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第29話「追懐」


 大空を、風を切って翔けるウィーの背の上、犬吠埼は、視線の先に鴉鬼葉を捉え続けていた。

 グングン距離が縮まる。鴉鬼葉が止まっているためだ。

 その止まっている鴉鬼葉の向こうに、

(…日空人……)

 全体的に色素が薄いために周囲に溶け込み、ある程度近づくまで見えなかったのだが、雰囲気的に、暫し鴉鬼葉と対峙していたよう。

 身動き取れないよう縛られたリテュシを自らの体の前面に片腕で抱いたタイガと、両脇にドローとフォーツ。

(…ブラナークさんは、いないのか……)

 そのようなことを気にしている場合ではないのだが、恐らく、今この場にいるリテュシ以外の3名にブラナークを合わせた4名は犬吠埼の中で「日空人」と一括りなことと、最後に会った時にブラナークが他3名を裏切ったようであったことから、何となく心の中で、そう呟いた。

 鴉鬼葉の斜め背後まで追いつき、安寿がウィーに、

「止まって」

 停止するウィー。

「近ヅクナ」

 リテュシの目隠しに空いているほうの手を掛け、タイガが頭の中へ直接話しかけてくる。

 目隠しを外すだけ。犬吠埼や鴉鬼葉の側に、何かする隙など無い。にもかかわらず、

(…指先を、ちょっと動かすだけで終わるのに、どうして牽制みたいなことするんだろ……? )

 疑問。少し考えただけで気づいたが……

(躊躇ってるのか……! …そりゃそうだよな……。リテュシさんの目隠しを外したら、自分たちだって死ぬんだ……。躊躇わないほうがどうかしてる……)

 そこへ、

「ワンちゃん」

 安寿が前を向いたまま口を開く。

「あの縛られてる女の子がリーちゃんでいいんだよね? 」

(リーちゃん……リテュシさんね……)

 犬吠埼が、うん、と返した刹那、

(っ? )

 リテュシ以外の日空人3名が同時に一度ビクンッ。直立の姿勢になって固まり落下して行く。

「リテュシ! 」

 タイガの腕を離れ同じく落下していたリテュシを、咄嗟に動き抱き止める鴉鬼葉。

(…これって……? アンちゃんがやったの……? タイミング的にそうっぽいよね……。桃太郎さんが前に先生に使った、繋縛……?

 ほんとアンちゃんって、何でも突然やるよね……魔法なんかが出てくる漫画とかアニメで言うところの、無詠唱……? みたいな……? )

 犬吠埼は感心しつつ見守ってしまっていて、彼らが次々と海へ落ちたところでハッとし、

(いや呑気に感心なんてしてる場合じゃない! あの時の先生を見ていた限り……! )

 救助するべくウィーの背から海へと飛び込んだ。

「ワンちゃんっ? 」

 安寿の驚いたような声。

 飛び込んだあたりは、かなり深さがあるようで、先が真っ暗になっており底が確認出来ない。

 暗闇に吸い込まれていく3名を追い、

(届け……! )

 必死で手を伸ばす犬吠埼。しかし1名がやっと。3名のうち海へ落ちるのが最後だったフォーツを掴まえている間に、他2名は完全に闇へ呑まれてしまった。

 と、

(っ! )

 犬吠埼の体の右脇背面方向から前面へ向かって強めの水流が起こり、体を持っていかれそうになる。

 踏み止まり、水流の通過して行ったほうを見れば、鬼ヶ島へ到着して最初に出会った下半身が魚の少女・漣の後ろ姿が闇へと消えていくところだった。

(…漣さん……っ? )

 すぐにドローとタイガを回収し戻って来る漣。

(漣さん……! よかった……! )

「泳げるー? 」

 漣から問われ犬吠埼が頷くと、漣は頷き返し、こっちへ、と、方向的に鬼ヶ島側へと移動しつつ海面を目指す。

 ついて行く犬吠埼。

 浮上した先には漣の渡船。

 漣の力では救助した者たちを船上に上げるのは無理と聞き、先ず犬吠埼がフォーツを抱えて上がってから、ドロー、タイガを順に引っ張り上げた。

 日空人たちを上げ終え、無い息をひとつ吐いた犬吠埼を海面から見上げ、漣、

「イッヌ様ー? 特徴が合ってるけど、この者たちが岩様が捜してって言ってた日空人ー? 」

(…ああ、そうか。岩さんが捜索に取り掛かるって出て行ってから、それなりに時間が経ってるから、ちゃんと話が伝わってるのか……)

 「あ、はい」

 犬吠埼の返事に、

「じゃあ遥様に知らせないとー」

 行って来るねー、と、漣は鬼ヶ島方向へ。

 犬吠埼は軽く見送ってから、海から引き上げ床に横たえておいた日空人3名に目をやる。

 真っ直ぐの状態で固まり鮪のように転がるだけの体、目は見開かれ、もともと白い顔は青紫を帯び逆に更に白い。

(…呼吸が、出来てない……? )

 その時、強風が起こり、

「ワンちゃん! 」

 安寿の声。直後、ウィーが船首に降り立った。

(わ! 沈んじゃう! )

 慌てる犬吠埼。

 だが、安寿がウィーの背から飛び降り離れたためか、或いは催眠の解ける時のように時間の経過や刺激によるものか、ウィーは元の大きさに。

 安寿、ウィーを抱き上げながら、

「その人たち、どうして助けたの? 」

(……確かに。…どうして助けたんだろ……? )

