからさ、この後一緒に――」


 かなりまずい――!!


「剣道で模擬戦でもしない!?」

「終わった……」

「え!? 姐さんが安心院奏斗と試合だって!?」


 耳聡い生徒がこれを聞き盛り上げてしまう。漫画で良くありそうな展開ですね。


「まじかァ……アドバイス聞いてくれたんですね」


 実は以前から何回か試合の申し込みはがあり、その度に断ってきたのだが、少し前に「人を誘うときは退路を断つと良いですよ」とアドバイスをしたのを奏斗は覚えていた。


「んで、やる? やらない?」

「……しょうがない、やりますよ」

「やった!!」


 というわけで奏斗達は剣道場にやってきた。ちなみに試合の話はあっという間に広がり、おかげで見物人で凄いことになっている。


 一方で二人は群衆を一切気にせず体をほぐしていた。


「君、体柔らかいねぇ。開脚は180度以上開いてんじゃん」

「I字バランスなんかも出来ますよ、ほら」

「おー、すごいすごい」


 呑気なものである。


「一つ訊きたいんですが、なんで稀沙羅じゃなくて僕なんですか」

「ふふふん、私の目は誤魔化せないよ。一目見たら感じたよ、剣道は君の方が強い」


 流石、学園内で"沖田総司の生まれ変わり"だの"剣神タケミカヅチの化身"だの言われてるだけはある。個人では全国大会を圧倒的な実力で優勝し、団体戦でもチームを優勝に導いた剣道の申し子。


 彼女が慕われる理由はそれだけじゃない。不良に絡まれた女生徒を助けたり、誘拐されかけたところを助けて感謝状を貰ったりと彼女に関する武勇伝は後を絶たない。


「お兄ちゃん来たよ」

「お、よし! いつものやってくれ」

「オーケー。勝機は?」

「ある、薄いけど」

「やる気は?」

「無論」

「じゃあ、行くよ」


 奏斗が深呼吸をして息を全て吐き切る。そこですかさず稀沙羅がビンタ。物凄い破裂音が鳴り、群衆はギョッとする。


「稀沙羅ちゃぁん!? 奏にぃ大丈夫!?」

「うえぇ、滅茶苦茶痛そう」


 奏斗は勝負事となるとこうやって闘魂注入してもらっていた。本人曰く、雑念と一緒に意識も飛びかけるらしい。


 準備が整い、位置に着く。


「勝利条件は十戦最後まで行い、勝利数の方が多い者を勝ちとする。その他の細かいルールは公式戦と同様のもとする」


 審判のハンデも無しのルールを聞いた生徒達の間に笑い声が広まる。まぁ、ごもっともである。勝てる見込みなどあるわけが無い。だが、奏斗は冷静に精神を統一していた。


(まず普通に打ち合って勝てる相手じゃない。狙うなら――)


「始めッ!!」


(ここッ!)


 試合が始まると、気づけば奏斗は牡丹の懐にいて、次の瞬間には竹刀の鋭い音が鳴り響いた。


 見物人達は状況が飲み込めず固まっていた。その次に響いた声で彼らは理解させられた。


「まじかぁ〜……!! 早速獲られるとは」

「え、ホントに負けたの!?」

「嘘だろ、あの姐さんが」

「っていうか何がどうなったの?」


 負けるわけないと思っていた牡丹が負け、三者三様の反応をする。玲と稀沙羅は誇らしげだった。


 勝てるわけのない相手に奏斗が一勝もぎ取るための策。それは、合図を終えた直後の速攻だった。あの時奏斗は縮地法で一気に間合いを詰め、懐に潜り込み喉元を突きで一直線にぶち抜いたのだった。


「でもあと九回。次は反応してみせるよ」

「流石に二度も通用するとは思ってませんよ」


 この後の試合は結構白熱した。結果は八対二で牡丹の圧勝。とはいえ奏斗が二勝したのは驚くべき事だった。


「まさかもう一本獲られるとはね」

「あれは完全にマグレですよ」

「膝抜きで私の攻撃を(かわ)してすかさず胴にいれるのがマグレ?」

「躱せたのはたまたまです。それにしてもボコボコだったなぁ」

「二勝も獲れるだけで凄いよ。筋が良いから鍛えれば私が引退した後も任せられそう」

「いや剣道部は入りませんよ?」

「勿体無いなぁ」


 牡丹は男女問わずイチコロであろう笑みを浮かべる。だが、奏斗はちょっとそれどころじゃなかった。


(やっばい……めまいで立てねぇ。頭痛がする、は……吐き気もだ……)


