#04
「なんだいあんた達! 脅かすんじゃないよ!!」
訳も無くモルタナから叱りつけられて、キノッサは困惑気味に応じる。
「い、いえ…このまま軽巡の前進を続けるように、『ラブリー・ドーター』に指示して下さるよう、お願いしようと…」
するとモルタナは、ようやく事情を呑み込んだようであった。バツが悪そうに、「あ?…ああ、分かったよ」と言葉を返して、『ラブリー・ドーター』へ遠隔操作している軽巡を、さらに前進させるよう命じる。
「どうしたんスか?…まさかあの“虫”に、なにか―――」
「なんでもないよ!!」
急に不機嫌になったモルタナに、キノッサはハートスティンガーと顔を見合わせて、サッパリ分からん…とばかりに肩をすくめた。その直後である。前方にあった旧サイドゥ家の宇宙ステーションから、再び小型艇―――いや、サシガメのような巨大昆虫が二十体以上飛び出して来た。さらに前進していた二隻の軽巡に、たちまち取り付いていく。
するとそこへ、自己の重巡に座乗しているダイナンから連絡が入った。
「たった今、あの昆虫のようなものの、スキャンによる大まかな分析が終了した。そちらへデータを転送する」
元武将のダイナンの乗っているのは重巡航艦であり、ハートスティンガー達の民間貨物船には無い、高精度の解析装置も搭載している。それが軽巡航艦に取り付いた昆虫型生物を、解析したのである。圧縮されたデータの受信を終えると、それを解凍したものがメインスクリーンに開示された。昆虫型生物の外面構造図と様々な解析数値に、それをグラフ化したものが幾つも並んでいく。
「えーと…つまり…なんだこりゃ? 何をどう読みゃいい?」
「さぁ?」
こういった科学分析データの読み取り方には素人の、キノッサとハートスティンガーは、揃って首を捻る。すると背後から思わぬ人物が発言した。ここまで寡黙が売り物のようであったホーリオである。
「自分、近くで見て、いいですか?」
大柄のホーリオの声は重く響くコントラバス。自分から喋り出す事はまず無かったため、キノッサはびっくりして振り返った。
「も…もちろんス」
ホーリオはスクリーンに歩み寄り、表示されているデータを黙読すると、すぐにキノッサ達に告げた。
「とても興味深いデータです。あの昆虫のようなものは、生物と機械の中間にある存在で、“生きた機械”とでも呼ぶのが正しいでしょう」
「機械と生物の中間?…なんスか、そりゃ?」
「生きた機械って、どういう事だ?…自律思考式って事か?」
キノッサとハートスティンガーが口々に疑問を口にする。二人に向けホーリオは背中を丸めて、スクリーンに表示されているデータの一部を指さして、丁寧な口調で応対した。
「いいえ。このデータを見る限り、金属製組織で構成された本体が、神経細胞と似たものを伸ばし、機械装置と融合して自己修復・自己改造を行うようです」
「はぁ…」
画面上の数値やグラフを指さされても、何を示しているのか理解できないキノッサやハートスティンガーは首を捻るしかない。そこにさらにデータを詳細に分析したP1‐0号が、新たな情報を追加する。
「あの昆虫のようなのはどうやら、宇宙ステーションにあった船外作業艇を同化、改造したもののようだね。推進出力は上がっているが、エンジンそのものはミノネリラ宙域にある企業、ライマック航宙発動機のCF3000シリーズだ」
そう言ってP1‐0号は別のスクリーンに、あのサシガメのような機械生物の原型と思われる、旧サイドゥ軍の船外作業艇の姿を、データバンクから掘り起こして映し出した。前後のやや長いラグビーボール状の機体の前方には、四本のマニュピレーター…脚の数と位置の違いはともかく、体の形状は似ていなくもない。
「だけどどうして、わざわざあんな“虫みたいな形”にしたのさ?」
不機嫌そうなままのモルタナが問い質す。
「おそらく、あれを操っている“本体”自体が、昆虫のような形状をしているのだと思われます」
「そ、そうかい…」
右手で左の二の腕をさすりながら、モルタナは“聞くんじゃなかった”というような表情で頷いた。するとP1‐0号がモルタナに訊き返す。
「失礼ですがクーギス様。あなたの口調を分析したところ、“動揺”“怒り”“隠蔽”といった感情の比率を、高く検知しました。“あれ”について、何かご存じなのでしょうか?」
P1‐0号の言葉でその場に居合わす全員が、モルタナに視線を集めた。注目される事にはやぶさかでないはずのモルタナだが、ここでもいつもと違って大きく身じろぎし、眼を泳がせた。
「なっ!…なんだい。あたいは、何も知らないよ!!」
だがそんなモルタナの態度が、キノッサ達を納得させるはずも無く、かえって追及されるだけなのは言うまでもない。
「え?…え? モルタナの姐さん。ホントに何も知らないんスか?」
「そうだぜ、姐さん。今は一つでも情報が欲しいんだ」
キノッサとハートスティンガーに質問され、モルタナはムキになって否定した。
「知らないっつってんだろ!!」
▶#05につづく




