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第21話「リアル鬼ごっこ」


 外が仄明るくなるのを待って、犬吠埼は洞窟の外へ出た。

 当然ながら特に体が凝り固まっているわけではないのだが何となくの気分で伸びをする。

 呼吸は無くとも、頬を撫でる日中に比べひんやりとした空気に、その新鮮さを感じながら、池より湧き出した清水の小さな流れで出来た沢に沿って少しだけ山を下り、そこで顔を洗った。池の水は桃太郎が飲料水として使うためだ。

 その時、沢を挟んで向かいの茂みがガサガサッと揺れ、犬吠埼はビクッ。

 そこから現れたのは、

「おはよう、犬吠埼君」

 泥で汚れた顔でニッコリ笑う猿爪。

 犬吠埼はホッとし、おはようございますを返す。

「桃太郎さんのご飯、今朝はこれで頼むよ」

 言って猿爪は、指で尻尾を摘んでぶら下げる形で持った、猿爪の指先から肘までの体長の大きなトカゲを、ドヤ顔でズイッと犬吠埼の目の前に突きつけた。

 トカゲは既に死んでおり動かない。

「でも本当に助かったよ、犬吠埼君が料理出来て。料理に関しては先生もボクもからきしだからね」

(…いや、今の生活を始めてから桃太郎さんのために用意してきたものを見て「料理出来る」とか言われても……)

 桃太郎も料理は出来るが自身が食べるためだけに動物を捕まえて締めるのには抵抗があるようで、「そのへんの草でも食べとくからいいよ」などと言っていたため、他3人で分担して用意することにしたのだ。

 猿爪と雉子が食材を集める係、犬吠埼が調理を担当。

 調理、と言っても、調理器具は選び集めた多様な形状・大きさの石と鴉鬼葉が投げたまま地面に刺さった状態で放置して行った投矢。水は池から。火は、初日に桃太郎が障壁をルーペのように使って起こした種火を、絶やさないよう管理している洞窟内から外へ持ち出し焚き火。そんな環境で出来ることは限られている。

 今、目の前にぶら下がっているトカゲだって、内臓を出し投矢に刺して焼き、あとは調味料など無いので先日見つけた自生していたスダチを搾るのがせいぜいだ。

 この洞窟での生活を始めて20日、この世界へ来てからは22回目の朝。

 小鬼の村の、治療が出来なかった怪我をされた方々の体のこと、修繕出来なかった家屋等の復旧状況。翔の実姉なので体については心配要らなそうだが少しでも関わった以上は気になる鴉鬼葉の現況。同じく気になる、仲間を裏切ったように見えたブラナークのこと。元いた世界で自分を心配しているであろう母のために早く帰らなければとの焦り。……様々なことでグチャグチャになっている心とは裏腹に、日々は穏やかに過ぎていった。

(…アンちゃんについては、この間、小鬼の村を大きな岩で襲って来た人の言ってることを聞いて何だか安心したのもあって、桃太郎さんさえ連れて帰りたいとかもう一度会いたいとか思ってないならいいのかな、って、完全に落ち着いちゃったけど……)




 生まれたての陽に目を細め犬吠埼と猿爪が連れ立って洞窟へ戻ると、桃太郎が起床していたため、犬吠埼は早速トカゲの下処理を開始。

 その間に猿爪が洞窟内から種火を持って来、焚き火を用意した。

 雉子が皿代わりに使える大きな葉っぱを摘みに行く。

 下処理が済み、投矢に刺したトカゲを火に翳そうとした時、

(……? )

 頭上に影が差したのを感じた犬吠埼が仰ぐと、小鬼の村を襲ったような大きな岩が浮いていた。…真上なので全体は見えないが……。

 同じく大岩を見上げる桃太郎と猿爪。

 葉っぱを手に戻って来たところの雉子も足を止め上を向く。

 ややして、小鬼の村を襲った赤髪の自称大人少女が、大岩から飛び降り一同の前に立った。

 身構える一同だったが、自称大人少女は憔悴しきった様子。その立ち姿からして先日の傲岸不遜な雰囲気は見る影も無く、桃太郎へ縋るような視線を向け、

「…あんた、姫様方を見かけなかったっすか……? 」

(姫様……って、アンちゃん……? 「方」って……? )

「安寿が、どうかしたの? 」

「…昨日の午後に無断で出掛けられたきり、戻られないんす……」

(…アンちゃんが……っ? )

「…姫様方は、周囲の者に危害を及ぼすって理由で、おばば様の手で遥様由来の力を封じられてるんで……。

 …母君様のほうの能力は封じられてないんすけど、ゆい様……姉姫様はもちろん、その使い方なんて教わったこと無いっすし、安寿様も使われてるとこ見たこと無いんすけど、どうなんすか? あんた、教えたっすか……? 」

「…教えてない、けど……」

 桃太郎の返答に、自称大人少女は頭を抱え俯く。

「…教えといてくれたら……。10年間も何やってたんすか……? 」

(…そんな責められたって……)

 ムッとする犬吠埼。

 しかし桃太郎は、

「…ごめんなさい……」

(謝らなくていいから! 

