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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第1話:ミノネリラ進攻
7/505

#05

 

 ウォーダ家とタ・クェルダ家の同盟は、皇国暦1561年10月15日に、正式に締結された。これに準じトクルガル家も、タ・クェルダ家と同盟関係となる。


 意外だったのはシーゲン・ハローヴ=タ・クェルダが、ノヴァルナの思った以上に、この同盟を喜んだらしいという事であろう。シーゲンの名代(みょうだい)として、同盟締結の挨拶にキオ・スー城を訪れた家老のシン・マス=コーサックは、ギィゲルト・ジヴ=イマーガラを討ち取ったノヴァルナの武勇への賛辞を並べ、手土産として大型コンテナ三個分ものティルサルガ星系産ウイスキーを、持ち込んで来たのである。


 ノヴァルナ個人にも愛飲家垂涎の的と言われる、ティルサルガ星系第三惑星ベロノアの“シャイニングダガー1519年”が、1ダースも贈られたのであるが、酒の飲めないノヴァルナは、引き攣り気味の笑顔で礼を言うしかなかった。


 そしてその一ヵ月後の11月15日。ウォーダ家の第一次ミノネリラ派遣軍が、惑星ラゴンを発進した。規模は四個艦隊。ノヴァルナが星帥皇のテルーザ・シスラウェラ=アスルーガと交わした約束通り、皇都宙域ヤヴァルトへ向かうための基盤作りを目的とする、“威力偵察”を兼ねた派遣である。


 またこの“派遣軍”という呼称にも意味があった。


 昨年の“フォルクェ=ザマの戦い”の前に、ミノネリラ宙域のイースキー家で起きた、当主ギルターツの不審死事件により、当主の座を継いだ嫡男オルグターツであるが、ギルターツの生前から悪評のあった放蕩三昧が、当主になった直後から一層酷くなり、統治を放棄して二人の重臣、ビーダ=ザイードとラクシャス=ハルマに丸投げしている状況らしい。


 そしてこのビーダとラクシャスが、関税及び所得税をはじめとする税率の引き上げ、開拓中の植民星系に対する財政支援の打ち切りなどの、宙域中央部にのみ経済的利益を集中させる、横暴極まりない悪政を始めたのである。


 そのような中で今年の7月、ミノネリラ宙域内でオ・ワーリ宙域に近い植民惑星において、悲劇的な事件が発生した。ウモルヴェ星系にある第四惑星カーティムルで、惑星上の複数の火山が大規模噴火を起こしたのだ。

 惑星カーティムルでは多数の都市が壊滅的打撃を受け、膨大な数の被災民が生み出された。ところがこのカーティムルに対しビーダとラクシャスは、その復興を現地の行政府に押しつけ、宙域を統治する星大名家として、何の救援行動も起こさなかったのである。

 

 だが惑星規模の大災害を、現地行政府だけで対応できるはずもない。そこで被災した領民で惑星からの脱出が可能な人々は、貨物宇宙船などまで使用して、集団で惑星カーティムルを脱出した。


 そしてそんな被災民達の大半が向かったのは、ミノネリラ宙域の他の植民惑星ではなく、隣国のオ・ワーリ宙域だったのである。

 統治者ノヴァルナとしての評判は、昨年のイマーガラ家の侵略を打ち砕き、素早い復興策を次々と打ち出した事で、今や以前の“傍若無人な大うつけ”から一転して、“領民に対し温情をもって治政を行う善き君主”へと変化していた。カーティムルの難民は、自分達を見捨てたも同然のイースキー家に失望して、ノヴァルナを頼ったのだ。


 そこでノヴァルナは惑星カーティムルの救援を、表向きの任務とする事で、“進攻部隊”ではなく、“派遣軍”としたのであった。無論イースキー家の了解など、得てはいないが………




 惑星カーティムルのあるミノネリラ宙域ウモルヴェ星系を目指し、ラゴンを発進した“派遣軍”四個艦隊は、ノヴァルナの第1艦隊、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊、ウォルフベルト=ウォーダの第5艦隊、カーナル・サンザー=フォレスタの第6艦隊で編成されていた。

 なお1561年になってウォーダ家は艦隊編成が一部され、第2艦隊をノヴァルナのクローン猶子三兄弟の長男、ヴァルターダが指揮を執るようになっている。


 またこの派遣軍の後方には、惑星カーティムルへの救援物資と医療団を乗せた、特務輸送艦隊が続いている。そしてこの特務艦隊を指揮しているのは、戦闘輸送艦『クォルガルード』に座乗するノアであった。


「でもさすがに“悪だくみ”が得意な、ノバくんね」


「ノバくん言うな」


 総旗艦『ヒテン』の私室で向かい合って座り、ティータイムを楽しむ二人。“ノバくん”呼びに対するやり取りは、六年経っても変わっていない。


「それに“悪だくみ”もだ。人聞きの(ワリ)ぃ」


「人聞きって…あなたと私しかいないのに、人聞きも無いでしょ?」


 ティーカップを口許へ運びながら、そっけなく言うノアに、ノヴァルナは不敵な笑みを浮かべて「そりゃそうだ」と応じる。


 ノアの言う“悪だくみ”とは、ウォーダ家が惑星カーティムルの大災害救援を、ミノネリラ宙域進出への大義名分とした事も無論だが、その特務輸送艦隊の司令官に、かつてのミノネリラ宙域の統治者、ドゥ・ザン=サイドゥの娘であるノアを任命した事も含まれていた。





▶#06につづく

 

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