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第23話「鳥女の餌」


(っ? )

 猿爪に胸を突然に突き飛ばされ驚いた犬吠埼だったが、バランスを崩し宙を仰ぎかけた瞬間にその理由を知り、敢えてそのまま地面へ倒れる。

 鷲のようなガッシリとした鳥の足爪が迫って来ていたのだった。

 人間の女性に似た頭部を持つ、犬吠埼と変わらないくらいの上背の大きな鳥。

 犬吠埼と鳥の間に岩が割り込み、襲い来る足爪を臑当で受け止めつつ、その顔面を籠手でぶん殴った。

 空中へ吹っ飛ぶ女頭の鳥。

鳥女ちょうじょっす。赤鬼と同じくらい馬鹿で100億倍不潔で下品な奴っす。あたい大嫌いなんすよね。

 死肉を啄む奴っすけど、どうしてイッヌが狙われたんすかね? 」

 吹っ飛んだ先に同種らしい個体が十数羽。吹っ飛んで来た個体の巻き添えを食って体勢を崩し、興奮した様子でギャアギャア喚きながら一斉にこちらへ。

 急いで身を起こす犬吠埼。

 安寿が無言で頭上に手のひらを向ける。

 ガラス板のような無色透明の障壁が、犬吠埼の頭頂スレスレの高さに現れた。

 鳥女がぶち当たり弾かれた位置で、それが桃太郎のものと同等の分厚さであることが分かる。厚さが全てとは限らないが犬吠埼の知る範囲、未遊姫の薄い障壁は脆かったので。

(アンちゃん、前に先生を触るだけで眠らせたことがあったけど、障壁もいきなり出すんだっ? )

 しかし頭上だけなので鳥女たちは前後左右へ回り込み、自身の翼に邪魔されてやりづらそうに、足から滑り込むようにして攻撃してきた。

 犬吠埼は自分に向かって来た鳥女の足爪を斧を出して受け、突き放す。

 前後左右の分の障壁をカバーするつもりであったと思われる桃太郎は、略拝詞を唱え大幣を振ったところまでで、明らかに自身を狙ってはいない斜め後ろの猿爪へと通過して行く途中の鳥女の足爪を、ガッ!

 大幣の柄を末端から15センチほどの辺りで2つに分かって現れた刀身の峰で受け止めるので中断。

(何それカッコイイ! その大幣、仕込み杖みたいになってたんだっ? )

 以降、桃太郎は怒り狂ったふうの鳥女の正式な標的となり左右交互に繰り出される足爪を捌くのにかかりきりになるのを余儀なくされ、庇われた猿爪は猿爪で別の個体と鉤爪で相対しつつ、岩の疑問に、

「犬吠埼君が、あと先生とボクも、死体だからだよ! 死臭がプンプン臭ったんじゃないかな? 他の方々には分からなくても、死肉を好む彼女たちには! 」

「はっ? 死体っ? 意味わかんないっすよっ? 」

 岩も自身へは向かって来ていない鳥女のうち雉子に掴みかかろうとしていた1羽を横から殴り飛ばしながら返してから、安寿に、

「安寿様! その透明な天井、解除していただいて大丈夫っす! 奴らの一斉の攻撃を防いで下さったこと感謝っす! 」

(…確かに……。障壁は鳥女たちの動きを制限出来てるけど、一斉に来れない分、退けられては交代で来てキリが無い感じになっちゃってるし、同時にこっちの動きまで……特に先生と岩さん、岩さんは素手で戦ってるけど、背中に差してある棘付き棍棒って多分飾りじゃないんだよね? )

 頷き障壁を解除する安寿。

 待ってましたとばかり鳥女たちは頭上から仕掛けてこようとする。

 と、岩が他一同の頭より高くジャンプ。背中から棍棒を手に取りざま、ブブブブンと軽やかに振り回している割にはドグシャァッドゥグシャァッと低く鈍い嫌な音をさせながら鳥女たちを殴打、地面と水平方向、遠くへと飛ばしていった。

 犬吠埼は自分の目の前の鳥女を相手しつつ見ていて、ちょっと、うわぁ……となる。

(…仕方ないんだろうけど……)

