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第15話「白翼の来訪者」


 見るからに硬そうなボウリング球大の砲弾が連続で発射され飛んで来る。

 「発射用意」の段階で桃太郎が略拝詞を唱え始めていたが間に合いそうにない。

 斧を出し、先頭の砲弾に叩きつける犬吠埼。と、斧の刃の刺さった砲弾の僅かな隙間から光が漏れた。

 嫌な予感がし、即、斧から手を放して犬吠埼は後方へと距離をとる。

 案の定、閃光とともに爆発する砲弾。

 すぐさま新しく斧を出そうとする犬吠埼に、

「まかせて」

 短く言って、弓を引き絞った状態で待機していた雉子が矢を放つ。

 いくつにも分かれて昨晩とは違う直線的な軌道で矢は全ての砲弾を射抜いた。

 ほぼ一斉に爆発する砲弾。

 そこで、

「障壁生成! 」

 桃太郎の障壁が出来上がり、後続の砲弾を防ぐ。

 障壁に阻まれた砲弾の派手な破裂音に掻き消され気味に小鬼田、

「牛鬼牧! 話さ聞いてくろ! 」

 牛鬼牧は村を指していた剣を真横へ。砲撃が止む。

「ああ。アタシも初めは、そのつもりだったよ」

 でも、と言葉を切り、犬吠埼を一瞥する牛鬼牧。

「言い逃れ出来ないだろ? 」

(…やっぱり、僕たちのせいか……。怖い始鬼を味方につけることで他の村に対して優位に立とうとしてると思われたとか、そんな感じなのかな……? )

 返して小鬼田、

「信じられねえかもしれねえけんど、この方々は始鬼じゃあねえだ。言い伝えの躯鬼殿だ」

「…躯鬼……? 」

「んだ」

「証拠は? 証拠が無けりゃ話になんないよ? 」

「証明は出来ねえけんど、オラと初めて会った時、こちらの御三方のうち御一方は体さバラバラになっでで、もう御一方は右腕さ無かっただ。そんでも出血も無がっだ。

 あど、これは証拠と言えるほどのもんじゃねえけんど、そん時、月さ出てただ。着物も見だこどのねえ着物だし、鴉鬼のこども知らなんだ。それに、こちらの人間の方さ、御三方の連れだけんど、お前さんのとこで飼育してる人間とは、だいぶ雰囲気さ違ぐねえが? そのへんさ根拠に、オラは、こちらの方々が捩ずれだ土地からいらしたんだと確信しただ」

 そこへ背後から、

「父ちゃん……」

 振り返ると、翔が門から出て来るところだった。すぐ後ろを耕が心配げに付き添っている。

 翔は牛鬼牧を真っ直ぐに見つめ、

「牛鬼のおばさん。オイラも、この方たちは始鬼じゃないと思う。姉ちゃんたちに怒られて死にそうになって道に倒れてたオイラを助けてくれたから。始鬼だったら、そんな、ちょっと見掛けたことがあるくらいの知らないヤツなんか助けねえだろ? 」

 その語尾に被せるようにして鴉鬼葉、

「貴様は黙っていろ! 」

 それに更に被せて、牛鬼牧は溜息。小鬼田へ、

「躯鬼殿だとして、どちらにせよって気はするけどねえ? 鴉鬼に手を出しちまった時点でアタシらへの宣戦布告と取られても文句は言えないよ」

「確かにその通りだけんど、躯鬼殿については本当に、困ってるみてえだったから村に滞在していただいてるだけで他意は無えだ。信じてくろ」

 そこまでで一旦、小さく息を吐き、小鬼田は申し訳なさげ。

「鴉鬼たちについては、弁明のしようもねえ。

 何をどうしたのが全ぐわからねえくれえだから、宣戦布告のつもりなんでもちろんねえけんど、状況的にオラのしてまっだこつに間違いねえがら。

 ……小鬼と牛鬼と工鬼、それぞれの先祖同士の争いのせいで住み処さ失ぐしちまっだ鴉鬼族さ未来永劫3者力さ合わせで守っでいぐ約束さこん手で違えちまっで……」

「…何だ、それは……? 初耳だ……」

 もともと良くはない雰囲気の中、鴉鬼葉が凍りついたように目を見開き口を開く。

「それでは我々は、これまで貴様らの情けで生かされてきたということか……」

 擦れた声。

(鴉鬼葉さん……? )

