表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/32

第11話「鴉鬼の少年」


(…あれから……アンちゃんが連れて行かれてから、どれくらい経ったんだろ……)

 小鬼田宅の部屋の窓辺に座り、白み始めた空を眺める犬吠埼。

 猿爪の治療を終え服の恢復を済ませ布団に横になっても、なかなか寝つけずにいた桃太郎が、ようやく静かな寝息をたて始めていた。

 恐らく、その眠りを妨げないようにとの理由から、犬吠埼と同じく睡眠を必要としない猿爪・雉子両名も、各々無言で、ただ座って過ごしている。

(今頃、どうしてるのかな……。無事だと、いいんだけど……)

 遠くで一番鶏の高らかな声。

(…僕のことも、きっとお母さんは心配してるだろうな……)

 そこへ、カンカンカンカン!

 鐘がけたたましく鳴り響いた。

 廊下でバタバタと足音。

「んだら行ってくるだ」

 早口の小鬼田の声に、

「気をづけで」

 返す耕の声。

(……? )

 床を這う状態で部屋入口の戸へと進み、そっと細く開けて低い姿勢のまま覗いてみると、小鬼田が心配そうな耕に見送られ玄関を飛び出して行くところだった。

 鳴り続ける鐘。

(…何か、あったのかな……? )

 犬吠埼が思うと同時、

「何かあったのかな? 」

「何かあったのかしらね? 」

 いつの間にか背後へ来て犬吠埼の開けた戸からやはり覗いていた猿爪と雉子。

 頷き合って、3人は耕のもとへ。

「おはようございます。何かあったんですか? 」

 猿爪が声を掛けると、耕はヒイッと裏返った声を上げ、腰が抜けてしまったようで尻もちをついた。

(…そっか……。そう言えば僕たちは耕さんに怖がられてたんだ……。それに会長は初対面か。

 怖い存在が当たり前の顔して1人増えてたら、それは驚くよな……)

 察したらしく、猿爪、

「驚かせてすみません」

 謝ってから犬吠埼を手のひらで示し、

「ボクは昨晩は、彼の担いでいた包みの中にいたんです」

「…あ、ああ……そうだっただか……」

 はっきりと距離を取りつつ立ち上がる耕。

 耕の説明に拠れば、鳴り続けている鐘は見張り台の鐘。

 この村には見張り台があり、当番制で常に誰かが立っており、異変のあった際には鐘を鳴らして知らせるのだそう。

「何があっだかは、今、田さんが確認さ行ってるだ」

 そこまでで一旦、言葉を切り、

「大丈夫。何があっだとすても、田さんが何とかしてくれるだ。安心さしてでええ」

 力強く言い、明るく笑って見せた。

 しかし、

(耕さん……)

 その目の奥に不安げな影が揺らめいて見えて、犬吠埼、

「僕も一緒に見て来ましょうか? 」

 昨晩の小鬼田の親切へのお礼の気持ちで。

「いや、とんでもねえ! 」

 耕はすぐさま首を横に振る。

「そんなこつさせで、もす客人であるお前さんに怪我でもされだら、オラが田さんに叱られちまうだよ! 」

(…うん……。会ったばっかで知らないことだらけだけど、小鬼田さんが優しい人だってことだけは間違いないし、常識的なオトナっぽくもあるから、きっとそうなんだろうな……)

 でも、と犬吠埼は返した。

「それって、小鬼田さんに怪我をする危険が迫ってるってことですよね? 」

 耕の目を真っ直ぐに覗き、ゆっくり語りかける。

「行かせて下さい。昨晩は泊めていただけて、本当に助かったんです。

 僕は『くき』ですから、もう死んでいるので、どんな大怪我をしたとしても、これ以上は死にませんが、小鬼田さんは違いますよね? 」

 犬吠埼には「くき」が何なのか分からないままだったが、生きていないが動く「殿」や「様」をつけて呼ばれるような存在。使わない手は無い。あくまでも言い伝え上の存在なので何を言っても間違いにはならないはずだから、と。