 桃太郎さんはアンちゃんが事を起こさないように抑えるのに一杯一杯で、じゃあ抑えることをしないで元いた世界の人たちをもっと大勢犠牲にしてよかったのかって言ったら絶対違うじゃん!

 …なんか桃太郎さん、ちょっとでも自分が悪いかもと思ったらとりあえず謝っとけ、くらいに思ってる? 歪んだ処世術的な……。それか、ただの口癖……。

 大体、「無断で出掛けた」って、無断なのがいけないのか、出掛けること自体がいけないのか分かんないけど、この件の問題はそこでしょ?

 …って言うか、アンちゃんと唯さん? が自分たちの意思で出て行ったのを、それがいけないことだって知らずに把握だけしてた人がいるってことだよね? その人のことが心配になってきた……。この調子じゃ絶対悪者扱いされてる……。

 いや、それよりとにかく……)

 捜さなきゃ、との犬吠埼の心の中の声を遮って、雉子、

「そんなことはどうだっていいわよ! 起こってしまったことは仕方ないでしょうっ? とにかく早く捜さないと! 」

 猿爪が頷き同調。

 と、

「…捜したっすよ……」

 頭を抱えたまま、自称大人少女は暗い声で低く呟いた。

「…ってか、あんたら誰っすか……? 口を挿まないで欲しいっす……」

(…小鬼の村の時もすぐ近くにいたけど、全然目に入ってなかったんだな、僕たちのこと……)

 疲れきった気だるげな問いに返して猿爪、

「桃太郎さんの子分のイヌとサルとキジだよ」

「…ああ、そうなんすね……」

 全く興味無さげに自称大人少女は流す。

(…こんな説明でいいんだ……? なんていい加減な……)

 それから大きな溜息とともに、

「…鬼ヶおにがしまの大人総出で、子供たちも、大きな子は手伝ってくれて、夜通し捜したっす……

 けど、見つかんなくて……

 …現状、姫様方は人間の幼体と変わんないんすよ……。もし知らない誰かに捕まったら、食べられ……」

 考えたくない、といった様子で首を弱く横に振り、声を詰まらせ、

「食べ、られ……」

 見た目にはっきり分かるくらいに震える。

 沈黙が場を押し包んだ。

 桃太郎は自称大人少女へと歩み寄り、顔を覗き込む。

「落ち着いて。大丈夫。安寿は強いよ。教えてないけど、オレの見様見真似で……って大幣を使わないから過程は違うけど色々出来ることは確認済みだし、教わってない上に本来必要な手順も踏まずに出来てしまうあたりがセンスがある証拠だからね。

 出来ることを駆使して、もしかしたら新しく編み出してしまったりなんかもして、唯さん……って言うの? 安寿の双子のお姉さん、その子のことも守って、きっと無事でいるよ」

 そこへ、

がん様! 」

 空から少女の声とバササッと羽音。

「伝令です」

 言いながら、小さな体に自称大人少女と揃いの和風の部分鎧を身につけた黒い翼と黒い髪をもつ少女が、自称大人少女の前に舞い降りる。自称大人少女は岩という名前らしい。

 肩で息をしつつ自称大人少女・岩を真っ直ぐに見る少女の姿に犬吠埼は、

(鴉鬼葉さん……)

 かと思ったが、岩は少女に向け、

「ご苦労っす、みつ

(違うんだ? 「みつ」さん? …まあ、僕は実は鴉鬼葉さんの顔、ちゃんとは分からないから……。この間、顔を治そうって時に、全く役に立てなかったし……。

 それでもかなり似てる気がするけど、髪色と背格好に引きずられたのかな……? )

 確かに記憶の中の鴉鬼葉とちゃんと比べてみれば、だいぶ栄養状態が良さそうで肌の色艶がいいし、鎧の下の着物も丈夫そうで汚れも無く新しそう。

(全体的な雰囲気も何となく柔らかいか……)

 岩の労いに頷いてから、密、

「姫様方の所在が判明しました」

(見つかったんだ! )