「…冗談じゃない……。まるで道化だ……」

 言って身を翻し上空へ。

(鴉鬼葉さん……)

 と、鴉鬼葉、何かにぶつかった様子で少しだけ後退。止まる。

(……? )

 既に赤みを失った空に溶け込み、初めは見えなかったが、人影があった。

 人影は、鴉鬼葉の脇を通り、入れ替わりに一同のほうへ降りて来る。

 背に白い翼をもち白い一枚布を巻きつけるドーリス式キトーンのような服を着た、犬吠埼たちの暮らしていた元いた世界の者がイメージするところの天使……そう、輪っかは無いが雉子の結婚披露宴時の犬吠埼のようななりをした、全体的に色素の薄い人物。

「見掛けない顔だねえ」

 と警戒する牛鬼牧の頭上も通過し、人物は小鬼田の正面へ降り立つ。

「アレ? 小サクナッチャッタノ? 」

 頭の中へ直接響く声。顎の少し下で切り揃えたストレートの髪、小柄でほっそりとした体をしているが、体型から少年のようだ。

「マアイイヤ。君ノ力ハ本物ダカラ小サクナッチャッテモ大丈夫。

 何ダカマタ厄介ナ状況ニナッテルミタイダネ。仕方ナイナ。モウ一度、手伝ッテアゲルヨ」

 少年は小鬼田へ右手のひらを向けたところで、

「何コレ」

 自身と小鬼田の間の障壁に気づいたようでコンコンコンとノック。

「邪魔ダナー」

 手のひらで触れる。

 刹那、

(っ! )

 障壁は粉々に砕けて消えた。

(砲撃でも壊れなかった障壁が触っただけでっ? )

 自身も実際に砲弾を叩き落としたので、その威力は分かる。それに耐えられる障壁なのに、と驚く犬吠埼。

 その場の他の者たちも一様に驚いている間に、少年は小鬼田へと手のひらを向け直し、

「何カ、変ナ膜ミタイナノニ包マレテル? 」

 溜息まじり、

「モー……。ウザッタイナァ……」

 向けていた手のひらを物をつまむ形にし、小鬼田に触れるか触れないかというところまで近づけてから、つまんだ物を後方へポイッと投げ捨てるふうな動作をした。

「…端境まで……」

 桃太郎が呟く。

(えっ? 端境が、何っ? )

 少年は改めて小鬼田へと手のひらを向けた。

 くっ……と小さく呻いて俯き頭を押さえる小鬼田。

 その場に少年は腹這いになる。

 ハッと何かを察した様子で牛鬼牧が、

「皆! 伏せなっ! 」

 叫びざま地面へ身を伏せた。

 反射的に身を伏せるその場の一同。

 しかし、

(耕さん……! )

 耕が後れる。 

 咄嗟に翔が耕に飛びついて一緒に伏せた。

 直後、伏せた体のスレスレのところを非常に強い風が吹き抜けた感じがした。

 村の塀の30センチより上がバラバラになる。

 少年は楽しげ。地面に重ねて敷いた手の甲に顎を乗せる格好で小鬼田を見、30センチを超えない範囲で脚をパタパタ。

「ウーン。ヤッパ凄イナァ……」

 風は小鬼田の方向から吹き続ける。

(…これが、もしかして鴉鬼たちを死なせた……? )