 何も考えなど無く、体が勝手に動いてのことだった。

(アンちゃんの使った術が桃太郎さんの繋縛と同じだって思ったから、海へ落ちたのをそのままにしておいたら死んじゃう、とは思った気がするけど……)

 と、視界、船上へリテュシを抱いた鴉鬼葉が舞い降り、えっ?となる。

(何で逃げないのっ? せっかくリテュシさん、3人から離れたのに! )

 口には出していない。

 相変わらず饒舌な心に答えて頭の中へ、

「スミマセン、私ガオ願イシマシタ」

 鴉鬼葉の腕から下りながらのリテュシの鈴の声。

「3人ヲ助ケテ下サッテ、アリガトウゴザイマス」

 リテュシの発言に犬吠埼は更に驚き、

「敵じゃないのっ? 」

「現在ノ立場ハ敵……カモ知レマセンガ、3人共、兄ノ古クカラノ友人デス。私ニモ良クシテ下サッテイマシタ。

 先程、貴方ハ彼等ガ私の目隠シヲ外スノヲ躊躇ッテイルト感ジラレタデショウ? ソレハソノ通リデ、原因ハ私トノ過去ノ関係性デシタ。現在デモ大切ニ思ッテ下サッテイルト知ッテ驚キマシタ」

 脳裏に、はっきりとした言葉ではないが、しかし強い、リテュシの3名へ向けた追懐の情のようなものが流れ込んで来、胸がキュッとなる犬吠埼。

「ケレド仮ニ敵ナノダトシテモ、命ノ危険ニ晒サレテイルノヲ前ニシテ平気デイラレルノハ違イマスヨネ? 」

(…うん、僕も海に飛び込んだし……ただ……)

 犬吠埼、非常に言いづらかったが、まだ3名を完全に助けれたわけではないと告げる。呼吸が出来ていないと。

(繋縛を解けば、呼吸は再開するんだよね……? そして多分、逆と違って繋縛をしてる最中に新たに他の術は使えない。だからその前に……)

「鴉鬼葉さん、リテュシさんを連れて鬼ヶ島へ移動してもらえますか? 」

 保護してもらえるという話だったので。

 鴉鬼葉には犬吠埼の心の声など聞こえておらず説明不足のはずなのだが、察し、信用したのか、

「あい分かった」

 頷き返してから犬吠埼は、続いて安寿に、

「アンちゃん、鴉鬼葉さんたちがここを離れたら繋縛を解いて。その後すぐに、催眠をかけてくれる? 」

「…あ……」

 安寿は何やら途惑っている様子。

 気になったようで、鴉鬼葉が自身を抱え飛び立とうとするのを止めるリテュシ。

 話が掴めなかったかな? と、

「この3人ね、リテュシさんの大切な人たちなんだって。

 息が出来なくなっちゃってるから、本当に助けるためには海から上げるだけじゃなくて繋縛を解いて息を出来るようにしてあげないと……繋縛を解けば息が出来るようになるんだよね? で、多分だけど繋縛をしてる時に新しく催眠を使うことは出来ないよね? でも繋縛を解くとリテュシさんの目隠しを今度こそ取ろうとするかもしれないから、その前に鴉鬼葉さんにリテュシさんを連れて鬼ヶ島へ移動してもらうし、僕も3人の動きを邪魔出来るように頑張るけど、もっと大丈夫になるように、繋縛を解いたらすぐに3人を眠らせてほしいんだ」

 噛み砕いて、犬吠埼は、もう一度言う。

 安寿は俯き、

「…ごめん、なさい……」

 小さな、震える声。

「…アン、繋縛の解き方わかんない……」

(え……っ? )

「…死なせようと思って、やったから……」

 俯いた顔から足元へパタパタと、涙だろう、水滴が落ちる。

 ごめんなさい…ごめんなさい……と消え入りそうに繰り返す安寿。

 瞬間、

(っ? )

 船が大きめに揺れた。

 治まった時、いつの間にか目の前に桃太郎。その頭上に未遊姫。

「桃太郎さん! 」

 桃太郎は犬吠埼に頷いて見せてから、安寿へと歩み寄り、髪をそっと撫でつつ身を屈めて顔を覗き込み、優しく優しく、

「泣かないで安寿。大丈夫、オレが解くよ。

 ちゃんと教えてあげてたらよかったね、ごめんね。オレの責任だ」

 言って身を起こし、安寿と向かい合ったまま略拝詞を唱え、大幣も左・右・中央と安寿へ向け、

「使用術式解除」

 特に何か起こったふうではない。

 ややして大幣を下ろし定位置へ収納して桃太郎、

「これで繋縛は解けたよ」

 桃太郎の視線が日空人3名へ移動するのにつられて見れば、呼吸が戻っている。

 ホッとすると同時、思わず身構えた犬吠埼だったが……

(…そっか……。僕、また物事を軽く見てた……。

 暫く呼吸が止まってたんだから、体に影響無いわけないよね……)

 3名の呼吸は確かに再開しているが頼りなく、体の不自然に固まった状態も解けているもののグッタリと横たわり動かない。顔色も変わらず青紫を帯びている。

 不安げに鴉鬼葉の服をギュッと掴むリテュシ。

 桃太郎は穏やかな口調で、

「心配しなくていいよ。ちゃんと治せるから」

 落ち着き払った態度に垣間見える自信。

 リテュシの、鴉鬼葉の服を掴む手が緩んだ。

 犬吠埼も、再びホッ。




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