 岩が着地。周囲を見まわし、

「半分くらいには減ったっすね。今のうちに移動するっす」

 言って、鎧の内側から先程見せてくれた帰還薬の小瓶をひと回り大きくした瓶を取り出した。

(さっき言ってた、帰還薬の大きいサイズのほうか……

 確か、前に岩さんが帰還薬を使った時には、地面に叩きつけて割って、そこからあの、僕たちがこっちの世界に来た時のものと同じ黒い霧が出たんだから、割ってから移動までに少し時間がかかるわけで……)

 桃太郎・猿爪・雉子も犬吠埼とかなり近いことを考えたようで、岩が瓶を地面へと叩きつけた直後、雉子は真上に向かって矢を放ち、まだ上空にいた鳥女たちを牽制。桃太郎・猿爪は発生中の黒い霧に阻まれながら犬吠埼とも目を合わせ頷き合い、各々相手の鳥女を出来るだけ遠くへ突き放した。

 霧は急速に濃くなっていき、霧中の者たちを犬吠埼から遠い順に呑み込んでいく。

 ややして誰の姿も見えなくなった、その時、ガシッ!

(っ? )

 両肩を足爪で鷲掴みにされ、犬吠埼はひとり、鳥女によって霧の外へと連れ出された。

 何を思う間も無く上空まで連れて行かれ見下ろした地表では霧がキレイに晴れ、誰の姿も無い。



         *



 その場で食べることなく鳥女たちは犬吠埼を連れ、ただ大空を行く。

 幸い両手両足は自由なので抵抗しようと思えば出来るであろうが、高さがありすぎて、下手に抗って落ちたら危険と考え、犬吠埼は、山などの上を通るタイミングを待ったが、そのようなタイミングの来ないまま、正面に超巨大な鳥の巣のようなものが見えてき、ほぼ同時に鳥女たち全員の注意がそこへ向いたため、そこが目的地であると確信。

(…じゃあ、もうあそこまで行っちゃってから……)

 解放される直前に振り払って、そうしたら少しは隙が出来るだろうから、と考えた。

 しかし、いよいよその巣のようなものに近づいたところで目に飛び込んできた光景に、

(いや、ダメだ……! )

 青ざめた。

 人間の少女に似た頭部を持ち、クリスマスディナーのテーブル上に並んでいそうな形で産毛に覆われた体をした、鳥女たちより少し小さめの生物たち50羽ほどが、口を大きく開けてビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨビヨ大合唱している。

(…鳥女の、ヒナ……っ? だよね……っ?

 あんな所に降りて逃げれるわけがない……っ! )

 もう落ちたら危険などと言っている場合ではない、到着したら最後だ、と、斧を出し、頭上の、自分を掴み飛んでいる個体へ向けて振るった。

 が、上手く当たらない。何度も繰り返すも、良くて軽く掠る程度。足爪を離させるには至らない。

 巣は目前。

(間に合わないっ! )

 そこへ、ドンッ!

 真横から黒い何かがぶつかってきた。

 衝撃に思わず目を閉じる犬吠埼。同時、同じく衝撃によってだろう、足爪から解放されたのが分かった。

(落ちる……! )

 かと思ったが頬に当たる風の動きが下からではなく横方向なので、

(…落ちて、ない……? )

 恐る恐る目を開けると、

「鴉鬼葉、さん……? 」

 真っ直ぐに前を見て飛行する鴉鬼葉。犬吠埼は向かい合わせ腋の下を通した両腕でガッチリと抱えられている。

 鴉鬼葉は一瞬だけ視線を犬吠埼へと落とし、頷いてから、チラッと後方を確認。

「奴ら、追って来ないな。降りるぞ。私の腰に腕を回して、しっかり掴まっていろ」

 言うなり、眼下に広がる広大な森を目掛けて急降下。

(っ! )