 思い至って犬吠埼は地面に伏せたまま周囲を見回し、特に怪我人はいないようなのでホッとした。

 桃太郎がやはり伏せた状態で、催眠で小鬼田を眠らせる。

 仰向けに倒れる小鬼田。風が止んだ。

 耕が小鬼田に駆け寄り、覆い被さるようにして抱きしめた。

「酷イナァ。ドーシテ邪魔スルノ? 」

 少年が立ち上がる。

「…ア…ンタ……」

 牛鬼牧が呻くように低く言いながら起き上がり、まだ立ち上がりきらない姿勢で、

「何をしたんだいっ? 」

 少年を剣で薙ぎ払う。

 瞬間、目の前を影が過り、少年を空へ攫った。

 少年をガッチリ抱いたと言うより捕まえたといった雰囲気で、少年と同じく白い翼・白のキトーンで全体的に色素の薄い、体格のよい青年が宙に止まり、こちらを見下ろしている。

 青年は少年に、

「悪フザケガ過ギルヨ」

「エー。イイジャンチョットクライー」

 他にもあと2名。同じく白い翼・白いキトーン・薄い色素の、中肉中背の青年たち。

 中肉中背のうちパーマのかかったような髪の青年が、

「ネエー! フォーツ君バッカ楽シソウナコトシテズルイー! 」

 その青年に一瞥を加え溜息を吐いてから、もう1人の中肉中背、眼下の一同へ向け、

「オ騒ガセシテ申シ訳アリマセンデシタ。我々ニ貴方ガタト敵対スル意思ハゴザイマセン。マタオ会イスル機会モアルカト思イマスガ、今日ノトコロハコノヘンデ」

 と、少年のことは体格のよい青年が抱えたまま、4人揃って飛び去る。


「ヤツら、一体何者だったんだろうねえ? 」

 見送りながら牛鬼牧。

(この世界の人でも知らない存在なんだ……)

 完全に4人が見えなくなってから、牛鬼牧は、他の機巧兵たちに囲まれ未だ地面に伏せている巨大機巧兵のほうへ。

 それで犬吠埼も、

(…あ……)

 初めて気づいた。巨大機巧兵の背中部分が無くなっている。体の厚さ的に、伏せても風を避けられなかったのだ。

「無事かい? 」

 背中に手を差し入れる牛鬼牧。

 その手の人指し指1本だけを掴むポッテリした小さな手。

 牛鬼牧が手を引き上げると、ぶら下がった状態で出て来たのは、小鬼の村の人たちと似たようなずんぐりむっくりな体型だが身長は更に小さく、豊かな頭髪と立派な髭をたくわえた中年男性。先程、小鬼田が機巧兵を「工鬼んとこの」と言っていたので、この男性は工鬼か、その関係者なのだろう。

 牛鬼牧はホッとした様子。

「よかった。怪我は無いね? 」

 それを聞き取り、犬吠埼もホッとした。

 巨大機巧兵内にいた中年男性をそっと地面へ下ろし、牛鬼牧は、次は眠ってる小鬼田のもとへ。

「鴉鬼たちのことは、あの白いおチビさんの仕業と言ってしまってよさそうだねぇ。小鬼田のあんな力、力自体はヤツのもので間違いなさそうだけど、見たことが無いし、攻撃にヤツの意思を全く感じなかった。

 眠っていた力をヤツ自身の制御出来ない形で解放されたとかなんだろうさ」

 そして犬吠埼たちのほうへ視線を向け、

「アンタらも、どうやら始鬼じゃあないね。始鬼ならアタシらの攻撃を防ぐだけなんてことはないだろうから。

 それに、小鬼田の奥方が伏せるのが後れた時や村の塀が壊れた時の表情……アンタら、いいヤツらだ。

 何より、その時にアタシらのこともはっきり気にかけてくれて、デカぶつ機巧兵の背中が壊れてるのを知って胸を痛めて、中のヤツが無事と知って心底ホッともしてたみたいでさ……。

 小鬼田の『他意は無い』って言葉、一旦、信じるとしようかねえ」

 言って、笑顔。

「何か困ってるって言ったっけ? アタシに出来ることがあったら言っとくれ。力になるよ」

(牛鬼牧さん……)

 と、その時、バササッ!

「姉ちゃん! 」

 翔が空へ。

 上空の鴉鬼葉と、地上からは距離がありすぎてよく見えないし声も聞こえないが、何やらやり取り。

 飛び去って行く鴉鬼葉。

 翔がひとり、ションボリとして降りて来る。



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