赤鬼せっきの棲み処にて明け方の時点での生存が確認されています。

 対応可能な戦力が集まり次第、救出に移れとのことです」

「…赤鬼っすか……。対応可能な戦力……」

 岩は、ちょっと考えるような素振りで呟いてから、

「あたいだけで充分っすね。

 皆、夜通しの捜索で疲れてるっすから帰って休んでいいって、密は申し訳ないっすけど触れて回って欲しいっす」

「しかし……」

 と密は心配げ。

「触れ回るのはよいのですが、赤鬼が相手では岩様は戦い辛いのではありませんか? 」

「大丈夫っすよ」

 岩は余裕たっぷりに笑んで、

「ちゃんと考えがあるっす」

 言って、桃太郎をチラッと見た。

(……? なんか、嫌な予感がするんだけど……? )



                  *



「さっきは八つ当たりみたいな感じで言ってしまって申し訳なかったっす、桃様」

 赤鬼から安寿を取り戻すのに手を貸して欲しいと頼まれ快諾して岩の大岩に共に乗って空を移動中、岩が桃太郎に向けすまなそうに口を開いた。

(桃様……っ? )

「姫様方の叔父上様なんで、そう呼ばせていただくっす」

(いや全然信用出来ないんだけど?

 協力するって引き受けて、当然急いだほうがいいから急かされるままに一緒に来ちゃってるけど、大丈夫なのかな……? そりゃ、さっきアンちゃんを心配してた姿は演技とかには思えなかったけど……。

 だってこの人、桃太郎さんを殺そうとしてる人だよ? )

 岩の謝罪に、

「大丈夫、分かってるよ。それだけ安寿のことを心配してるんだよね? 」

 優しく返す桃太郎。

 猿爪が犬吠埼にそっと耳打ち。

「危なくなったらボクたちは桃太郎さんを守ることを最優先に動けばいいよ」

(っ? )

 犬吠埼は驚き、猿爪を見る。

(何で? 僕の考えてることが分かったのっ? )

 猿爪はイタズラっぽく笑って、

「犬吠埼君は、すぐ顔に出るからね」

(…そうなんだ……? なんか恥ずかしい……。気をつけよう……)




 赤鬼の棲み処は川によって2つに分けられた形の岩山の麓。

 大岩で5分程移動した後、少し離れた所で降りて向かう。

 川に沿って岩山の方向、上流へと暫く歩くと、

(っ! 丸見えじゃんっ! )

 そそり立つ岩山を背に自然のままの木や岩を運んで来て並べてみましたといった感じの高さ1メートルにも満たないような囲い。その中に、赤みがかった灰色の肌に赤髪、頭頂に2本の短い角のある、半裸で腰を獣の皮のようなもので覆った犬吠埼くらいの上背で体格のよい男女20名ほど。彼・彼女らがおそらく赤鬼なのだろう。

(こっちから見えるってことは、向こうからも見えるよねっ? )

 突然、

(! )

 斜め後ろから腕を引っ張られ、犬吠埼は近くの茂みの中へ引きずり込まれた。

 腕を掴んでいたのは雉子。そこにしゃがんだ桃太郎と猿爪もいた。皆、犬吠埼と同じことを考えたようだ。

 茂みに隠れた一同の先をひとり行っていた岩が、一同がついて来ていないことに気づいて戻って来、

「何やってんすか? 」

 怪訝な顔で覗く。

(だって見つかるし……。

 そう言えば「考えがある」って、その考えを聞いてなかったけど、コソコソする必要は無いの? 当然コソコソはするんだろうと思ってたんだけど)

 茂みの隙間から赤鬼と思われる人々のほうを窺い、陰からなので落ち着いて見れたこともあって囲いの最奥に安寿が無事な様子で座っているのを認め、

(…アンちゃん……)

 ホッとしつつ、小声でそう聞いてみる犬吠埼。

 答えて岩、

「全然無いっすよ」

「離れた所で、あの大きな岩から降りて歩いて来たのは、目立たないようにするためじゃないんですか? 」

「違うっすね。ただ単に安全に着地出来る一番近い地点があそこだっただけっす」

(…そうなんだ……)

 囲いの中の男女各1名が、こちらを見、手を振る。

 手を振り返す岩。

(…どういうこと……? )

 犬吠埼の無言の問い。

「あたいの両親っす」

(両親っ? )

 岩と囲いの中の男女を見比べる犬吠埼。

(…ああ、だからさっき密さんは、赤鬼相手だと岩さんが戦い辛いんじゃないかって心配してたのか……。

 …髪の色は同じだけど……)