「それに、怪我も簡単に治りますから」

 これは言いながら心の中で桃太郎に謝ったが……。そこが納得してもらうための一番のポイントだと思って……。

 実際には、これ以上死なない=存在し続けられるとは言い切れない。何なら、まさに今、バッタリ倒れて動かなくなることだって考えられる。だからこそ意味も無く大事にしたって仕方ない。母のところへは帰りたいが、小鬼田を助けに出て行かなければ必ず叶うのか? 答えは否だ。今この時に最も意味のあることをするべき。今の場合は小鬼田の命を守ること。異変が何であっても、それだけに集中すれば何とかなる気がしていた。

「ありがどう……。よろすく、お願いするだ……」

 涙で声を詰まらせる耕。


 土間に揃えて置かれていた草履を使うよう耕から勧められ、下りざま突っ掛け玄関の戸へと歩き出す犬吠埼。

 すぐ後ろ、

(…え…… )

 猿爪と雉子が同様に草履を突っ掛け続いたことに驚き、立ち止まって振り返る。

 自分だけのつもりでいた。2人の行動を勝手に決めてしまったと気にした。

 雉子は横を通り過ぎながらニコッと笑顔を向け、

「一宿の恩義、大事よね」

 猿爪も足を止めないまま犬吠埼の肩を抱き、前を向かせて歩くよう促しつつ、

「いい判断だよ」

 優しく言う。




 玄関を出ると、周囲の家々から小鬼田によく似た風貌の男性たちが出て来、一様に、非常に急いだ様子で村の門の方向へ走って行くところだった。

 後をついて行く犬吠埼、猿爪、雉子。


 門の少し手前に、犬たちに囲まれ門のほうを向いて空を見据えている小鬼田の背中が見えた。

 昨晩は気づかなかったが、門の左内側、塀に接して見張り台らしきものが設置されており、これまでそこに立っていたと思われる、やはり小鬼田と似た感じの男性が、梯子を伝って下りているところだった。

 下りきって小鬼田へ目をやり、頷いたのに頷き返してから、最寄の民家の軒下へ。

 空へと視線を戻す小鬼田。

 つられて見れば、遥か上空、黒い翼をもつ大きめの鳥が数十羽。

 小鬼田のもとへ到着したところの男性たちへ、小鬼田は鳥たちを見据えたまま、

「男衆、来てくれですまねえ! 奴等が地面さ下りるまで、屋根さ下で待機しででくろ! 」

 それに従い、道々合流しては犬吠埼たちを見るなり決まってギョッとし距離をとりながらも共に移動、最終的に17名となった男性たち……男衆は、各々近くの軒下へ移動。

 鳥たちが、こちらへと滑空してくる。

 ある程度まで近づいて来たところで、

(っ? )

 鳥たちの両翼の中央にある部分が人の形をしていることが分かった。

(翼の生えた、人っ? しかも、ちゃんと空を飛んで……! )

 綺麗なV字型編隊で向かって来る統制のとれた様子のわりには共通点が和装というだけで派手な色柄であったり地味であったり丈も長かったり短かったりと全く統一感の無い服装をした、黒髪で小柄な、犬吠埼と同じくらいの年齢と思われる、全員少女。

 先頭にいた、他より少しだけ年上に見える少女が、胸の前で両腕を交差させてから、勢いよく外側へ振るように開いた。

 直後、それほど大きくない何かが小鬼田のほうへ。

 容姿からは想像のつかない身軽さで飛び退きかわす小鬼田。

 何かは、タタタタタタッと地面に突き刺さる。竹のようなもので作られた、仮に投矢なげやとでも言おうか、長さ20センチほどの細い棒6本。

 大して重量があるように見えないにもかかわらず、こんなふうに刺さるということは、先端はもちろん尖っているにしても、

(すごい力で投げたってことっ? こんな体の小さい女の子がっ? )

「小鬼田さん」

 声を掛けながら駆け寄る犬吠埼。少女たちを見、

「あの方々は一体……? 」

 小鬼田は振り返り、

「おお、躯鬼殿! 来てくださっただか! ありがてえだっ! 」

 それから、ん?となって、

鴉鬼あきさ知らねえだか? 」

(…あ……)

