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銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武  作者: 潮崎 晶
第3話:スノン・マーダーの一夜城
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#09

 

「そ!…それだけッスかぁ!?」


 頓狂な声で問い質すキノッサ。赤面したままのモルタナは、キッ!…と睨み付けて言い返す。


「“それだけ”って何だい!! あんたらが勝手に、あたいが何か知ってるって、勘繰って来たんじゃないか!!」


「そりゃまぁ…そうッスけど」


 途端にその場に流れる気まずい空気。バツが悪そうにモルタナは白状した。


「あたいらクーギス家の領地で、あたいが育った海洋惑星ディーンには、虫って云やあ小さい羽虫みたいなのしか居なかったんだ。それをキルバルター家のヤツらに領地を奪われ、宇宙海賊を名乗って中立宙域を彷徨うようになった頃さ―――」


 そこで言葉を区切ったモルタナは、コクリ…と喉を鳴らして生唾を飲み込み、話の核心へ進んだ。


「あたいがまだ十五だったある日、どこの星で潜り込んだんだか知らないけど、母船の『ビッグ・マム』で、惑星ヴィラオスの“ガラルオニゴキブリ”ってのが大発生して…大騒ぎになったんだ」


「げ…」


 “ガラルオニゴキブリ”と聞いて、キノッサは顔を引き攣らせた。ハートスティンガーもだ。植民惑星ヴィラオスのガラル大陸に棲息するこの昆虫は、見た目がクロゴキブリに近い上に体長が二十センチほどにもなる。しかも雑食性で凶暴であり、人間をはじめ大型動物にも噛みついて来て、おまけに環境適応能力が高く、時として爆発的な繁殖力を見せるという、銀河皇国でも悪名高い昆虫だった。

 惑星ヴィラオスはおよそ百年前に銀河皇国に植民惑星化されたが、この昆虫の存在のため、現在でもガラル大陸にはほとんど入植者がいないほどだ。だがそれでも何かの拍子に、幼虫がコンテナなどの輸送貨物に潜り込み、到着先の惑星で繁殖しては騒ぎとなる事件が、時たま聞こえて来る。


「『ビッグ・マム』の船倉で、ずっと置きっぱなしになってた何かのコンテナを開けたら、中からそいつが何百匹って湧き出して来たんだ。そん時あたいも肩にへばりつかれて噛まれてね。感染症で一週間ほど寝込んださ…おかげで今でも、虫を見るだけでトラウマなんだよ」


 その時の光景を思い出したのか、モルタナは自分の腕を抱えて、寒さに耐えるように身を震わせた。


「な、なるほど…」


 子供の頃からほとんど昆虫を見た事がないモルタナが、まだ少女の時代にこんな目に遭えば、“虫”と聞いただけでも震え上がるほどのトラウマを抱えても、致し方ないだろう。

 さすがにこれは気の毒過ぎて、モルタナの小心を笑う事も詰る事も出来ない…そう感じたキノッサは、「知らない事とは言え、失礼しましたッス」と、頭を下げて詫びを入れるしかなかった。

 

 とは言えモルタナの大暴れで、倉庫から昆虫型機械生物が一掃されたのは、幸いであった。一行が警戒しながら中央指令室へ入ると、機械生物は一体もいなくなっていたからだ。


「早くメインシステムを立ち上げるッス!」


「おまえたちは出入り口を全部固めろ!」


 キノッサがカズージとホーリオに、ハートスティンガーが部下達に指示を出す。キノッサ達三人は中央指令室のセンターコンソールへ向かい、ハートスティンガーと部下達は、中央指令室の四つある出入口へ分散して向かう。するとP1‐0号はメインシステムの立ち上げに取り掛かっている、キノッサ達三人のもとへやって来て、注意を促した。


「お猿。NNLのシステムを銀河皇国と接続するのだけは、少し待った方がいい」


「はぁ? どういう事ッスか? PON1号」


 P1‐0号は「だれがPON1号やねん!」と、定形化したツッコミを入れておいて、極めて人間的な表現で自らの懸念を伝える。


「あの機械生物だよ。気になる事があるんだ」


「気になる事?…なんスか、それは?」


「気になる事は気になる事さ。今から検証する。それが終わってから結論を出す」


 そう応じたP1‐0号は自らもオペレーター席に腰を下ろし、アンドロイドらしく眼にも留まらぬ速さでキーボード入力を行い始めた。どうやら医務室にいた時に口にしていた、このステーション外部に接舷されている学術調査船に、アクセスしているようだ。


「キノッサぞん?」


 尋ねて来るカズージに、キノッサは「好きにさせとくッス」と告げて、メインシステムの立ち上げ作業を続けた。略奪集団がアジトとして使用していたステーションだったが、サイドゥ家によって建造された軍用であるため、略奪集団はメインシステムの凍結を解除出来ないまま、解除コードを必要としない、非常用の生命維持システムのみを起動させて使用していたのである。


 キノッサはコーティー=フーマから譲られた、メインシステムの凍結解除コードを手際よく打ち込んで解凍してゆく。最優先は主対消滅反応炉、そして機械生物に浚われた、ハートスティンガーの部下の行方を探るための、警備システムの起動であった。


「どうだ? 立ち上がったか?」


 ハートスティンガーが大股で、キノッサのところへ歩み寄って来て尋ねる。いいタイミングである。キノッサは対人スキャンを基地全体に掛けて応じた。


「もうすぐ分かるッスよ」





▶#10につづく

 

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