「似てない、って思ったすね? 」

(…やっぱ僕、顔に出るのか……)

 きまり悪く感じる犬吠埼。それをも読み取られ、

「気にすることないっす。事実っすから。

 あたいは突然変異なんすよ。『似てない』はむしろ褒め言葉っすね。奴等の莫迦さ加減に嫌気が差して家出したんすから」

 視線は完全に赤鬼のほうへ向け、にこやかに手を振り続けながら、岩は悪口を言う。

 だが、不意に真顔になり、

「けど、親ってホント有難いっすよね。家出して初めて身に沁みたんす。莫迦は莫迦なりに、ずっと守ってくれてたんだなーって……。

 食事の調達すらままならなかったっすから、ろくに食べれなくて弱ってるとこを鷲獅子に襲われて……親元にいたら、そんなことには絶対ならないっすからね。

 倒れて死を覚悟して目を閉じたら親の顔が瞼の裏に浮かぶんすよ…泣けたっすね……。

 次に目を開けた時、たまたま通りかかって珍しい存在だからと保護して下さった遥様の鬼ヶ島にいて、そのままお世話になって今に至るんすけど、だから、たまにこうして里帰りするんす。手土産を持って」

(…手土産……)

 犬吠埼の先程の嫌な予感が確信に変わった。

「おかげで何の不自然さも無いっす。

 さ、行くっす桃様。莫迦でも……莫迦だからこそ本能的に混血の姫様方より純血の桃様のほうが美味いって、きっと目の前にした瞬間に分かるっす。間違いなく夢中になるっすよ。皆が桃様を美味しく食べてる隙に、あたいが姫様方を連れ出すっす」

(やっぱりか……! )

 桃太郎が頷き立ち上がる。

 え……? となる犬吠埼。

(…岩さんの話、聞いてた……っ? )

 思わず、

「桃太郎さん……っ! 」

 手を掴んで引き止めた。

(以前、アンちゃんへの懺悔めいたことを言ってたことがあったし、自分を犠牲にすることでアンちゃんが助かるなら、とか考えてるんじゃ……? )

 桃太郎は犬吠埼の視線を受け止め、フッと笑んで見せ、

「食べられるつもりは無いから安心して」

 以前にも似たようなことがあったな、と犬吠埼は思い出す。鴉鬼たちを死なせてしまった小鬼田を眠らせに行った時。その時も犬吠埼の杞憂だった。

「この間、雉子君が『アナタに謝られなければならないことなんて何ひとつされてない』って言ってくれたけど、やっぱりオレには君たちに対してずっと忘れずに背負って一生をかけて償っていかなきゃならない責任があるからね。それを途中で投げ出すような真似はしないよ」

(…また、そんな言い方……。処世術的なものか口癖かもしれないから、言われた側も聞き流していいんだろうけど、僕には無理だな……。

 でも、そうか……この件に関しては……。

 この間、先生が、会長と僕のこともまとめて3人分みたいな感じで言ってくれたけど、いや、莫迦にしてるのかとは思わないけど、僕自身は心の中で思うばっかで口にしたこと無かったな……。すぐ顔に出る僕でも、こういう複雑なことは言わなきゃ伝わるわけないから、不安だったよね……。1人1回ずつ聞きたくて、ことある毎にこういうこと言ってるのかも……)

 そう考え、犬吠埼、

「僕には、桃太郎さんに償っていただかなきゃならないことなんて無いですよ。……だからって食べられていいってわけじゃないんですけど……。

 この間、先生が言われたこと、莫迦にしてるのか? ってとこ以外同意です。

 桃太郎さんの気にされてる『責任』って、アンちゃんの保護者としてアンちゃんの行動を管理出来てなかったために先生と会長と僕の死を招いたように思えることなんでしょうけど、『オレの力が足りなかったせいで』とか『未熟で』とか、つまり仕方のなかったことですよね? もう過ぎたことでもあるし、そろそろご自分を許してあげて下さい」

(…とか言ってもな……。心の中なんて見えないから、僕が本当に桃太郎さんが悪いなんて思ってないってこと、「口ではそう言ってても本心は……」って疑っちゃいそう……。

 僕だって多分、桃太郎さんの立場だったら、結局頑張って自分に言い聞かせることになるんだろうし……)

 それなら、と付け加える。

「でも、謝ったりすることで桃太郎さんが安心出来るなら、桃太郎さんが悪くないことは大前提として、僕は何度でも聞きますよ。それで、何度だって返します。『桃太郎さんは悪くない』って」