 犬吠埼、不審を抱かれたかも、と小鬼田を窺う。

「言い伝えでは躯鬼殿はオラたちの住んでる土地とは捩ずれたところにある土地から来るっで言われてるけんど、本当みてえだな。着物も見たことねえ着物だもんな」

(ああ、なんか大丈夫だったみたい……。捩じれたところ、って異世界ってことなのかな……? それと多分だけど、ここでは僕も会長も先生も、大して化け物じゃない……? )

 小鬼田によれば、鴉鬼とは小鬼田の村の近くに暮らす幾つかの種族のうちのひとつ・鴉鬼族。小鬼田たちが農耕をし鴉鬼族以外の種族と協力し合って生活している中、そこに与せず他種族から略奪をすることで生きている少し困った存在で、小鬼田の村へは、農作物が収穫期を迎える頃になると毎回やって来るのだそう。

 因みに小鬼田の村の人たちは全員「小鬼」と呼ばれる種族らしい。

「襲って来るんでねぐて、普通に貰いに来てくれだらええのになぁ……」

 そんな話をしている間に、先頭の少女が再度腕を交差。周りの少女たちも全員交差した。

 小鬼田に飛びつき覆い被さ……れてはいないが急所は守れる形で地面へ伏せる猿爪。

 犬吠埼は地面の2人と空の少女たちの間に入り、少女たちを仰いで両手を前へ構え斧を出す。

 降り注ぐ投矢。斧をブンッと全力で横へ振り、風圧で、一部は柄で、払い落とした。

 間髪入れず重ねて腕を交差する少女たち。多少陣形を崩しながら、距離もグングン縮まっている。

 大振りをしたために、

(ダメだ! 間に合わないっ! )

 犬吠埼は体勢を立て直せない。

 雉子がすぐ隣へ来、空へと弓を向けた。

 と、

「攻撃さすねえでくろ! 」

 小鬼田が叫ぶ。

「田畑さ荒らされねえよう、あど、村の衆さ怪我させられねえよう、追っ払えれさえすだらええだ! 」

(いや、出来ればそのほうがいいに決まってるけど、この状況じゃ‥‥‥! )

 犬吠埼の視線の先、少女たちの腕が一斉に開かれた。

 犬吠埼は投矢を何とかすることは諦め、斧を捨てて猿爪の更に上から小鬼田に覆い被さる。

 瞬間、

「障壁生成! 」

 桃太郎の声と共に犬吠埼や猿爪、雉子、小鬼田の頭上の空中、斜めに無色透明の大きく分厚いガラス板のような障壁が現れた。

 一同のいる辺りより小鬼田の自宅寄りのだいぶ離れた位置に、両手のひらを空へと向けた桃太郎の姿。

(…桃太郎さん……)

 ホッとして身を起こす犬吠埼と猿爪。

 小鬼田も起き上がる。

 先ずは投矢が障壁に当たって勢いを失い障壁表面を滑って下方からパラパラと落ち、続いて突然のことで止まれなかった数名が、そのまま突っ込みぶち当たる。

 仲間の手を借りて身を起こした彼女らも、無事止まれた残りの者たちも、明らかに、障壁のこちら側の犬吠埼たちを見たことで、ピクッ。固まった。

「…し、き……? 」

 一部の口から、そう漏れる。

 その時、ドサッ。

 視界からは外れた障壁隅の下あたりで、重い物が落ちたような音。

 見れば、少女たちのうち1人が地面に倒れていた。

 障壁の出現したタイミングに、障壁よりこちら側へ来てしまっていたのだろう。

 少女はすぐに自力で立ち上がるも翼を損傷したのか少し動かしただけで顔を歪め、その隙に駆け寄って来た村の男衆に拘束された。

「撤収! 」

 障壁の向こうで無感情に単なる号令。

 少女たちは速やかに回れ右。飛び去って行く。

(え……)

 心の中でさえ一瞬言葉を失う犬吠埼。

(仲間を、置いて……? )