 これは十中八九稀沙羅の闘魂注入のせいだろう。糸が切れ、今になってその影響が及んだらしい。


 奏斗の状況を察した稀沙羅が恐る恐る近付いてきた。


「あらら、鼻血も出てるね。久しぶりにやったから加減間違えちゃった☆」

「……気にすんな。とりあえず保健室」

「ありゃりゃ、大丈夫? やりすぎた?」

「あ、いや、あたしの張手が思ったより効いちゃって」


 完全に気を失っている奏斗をそのまま負ぶり、剣道場を後にした。


 ―――


(知らない天井……いや、保健室か)


 先生の診察を一通り受けて保健室を出る。そして、その足で生徒会室へと向かった。


「安心院奏斗ただいま戻りました」

「奏にぃ! 体は大丈夫なの?」

「慣れっこだしな。あと寝れば治る!」

「いや〜、マジでごめんなさい」

「頼んだのは俺だから気にすんな。おかげで集中できたし」


 気まずそうに視線を逸らしながらシュンとする妹に奏斗は微笑みかけた。


「それで、あの後はどうなったんだ?」

「何森先輩の活躍にどんちゃん騒ぎだったけど先輩が奏にぃを立てる形で収まったよ」

「それは後でお礼を言わなきゃだな」


 どうやら思惑通りにいったらしい。


「私は直接見てないんだけど、牡丹相手に二勝したらしいじゃん。剣道やってたの?」

「昔、稀沙羅と道場で空手を習ってたんです。そこの師匠が僕達の上達速度に満足して色んな武術を教えてくれたんですが、その中に剣術もあったんです。剣道自体は未経験です」

「なるほど合点がいったわ」


 アキラの言葉に奏斗は首を傾げる。


「あの子ね、貴方の話をよくしてたのよ。人の歩き方から強さが分かるとか言ってたわね。それで試合をしてみたいって頻繁にね」

「あの人は戦闘狂かなんかですか……」

「あながち間違いでも無いと思うけど。すれ違った人で強そうな人がいると目の色変えるし」


 目と目が合ったらポ〇モンバトルってか? そんな女子高生怖すぎる。


「実は何森さんが不良を制圧した現場に僕もいたんだけど、大喜びで突っ込んでってたね。全員大柄で僕なんか足が竦んで動けなかったのに」


 葵はあの頃の光景を思い出しながら肩を落とす。ちなみに不良達はかなり一方的にボコられたらしい。


「まぁ、あいつは剣道バカってだけで真面目で良い奴だからな。戦闘狂でも慕われてるし」


 それはその通りである。奏斗が二人に詰め寄られていたときにも助けてくれた。


「さてと、仕事でもやりますかね」

「あ、奏斗君は帰っていいわよ〜」

「え? どうしてです?」

「家でゆっくり休んだ方が良いでしょ? というか一年生はみんな帰っていいわよ。今日は召集した訳でもないし」


 少し粘ってみようとしたが、有無を言わさない笑顔()があったので諦めた。


「それじゃ、お疲れ様でした」

「「お疲れ様でした」」

「気をつけてね〜」


 下駄箱で靴を履き替えて校門を出た。先輩方のおかげでまだ日は落ちていない。


「玲、このあと時間ある?」

「なくても無理矢理空けるけど?」

「ちょっと話がある」


 玲は気もそぞろに後について行き、校門から出たのだった。


 ―――


「それで、話って?」


 場所は奏斗行きつけの喫茶店。稀沙羅は気を利かせて先に帰ってしまった。出来た妹である。


「あぁ、選挙戦についてなんだが、このままじゃ負ける。その理由も分かってるよな」

「勿論。桜羽場さんや春君に比べて私たちは人気が無いからでしょ?」


 玲達の相手は中等部の元生徒会長の実績と人望がある愛華と、バリバリ陽キャで交友関係の広い春。今のまま人気投票を行っても勝ち目はゼロだ。


 玲がそのことを周知しているのを奏斗は満足そうに頷いた。


「こればっかりは俺が足を引っ張ってるな」

「私だって交友関係狭いし。あと、ちょっと前に努君や勇人君と一緒に昼食を食べたのは人との関わり合いに慣らすためでしょ」

「気付いてたのか」

「最近やっとね。今日の試合は奏にぃが何森先輩に何回か勝つことで好感度アップを狙ったんじゃないの。実際に何森先輩は貴方を気に入って、立てるような発言をしたわけだし」