 普段であれば女性に抱きつくなど許可があっても抵抗しか無いであろうが、反射的、結果的に言われた通りの格好でしがみつく犬吠埼。

 ほんの2・3秒後、木々の葉に突っ込んだところで急ブレーキ。そこからはゆっくりと降り、安定した着地。

 鳥女の餌にならずに済んだこと、それからたった今の急降下が無事に着地出来たことにも、ホッとし、犬吠埼は、ボー……となってしまっていた。

 その間に鴉鬼葉は飛び去ろうとする。

 ハッとし、

「あっあのっ! 」

 引き止める犬吠埼。

「助けて下さって、ありがとうございました! 」

 鴉鬼葉は、きちんと犬吠埼を見て頷き、

「礼には及ばん。貴様らには借りがあるからな」

 言って、今度こそ行こうと、翼をバササッ。宙に浮いた。

(わ! 待って! )

 犬吠埼は慌てて再度引き止める。

(こんな所に置いて行かれても……! )

 助けてもらっておいて更に頼みごとなど図々し過ぎると分かっているが、ここが何処なのか、桃太郎たちに合流するため彼らが移動したであろう鬼ヶ島へ行くにはどの方向へ進んで行ったらよいのか、分からない。しかも、こんな深い森の中、鳥女に捕まって上空から見ていた分には近くに集落も無かった。ここで鴉鬼葉と別れてしまったら、次に話の通じる者に出会えるのすら、いつになるか分からないように思えたため、

「すみません! 鬼ヶ島の場所を知っていますかっ? 連れて行っていただけませんかっ? 無理なら、行き方を教えていただきたいです! 」

 鴉鬼葉は広げた翼をすぼめ、地に足をついて、

「……貴様は、一体何者だ?

 見た目は始鬼だが、始鬼ではないと小鬼のが言っていた。言い伝えの躯鬼であるとも。

 そうなのか? 鬼ヶ島へ行くのは何のためだ? 」

 真っ直ぐに静かに聞いてきた。

「話すと長くなるんですけど」

「構わん。話せ。聞かねば私自身の行動が決まらんからな」

 犬吠埼は話した。

 改めて、自分は始鬼ではないこと。言い伝えの「くき」でも多分ないこと。本物の「くき」と思われる存在は、言い伝えで伝えられているところの捩じれた地で暮らしていた始鬼遥の娘であり犬吠埼の知り合いで、自身は始鬼遥が娘を迎えに来た際に居合わせたために他の同じく居合わせた知り合いたちとともに、その移動に巻き込まれ、こちらの世界へ来てしまったのだということ。

 鬼ヶ島へ行く理由は、移動の際に始鬼遥や娘とはぐれてしまい自力では捩じれた地へ帰れず困っていたところを思いがけず再会した娘の計らいで帰れることとなり、そのために他の知り合いたちも一緒に鬼ヶ島へ向かおうとしていた折、自分だけが鳥女に捕まり、知り合いたちが追って来れる状況ではなかったため既に鬼ヶ島に到着していると思われるので、合流するためであるということ。

 他、話の流れで、おばば様の占いに拠る世界の危機の予言にも少し触れた。

「……そうか、難儀だったな。

 あい分かった。貴様が確実に自力で辿り着ける程度のところまで案内してやろう」

 犬吠埼の話を一通り聞き、頷いてから、鴉鬼葉、

「ところで、その危機というものの詳細は分かるか? 」

(…ああ、やっぱり気になるよね……。当たり前か……)

 答えて犬吠埼、

「あまり詳しくは僕たちも聞いていなくて……。ただ、分かっていて伏せられてるというより、少なくても僕たちに話して下さった方は、それ以上のことを知らないんじゃないかという印象を、聞いていて受けたんですけど……。

 僕が聞いたのは、その占い結果が出たのが30年前ということと、その内容として、今年、見知らぬ地からやって来る何者かが、とんでもない兵器を使って、始鬼遥の天守……どのくらいの高さなのか僕は知りませんが、その3倍の高さから見渡せる範囲を滅亡させてしまうということくらいです」

 鴉鬼葉は何やら考え込んでいる様子。

(……? )

 見守る犬吠埼。

 ややして視線に気づいた鴉鬼葉、

「実は、その見知らぬ地から来る者と兵器に心当たりがあってな。全く違うかも知れないが。

 ……とりあえず、移動しながら話そう」



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