 そうだね、と猿爪が頷き、続く。

「ボクも聞きますよ」

 雉子は、

「本当に優しいわね2人とも」

 半ば呆れた様子。

「私は嫌よ。面倒くさいもの。一度言ったんだから、それで分かって欲しいわ。こんな30過ぎのオッサンがヘラるのなんかに付き合ってらんないわよ」

(…先生、僕たち子供には優しいのにな……)

 そう思ったところへ熱い視線を感じ、赤鬼たちのほうへ再度目をやる犬吠埼。

 初め岩の両親だけだった岩に手を振っている存在が、その場の赤鬼全員になっている。

「ほら、もう皆、桃様に気づいたっすよ。さあ、行くっす」




 桃太郎と岩は連れ立って、棲み処の入口らしい囲いの無い部分へ。

 涎を垂らして興味津々大集合してきた赤鬼たちに、岩が得意げに桃太郎を見せる。

 変わらず茂みの中から猿爪・雉子と共に見守りながら、犬吠埼、

(…「食べられるつもりは無い」って……)

 赤鬼たちは身長こそ桃太郎と大して変わらないが、横は男女共倍近く筋骨隆々。それが全員集合して数えやすくなったので改めて数えてみると18名。

(どうするつもりなんだろ……? )

 赤鬼たちの手が一斉に桃太郎へ伸びる。

 狙っていたのか、桃太郎は冷静にバックステップでかわし、回れ右。スタコラ逃げ出した。

 伸ばした手が空振ったため体勢を崩し転んで地面に折り重なる赤鬼たち。

 桃太郎は5メートルほど離れて止まり、赤鬼たちのほうを全身で振り返って懐から人の形の和紙を取り出しつつ略拝詞を唱え、大幣を振って、

「未遊姫! 」

 和紙から姿を変えた未遊姫に何やら指示を出したようで、未遊姫はコクリと頷き宙をプカプカと赤鬼たちのいるほうとは桃太郎を挟んで反対側の5メートルくらいのところへ移動した。

 ややして起き上がり、桃太郎へと突進していく赤鬼たち。その指先が掠める距離まで来たところで、桃太郎は未遊姫のもとへ瞬間移動した。またそこへ向かって突き進む赤鬼たち。その間に未遊姫は更に5メートル向こうへ移動。赤鬼たちを充分に引きつけた上で再び瞬間移動する桃太郎。赤鬼たちは、またまたそこを目指して……。

(なるほど! 鬼ごっこ! 確かにこのほうがアンちゃんとの距離も取れるし! )

 感心する犬吠埼。しかし、

(…岩さんと前もって話しておかないとダメだったな……)

 岩は桃太郎と赤鬼たちの鬼ごっこを呆然と眺めてしまっている。

(まあ、僕が動けばいいだけなんだけど……)

 同じことを思ったらしい猿爪・雉子と誘い合わせて茂みを出た。




 赤鬼たちのほうへ注意を払いつつ、棲み処、安寿のいる最奥すぐ外側へ近づいた犬吠埼・猿爪・雉子。一旦、低い囲いに身を隠し、中を窺う。

 安寿の隣には、安寿と瓜二つな少女。

(この子が唯さんか……)

 違いはヘアスタイルだけ。唯のほうは背中の中ほどまで長さのある艶やかな黒のストレートヘア。それだって互いに影響を受け合って交換した感じになっていたら分からないが、安寿だと思っていたほうが犬吠埼と目が合い「あ……」と反応したので間違いない。

 棲み処内を慎重に見回してから囲いを越え、中へ入る犬吠埼たち。

 安寿も唯も蔓草で手首と足首を縛られ、足首の蔓草は近くの木へと括りつけられているが、特に怪我などはしていなさそうだ。

 太らせてから食べるつもりでいたのか、食事と思しき瀕死の小鳥が2人の前に山積みにされており、実際、唯は手を縛られていながらも器用に上品に、プチュッパキックチュッと食している最中だ。

 プチュチュッパキパキックチュゥッ……

(…この世界に来てからこれまで、生前の僕も含めて元いた世界の人たちと大差無い食事をする人たちばかり見てたから……。

 …半鬼……鬼だってことを踏まえたら、もともとのイメージ通りの食事風景ではあるんだけど……)

 直視出来ずに犬吠埼は目を逸らす。

 そこへ、

「姫様! 」

 ようやく自身のすべきことを思い出したようで、岩が棲み処内を入口から駆けて来、安寿と唯、2人まとめてガバッと抱き寄せて、

「…心配、したっす……! 心配、したっすよ……っ! 」

 声を詰まらせ気味、肩をうち震わせた。

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