 ついでに言うと、奏斗が牡丹に退路を断つようにアドバイスをしたのは、大勢の前で試合を申し込んでもらい、見物人をできるだけ多く呼び込むためである。


「まぁでも、実力を示したところで不良のレッテルは剥がれないだろうなぁ……どうしたものか」

「それなら私に策があるから今は信じて?」

「……わかった」


 奏斗は怪訝そうな顔をしていたが、玲は気にしない。


「それで、私達はどうすればいいの?」

「下積みでは愛華に負け、交友関係では春に負ける。だったら君は応援したくなる存在になれば良い」


 奏斗の言葉に玲はハッとする。


「下剋上サクセスストーリーで無党派層を自分のモノにってことねぇ」

「流石に理解が早いな。今の詩織先輩だって美人生徒として名前は知られてたけど選挙戦では完全にダークホースだったんだよ。でも彼女は一年で生徒のみならず、対立候補の心まで掴み、生徒会が創立して以来、初めて選挙が行われずに生徒会長が決まる異常事態になったってわけ」


 彼女の声を聴いたり姿を見たりすると自然に闘争心というものが無くなる。その末に対立候補の心は折れ、次々と辞退していった。


「皆の心を掴む……私が?」

「今弱気になってどうすんの。君ならできるよ、俺が保証してやる」


 真っ直ぐな瞳で彼女を見つめた。


「それもそうね。ごめん、らしくないとこ言っちゃった。話を続けて」

「サクセスストーリーについては後で考えるとして、あとは今後の立ち回りだな」

「生徒会が活躍する場となるとやっぱり行事?」


 玲の鋭さに感心したように頷く奏斗。


「体育祭と文化祭の実行委員は確かに良い見せ場になる。実行委員は各クラスと委員会から二名ずつ選ばれて、更に去年の会長と副会長も関わってくる。ここで活躍すれば影響力のある生徒から高評価を得られるし、逆もまた然りだ。ここで失敗して無能呼ばわりされた生徒を何人か見てきたよ」


 ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。


「まぁ、でもまだ先の話だ、今はもっと重要なことがある」

「新生徒会挨拶……」

「そ。中間考査を終えた後、この集会で生徒会メンバーは固定される。辞めることは出来ても加入は出来なくなるわけだ。だけど、一番重要なのは出馬することを公的に宣言する場だってことだな」

「これって私達にとってはマニフェストに、生徒達からしたら候補者同士の格付けにもなるよね。ここでコケたら大惨事じゃん」

「あぁ、そうだな。俺らがコケたら間違いなく立ち上がれないだろうな」


 新生徒会挨拶はその性質上、候補者の第一印象を決める場となる。それ故に候補者に与える影響は行事の実行委員よりも大きい。元々人気のない二人が失敗すればどうなるか、言うまでもないだろう。


「具体的に何を言えばいいの? 来年何するかとか決まってないけど」

「君が感じたこと、思ったことをそのまま話せばいいさ。それだけで君は応援されるようになる」

「その言葉、信じるよ」


 話に一区切りついたところでクリームソーダとチョコレートパフェが届く。


「奏にぃって甘党なの?」

「そっちこそ」


 クリームソーダを勢いよく飲む奏斗とパフェにがっつく玲。


「やっぱり美味いな」

「やっぱり美味しいね」


 ピタッと目が合い無言で交換する。


「これも美味いな」

「これも美味しいね」

「はい、あーん」


 奏斗が差し出してきたスプーンをパクリと口の中に入れる。何も変わらないはずなのに、自分で食べたときよりも遥かに甘く感じた。


「私もお返し。はい、あ〜ん」


 玲も奏斗に倣ってスプーンですくったバニラアイス突き出す。


「それで、テストは三週間後だけど勉強はしてるの?」


 唐突に言い放たれた言葉に、奏斗はスプーンを咥えたまま固まった。口の中がバニラの甘さで包まれる。


「……玲はもうやってんの?」

「丁度二週間前から」

「マジか、流石だな……」

「たっくさん勉強しようね♡」

「ハイ」


 今日から三週間、奏斗は玲のテスト勉強にみっちり付き合わされることになるのだった。

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