 置いてけぼりを喰らった少女のほうへ目をやれば、受け容れているのか、全くの無表情。恐怖も絶望も何も無い。

 飛び去る少女たちのうち誰ひとり振り返ることのないまま、やがて、その姿は彼方へ消えた。

「障壁解除! 」

 ゆっくり歩いて来、桃太郎が合流。




 桃太郎を見て、小鬼田はとても驚いた様子。

(……? どうしたんだろ……? )

 その答えはすぐに、犬吠埼、雉子を順番に見、猿爪にも迷いのある視線を中途半端に向けつつ、申し訳なさげに、小鬼田自身の口から。

「お前さんがた、昨晩は飯さ食わなかっただか? 弁当持ってるでいいかと思っで用意さしなかっだけんど、あれは非常食だか? 」

(「あれ」って桃太郎さん……? …この人やっぱり昨日、桃太郎さんを指して「食糧」って言ってたんだ……。

 桃太郎さんはお弁当でも非常食でもないんだけど……)

「お気遣いなく」

 小鬼田へ、他所ゆきに笑んで返す猿爪。

「ボクたちは食事を必要としませんので。それから、あの『人間』の彼は、ボクたちの面倒をみて下さっている方で、食糧ではありません」

 そこまでで、あ、となり、

「ボクは昨日はバラバラになっていた、猿爪という者です。他の3名は昨日のうちに自己紹介を済ませていましたが、すみません、ご挨拶が後れました」

 オラのほうこそ、と自己紹介を返す小鬼田。

 互いに目を合わせ少し笑い合ってから、猿爪、

「後れた原因のバラバラを治して下さったのも彼です」

と付け加えた。

 小鬼田は、目を見開いて猿爪を上から下まで舐めまわすように見、感心したふうな低い息。

「いやー、大したもんだなぁ」

 視線を桃太郎へと移し、

「何だかこれまで失礼なこつ言っちまってたみてえで申し訳なかっただ」

 視線は外さずに、ペコッと頭を下げる。

 合わせて桃太郎もペコリ。

 猿爪が続ける。

「ボクたちは必要ありませんが、彼は食事が必要ですので、泊めていただいた上に図々しいお願いで恐縮なのですが、ご用意いただけると……」

「もちのろんだ」

 快く頷く小鬼田。

「好き嫌いさ無いだか? 同族を食うこつば病気さなる危険さあるって聞くで、人肉は避けたほうがええだな? 他は平気だか? 」

「あ、はい……」

 桃太郎の返事に、あれ? と猿爪が口を挿む。

「桃太郎さん、豚肉とニンニクがダメでしたよね? あ、でも、この間てりやきバーガー食べてましたっけ? 豚肉のパティなのに。大丈夫になったんですか? あと鶏肉も、鳥を飼ってたことがあるから、その日の気分によっては無理な日があるって」

(…まあ、こういう時、オトナは自分のことでは言えないよな……。

 それにしても会長、長いからかな、よく知ってるな……)

 小鬼田はおおらかに笑い、

「なんだー。そんなんは遠慮なぐ言ってくれてええだよ? 」

 桃太郎へと歩み寄って背に手を回し、ポンポン。帰ったら一緒に朝飯にしよう、と。

 そうしてから、

「けんど、その前に、ちょっとだけ待っててくろ」

 一言、断りを入れ、自宅方向へ駆け出そうとして、ふと気づいた様子を見せ、完全には足を止めないまま周囲の男衆に向けて犬吠埼たちを、昨晩に耕にした程度にごく軽い紹介をして、今度こそ駆けて行った。


 犬吠埼たちがどうにも遠巻きに男衆から視線を浴びせ続けられる中、ややして戻って来た小鬼田は、5キロの米袋程度の大きさの麻袋を抱えていた。

 上部から、トマトやキュウリ等の野菜が覗く。

 小鬼田は真っ直ぐに、男衆に押さえられている少女のもとへ。

 あらためて見ると、少女は少年だった。小柄なことに変わりはなく、小鬼田や男衆と同じくらいの背丈しかない。

 小鬼田は男衆に少年から手を放すように言う。

 少年に初めて表情を見た。非常に驚いた表情。

 男衆が渋々手を放すのを待ってから、小鬼田、

「久し振りだなぁ」

 少年に優しく微笑みかける。暖かく穏やかな圧。

「お前さん、鴉鬼葉あきようんとこのいんでねえだか?

