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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第3話:スノン・マーダーの一夜城
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#23

 

 『スノン・マーダーの空隙』に忽然と姿を現したのは、無論宇宙要塞などではなく、宇宙艦に補給と整備を行うための宇宙ステーションであった。だが駆逐艦の艦長達は、このような場所に現れたものが、補給・整備基地だとは思うはずもない。状況的に見て、宇宙要塞の類だと考えた方が自然だ。


「馬鹿な! いつの間にこんなものが!?」


 艦長が叫んだ直後、オペレーターが新たな報告を入れる。


「方位313マイナス06より、重巡航艦2が接近中…ウォーダ軍のものです!」


「反転し、退避。旗艦に敵宇宙要塞出現の、緊急電を送れ!」


 重巡二隻に駆逐艦三隻では相手にならない。百八十度反転し、全速で離脱を図る駆逐艦。だが重巡航艦も速度を上げて追尾する。


「主砲。撃ち方はじめ!」


 重巡の指揮を執るティヌート=ダイナンが命令を発し、二隻の重巡は艦前部に並ぶ六基の三連装主砲塔から、青い曳光粒子を纏ったビームをほとばしらせ始めた。不規則に針路を変えながら撤退する駆逐艦。三弾、四弾と前後左右を掠める重巡の主砲ビーム。やがて二隻の駆逐艦に主砲ビームが命中する。どちらも艦尾だ。


 被弾した駆逐艦の一隻は、艦尾構造物を大きく引き裂かれながらも、推進システムは無事だったらしく、そのまま逃走を続けた。

 だがもう一隻は逆に推進システムに被弾したらしく、ガクリと速力が低下し、艦が斜めに傾いたまま、慣性のみによる等速度で一方向に直進を始める。

 深追いは禁物と判断したダイナンは、推進システムが停止した駆逐艦のみを追う事にし、加速を続けて逃走を図る二隻は放置。程なくして重巡に追いつかれた駆逐艦は、その場で降伏した。




「済まない、ハートスティンガーの親分。二隻取り逃がした」


 ダイナンからの通信を受け、ハートスティンガーはキノッサを見遣る。キノッサは仕方ない…といった表情で頷いた。事実、今の状況で偵察艦を取り逃がしても、それは仕方のない話だった。と言うのも、キノッサ達がここまで運んで来た宇宙ステーションが、星間ガス流から『スノン・マーダーの空隙』へ出る一分前、突然対消滅反応炉が一時停止して、重力子フィールドを喪失してしまったからである。


 重力子フィールドがなくなった状態の宇宙ステーションは、まるでサイコロを転がすように、激しく回転しながら『スノン・マーダーの空隙』へ出る事となった。幸い対消滅反応炉は再稼働を始めたものの、各所のダメージが回復しないうちに、イースキー家の偵察艦が現れてしまったのだ。

 

「どのみち敵に気付かれるのは、時間の問題だったッスから、気にしなくていいッスよ、ダイナン殿。それ以上に、よく敵艦を拿捕して下さったッス。敵の情報を聴ける方が有難いッス」


 ハートスティンガーから通信を代わり、キノッサは自分の口で、ダイナンの作戦行動を評価した。その言葉に、通信スクリーン内のダイナンは僅かな笑みと共に、「かたじけない。司令官殿」と礼を告げ、「すぐに捕虜の尋問に取り掛かる」と付け加える。


「宜しくお願いするッス。あ、尋問は、手荒な真似は無しって事で!」


 そう言って通信を終えるキノッサを、ハートスティンガーは面白そうに眺めていた。視線に気付き、怪訝そうな眼を剥けるキノッサ。


「なーんスか?」


「いやなに、人をやる気にさせるような、上手い言い方をするじゃねぇか…と思ってな」


 これを聞いてキノッサは「てへへ…」と、照れ臭そうに指先でこめかみを掻く。


「ノヴァルナ様のやり方を、真似しただけッス」


 この辺りの人の使い方はキノッサが言った通り、ノヴァルナの『ホロウシュ』や重臣達の扱いから学んだものだった。ノヴァルナ流に言えば“こまけー事は気にすんな。それより○○はよくやった!”という、良い方の評価に重点を置いて、相手を乗せるやり方である。そこからキノッサは、ステーション各部のダメージチェックを行っているP1‐0号に問い掛けた。


「PON1号。対消滅反応炉が急停止した原因は、分かったッスか?」


 P1‐0号は「だれがPON1号やねん!」と定形のツッコミを入れて、コントロールパネルを操作しながら告げる。


「原因は今この時点で不明なまま。反応炉の制御システムに、異常信号が送られた形跡があるんだけど、それがどこから送られたのかは分からない。可能性からすると―――」


 そこまで言った時、P1‐0号の電子脳の中に奇妙な囁き声が聞こえた。



僕は知っている―――



「?」


 このような声が聞こえたのは、製造されて以来初めての事であって、P1‐0号は一瞬動きを止めた。そしてカズージの「可能性からすると、なんだバか?」という問いを聞いて“我に返り”、途切れさせた言葉を続ける。


「旧サイドゥ家か、このステーションを利用していた略奪集団が、トラップの類を仕掛けていたのが、何らかの原因で作動したという事だね」


 その言葉に「なるほど」と応じたハートスティンガーは、キノッサへ向き直って言う。


「ともかく、破損個所を早く修復して、敵襲に備えなきゃなんねぇ!」


 P1‐0号は傍らにいて、キノッサの「もちろんス」という言葉を聞く一方で、自分に呟いた。




アンドロイドの僕が…嘘をついた?





▶#24につづく

 

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