 でっかくなっただなぁ……」

 少年はフイッと目を逸らすが、

「隠は姉ちゃんで、オイラは弟のしょう。アンタになんか会ったことねえよ」

 律儀にぶっきらぼうに応えた。

「ついでに言うと、今は姉ちゃんが葉。親父が死んだから」

 そう、だっただか……と小鬼田は項垂れる。

「鴉鬼葉、死んじまっただか……。そいつは、すまねえこつ言っちまっただ……」

 少年・翔は変わらずぶっきらぼうに、

「気にすることじゃねえよ。オイラたちみたいな生き方してたら仕方ないことだ」

「…翔……お前さん……」

 小鬼田は顔を上げ、麻袋を地面へ置くと、徐に両手を翔の頭へと伸ばし、

「ええ子だなぁっ! 」

 ガショガショ髪を掻きまぜ、頬ずり。

「やめろっ! 撫でんなっ! 良い子って言うなっ! 」

 顔を真っ赤にして両手両足をバタつかせ、翔は小鬼田を振り払い、ハア……と溜息。落ち着きを取り戻し、

「喋りすぎた。帰る」

 小鬼田の脇へ抜けて歩き出した。

 それを、

「待ってくろ」

 小鬼田は足元の麻袋を持ち上げ、

「オラの村でこさえた野菜さ持ってってくろ。そんために来たんでねえが? 」

 呼び止める。

「いや、奪うんじゃなきゃ意味ねえから……」

 と、翔の腹がグウ……と鳴いた。

 再び真っ赤になる翔。

 小鬼田はここぞとばかり、

「お天道様の光さたっぷり浴びて、肥えた土の養分とキレイな水さいっぱい吸って育った野菜たちだで、とびきりうめえだよ? 」

 ほれほれ、と麻袋を突きつける。

「…そんなに、言うなら……」

 気のすすまないふうに差し出される翔の両腕。

 落とさないようしっかりと渡して、小鬼田は満足げ。

「隠は、新しい鴉鬼葉は、どうしてるだ? 元気にしてるだか? 」

「姉ちゃんなら、さっきまでいたよ。先頭で指揮とってた」

 小鬼田は、へえー! と感心。

「あの娘っこなら、この村さ襲いに来るたんびにいたけんど、あれがそうだっただか! すっかり立派になっで、気づかなかっただ! 」

「あと、姉ちゃんの名前『よう』じゃなくて『は』って読んでやってくれ。始鬼と同じ音で呼ばれると鳥肌たつらしいから。もともと鳥だから仕方ないんだけど」

「分かっただ。『あきは』だな? 」

 大きく頷いて返す小鬼田。

 翔は、また喋りすぎてしまった、とでも思ったか、分かりやすくハッとなり、

「……帰る」

 そそくさと少し離れたところまで歩き、翼をバサッ。

 同時、クッ……と声を漏らし動きを止めた。

(やっぱり、翼を傷めてる……? )

 駆け寄って、小鬼田は顔を覗いてから、翼全体をザッと見、左側の付け根付近に目を止めて、

「桃太郎殿」

 桃太郎を振り返る。

「これさ治してやれねえだか? 」

 呼ばれて桃太郎は、小鬼田と翔のほうへ。

 注意深く至近から翼付け根を観察。大幣を振り、

「治癒」

 大人しくしている翔。

 数分が経ち、頷いて見せ離れる桃太郎。

 小鬼田も離れる。

 翔は翼を、最初は恐る恐る、パサッパサッと確かめるように動かし、それから、バサッ! 僅かに宙に浮く。

 そうしてから、ちょっとだけ桃太郎と小鬼田を見、頬を赤らめ小さく、

「……ありがと」

 言い残し、バササッ! 空高く舞い上がった。

 何故か胸をキュンッとさせられた犬吠埼の隣で、猿爪、

「彼はどうやら、ボクの敵だね」

 視線は、微笑ましく翔を見送っている雉子。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